任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第十一話 陥れる

朝。
真子は、玄関で靴を履いていた。そこへ、二階から慌てて降りてきたまさちんが、真子に尋ねた。

「今日は、お出かけにならないとおっしゃったのに」
「ごめんごめん。調べたいことが出来たから」
「ご一緒致しますから、お待ち下さい」
「いいよぉ。もう大丈夫でしょ?」
「他の組の動きも気になりますから」
「ほんと大丈夫だって。…大学は、護衛なしって言ったでしょぉ。
 だから、ほんとに、いいって!」
「しかし…」
「まさちん!」

真子は、ドスを利かせてまさちんに言った。まさちんは、真子の言葉尻で気持ちを察したのか、それ以上無理を言わなかった。

「お気をつけて!」

真子は、一人で大学へ出掛けていった。


「ええんか、ほんとに」

リビングで、二人の様子を伺っていたくまはちが、リビングに入ってきたまさちんに言うが、

「……あぁ」

まさちんの返事は暗かった。ソファに座り、項垂れる。

「あの日以来、組長の醸し出す雰囲気が…変わったんだよ」
「…本部でのあれか…」
「…桜島組の奴らをもてあそぶ組長の姿が…恐ろしかったんだよ。
 ICU前で見せたあの優しさ溢れる雰囲気とは全く違って…。
 まるで…この世界が楽しいかのような……。組長が嫌っている
 血の世界が…」
「…まさちん…。それが…五代目の本能だよ…」
「…やはり、本能が目覚め始めたんだな…」

真子の築き上げる新たな世界の意味を理解し、自分のやくざな性格を改めようと決心しているまさちんは、複雑な思いを抱き始めていた。

このままで、いいのか…?

それは、真子自身も思っていることだった。
大学へ向かう電車の中で、流れる景色を眺めながら、自分の取った行動を反省していた。

あの時は、自分でも押さえきれなかった…。

寂しげな目をしていた。



まさちんは、この日、ビルでの仕事を早めに切り上げて帰ってきた。

「…あれ?」

家には誰も居なかった。真子が帰ってきているものだと思っていたからだった。

「…チェッ」

まさちんは、今朝、無理にでも真子に付いて行けばよかったと後悔していた。
部屋で着替えを済ませたまさちんは、机に向かい、阿山組日誌を広げる。

「はふぅ〜」

ため息をつくだけで、何も書かなかった。




夜十時を廻った頃。
真子の入っているサークルの仲間である江川と寺井が、改札を出てきた。

「しかし、最近の宮山、おかしいよな」

寺井が言った。

「私も思った。確か、真子ちゃんが入会した頃、すんごい嫌な顔してたよね。
 なのに、学祭辺りからかなぁ。真子ちゃんによく話しかけてるやん」
「そうやんなぁ。だけど、宮山の性格からしたら、真子ちゃんは
 好みのタイプとちゃうやろ。あいつ、派手な女が好きやし」
「噂は聞いてる。おじさんが刑事だから、お金持ってるとかで
 派手そうな女の子が、よく近づいていくもんね。見てて嫌な感じがするわ」
「…真子ちゃん、降りたそうな顔してたのに、あいつ、何で、急発進したんやろ…」
「まさか、真子ちゃんに…?」
「……それは、ないやろ。真子ちゃんやで。それに、真子ちゃんに何かあったら、
 あの、まさちんさんって人とくまはちさんって人が、許さないんちゃうん?」
「そうだけど…。私…気になるから、電話してみる」

江川は、近くの公衆電話から、真子の家に電話を掛けた。


『もしもし』
「江川と申します。あの…真子ちゃんおられますか?」
『いいえ、まだ、帰っておりませんよ。連絡もないんで、
 心配していたところですよ。…飲み会だったんですか?
 あの日以来、駄目と申してるのに…』
「…帰ってないって…」

江川は、受話器を離して、寺井と話していた。

「あれから、結構経つよな…まさか…」
『もしもし!! どうされたんですかぁ!』

受話器の向こうからまさちんの叫び声が聞こえた。寺井は、江川から受話器を取り、ゆっくりと話し始める。

「実は、真子ちゃん、俺達と一緒に宮山の車に乗って
 大学から出たんですよ。俺と江川さんを降ろした後、
 真子ちゃんが降りたがっているのに、車を急発進させて、
 真子ちゃんと去ってしまったんですよ。いつもの宮山と
 違っていたので、気になって…」
『2人でどこかへ出かけたとか?』

まさちんは、普通に応対していた。

「それと、もう一つ…。宮山、あのミナミの事件の時、
 俺達と一緒にいなかったんです。なのに、その事件のこと、
 知っているんですよ。俺達、誰にも言ってません。
 だけど、宮山、おじさんが刑事だからとか言っていたんですよ」
『刑事? …警察で知っているのは、真北さんくらいだけど?
 で、その刑事の名前は?』
「刑事の名前? …えっと…」

寺井の横で話を聞いている江川が何かを思い出したように寺井から受話器を取り上げた。

「鹿居っていう名前だったと思います。宮山さん、
 以前、連呼してましたから。自慢げに」
『鹿居…!!! …その男、組長を刺した犯人と繋がる刑事だよ!
 ……やばいじゃないかっ!!』
「本当ですか? どうしよう…」

江川と寺井は、それ以上、言葉が出てこなかった。

『ありがとう。後は、俺達で』

電話が切れた。
一定の音が聞こえる受話器をそっと置く江川。
寺井と江川は、暫くその場に立ちつくしていた。

「まさか…そんなことが…」

寺井が呟いた。

「真子ちゃん…」

今にも泣き出しそうな江川を優しくなぐさめる寺井。

「…まさちんさんに任せるしかないよ。俺達じゃ何も出来ない」
「酷いことにならなかったら、ええねんけど…」

帰路に就く二人の足取りは、とても重かった。





まさちん、ぺんこう、そして、くまはちが、強面で雁首揃えて何かを話している。その雰囲気は、途轍もなく…恐かった。

「その宮山という奴の車を探せばええねんな?」

くまはちが、言った。

「いいや、かなり前に拉致されたらしいから、探すのは、宮山の家だろ」

ぺんこうの頭は冴えている。

「それなら、確か、組長の手帳の写しが…」

まさちんは、懐から自分の手帳を取り出し、ページをめくる。くまはちとぺんこうは、この時、まさちんの言葉と仕草が何か可笑しいと思い始める。

「お前、なんで、写しがあるねん!」

くまはちとぺんこうは、同時に叫んだ。

「えっ? ……ここだ」

まさちんは、巧みに二人の言葉をかわす……。




「ぐわぁ〜っ!!!」

ドブシュッ! …ガツッ……ドサッ…。

床に、血だらけになって転がっているのは、桜島組の花田だった。その花田を見下ろす人物…。
左手には、血だらけの金棒が、握りしめられていた。
その左手は、微かに赤く光っていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……!!!」

大きく見開かれた目。その目も赤く光っていた。
それは、真子だった。宮山に拉致され、宮山のマンションの一室に閉じこめられていた真子。
なぜ、片手に金棒を持って、花田を襲ったのか、驚いていた。
そして、そのマンションの窓ガラスを割って、外に飛び出していく。
片手に、血の付いた金棒を持ったまま。


太陽は沈み、辺りは、薄暗くなり始めた頃、雨が降り出していた。
真子は、ふらつきながら、どこかを目指して歩いていく。



「あほぉ!! だから言ったろ! 俺にさせろって!」

くまはちが怒鳴る。

「じゃかましぃ!」

くまはち以上に怒鳴っているのは、まさちんだった。

「だったら、迷うなよな!」
「…っわ、悪かったな!」

夜。どしゃぶりの雨の中、まさちんの運転する車が、彷徨っていた。助手席にはくまはちが座っている。
目指す場所は、宮山のマンション。
…なのに、なぜ、彷徨ってるのか…。
二人の会話にあったように……………迷っていた。

「くそっ、この雨じゃ、探しにくいなぁ」
「…誰だ? …ま、まさか!!」

ヘッドライトに写った人影に覚えがあるのか、まさちんは車を停めて、どしゃぶりの雨の中、車を降り、駆け出した。

「組長!!」

その人影は、どしゃぶりに濡れ、両手を赤く染めている真子だった。真子は、まさちんの声に顔を上げた。
真子は、まさちんを見て、安心したような表情を見せた途端、倒れるように気を失った。

「組長! 組長!!」

まさちんは、雨の中、真子を抱き上げ、叫び続ける。そして、真子の両手を見て、事態を把握したのか、急いで車に真子を乗せ、その場を去っていった。


運転手は、くまはちに変わっていた。

「…お前の言う通りかもな…」

くまはちが、呟いた。

「何も…何も言うなっ!!」

まさちんは、真子の両手の血を拭き取りながら、自分の考えをかき消すかのように叫んでいた。そして、車の中に用意してある毛布で真子を包みこみ、力強く抱きしめる。

「組長…」

この言葉は、ものすごく切なかった。




激しい雨が降っていた。
真子の自宅では、ぺんこうとむかいんは、雨の音を聞きながら、誰かの帰りを待っていた。
雨の音の中、表に車が停まった音がする。
二人は、リビングから急いで玄関へ駆けつけた。
ドアを開けると、そこには、雨に濡れたまさちんが、毛布にくるまれた真子を隠すように抱き上げて立っていた。

「…まさちん…」

ぺんこうが、呟いた。

「…着替えを頼む…」
「あぁ」

ぺんこうは、まさちんから真子を受け取り、二階へ上がっていった。まさちんは、二人の姿をいつまでも見送っていた。その時、車が急発進した。

「!!! おい、くまはちっ!!」

まさちんは、慌てて外に出る。
激しく雨が降る中、自分の車が走っていくのを見送ってしまう。
まさちんの車で、くまはちは、そのまま何処かに向かって行った。

「あいつ……」

まさちんは、くまはちが何を考えているのか、解らなかった。

「まさちん、お前も着替えろ。風邪引くぞ」
「…あぁ」

まさちんは、家に入った。




ぺんこうは、真子を毛布にくるんだまま、着替えさせていた。濡れた髪を拭き、そして、ベッドに寝かしつける。
真子の顔に付いている血が気になったぺんこうは、真子の両手を手に取り、何かを確認する。そして、拭き取ったであろうと思われる血の跡を見つけた。

「…まさか…なぁ」

ぺんこうは、まさちんの様子と真子の姿から、何かに気付く。そして、そっとリビングへ降りていった。

「まさちん、まさかと思うが…」

着替えを終え、濡れた髪を拭いているまさちんは、ぺんこうの言葉に対して、一点を見つめたまま静かに言う。

「考えたくない…」
「だけど、組長の、あの血は…? 宮山の?」
「組長の側に、血の付いた金棒が落ちていたんだよ。
 考えたくないよ……組長、自らの手で…」
「まさちん…。…くまはちは?」
「あれからすぐに何処かへ行った」

むかいんが、落ち込んでいるまさちんの代わりに言った。

「そうか…」

ぺんこうは、いつになく、真剣な眼差し…教師ではない、もう一つの顔の雰囲気を醸し出していた。

「まさちん、組長が手を下したとは、思えないよ。
 兎に角、真相を調べてから…先のことを考えよう」

冷静さを失わないところが、ぺんこうらしかった。

「あぁ…」

まさちんの声は震えていた。



真夜中。
真子の側には、ぺんこうが座っていた。

「…熱が更に上がったか…」

ぺんこうは、氷枕を換えに部屋を出ていった。
廊下には、まさちんが、立っていた。

「寝とけって」
「眠れないよ…」
「…ったく、ガキか、お前は」

ぺんこうは、氷枕を足下に置いて、まさちんの腕を引っ張ってまさちんの部屋へ連れてきた。
そして……。

「うぐっ……」

まさちんの腹部に拳を入れ、気絶させ、そして、ベッドに寝かしつけた。その気配で、むかいんが目を覚ました。

「ぺんこう…お前…」
「こうでもせな、こいつ、寝ないやろ」
「だけどな…」
「体よりも、精神的にきてるだろ、こいつ」
「…だろうな」
「本部の一件以来、なんだか、おかしいよ」

ぺんこうは、眠るまさちんを見つめていた。

「なんちゅー顔で寝とるんや、こいつはぁ」

むかいんが、まさちんに近づいてきた。そして、まさちんの顔を見て、微笑んだ。

「無邪気な顔やなぁ。…気を張りつめすぎやな」
「ほんまやな。…ところで、真北さんは?」
「明日の朝になるらしいよ。それでも急いでるって」
「…そうか…。…これから、どうなるんだよ…」

ぺんこうの顔が、曇っていく……。



次の日の朝。
昨夜の雨が、嘘のように止んで、空は澄み切って晴れ渡っていた。
カーテンの隙間から差し込む光に眩しさを感じたまさちんが、目を覚ます。

…良く寝たぁ………って……!!!

「組長っ! …って、なんで俺……」

確か、真子の部屋の前に居たはずなのにと思いながら、まさちんは、部屋を出て、真子の部屋をノックする。
そっとドアを開けたが……。
ベッドは、もぬけの殻……。

組長っ!

まさちんは、慌てて階段を駆け下りる。

「むかいん!!! 組長は?」
「ここだよ!」

と、真子の声が聞こえてきた。
真子は、むかいんの料理を食卓に並べていた。

「脅かさないでください!!」

ホッと胸をなで下ろす。

よかった…何事もなくて……。

「まさちん、もっと落ち着けよぉ〜」

むかいんが、何気なく口にした時だった。

「うわぁ〜〜っ!!」

真子が叫びながら、まな板の上に置いてある包丁を手に取り、むかいんに斬り付けた。

「!!!」

むかいんは、素早く避けたが、手のひらを切られてしまう。それでも、むかいんに包丁を向ける真子。

「どうしたんですかっ!」

まさちんは、真子に近づく。
真子が、振り向き様に襲いかかってきた。

!!!!!

まさちんは、素早く避け、真子の両腕を掴んだ。

「組長、むかいんですよ、そして、私です!!」

その言葉に反応したのか、真子が顔を上げた。

「えっ?」

まさちんに向けられた真子の眼差し…それは、自分が知っている真子じゃない。
異常な眼差し……。
それに気を取られたまさちんは、真子に押されてしまう。
その力こそ、尋常ではない。
まさちんは、真子に押されるままリビングまで来てしまった。

ちっ…!!!

まさちんは、ソファに押し倒された。その弾みで、真子の両腕を離してしまった。

「…組長っ!!」

真子は、再び、まさちんを襲い始める。

「おっはよぉ〜……どした??」

夜中、ほとんど寝ていないぺんこうが、半分寝ぼけながら起きてきた。
血を流して台所に立ちつくすむかいんと包丁を持った真子に追いかけられているまさちんを見て、目を見開き、口にする。
その途端、真子の狙いが、ぺんこうに移った。
包丁をふりかざして向かってる真子。ぺんこうは、真子の眼差しに気付く。
異常なまでの眼差し。
それに気付いた途端、ぺんこうは、真子の攻撃を軽く交わして、真子の首筋を叩いた。
力無く倒れる真子を、ぺんこうが支える。

「何が起こったんだよ、一体」

ぺんこうがまさちんとむかいんに尋ねた。

「……わからん」

まさちんが静かに応える。むかいんは声にならなかった。
ぺんこうは、気を失っている真子をソファに寝かせる。その時、真子の右肘の皮膚がめくれていることに気が付いた。

「何だこれ?」

それをそっとめくっていくぺんこう。その皮膚は、真子の皮膚とは別のものだった。真子の皮膚にぴったりとくっつけられている皮膚は、指先まで続いていた。

「人工皮膚?」
「なんだよ、このあざは!!!」

真子の様子を覗き込んでいた誰もが、驚いた。なんと、真子の右腕には、緑色の丸いあざが十個付いていた。ぺんこうが、何かを思いだしたのか、

「おい、これって、あの……」

呟いた時だった。

「サイボーグ…じゃないのか?」

その声は、真北だった。
徹夜明けで帰ってきたところで、応接室の騒がしさが気になり、そっと入ってきたらしい。

「何があったんだよ」
「組長が、むかいんとまさちんを襲ったんですよ」
「はぁ? 夕べに続き、組長に異変かよ…」

真北は、辺りを見渡した。むかいんの手からは、血が流れていた。そして、まさちんは、頬と手の甲にかすり傷を負っていた。

「…その緑のあざは、サイボーグと言われる薬を打ったときにできるあざだぞ。
 …なんでまだ、そのサイボーグが残ってるんだよ」

真北が、焦った顔をして言った。

「それって…まさか、あの?」

ぺんこうが真北に尋ねた。

「黒崎竜次が、裏でばらまいていた薬だ。それを打って、
 意識が朦朧とした時に催眠状態にかかるというものだ。
 きっかけは、なんだよ」

むかいんとまさちんは、記憶をたどっていく。

「…まさちん?」
「何?」

むかいんに名前を呼ばれたと思ったまさちんは、返事をした。

「違うよ、まさちんと言った時だよ」
「あっ……」




橋総合病院。
真子は、いつもの病室で、催眠治療を受けていた。

「鹿居…と、宮山さんが。私は……縛られている。
 腕に、何かを打たれた…。注射された…。あっ…」
「それで、真子ちゃん、どうなった?」
「…花田が、髪を引っ張ってる…。また、注射…。
 鹿居が、耳元で何か言ってるよ…」
「真子ちゃん、よく聞いて? なんて言ってる?」
「…ま…まさちんと聞いたら、襲え…って。あっ、やめて…!
 この……」

真子の声が突然低くなった。橋をはじめ真子の周りにいた真北、まさちんは驚いた。

「…雨…激しく振ってる…。私の手にあるこの棒は、何?
 …血がついてるよ…まぶしい…。…まさちん…」

真子の声は元に戻っていた。そして、そう言った後、深い眠りについた。


橋の事務室に、橋、真北、そして、まさちんが、深刻な顔をして集まっていた。

「くそ、鹿居のやつ…」

真北は、かなり怒っている。

「治るんですか?」

まさちんが落ち着いて、橋に尋ねた。

「あのあざが消える頃には、元に戻るよ」
「十個ですよ? 一つは、濃い緑なんですよ?
 いつ消えるんですか? 元に戻るんですか?」
「…まさちんという言葉を言わなければ、大丈夫だろ?」

まさちんは、言葉に詰まった。

「そ、そうだよな」
「兎に角、真子ちゃんのあざが消えるまで、入院な。
 抑制は必要ないやろ。そのサイボーグっつー薬は」
「…あぁ」
「しかし、その薬の出所は?」
「裏でさばかれたものは、全部回収して、保管してある。
 …まさか、鹿居の奴、そこから持ち出したのか…?」

真北の目が、変わった。やくざを醸し出す…。



真子は、病室で目を覚ました。何が起こったのか、全く理解していない様子。

「またぁ〜。…なんで、ここにいるんだろ」

ベッドを降りようとした時だった。病室のドアがゆっくりと開いた。ノックもなしにドアが開いたことに少し警戒する真子。

「だれ?」
「俺だよぉ〜」

明るい声で真子の病室へ入ってきたのは、花田だった。花田の包帯は、増えていた。

「続きをしようよぉ〜!」

花田の言葉に恐怖心を感じる真子の体は強ばっていた。

「…ったく、やる前に殴られるなんてなぁ。お前も、どじな奴やのう」

そう言いながら、花田に続いて入ってきたのは、鹿居だった。鹿居は、医者の様な格好をしていた。そして、その後ろから、ストレッチャーを押して入ってきたのは、宮山だった。

「……な、なに?」

真子は、何が起こっているのか把握できなかった。唯一解ったのは、花田が、自分を襲おうとしていることだけだった。花田は、嬉しそうな顔で真子のベッドに上がり、そして、真子を押し倒した。

「…や、やめて!!!」

真子は、突然の事で、その言葉しか出てこなかった。
なぜか、抵抗すらできない真子。

「花田ぁ〜。違うだろがぁ。それ以上罪を増やすなよ」
「一つも二つも一緒やろ!」

花田は、真子のパジャマの胸元に手を伸ばす。

「これ以上増やすと、あとがないと言っとるやろ」
「花田さん、そんな女抱いても、特にもなりませんよ。
 やくざですよ。色気もない…」

宮山が、真子を見ながら、馬鹿にしたような言い方をした。

「わしもやくざやで、坊ちゃん」
「…そっか。ま、それは、ええとして。おじさん。これですよ」
「…よう撮れとるなぁ。上等や。さてと。眠れ」

鹿居の言葉に従うように、真子は、ゆっくりと目を瞑って、眠ってしまった。
花田は、眠る真子を抱き、ストレッチャーに乗せ、布団を被せる。鹿居は、懐から封筒を取り出し、宮山に渡された写真をベッドに置いて、そして、病室のロッカーから、真子のもう一つのパジャマを出し、それを引きちぎり、ベッドに散らした。

「行こか」

鹿居は、自分が医者のような顔で、ストレッチャーに寝かされた真子の脈を測っているような格好をして、宮山が押すストレッチャーに付いていく。そして、花田は、付き添いの顔をして、真子の病室を出ていった。

誰にも気づかれることなく、病院の駐車場へやって来た鹿居達。乗ってきたワゴン車に真子を乗せ、そして、橋総合病院を去っていった。

「くっくっく…。あいつの顔が見物だよ。はっはっはっは!」

鹿居の高笑いが、響いていた。




橋の事務室で、真子の容態を聞いていたまさちんは、ふと、真子の声が聞こえたような気がして、突然事務室を出ていった。

「まさちん、どうした!」

まさちんの突然の行動に、疑問を抱いた真北と橋は、まさちんを追いかけるように事務室を出ていく。


まさちんは、真子の病室がもぬけの殻なのに驚き、立ちつくしていた。
ベッドの上の物に気が付いた。
ゆっくりとベッドに近寄り、それらを見下ろすまさちん。

「…うそだろ…?」

まさちんは、引きちぎられた真子のパジャマの上を手に取り、震えていた。そして、その横に置いてあるポラロイド写真を見て、愕然となる。そして、封書を手に取った時、真北と橋が、病室へ入ってきた。

「まさちん、…組長は?」

真子の姿が見えないことを不思議に思った真北。そんな真北は、怒りで震えるまさちんを見て、事態を把握した。そして、まさちんの持つ写真と封書を取り上げる。
その写真は、花田にパジャマを引きちぎられている真子の姿が写っていた。そして、ベッドの上の状態…。 急いで、封書をあける真北。真北も怒りで震え始めた。

「真北、どうした?」
「鹿居の野郎……」

真北は、封書を握りしめた。


 真北、大切な人を助けたいなら、一人で来いよ。
 待ってるよ。お前に、素晴らしい贈り物をしてあげるよ。
 場所は、お嬢さんが、その昔、キーワードの男に撃たれた所だ。

                      鹿居



「許さねぇぞ…、鹿居…!」

真北の声は、地を這う低い声だった。
真北の怒りは、頂点に!?!


港第八倉庫。
真子は、以前、まさちんが、つり下げられていた場所に寝転ばされていた。その真子を見下ろすように立っているのは、鹿居だった。
真子は、うつろな目をしている。

「さぁてと。お嬢ちゃん。お嬢ちゃんが慕っている二人が
 もうすぐ来るよ。その二人を…これで、殺れ」

鹿居は、真子の目の前に、日本刀を放り投げた。真子は、ただ、日本刀を見つめるだけ。

「本部での事、聞いてるよ。あの山中に勝ったんだって?
 …その腕、見せてくれよなぁ。お嬢ちゃん!」

鹿居は、しゃがみ込み、真子の頬をすぅっと撫でた。そして、真子から離れていった。




「まさちん」
「大丈夫です」

真北とまさちんは、第八倉庫の前に立っていた。
あの日の事を考えているような表情をしているまさちんを心配した真北は、優しく声を掛けた。そして、まさちんの言葉を聞いて、再び怒りの形相になっていた。
倉庫の扉を開ける。
中は、静かだった。
辺りを探りながら、奥へと入っていく真北とまさちん。

「待っていたよ、真北」

鹿居の声が聞こえた。その声の方を振り向く真北とまさちん。

「鹿居……組長はどこだよ」

真北が、怒りを抑えながら言った。

「ここ」

鹿居が指さしたところには、花田が何かにまたがって座っていた。花田の下には、真子が横たわっていた。

「きさまぁ〜」
「おっと、それ以上近づくと、ほんまにやばいぞ」
「くそっ!」

真北とまさちんはその場から動けなかった。

「真北、俺は、お前が嫌いだ。同僚でありながら、俺は、お前に
 嫉妬している。お前の行動力、実績、判断力、…何もかもにだ!
 なのに、なぜ、お前だけは、何もないんだ? やくざそれも、
 この阿山組と親密な関係になって何年になる? お前の人生の
 半分以上だろ? なのに、お前は…。久しぶりに戻ってきた
 お前の顔…。以前と変わらない表情。なぜだ? やくざに
 殺されたといわれていたんだぞ。…俺は心配していた。
 なのに…、お前はメキメキと力を上げていく……。
 そして、上に信用されている…お前…俺は……!!!」

鹿居の怒りが頂点に達していったのか、懐から銃を取り出し、真子に向ける。

「お前が憎いんだ!!!」

そう言うやいやな、引き金を引いた。

「!!!!!」

あまりの素早さに真北とまさちんは何もできなかった。

「……組長ぉっ!!!!!」

真北の声が、辺りに響き渡った。



(2006.2.6 第三部 第十一話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
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 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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