任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第四話 周りの優しさに応える笑顔

暑い夏がやって来た!
AYビルの周りは、陽炎がユラユラとするくらい暑い…暑い…。だけど、真子は…。

「…冷房効きすぎぃ!」

そう言って、事務室のエアコンの温度調節をしていた。

「あれ??」

暖かい風が……。

「…組長、それは、暖房ですよ」
「…ほんとだぁ。ええい、30度!」
「駄目ですよぉ」

まさちんが、真子を押しのけるようにして、リモコンを操作した。

「押すことないやろぉ!」
「壊れますから」
「…チャンネル争いするまさちんたちとちゃうもん」
「それは、昔のことですよ。早く仕上げて下さいね」
「いやぁ〜。やっぱし、図書館に行く! じゃぁね!」

真子は、荷物を持って事務所を出ていった。

「あっ、組長、電車ですか?? お送りしますから!」
「いいよぉ、こっからやと一本だから」
「ですけど…今は…」
「…大丈夫だって。どっから見ても大学生やろ?」
「そ、そうですけど…」
「まさちんは、仕事しててね!」

真子は、事務所のドアから顔を出すまさちんに手を振ってエレベータホールへ向かっていった。

「帰りは何時頃ですか?」
「夕方ぁ」
「お気をつけて!」

まさちんは、事務所のドアを閉めた。そして、真子が行っていた仕事の続きをし始めた。

「…だから…」

まさちんの言いたいことは、解っている……。





真北は、仕事中。
嫌ぁな事務処理中だった。
書類に目を移すが、すぐにやる気が失せるのか、室内の様子を眺め始める。そして、ふと笑みを浮かべてしまう……。
恐らく、誰かの事しか考えていないだろう…。
室内にいる仲間は、敢えて真北を観ようとしなかった。
真北と目が合えば、恐らく、仕事を言いつけられるかもしれない…。そう思うと…。
その時、電話が鳴った。電話に出ようと、誰もが受話器に手を伸ばす。しかし、

「はい、こちら…」

と電話に出たのは、なんと驚き! 真北だった。

「理子ちゃん????」
『真北のおっちゃんっ!!! 真子が、真子が!』
「…組長に何か遭ったのか?」
『…というナンバーの車に……浚われたっ!!!』

真北は、顔色を変えず、理子から聞いたナンバーと車の車種を記憶する。

「理子ちゃん、ありがとう。あとは任せてな」

そう言って、真北は受話器をゆっくりと置いた。そして、おもむろに立ち上がり、珍しくパソコンの前に腰を下ろした。

パソコンは解らん。

いつもはそう言って、他の刑事に任せる真北。しかし、そんな雰囲気は微塵も感じさせない。
慣れた手つきでパソコンを立ち上げ、そして、キーボードを扱う速さは、驚くほどの速さだった。
真子を浚った車の持ち主を調べながら、真北は、何処かへ連絡を入れる。

「まさちん、俺だ……。大変な事になった」
『…事務処理が終わらないんですか? 組長に伝えておきますよ、
 いつものように』

電話の相手のまさちんは、真子が残していた仕事を仕上げて、一段落付いた所らしい。
それは、まさちんの口調で解る。
真北は、真子のことを伝えるか、躊躇ってしまう。しかし、

「今な、理子ちゃんから連絡があって……組長が浚われた…」

静かに伝えた。
真北の口調とは正反対に、受話器の向こうに居るまさちんは、大慌て。その様子が受話器を通して、伝わってきた。

「……落ち着けって。理子ちゃんが、ナンバーを覚えてて教えてくれたよ」
『どこのどいつですかっ!!』
「…今捜してるよ。取り敢えず、ここに来てくれるか」

突然、無言になる、まさちん。

『ここ……って、……そこ……ですか?』
「あぁ。待ってるよ」

真北は、まさちんに応える隙を与えないように、素早く電話を切った。




「って、真北さんっ!!!!!」

突然切れた電話に向かって、怒鳴るまさちん。

「ここに来いって、俺が嫌いなことくらい、知ってるのにぃぃぃぃっ」

まさちんは、受話器を怒り任せに置いた。

「……って、探してるって言ったよな……!!」

そう呟くや否や、まさちんは、急いでAYビルを出て行った。
デスクの上は、散らかったまま。冷房は付けっぱなし。そして、怒り任せに置いた受話器は、外れていた…。



まさちんの車が、真北の勤務先の駐車場に入ってきた。車から降りたまさちんは、素早く真北の居る事務所まで駆けていく。


真北が居る事務所は、緊迫した雰囲気に包まれていた。
真北がパソコンを触っている。
真北がパソコンで何かを調べている。
真北が人を寄せ付けないオーラを、いつも以上に醸し出している。
話しかけたいが、話しかける雰囲気ではない。

誰もが遠巻きに、真北を見つめていた。その中を、ツカツカと歩いていくまさちん。

あっ、今は………。

と誰もが引き留めたい衝動に駆られるが、真北が振り返る。
まさちんの醸し出す雰囲気を感じた様子。

やばい…修羅場…。

誰もが考え、そして、身構える。
まさちんは、真北の目の前に立ち、見下ろした。

「…ここへ呼ぶのは、これっきりにしてくださいね」

まさちんが呟く。

「しゃぁないやろ」

真北が短く応えた。

「ここに来るまでに、誰かさんに連絡しただろ…」
「まぁ、いつもの事ですから」
「それで、わかったのか?」
「えぇ。裏情報に。…黒田です」
「…黒田?! …奴は塀の中だろが」
「…あ、あの、真北さん…よろしいでしょうか…?」

真北を遠巻きに見ていた刑事が、二人の会話が聞こえていたのか、声を掛けてきた。

「なんだ?」
「その黒田なんですが…、脱走していたようです」
「はぁ? いつだよ!」
「昨日、それが解ったようです。いつ脱走したのかは、不明ですが…」
「どういうことだよ! くそっ!」
「ひぃっ!!!」

真北の怒りが、伝わったのか、刑事の顔が引きつった。

「兎に角、組長を乗せた車が向かった先を行くしかないな」
「わかりました」
「暫く留守にするからな。俺宛の仕事は、原に言ってくれ」
「わ、わかりました!」

刑事は、真北に頭を下げ、去っていく。

「まさかと思うが、黒崎竜次や、他の連中も脱走したんじゃねぇだろな」
「そちらも当たった方が、よろしいかと」
「そうだな…」

真北は、受話器を手に取り、竜次をぶちこんだ刑務所に連絡を入れる。


そして…。



「…どうしたら……」

竜次も脱走している事を知ったまさちんは、その昔、竜次によって、真子の命が危険に曝された時の事を思い出し、震えていた。

再び、あの状態に……。

「…それと…竜次の事だけどな…。…あいつ自身もあの病気に
 かかっているそうだ…」
「あの病気?」
「あぁ。不治の病と言われているやつだよ…。もってあと三日らしいな。
 だから……」
「早く、黒田の居所を!」

真北は、何も言わずに立ち上がり、まさちんに目で合図をして、外へ出ていった。
まさちんは、後を追っていく。その表情はとても厳しかった。




黒田の行方は、中々見つからない。
真北とまさちんの動きは、更に激しくなっていく。


その頃……。

「一週間…か…。竜次様…大丈夫なのだろうか…」

黒田は、竜次の体調を気にしていた。
竜次の命は、あと二日。
残り少ない時間を好きな女と過ごしたいからと、誰も来るなと命令された。しかし、自分の親分が命を落とすと解っていて、何もしないのは、黒田自身も耐えられないらしい。
黒田は、絶対に来るなと言われていたが、脚は自然と、竜次の隠れ家へ向かっていた。



「真北さん!」
「…見つけた…!」

まさちんと真北は、黒田が隠れていそうな所を虱潰しにあたっていた。そして、黒田が車に乗り込むところに出くわした。

「どこかへ行くようだな」

真北は、黒田の表情で何かを悟る。

「つけるぞ」

黒田の車の後を付けていった。

真北とまさちんが付けている事に、黒田は、気が付いていない。それ程、竜次のことが心配なのだろう。


高速を下り、とある山へ向かって進んでいった。
車が滅多に通らないような道を走り始めた時だった。その時になって初めて黒田は、つけてくる真北の車に気が付いた。バックミラーに映る後ろの車の運転席に目を凝らす。

「…真北か…」

真北に気付きながらも、黒田は更に山道を進んでいった。そして、かなり奥へ入った所で車を停めた。
真北の車も停まる。

「黒田っ!!!」

真北とまさちんは、叫びながら黒田の車に駆け寄った。

「開けろ!」

刑事魂が唸ったのか、真北が叫ぶ。
渋々ドアを開ける黒田は、大きく息を吐いた。

「組長をどこへ連れて行った?」

まさちんが冷静に黒田に尋ねた。

「組長? あぁ、阿山真子か……知らねぇなぁ」

ふてぶてしい態度で、黒田が応えると、まさちんがその態度に腹を立てたのか、胸ぐらを掴んで車から引きずり出した。

「お前が浚っていったことくらい解ってるんだよ!
 どこだよ…ほら、言えよ!!」

黒田は、なかなか口を割らない。まさちんは、拳を握りしめた。そして、黒田に殴りかかろうとした時だった。

「えっ?!」

何かを感じたまさちんは、その手を止めた。そして、黒田から手を離し、気を集中させる。

「まさちん、どうした?」
「…組長の…声が聞こえた…!!」

そう言いながら、まさちんは辺りを見渡した。そして、とても気になる小屋が視野に入る。まさちんは、何も言わずにその小屋へ向かって走り出す。

「まさちん!」

真北はまさちんを追いかけていった。そんな二人の様子を眺めながらゆっくりと立ち上がり、小屋へ向かって歩いていく黒田。その表情は、複雑な何かが隠されていた。



まさちんは、小屋のドアを蹴破り、そして、手前のドアから一つ一つ開けて、部屋の中を確認していく。ガラス越しに人影を見たまさちんは、その部屋のドアを勢い良く開けた。

「組長!!!」
「ま、まさちん??」

真子が振り返る。

組長…無事……???

まさちんは、真子を見て驚いた。
なんと、真子の膝枕で、あの竜次が眠っている。何も言えずに立ちつくすまさちん。

組長、なぜ、そんな哀しい顔を?

「まさちん…目を覚まさないの…さっきまで、話…してた…。
 なのに、…目を…目を…」

まさちんは、真子にそっと近づく。

一体、何が起こっているんだ?!

真北が、まさちんの後ろからやって来て、竜次をソファに移した。竜次は、目を覚ます。

「…あんたか……」
「竜次…!!!」

何かを言おうとした真北は、竜次に胸ぐらを掴まれ、引き寄せられた。

「…真子ちゃんの薬…もっと軽いやつにしてやれよ…。
 あの薬……使い続けると…真子ちゃんの体調…更に
 悪化するぞ。……あんまり、無理させるな…よ…」
「竜次…お前…」


真子は、まさちんに飛びついた。

「まさちん!!」
「組長、ご無事で…! 一体何が…?」

真子は、まさちんの問いかけに応えず、ゆっくりと竜次の方を振り向く。
真北と目が合った。

「組長、こちらへ」
「早く病院へ…ね、真北さん!」

真北は、静かに首を横に振った。

「そ、そんな…!!」

真子は、竜次に駆け寄り、しゃがみ込む。竜次は、うつろな目で真子を見つめていた。

「…真子ちゃん…悪かったな…色々と危ない目に…」
「そんな…死ぬ間際のような言い方を…しないでよ…」

真子は、激しく泣き出した。竜次の手が真子の頬に伸び、優しく撫でる。
竜次は微笑んでいた。

「俺の最期くらい…真子ちゃん…笑顔で送ってくれよ…」

真子は真北を見た。真北は、そっと頷く。
真子は、竜次を見つめ、涙を拭き、ゆっくりと笑顔を見せた。竜次は、真子の笑顔に安心したような表情になる。

「ありがとう…これで、地獄に行っても楽しいや…。ははは…」

竜次は、静かに眠った。

「いや…いやだ!! ねぇ、ねぇ!!! 眠ったら駄目!!
 ねぇ! 前みたいに私の命を狙ってよ! ねぇ……。
 狙って…よ…。…私…私……もう、目の前で人が死ぬのは
 見たくない!! 見たくないの!! だから…だから…
 目を開けてよ…ねぇ。死なないでよぉぉぉ!!!!!!」
「組長」
「…まさちん!! わ〜〜ん!!!」

真子は、まさちんに抱きつき、子供のように泣きじゃくる。まさちんは、真子をそっと抱きしめるしかできなかった。
真子の心情が嫌と言うほど解っていた。
しかし、かける言葉が見あたらず……。

黒田は、この様子を部屋の外から、そっと見ていた。

竜次様!!!

黒田の目が見開かれる。あまりの衝撃に、壁にもたれかかってしまった。


真北は、原に連絡を入れる。暫くすると原達、刑事が小屋へやって来た。

「真北さん」

真北の行動を常に見張っていたらしい。真北は、それに気付いていた。だから、すぐに連絡を取り、すぐに小屋に来ることが出来たのだった。

「悪いな、原。頼んで良いか? …俺は組長を」
「えぇ。お疲れさまです」

真北は、まさちんに支えられている真子に声を掛け、そして小屋を後にした。
原は、真子達を見送る。

「無事でよかった…」

安堵の声。
真北が絡む真子の事件には、今までに何度も命に関わる事が起こっていただけに、気が気でなかった原。安心した原は、項垂れる黒田に声を掛け、竜次の亡骸を運ぶ警察達に指示を出していた。




真北の運転する車は、帰路に向かっていた。
真子は、後ろの座席で涙を流していた。まさちんが、真子の肩に手を掛けて、自分に引き寄せる。真子が少しでも安心するように…。

「少しお休み下さい」

まさちんの語りかけにも反応しないくらい憔悴している真子は、まさちんの服をそっと掴んできた。
高速道路を下りる頃には、真子は眠っていた。まさちんは、真子の頬にある涙の跡を優しく拭う。



橋総合病院。
真子は、愛用のベッドで眠っていた。まさちんは、真子に気を遣っているのか、廊下に出て病室のドアの横に腰を下ろして俯いていた。



橋の事務室。

「…またまた、やられたな…」

橋は、真北が聞いた竜次の言葉で、嘆いてしまった。
真子に与えていた頭痛薬の効き目の強さは前から気にはしていたが、その先のことを考えていなかった。

「やっぱし、薬に関しては、すごいな…。それで、その竜次はどうした?」
「原に頼んだよ。今頃は、警察病院じゃないかな」
「そんなええかげんでええんか?」
「俺は、組長の方が心配だからな」
「はいはい。ま、今回は何もなかったようだから、真子ちゃんの
 目が覚めたら、帰っていいからな」
「あぁ」

真北は静かに立ち上がり、真子の病室へ向かって出ていく。
橋は、そんな真北の後ろ姿を優しく見届けていた。


まさちんは、ふと顔を上げ、真子の病室へ入っていく。真子は目を覚ましていた。

「組長、ご気分は?」

真子は何も応えなかった。
やはり、掛ける言葉が見当たらず、まさちんは、悩んでしまう。
そこへ真北が病室へ入ってきた。
まさちんは、心配げな顔で真北に振り返った。まさちんの表情で真子の様子が解った真北は、真子に静かに近づく。

「薬を代えるように橋に言いました。強すぎたんですね」
「…どうして、その事を?」

真子が静かに尋ねてくる。

「竜次が教えてくれたんですよ。組長にあまり無理させるなともね」
「…あいつが…??」
「えぇ」
「そっか…」
「…何か気になることでも?」
「うん…私……。あいつに浚われて、凄く恐かった。
 また、あの薬を…。そう思うと恐くて…恐くて…。
 だけどね、前に逢った時とどこか違っていたの…。
 それが何か気づいたのは、真北さんとまさちんが
 来たあの日だった…。…ありがとう…真北さん、
 まさちん……」

真子は、布団を頭まで被った。

「組長、体調がいいのでしたら、帰りますよ。橋の許可は出てますから」
「…帰る…」

真子は、ベッドから下り、そのまま病室を出ていった。

「組長、お待ち下さい!!」

まさちんは、真子を追いかけていく。

「まさちん、頼んだぞ。俺は、もう少しあいつと話すからな」
「わかりました」

そう言いながら、まさちんは、真子の後ろを歩いていく。


真子は、家に着くまで、何も話さなかった。
家に着いても、必要以上に話すことなく、自分の部屋へと入っていった。




自分の部屋へ閉じこもったまま、真子は、一歩も外へ出ようとしなかった。
ベッドの隅っこに膝を抱えて座ったまま…。
真子が部屋に閉じこもって、五日が過ぎた。
本当に部屋の中から出ない真子。そんな真子を知っている真北は、困っていた。真子の部屋のドアを開け、部屋の明かりを付ける。
真子は、真北を見つめた。
真北は、優しく微笑み、そして、ベッドの側に腰を下ろし、真子を見上げるように見つめた。

「…あの日の二の舞はご免ですよ、真子ちゃん」

真北が言ったあの日とは、ちさとを失った頃の事だった。
真子は、解っていた。
しかし、目の前で起こった出来事…命を失う…という出来事に対して、何もできなかった自分を責めていた。

あれが、もし、組員だったら…。

そう思うと、恐くて仕方がないのだった。

「あまり、まさちんやぺんこう達に心配を掛けないようにね」

真北は優しく真子に伝えて、部屋を出ていった。
真子の部屋の前には、まさちんが居た。心配して、真子の部屋の前から離れようとしない。

「真北さん…俺…どうしたら…」
「ん?」
「組長、俺が奈美さんのことで落ち込んでいた時、
 心配してくださったのに…。俺は、組長に何もできない。
 何かしてあげたいのに…何もできないんです…。俺…」
「いつものように接すればいいんだよ」

真北は、そう言って、自分の部屋へ入っていった。
暫く考え込んだまさちんは、意を決して真子の部屋をノックして入っていく。

「組長、今日も家に閉じこもっているんですか? …図書館での
 調べ物は?? 行きましょう!」

明るく元気に話しかけたが、空振りだった。真子は、一点を見つめたまま動かない。まさちんは、為すすべもなく、困って頭を掻いていた。

「ご飯は?? お腹空いたと思いますが…」

真子は、一点を見つめたまま…。
まさちんは、項垂れて真子の部屋を出てきた。
真子は、部屋の電気を消しに立ち上がり、再びベッドの上で膝を抱えて座り込む………。




「ただいまっ!」

ぺんこうが元気な声で帰ってきた。

「…お帰り…」

丁度二階から下りてきたまさちんが、項垂れたまま出迎えた。

「こんにちは!」

その声に驚き顔を上げると、そこには、

「理子ちゃん」
「先生と駅で逢ってん。そしたら、真子、元気ないって聞いたんや。
 だから、遊びに来た。…で、部屋?」
「そうですけど…」

理子は、慣れた感じで二階へ向かって行った。

「真子、入るよぉ〜!!」

ノックもせずに真子の部屋へ入っていった理子。ドアが静かに閉まった。
まさちんとぺんこうは、そっと真子の部屋に近づいていった。部屋の中からは、理子の明るく元気な関西弁が聞こえてきた。
大きな物音が部屋から聞こえてきた。驚いたまさちんとぺんこうはドアをそっと開けて中を覗き込む。
理子が真子を押し倒して、睨んでいた。

「…真子、ええ加減にしいや。いつまでもそうやっとったらええ。
 だけどな、みんな心配しとんねんで。先生やまさちんさん、
 向井さん、くまはちさん…真北のおじさん…みんなみんな、
 心配してるやんか。…まさちんさんが元気ないからって
 すんごい心配しとったのは、誰なん? 今、それと同じ事
 してんのは、誰や? な、真子。だから、元気出しぃ」
「…理子……」

真子は、体を起こして、理子を押し倒した。顔に垂れた髪の毛の間から見える目は、哀しみと怒りが混じっていた。

「…どうしたらいい? 自分の目の前で命が亡くなる…。
 どうしたら、いいの? 自分はその時、何が出来る?
 そう考えると…哀しくて、自分が情けなくて…。
 何もできない…出来なかったんだよ…?」
「真子…。…その時、真子は、どうしたん?」
「…笑顔を見せてくれって言われたから…」
「見せたんやろ? 喜んでいたんやろ? それでええやん。
 その人の最後の願いを叶えたんやで? 良いことしてんで。
 …だったら、くよくよ悩まんでもええやん!」
「理子……」

真子は、そっと理子から離れた。そして、髪の毛を掻き上げる。その顔は、少し明るかった。

「…そうだよね…いつまでも…こんな風にくよくよしてたら
 あかんよな…。最後に良いこと…したんだよね、私。
 …理子、ありがとう」

真子に笑顔が戻った瞬間だった。
いつの間にか、ベッドの上でふざけ合う真子と理子。その雰囲気を観て、まさちんとぺんこうは、ドアを閉めた。

「俺じゃ、無理だな…」

まさちんが呟いた。

「…俺達…だろ?」

ぺんこうがまさちんに応えるように言った。そして、お互い顔を見合わせ、苦笑いをする。
その時、真子の部屋から、真子と理子が出てきた。

「元担任の部屋、どうなったか、見たいやろ? 行こう!」

廊下に居るぺんこうの姿に気付きながらも、真子が言う。

「うんうん!」

理子が期待の眼差しで応えた。

「…って、組長、お待ち下さい!!!」

すっかり元気を取り戻した真子は、理子の手を引っ張って、ぺんこうの部屋へ入っていった。ぺんこうは慌てて真子達を追いかけていく。そして、あれこれと部屋の中を散らかす真子を止めるのに必死だった。
そんなやり取りをしながらも、真子が見ていないうちに、例の写真立てをそっと伏せた。

「おっ、理子ちゃん、来てたんか」

ぺんこうの部屋の騒がしさが気になったのか、真北が顔を出す。

「お邪魔してます!」
「そろそろむかいんの料理の時間やし、理子ちゃんさえよかったら
 一緒にどうかなぁ?」
「うんうん!! かまへんよぉ!!」
「……ありがとう」

真北は、優しい眼差しで、理子に言う。真北の気持ちが伝わったのか、理子は思いっきり微笑んでいた。
真北は、ぺんこうとふざけ合う真子を見つめ、安心したような優しい眼差しを送った。そして、廊下にいるまさちんに目をやった。
まさちんは、案の定ふてくされていた。そんなまさちんに近づいて、軽く蹴りを入れてからかう真北。まさちんは、真北に微笑み、

「安心しました」

そう呟いた。

「あぁ。…さてと、今夜の食事は、賑やかになるぞぉ。
 むかいんに言っとこうっと」

真北は、まさちんの腕を掴んでぺんこうの部屋に放り込んだ。

「うわっ、真北さん!!」

まさちんは、いいタイミング(??)でぺんこうとぶつかった。

「…てめぇ…」
「真北さんに言ってくれ!!」
「うるせぇ!」
「わぁ、こらぁ、二人ともぉ!!!」
「きゃっきゃっきゃ!!!」

理子は、阿山トリオのコントを目の前で見て、はしゃいでいた。


夕食。
理子を交えて、とても賑やかな時間となる。
いつもなら、怒るぺんこうだが、この日は、理子と騒ぎまくっていた。

「こら、野崎っ!! それは内緒や言うたやろ!」
「ええやん、もう、時効!!」
「あかんって!!!」

時々、教師・山本が顔を出していた。
理子とぺんこうのやり取りも、なんだか楽しい真子。笑顔が輝いていた。

その日、真子の家に泊まった理子。ベッドに寝転がっても、一晩中話し込んでいる真子と理子。
話は尽きない…。
そして、カーテンの隙間から朝日が射し込んできた………。

「…話は、途切れなかったな…」

真子の部屋の様子を一晩中、廊下で伺っていた真北は、安心した表情で微笑み、そして、自分の部屋に入っていった。



(2006.1.19 第三部 第四話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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