任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第一話 大学生・阿山真子

真子が通う大学の入学式が始まった。真子と理子は、ブティックのママお手製のスーツに包まれて、周りより少し派手な感じで式典に出席していた。そんな真子達よりも派手なのは、もちろん……。

「広いですね…」
「これじゃぁ、敵が忍び込んでも解りませんよ」
「どういう配置になっているのか……いてっ!…真北さん…」
「お前らなぁ〜。静かにしろ…」
「すみません…」

まさちんとむかいんが、こそこそと話しているところへ渇を入れた真北。

「…しかし、やはり…」

まさちんが、何かを言おうとしたが、真北の睨みに口を噤み、正面を向いた。

真北の言いたいことは解っている。

気にするな、大丈夫だ。

真子の入学が決まってから、真北とまさちんは、何度も何度も話し合っていた。

真子は、護衛は要らないと強く言った。
それでも、まさちんは心配だった。
もしものことがある。
大学は、誰もが進入する事が出来る。
高校の時のように、学生や教師を装って、真子を狙うことも可能なのだ。
まさちんは、何度も真北に言った。
しかし、真北は、大丈夫の一点張り。
平行線。
どちらも交わることが無く、この日になってしまった。

まさちんの気持ちは解っている。そんなまさちんと同じ思いを抱くむかいんだが、敢えて、二人の間に入らなかった。

「それよりもなぁ……」

真北が嘆くように呟く。

「……それより、大人しい物…用意しとけや」
「いつもより、大人しいんですが……派手でしたか?」
「あぁ」

まさちんとむかいんの服装は、やはり、派手……。

「ったく…それよりも、人混みの中、見失うなよ」
「は、はぁ…」

なんだぁ、真北さんも心配してるのか…。

まさちんとむかいんには、真北の表情で、真北の心情が伝わっていた。


式典が終わり、真子と理子と合流したまさちんたちと理子の母と兄。仲良く話す親子を見つめる真子に、まさちんは、そっと近づき、

「組長、ほんとに大丈夫ですか?」

と耳元で尋ねた。

「ん? 何が?」
「ボディーガードです…」
「……大丈夫だよ」

まさちんの言葉に冷たく応える真子。

「まさちん、心配のしすぎだよ…。大丈夫だから」

二人の会話が聞こえていた真北が言った。

「真子ぉ〜、集まる場所違うやん。終わったらここで待ち合わせな」
「…たくさん人がいるけど、大丈夫かなぁ」
「…真子、目立つで」
「そ、そうか??」
「…周りがね……」

真子は、周りを見た。
右に真北、左にまさちん、後ろにはむかいん……。

「なるほどね…」

真子はため息をついた。

大人しめの服装なんだけどなぁ。

真子はポリポリと頭を掻く。

「ほな、また!」
「うん」

真子達は、それぞれのクラスの集合場所へ向かっていった。
真子に続いて、真北、まさちん、そして、むかいんと歩いていく。

「理子ちゃんとクラスが別になったんですね」

真北が尋ねる。

「うん…。でも、同じ学科だから、授業は一緒になるんでしょ?」
「それはどうでしょうね…」
「…真北さんだって、大学行ったんでしょぉ」
「私の場合は、仕事関連ですから、授業内容は特別でしたよ」
「……ぺんこうに聞く」
「そうして下さい」

と、珍しく、ぺんこうとの会話を奨める真北に、まさちんとむかいんは不思議がっていた。
真子は自分のクラスの集合場所へ入っていった。真北たちも入れるらしく、同じように入っていく。
講義などの説明をしっかりと聞く真子。そんな真子を真北は自分の目に焼き付けるかのように見つめていた。
真北の脳裏には、真子が生まれた頃の事が過ぎっていた。

ちさとさん、こんなに大きくなりましたよ…。

フッと笑みを浮かべた真北。
そんな真北の横顔を観て、まさちんとむかいんは、更に不思議がり、首を傾げた。



長い説明を聞き終え、真北達と理子との待ち合わせ場所へ向かっていた真子は、ため息を付く。

「たいへんそうやぁ〜」
「それが、大学なんですよ」
「うん。でも、益々意欲が湧いてきた!! でも…。
 わからんことあったら、誰に訊いたらええんやろ…」

真子と真北は、考え込んでいた。

「ぺんこうあたりでどうですか?」

まさちんが言った。

「真北さんよりぺんこうの方が、現役に近いですもんね」
「むかいん…それは、俺に喧嘩を売ってるのか?」
「いいえ、そんなつもりは……」

珍しくむかいんがあらぬ方向を見つめていた。

ったく、先程とは全く違うんですから…。

ほんの少し前に、ぺんこうの事を奨めたというのに、すっかり、元に戻った様子。
真北は、どうしても、ぺんこうに対しては……。

「真子ぉ!!!!」

理子が目一杯大声で叫びながら手を振りながら駆け寄ってくる。

「写真写真!!」

野崎は、嬉しそうに鞄の中から愛用のカメラを取り出し、写真を撮りまくっていた。
もちろん、お気に入りのむかいんとのツーショットを忘れずに。
楽しくはしゃぐ真子を見つめる真北の心には、気がかりな事があった。

…光の事を調べるのではないだろうか…。





オープンが近づいているAYビル隣の本屋ビル。
そのオープン式典について、話し合おうと、書類をたくさん持ったまさちんは、真子の部屋へと入っていった。

「うわぁ、何、それ…」

部屋で勉強中の真子は、まさちんが入ってきた事で振り返り、まさちんの手にたくさん持たれた書類を観て、開口一番、そう言った。

「本屋ビル関係ですよ。ほとんどサイン済みですので、
 組長は目を通して頂くだけで結構です」
「良かったぁ」

まさちんから書類を受け取り、目を通し始める。
オープン式典の資料も、そこに入っていた。

「式典とパーティーか…」

真子は呟く。

「組長、式典は…?」
「う〜ん…講義があるから、無理だよぉ。パーティーだけでいい?」
「…それは、困りますよ」
「スピーチやだから、結局、メッセージだけでしょ?
 居なくてもいいんとちゃうん?? 駄目?」
「…そうですねぇ〜」

やはり、真子は、人前でのスピーチを拒み始めた。
それには、いつも困るまさちん。
そんな時は、いつも代行としてスピーチをするまさちんだが、今回のオープンは、色々な事件が遭ったものの、それを乗り越えた事もあり、どうしてもスピーチをしてもらいたいらしい。
実は、本屋ビル担当の須藤から、きつく言われていた。

「組長、どうしても駄目ですか?」
「パーティーだけ」

真子の口調で解る。
考えは変わらない。変える気も無い。
まさちんは、諦めた表情をして、

「かしこまりました」

その応えと同時に、鈍い音が聞こえたのは、言うまでもない………。



そして、式典の日。
真子は、リムジンに乗って、大学から本屋ビルに向かっていた。

「ほんと、世間って広いようで狭いよね」
「そうですね」
「理子と友達になった西さんと、私と友達になった相原さんが
 友達だったんだもんなぁ。相原さん達も、私と理子のことで
 同じように感じてたんやろなぁ。…まさちん、こんなことある?」
「今までになかったですね。あっ、強いて言えば、同窓会の時
 街でチンピラに絡まれそうになったくらいですね」
「なんで?」
「その…組長と出逢う前に、一緒に暴れ回ってた奴でしたから」
「どうなったの?」
「知らぬ存ぜぬで通しましたよ」
「えらい! 同窓会の時は、普通でが約束だったもんね」

真子は、微笑んでいた。

「式典は無事に終わった?」
「えぇ。木原さん、しっかりと取材してましたよ」
「パーティーも張り切りそうやね…」
「意気込みは凄かったですよ。組長を捜し回ってましたから」
「…ったくぅ」

そして、AYビルの駐車場へ入っていった。


本屋ビルオープン前夜祭が行われていた。
立食パーティー風で、たくさんの人が駆けつけていた。たくさんの祝辞を述べる須藤。その祝辞の中には、真子のもあった。というより、いつものように、マイクを持つのを嫌がった真子が、文章にして、須藤に渡していたのだった。

「それでは、みなさん、ご歓談下さい」

そう言って須藤は、マイクを置き、真子に近づいていった。

「組長、お忙しいところ、ありがとうございます」
「須藤さんも、みなさんも、ほんとにご苦労さん!
 いろいろあったけど、こうして、オープンできるのも、
 みんなのお陰! なんだか、嬉しいね」

そう言った真子は、オレンジジュースを片手に、テーブルの料理をつまみ始めた。もちろん、料理は、むかいん達が作ったもの。

「しかし、組長、こんな大切な日をお忘れになられたとは……」

まさちんが言った。

「ごめんって、言ってるやんかぁ〜っ!! だから、ほんまに、悪かったって。
 確かに、車見るまで忘れていたけど。もぉ〜っ! 須藤さんの前で!」

真子は、ふくれっ面になる。須藤はそんな真子を見て、笑っていた。
それは、珍しいこと。
須藤は、滅多なことでは笑わない……。

「そんなに、おかしいかなぁ」

須藤の笑顔を観て、少し照れたように真子が言った。
そこへ、地木元と小池がやってきた。

「この度は、本当にお世話になりました」

地木元が、深々と頭を下げる。

「ありがとうございます。これからも、宜しくお願いいたします」

小池も頭を下げていた。

「お二人とも、頭を上げて下さい。こうして、オープンできたのも、
 お二人のお陰でもあるんですから」

真子が、優しく話しかけた。
地木元と小池は、頭を上げ、真子を見た。
目の前に、何かが差し出される。
真子が、料理の乗った小皿を二人に差し出していた。

「たくさん食べてくださいね。これ全部うちの向井とコック達が作ったものです。
 おいしいですよ! だから、早く食べないとなくなってしまいますよ!」

真子の無邪気な顔を見た、地木元と小池は、ビル参加への話を渋っていた頃の凶暴な真子とこの目の前にいる真子が同一人物ということが信じられないような表情になる。しかし、真子の笑顔が、二人の心を和ませていった。

「いただきます」

二人は声を揃えて言って、真子から料理を受け取った。

「真子ちゃぁ〜ん!」

すごく甘い声を掛けてきたのは、木原だった。木原は、真子にカメラを向けてシャッターを切った。

「びっくりしたぁ〜。急に撮らないでよ!」
「おめでと! よかったね、その後何事もなくビルを
 建設できて。俺、爆破とか期待したのになぁ〜」
「木原さんったら、自分がしたかったんでしょ? その爆破」
「なんでわかるかなぁ〜」
「そりゃぁ、ねぇ〜。…それより、しっかりと宣伝頼んだよぉ〜」
「わかってるって。というより…」
「私の取材はお断りっ!!」
「なんでわかる??」
「ひみつ!」

真子は、木原に、ウインクしていた。木原もウインクする。

オエェッ!!


「むかいん!」

真子は、むかいんのいる調理場へ顔を出す。

「組長、様子はどうでしょうか?」
「みんな、おいしいって!! 流石だね!」
「ありがとうございます」

真子の笑顔は、むかいんの心を更に和ませ、笑顔を輝かせる。

「あんまり、無理しないでよ。みんなもね」
「はい」

奥にいたコック達が元気よく返事をした。

「じゃぁねぇ〜」
「えっ? もう、お帰りなんですか?」

むかいんが、少し驚いたように尋ねる。

「うん。あんまし騒ぐの嫌だからね…! そうだ。タッパーに
 入れて持って帰って来てね! 家でも味わいたいからさぁ〜」
「家の方で、お作り致しますよ」
「そっか。そだね。ほな、がんばってね!!」

真子は、むかいんに笑顔で手を振って、まさちんと帰っていった。むかいんは、真子を見送り、そして…。

「よっしゃぁ、頑張るぞぉ!!」

更に張り切っていた。



AYビル・会議室。
昨夜のパーティーとはうって変わって、静かだった。

「そうですねぇ〜。確か、知り合いの学校を卒業した人物で
 凄腕の者がいましたよ」
「今度、逢わせて! …というより、もう、他の会社に??」
「いいえ、我の強い人物だから、自分を主体にしてくれないと
 嫌だとか言って、他の会社からの誘いを全部蹴ったそうですよ」
「水木さんは会ったことある?」
「えぇ、何度か、店に来たことありますよ」
「じゃ、この企画は、水木さんに任せようかなぁ」
「…ちょっとそれは…私は、そういうことは、苦手ですから。
 本屋ビルの時の須藤のようには、行きませんよぉ」
「水木さんらしくない弱気な発言だなぁ〜。でも、よろしく!」
「……わかりました」

水木は、頭を掻いて渋々承知した。真子の笑顔に負けてしまったのだ。ビルの会議室で、次の企画を考えていた真子。その企画とは一体??

「須藤さん、その後、お客様の意見は?」
「難しいですねぇ。なかなか集まらないようです。
 ぷらぁっと寄り道がてら訪れるお客様が多いようで」
「それでもええやん。ぷらぁっと寄り道してるうちに
 きっと、何かに気が付いてくれるはずだもん」
「組長のお友達にも意見を訊いていただけますか?」
「う〜ん」
「…やはり私共には、一般市民の意見は…」
「…訊いておく。ほな、今日はおしまい。お疲れぇ〜」

そう言って、真子はまさちんと会議室を出ていった。

「水木、ええんか?」
「何が?」
「そう簡単には、いかんぞ」
「やってみるのも楽しそうだからな」

水木の目は、やる気満々だった。

「ま、がんばれよぉ!」

須藤達は、真子に新企画を任された水木を応援していた。



真子と理子は、まさちんの車で大学にやって来た。

「じゃぁ、またね!! デート頑張ってなぁ!」
「組長…約束してませんからぁ」
「…珍しく…奥手…」

真子は、ぼそっと言った。

「…何か?」
「なぁんにも! じゃ!」

真子はまさちんを見送って、門をくぐっていった。

「奥手って?」
「ん? まさちんの手の早さの事。噂なんだけどね」
「ふ〜ん。あっ…」

理子が振り返った先には、リムジンでやって来た麗奈だった。
麗奈とは、真子が東京に居た頃、まだ五代目を襲名する前に通っていた学校で、いつも言い争っていた財閥の娘だった。同じ大学に通っていることを知った時は、お互いが驚いていた。

「あら、真子。あなたも授業なの?」
「あぁ。麗奈もか。…今日は、取り巻きがいないけど?」
「居ない日もあるわよ」
「へぇ」
「失礼」

真子は、麗奈の雰囲気がいつもと違っていることに気が付く。

「…あれ?? なんかいつもとちゃうやん」
「理子もそう思った?」
「うん。…いつもは、もっとお嬢様よぉ!!って雰囲気やん」
「そうなんだよなぁ〜。調子狂うなぁ」

真子は、麗奈の後ろ姿を見届けていた。





「政樹くぅん!!」
「奈美さん」
「ごめんなさい。遅くなっちゃった!」
「私も今来たところですから」

まさちんは、真子には約束していないと言ったが、実は、この日、デートだった。
奈美とは、小川奈美といって、まさちんの同級生だった。
同窓会で久しぶりに逢い、そして、先日、暫く大阪に居ることになったからと言って、AYビルまで、まさちんを尋ねてきた。
そして、この日……。

「今日は、景色の良いところに」
「お願いします」
「では」

まさちんは、奈美を車に乗せ、目的地へ向かっていった。

「真子さんは、元気ですか?」
「は、はい」
「先日のお礼、まだ言ってないの。今度お逢いしたときでいいかしら?」
「えぇ、ええ。いつでも構いませんよ。私の方から言ってますけど
 …やはり奈美さんは、直接言いたいんですね。その辺は、昔っから変わってませんね」
「あら? 私も変わったわよ! こんなに積極的に…」
「…どうしました?」
「昔を思い出しちゃった。政樹君が、芝山君に促されて、
 私の前に来て、結局何も言わずに去っていった事」
「止めて下さいよぉ、照れます。そんな昔のこと」
「政樹君も変わってないのね」
「……変わったよ」

俺は…ものすごく…。

「ううん。変わってない。あの頃とちっとも!」
「…奈美さん…」

まさちんは、奈美の笑顔に照れたのか、それっきり奈美の顔をまともに見ることが出来なかった。



「うわぁ、素敵!!」

まさちんと奈美は、山の上の展望台に来ていた。そこから見下ろす街並みは、とても美しく、心を奪われそうになるほど。

「ここと比べものにならないくらい素敵な景色があるんですよ」
「どこ?」
「天地山というところです。大自然を満喫できる素晴らしい所です」
「…行ってみたいなぁ」
「今度、行きますか?」
「行けたら…ね」
「奈美さん?」

まさちんは、奈美の意味ありげな言い方に疑問を持った。それを尋ねたかったが、奈美の素敵な横顔を観て、尋ねることができなかった。
…まさちんって、本当に手が早いのか??




「…サークルってのに入っちゃった」
「サークルですか?」
「うん。理子に誘われちゃったんだぁ」
「どんなサークルですか?」
「さぁ。みんなでただ和気藹々に楽しむだけみたいだけど…」
「なんですか、それは」
「なんなんでしょうね」

リビングでくつろぐ真子とまさちん。
真子は、ソファに俯せで寝転んでテレビを観ていた。まさちんは、膝に肘をついて、真子と同じ番組を観ていた。

「おぉ、木原さん、すごいねぇ。こんなに宣伝してもらうと
 何かしないとあかんねぇ〜」
「気になさることないんじゃないですか。仕事ですし」
「それもそっか」

真子は、何かを考えている様子。そして、一点を見つめて呟くように言った。

「まさちん…本部で、みんなが何かを企んでるんじゃない?」
「本部でですか?? 何を?」
「…こないだ、電話したとき、何か変な感じだったんだ…」
「電話って?」
「何か変わったことないかなぁって、気になってさぁ」
「組長、組長は気になさることありませんよ。本部の様子は、
 私がお伝えする事になってるではありませんか」
「うん…そうだったね…ごめん」

真北が帰ってきた。

「お帰りぃ〜。早かったね。お疲れぇ〜」
「ただいま。今日は、そんなに事件がありませんでしたから」
「そだ。真北さん、私ね、サークルに入ったの」
「サークル? どんな?」
「ただ色々と楽しもうっていう会みたいだけどね」
「色々と…ね。楽しんで下さいね」
「それでね、そのサークルで新入生交流会をするんだって」
「飲み会ですか?」
「ハイキング」
「ハイキング?!! 何処へ?」
「僕市のしろらんど池っていうところ」
「僕市ですか」
「うん。参加してもいいかなぁ」
「…本当に行かれるんですか??」

まさちんが力強く尋ねてくる。

「そんなこと言うけど、くまはちが来るんでしょ?
 だったら、行ってもいいでしょぉ??」
「組長が行きたいのでしたら、構いませんよ」

真北が、あっさりと応える。

「真北さん、時期的に危ないですよ!!」
「危ない??」
「えぇ。最近、九州地方の組の一部が不穏な動きを…」
「まさちん…変わったね…」
「組長……」

気まずい雰囲気が漂う中、ぺんこうが帰ってきた。

「ただいまぁ〜…って、何か重苦しい雰囲気ですね…」
「ぺんこう、しろらんど池って知ってる?」

真子が明るく尋ねると、

「しろらんど池ですか。あのハイキングで有名な。自然が多くて
 素敵な所ですよ。何回か行きましたから」

ぺんこうは、即答する。

「…いつ?」
「クラブの連中とですよ。体力づくりにもってこいの場所でもありますから。
 で、しろらんど池が何か?」
「組長がサークルのメンバーで行くって…」

まさちんは、不機嫌に言った。

「いいじゃないかよ。組長、楽しんでくださいね!」
「ほらぁ〜。反対するのは、まさちんだけだよぉ」
「何?! まさちん、反対なのか」
「当たり前だろぉ。この時期、何が起こるか…」
「ったく、大丈夫だって…ほんとに、もぉ」

まさちんは、その昔、修学旅行に参加させてもらえなかった時の、あのふてくされていた真子を思い出してしまう。

もう、あの表情は観たくないしな…。

まさちんは、真子をちらりと見て、そして…、

「組長、楽しんでくださいね。そして、呉々も気を付けてください」
「ありがと、まさちん!!!」

真子は嬉しそうに笑う。


「まだまだですね」
「そうだな」

ぺんこうと真北が、呟くように話していた。子供のようにはしゃぐ真子、そして、いつまでも真子を子供扱いするまさちんを見て、大人である(??)真北とぺんこうは、少し困っていた。

でかい、子供だ……。



「くまはち、本当に大丈夫なのか?」

まさちんは、その日の夜中、ベッドに寝転ぶくまはちに尋ねていた。

「任せろって、何度も言わすなよぉ」
「ハイキングコースだろ?」
「俺は、そんなにやわじゃないって」
「だけどなぁ」
「虎石と竜見も付いていくから。安心しろ」
「…いいのか?」
「だからぁ〜」
「会議が無かったらなぁ〜。俺が行くのに」
「その方が心配やぞ」
「なんでや」
「まさちんの体力が…ついていかんやろ」
「うるせぇなぁ」
「…うるさいのは、お前だぞぉ〜。はよ寝ろ!」

それは、むかいんだった。
朝早いむかいんは、ブツブツ言い争う二人が五月蠅くて仕方なかった。むかいんから時々出てくる一喝には、恐れを知らないと言われるまさちんとくまはちは、恐れていた。
なぜだろう……。





「…遂にここまで来たか…」

そう言って不気味な微笑みをしているのは、九州を本拠地として、全国制覇を企む桜島組(おうとうくみ)の長田組長という男。
部屋の壁に日本地図を貼り、九州地方は、桜色に塗られていた。

「次は、四国地方ですね」

そう言いながら、四国地方に桜の花びらを貼る今川という組員。

「そこは、早いさ…。問題は、ここだ」

長田が、指さしたところは、近畿地方…阿山組の縄張りと言われている所だった。

「徐々に行くぞ…くっくっく…」




桜小路財閥の屋敷。
麗奈が家に帰ってきた。

「お帰りなさいませ」
「ただいま。お父様は、今日も?」
「はい」
「そう。ありがとう」

麗奈は、そっと応接室へ脚を運ぶ。そこには、麗奈の父とやくざ風の男が何やら深刻な会話をしている様子が。
聞き耳を立てる麗奈。
そして、話の内容を聞いたのか、唇を噛み締めて、その場を去っていった。
自分の部屋に戻った麗奈は、布団に潜る。

「お父様の…馬鹿!!」

麗奈は静かに泣いていた。




橋総合病院の庭は、今日も患者さんやお見舞い客で賑わっていた。その様子を懐かしむかのように眺めながら歩く一人の医者。


橋の事務室。
橋は、なぜか、事務処理に追われていた。そこへ外線が鳴る。

「ったく、誰だよ……もしもし、今忙しいから…おぉ!」
『…悪かったな、忙しいのによぉ』
「お前かぁ。そや、ありがとな」
『お前の役に立てて嬉しいよ。でもさぁ、もう少し期間を
 延ばしてくれてもよかったのになぁ』
「あかんあかん。俺の片腕に等しい奴やねんから、誰にもやれんわい」
『ほんと助かったよ。着々と腕を上げていくんだからなぁ』
「やろ? だから俺が奨めたんやで。ほんまありがとな。
 午後から早速、成果を見せてもらうことにしたで。それでさぁ…」
『わかってるよ。書類全部に目を通すのに疲れたぞ。
 しっかし、お前もすんごい人と知り合いになったんやなぁ〜。
 あの阿山組の組長さんかよぉ』
「組長って言うなよ、真子ちゃんだからな。…って、お前んとこは
 御用達ちゃうんか? それこそ、知らんかったわい」
『俺は、担当とちゃうんや。…そっかぁ、そうなるんなら、俺もちょいと
 興味を持ったぞぉ。いろいろと教えてくれよぉ』
「何をや? お前なぁ〜。…まぁええ。それよりな…」

橋の電話の相手は、外科医・橋のライバルと言われる程腕の良い、脳神経外科医・道という男。
真子の脳そして、能力の事が気になる橋は、ライバルの道に頼んだことがあった。
万が一、本部に戻っている真子に何かが遭った場合を考えて、すぐに対応できるように連絡を取っていた。
道が勤務する病院は、阿山組御用達となっている。
しかし、それは、道の父親が主に担当しており、道自身は、阿山組の事は耳にする程度だった。
まさか、自分のライバルが、そんなつながりを持っていたとは、想いもしなかったようで……。

『で、その真子ちゃんの特殊能力の事なんだけどな…』
「あぁ」
『海外の方が詳しく調べてるようだぞ。そっちに当たってみるから』
「ありがとな」
『どういたしまして。それでさぁ、例の患者なんだけどな…』

橋と道は、患者の治療に対して、いろいろと情報交換することもある。路
それぞれの腕を信じて…。




橋総合病院の庭を散策し終えた先程の医者が、橋の事務室前にやって来た。
ノックして、中へ入っていく。

「失礼します」
「お帰り、どうやった?」
「久しぶりの庭。変わらず素敵ですね。和みました」
「そうやろ。ほな、午後から宜しくな。研究の成果を見せてもらうで、平野!」
「はい!」

その医者の名は、平野。橋を師匠と呼んでいる程、橋の医者魂に惚れ込んでいる男だった。もちろん、外科医。ここ五年ほど、道の病院で研究兼修行を積んで帰ってきたところ。
…本来なら三年だったが、平野の腕の良さに惚れ込んだ道が、なかなか返してくれなかったのだ……。

その日の午後。
平野は、橋の想像以上の腕を発揮して手術を終えた。満足そうな顔をした橋。更に、平野の患者への接し方も抜群。

「腕を上げたな。…今度、逢わせたい人がおるねんけど、逢ってくれるか?」
「どのような方ですか?」
「ん? 俺の幼なじみの大切な人や」
「幼なじみの…大切な…人?」

平野の言葉は疑問系になる。何かを期待したのだが…、

橋先生の大切な人じゃないんだ…。

少しがっかりしている平野だったが、後日、その幼なじみの大切な人と逢って、度肝を抜かれてしまうのだった。



「ハイキングぅ〜????」
「うん…。最近、体調もいいから…だから、その…」

真子が月三回の検査を受け、その結果報告を聞いている時だった。橋にハイキングの話を持ちかけた。

「ま、大丈夫やろうけどなぁ。…頭痛続くやろ?」
「うん…」
「薬効いてるか?」
「ぼちぼち」
「…これ以上きついやつは出せへんからなぁ〜」
「…もう参加になってるんやけど…」

恐縮そうに上目遣いに真子が言った。

「そうやと思ったで。くまはちが一緒なんやろ?」
「うん。虎石さんと竜見さんもだって」
「なら、大丈夫かな。しろらんど池か。疲れたら直ぐに休むことやで。これ、約束な」
「はい」

真子は、橋の後ろに控えている男の人が気になって仕方がないのか、橋と話ながら、ちらちらとその男の人を見ていた。

「さてと。気になる男の紹介やな。俺の弟子になるかなぁ、
 平野君。平野、この人が、逢って欲しいって言った人」
「初めまして、阿山真子です」
「初めまして、平野です。…阿山、真子…? …えぇ〜?!!!」

平野は、真子の事を知っているようだった。名前だけだが…。

「…やっぱり、阿山真子って、世間に知れ渡ってるんだ…」

真子は少し落ち込む。

「あ、あの、私、何かまずいことを…??」

焦っている平野に、橋は、苦笑いをしていた。

「真子ちゃんは真子ちゃんやねんからぁ。平野、真子ちゃんの病歴、目を通したか?」
「はい」
「…あっ、その方なんだ」
「そうやで。医者としての仕事、患者の病歴を知ってるだけやねん。
 真子ちゃんが心配してる方とちゃうで」
「そっか、よかったぁ。これから、お世話になります!」

真子は、笑顔で平野に言った。平野は、真子の素晴らしい笑顔に驚いていた。

やくざの組長っていうから……。

「橋先生ぃ〜。知ってるやんか…」
「はぁ??」

真子は能力で平野の心を読んでしまった。橋は、真子の言葉を理解できない様子。

「ま、いいか。それで、その…」
「ん? 紹介したかっただけや」
「さよかぁ」

ノックの音。

「失礼します。そろそろ時間なんですが…終わりましたか?」

まさちんが入ってきた。真子は帰る支度をして立ち上がる。

「帰ります! ありがとうございました!」
「次は、十日後やで。わかったな、まさちん」
「それは、じゅうじゅう…。では失礼します」
「平野さん、あまり無理しちゃ駄目だからね! またね!」

真子は手を振って去っていった。
ドアが閉まった途端、平野が口走った。

「やくざの親分とは思えません!」
「…知っとったんか」

…それで、真子ちゃん…。…って読んだんかい…ったく…。

「えぇ。阿山組ってかなり有名でしたから、東京では。
 だから、どんな組長かと…身構えてましたよ…。素敵な…笑顔ですね」
「あぁ。やくざじゃないからな。ま、病歴は、それらしい感じやけどな。
 真子ちゃんのことは、真子ちゃんと呼べよ。これ、鉄則や」
「もし、呼ばなかったら…?」
「…確か、阿山組の幹部が恐れてしまったとか…真子ちゃんを」
「…わかりました。気を付けます」

平野の返事は明るかった。橋は、何故か嬉しそうな顔をしていた。



(2006.1.4 第三部 第一話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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