任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第二十一話 焦り、苛立ち、そして、反撃?

橋総合病院へ向かう道の途中。
赤色回転灯がいくつも光っていた。そこへ、車で近づいたのは、真北だった。原が、真北に気が付き、駆け寄ってくる。

「真北さん…」

真北は、車を降りるやいなや、ボロボロになっている車に近づいた。そして、その車の様子をじっくりと伺っていた。
後ろには、目を覆いたくなるほどの、おびただしい血が付いていた。
真北の顔色が変わる…。

「…どう説明すれば、いいんだよ…」

真北は一点を見つめたまま呟いた。原は、真北にかける言葉が見あたらず、側に居るだけだった。

「俺は、大丈夫だと…言っていたのにな…」
「…ま、真北さん、その…目撃者の話によると、この車の
 運転手は、バイクに乗った男に鎖で繋がれて、引きずられ…、
 ここに、かなりの勢いでぶつかったと…そして、
 寝屋里高校から去ったワゴン車と同じものに乗せられて
 去っていたそうですよ。…真北さん…真北さん!!!」

真北は、原の報告を聞いた途端、自然に脚が車に向いて、そのまま、何処かへ向かって走っていった。
やはり原は、ただ、見送るだけしか出来なかった。




真子の病室から、津田教授が出てきた。津田は、この日、真子が受け取る予定だった資料を真子の事件を聞いて、わざわざ橋総合病院まで持ってきたらしい。津田は真子に笑顔を向けた。

「では!」
「本当にありがとうございました」

真子は笑顔で津田を見送っていた。そして、津田が持ってきた資料を手に取り、津田の言葉を思い出していた。

「…ブリッジ…ロード……橋…道……って、うそぉ〜っ!」

真子は、光に関する海外の文献を日本で最初に受け取った人物が、橋と道の二人だということに気付く。

「真北さんが入院していた時、慌てて隠した書類、まさか…
 これだったのかも…。うん、考えられる。
 …なんだよ、言ってくれてもいいのになぁ。ったくぅ〜」

真子はふくれっ面になっていた。



真北が、真子の病室の前に立つ。そして、意を決してドアを開けた。その途端、

「真北さん! ひょっとして、光のことで海外から
 文献を取り寄せてない?? これと同じやつ」

真子は、ドアの影に気が付き、それが真北だということが解っていたのか、真北が入ってきた途端、そう叫び、津田から受け取った文献を真北に見せた。しかし、真北の反応が無い。その表情は、いつになく真剣…。

「……真北さん…何か、遭った?」

真子は、重々しい雰囲気の真北が気になり、尋ねる。
真北は、何か言いたげな表情をしていた。しかし、何をどのように真子に伝えればいいのか解らず、真北は言葉を発することができない。
ありのまま伝える方がいいのか…それとも…。

「…真北さん、疲れたん?」

真北は、自分を気遣う真子を見つめた。その眼差しは、とても哀しげだった。

「組長…落ち着いて聞いて…下さい…」

真北が、ゆっくりと口を開いた。

「ぺんこうが、寝屋里高校で襲われて、拉致されました…」
「えっ?!」

真子は驚いた。真子が言葉を発する余地を与えず、真北の話は、続いた。

「そして、まさちんまでも……。私が、呼び出さなければ、
 まさちんまで、拉致されることは、なかったんですが…」
「そ、そんな…!!」

真子が体を起こす。それに気付き、真北は、

「組長、起きてはいけません!!」

真子を押さえつけた。

「しかし、ぺんこうも、まさちんも……。痛っ……」
「だから、起きては……」
「だけど……だけど……」

真子は、言葉に詰まる。そして、真北をぐっと睨んだ。

「言ってるでしょ? 私のせいで、命が消えるのは、
 もう、たくさんだって。これ以上、私のせいで……」
「充分わかってます!!!」

真北は、いつになく、真子を怒鳴りつける。そんな真北を見るのは初めてだった真子は、驚いていた。
真北の焦りを真子は、肌で感じ取っていた。

「…ごめんなさい、真北さん。だけど…どうすれば
 ……どうすれば、いいの?」

真子は、泣き出してしまう。

「…私の方こそ、申し訳ございません。怒鳴ってしまいまして…。
 …あいつらの狙いは、組長なんですよ。だから……」

真北は、真子をしっかりと見つめていた。



真子の病室に近づく男が居た。その男は、廊下の先から聞こえてくる足音に振り返り、身を隠すように窓に寄った。走ってきたのは、原だった。原は、真子の病室のドアを直ぐに開けた。

「真北さん、やはり、こちらでしたか。その…申し訳ありません。
 二件の事で、本部にお戻り下さい」
「わかった。今行くよ。…組長…、申し訳ありません。橋に頼んでありますから」
「うん…」
「それと、今後の事は…」
「わかってる。…じっくり考えるから」

真子は、涙を拭きながら言った。

「無理、しないでください。私にお任せください。
 わかりましたか? 決して、体を動かさないように」

真北の言葉に、真子は静かに頷く。真北は、真子が無茶な行動に出てしまいそうな事が気がかりだった。それでも、自分の立場のこともある。
不安な気持ちで真子の病室を出ていった。

「その後の情報は?」
「進展なしですが、捜索に出るように指示しておきました」
「…ありがとう。兎に角、これからが、大変だからな…」
「はい」

真北と原は、そう話しながら、去っていった。その二人の後ろ姿を見つめる男。口元が不気味につり上がった。
その男は、ゆっくりと真子の病室の前に立ち、ドアノブに手を掛けた。


ドアが静かに開く。
異様な気配を感じた真子は、上体を起こして、ドアを見つめる。

「…田水…」

真子の病室に入ってきたのは、川上組の田水だった。
得意としている不気味な笑みを浮かべ、真子に話しかけた。

「…傷を治す、光…。見せてもらいたいなぁ」

そんな田水の言葉を予感していたのか、真子は驚く素振りを全く見せず、ただ、睨んでいるだけだった。



ナースステーションで書類整理をしていた看護婦が、ふと目をやった。なんと、真子が、見知らぬ男に付き添われて歩いている。

「真子ちゃん、何処行くの?」

その声に、真子は、微笑むだけで、去っていった。

「……橋先生!!!」

看護婦は、橋の事務室に向けて走り出した。

「先生、真子ちゃんの様子がおかしいです!!
 歩いて、外へ向かってしまいました!!」
「…歩けないくらい弱ってるだろが! ったく!」

橋は、看護婦と事務所を飛びだした。


駐車場に通じる玄関まで走ってきた橋は、真子が、ワゴン車に乗り込むところを目撃した。

「真子ちゃん!!! 何処行くねん!!」

橋は、玄関の自動ドアが開くのを待ちきれないように、手で押しながら、急いで外へ飛び出し、ワゴン車に向かって走っていった。しかし、無情にも、ワゴン車は急発進して、駐車場を出ていった。
ワゴン車の窓越しに、真子の哀しげな目を見た橋。

「真子ちゃん……真北に知らせないと!!!」

橋の口から、関西弁が消えていた……。



本部に戻っていた真北は、上層部に、この事件は全て任すようにと掛け合っていた。
上層部は、真北の気迫に負けたのか、承知してしまう。

「決して無茶は、するなよ」
「わかっております。ありがとうございます」

真北は、深々と頭を下げ、部屋を出ていった。そして、デスクに戻った真北は、橋からの連絡を受けた。

「…何だとぉ〜」

真北は、電話をたたきつけた。
その行為は、あまりにも真北らしくなかったのか、周りに居た者が、凍り付いたように動かず、真北を見つめていた。
真北の表情は、怒りそのものだったのだ。

「…真北さん?」

唯一、原が声を掛けた。その声に振り返る真北は、原を睨みつける。

「今度は、何が起こったのですか?」

その眼差しに恐れることなく、原は尋ねた。

「…組長が、橋総合病院から、拉致された…」
「えっ? ど、どうしてですか!」
「わからん…。兎に角、行ってくるよ」
「はい。ご連絡お待ちしております。すぐに動けるように待機しておきます」
「あぁ、頼んだよ」

そう言って、真北は、事務所を出て行った。

「は、原さん…真北さんに何か遭ったんですか?」
「忙しくなるで。覚悟しておけよぉ」
「は、はぁ」

他の刑事たちは、真北と原の言動を理解できないという顔をしていた。
ここの刑事で真北の正体を知っているのは、原だけだったのだ。

のんびりしてられへんっ!

原はいつも以上の素早さで、刑事達に指示を出していた。



真北は、車を飛ばしていた。それは、かなりのスピード。サイレンを鳴らせば、他の車は、道をあけるというのに、それを忘れる程、真北は落ち着きを失っていた。
橋総合病院が見えてきた。
駐車場に真北の車が入ってきた。いつもは、きっちりとまっすぐに停める真北だが、この時は、違っていた。
車から降りるやいなや血相を変えて病院内へ入っていく。

顔なじみの看護婦が真北に挨拶をしても、真北は、何も言わずに、ある場所に向かって歩いているだけだった。
ドアを勢い良く開けて入ってきた真北は、いきなり怒鳴った。

「どういうことなんだ!!!」

その部屋は、橋の事務所だった。橋は、落ち着いた態度で真北に応える。

「電話で言った通り、真子ちゃんが出ていった」
「どうして、追いかけなかったんだよ!!!」

真北は、橋の胸ぐらを掴み上げた。いつにない真北の慌てぶり。

…前にも遭ったな、こんな状態…。

落ち着いていると思われた橋だが、真北と同じように落ち着きを失っている様子。
胸ぐらを掴まれたままの橋は、真北をにらみつけ、

「うるせぇ! 俺だって追いかけたよ。だけどな、すでに車が
 発車した後だった。追いかけられなかったんだよ!
 ちゃんとワゴン車を覚えているし、防犯カメラにも写っていたから、
 そう怒鳴るな! お前、真子ちゃんがこうなるといつも冷静さを
 無くしているぞ。…まさちんを助けに行ったときもそうだったな。
 …お前らしくないぞ」
「…俺らしさって、なんだよ」

真北は静かに言った。先程の勢いが急に失せていた。

「……俺は、いつだって、こうだよ。…組長の事を考えると、
 いつも、……こうだよ…」

真北は、橋から手を離し、側にあった椅子にどかっと座り、そして、頭を抱えて俯いてしまった。
それは、真子が危険にさらされたことに対して、自分がまた、無力になっていることに腹立たしくて仕方がないという雰囲気を醸し出していた。

「……組長……」

真北は、そう呟くと同時に、ばったりと前のめりに倒れてしまった。

「真北!!」

橋が駆けつけた。真北は、神経が張りつめていたせいか、気を失っていた。




とある建物にある、ひとつの部屋のドアが閉まった。
その部屋には、二人の男が、壁に鎖でつながれ、そして、その二人の足下には、女性が一人、後ろ手にくくられて、転がっていた。

「青い光、…本当にあったんだな…っふっふっふっふ…」

その部屋の前から、男たちが、去っていく。その中に、川上組の川上が含まれていた。




橋総合病院。
橋は、手術を終え、事務所に戻ってきた。そして、書類整理を始めた。その中に、英文の文献も入っている。それは、真子の能力に関するものだった。その文献のページをめくる橋。
その中の1ページに、外人が載っていた。



真北が、真子愛用の病室で目を覚ました。
そこが、病室だと気がついた真北は、病室を飛び出し、橋の事務所へ向かっていく。
橋の事務室のドアがゆっくり開いた。

「お目覚めか」

橋は、仕事をしながら真北に言った。

「……」

真北は何も応えない。

「くまはちの時からずっと、気を張りつめていたろ。
 真子ちゃんのことで、一気にきたみたいだな。もっと休めよ」
「休めない…。組長が無事にいることがわかるまで
 俺は、休めないよ。……く…み……。…真子ちゃんに……」

真北は、真子の呼び方を変えた。

「真子ちゃんに、もしものことがあったら、俺…どうすれば…」

真北の声は震えていた。
泣いている。
橋は、そんな真北を見慣れているかのような感じで見ていた。そして、ゆっくりと真北に近づき、力強く抱きしめた。

「心配するなぁ。真子ちゃんは大丈夫だよ」

真北は、橋の柔らかく温かい言葉が胸に突き刺さったのか、更に涙を流してしまった。

「……お前は、ほんと、昔っから変わってないな。
 こんな時は、いつも、そうなるんだからなぁ」
「…うるせぇっ!」

真北は、呟くように言った。
真北は落ち着いたのか、橋は、真北から離れ、ソファに腰を掛けた。

「…あの体で、出ていくとは…」

真北がつぶやき、ため息をつく。

「俺もやで。…それほど、責任を感じてしまったんやろな。
 真子ちゃんのこういう性格…誰に似たんだか…」

橋は、真北を見つめていた。

「…俺のせいだと言いたいのか?」
「真子ちゃんを育てたのは、誰や?」
「…ま、まぁ、俺…だけどな…。だけど、そこまで…」
「…少しは気が紛れたか?」
「あぁ」
「兎に角、おまえの恐れていることが起こらなければ
 いいんだがな…。真子ちゃんの能力を利用すること…」
「…奴らの行方、追ってやるよ…。…許さねぇ」

真北の怒りが戻ってきた様子。

「それが、お前らしさだよ」

橋は、微笑んでいた。真北は、その微笑みに応えるようにサムズアップをして、橋の事務室を出ていった。

「…それでも、心配やなぁ。…あいつが、無茶せんかったら
 ええねんけどなぁ」

橋の眼差しは、優しく、そして、どことなく切なかった。
友を思う気持ちは、誰よりも強い男だった。




AYビル・会議室。
真子をはじめ、まさちんも居ないAYビルの会議室では、静かに話し合いが行われていた。

「困ったな…」

須藤が呟くように言った。

「まさか、そこまで手が及ぶとはな…」

川原が頭を抱えて呟く。
そこへ、藤が遅れてやってきた。その藤の姿を見て、関西幹部たちは、衝撃を受けた。

「どうしたんだよ、それは!」
「奴ら、何を企んでいるのか、わからん…。突然、殴り込みに来やがった」

藤の顔は、右目を隠すように包帯が巻かれていた。
普通に歩いて席に着いたが…。

「いっ…」

体の方もかなりひどいようだった。

「…藤、無茶すんなよ」
「こんな時に、じっとしてられへんわい。…お前ら、気をつけろよ。
 川上組には、組長とまさちん、そして、ぺんこうまでが、拉致されたんやろ?
 それを使って……奴ら、脅してきやがる…」
「……」

藤の言葉に幹部たちは、何も言うことができなかった。

「それを言われたら…手を出せねぇよ…」

幹部たちは、うなだれてしまった。

「…ここは、真北さんの力を借りるか…」

須藤が、仕方ないというような顔で、そう言って席を立った。



阿山組本部。
山中が、部屋の中央に腰を下ろし、一点を見つめていた。
その部屋は、慶造の部屋。慶造がいつも座っていた場所を見つめていた。

「四代目…こういう場合は、どうすれば…。組長が、拉致されてしまった…。
 手が出せない。それと同時に、九州と東北からも狙われている…。
 こんな事態は、…阿山組始まって以来ですよ。全国を敵に回しているような
 ものですよね…。…真子お嬢様についていて、よかったのですか?
 …あなたは、一体、何を真子お嬢様に望んでおられるのですか?
 四代目…教えてください!」

山中は、膝の上で拳を握りしめて、唇をかみしめていた。

「山中さん! 事態が一変しました!!!!」
「なんだと?!」

山中は、立ち上がり、部屋を出ていった。その表情は、厳しかった。



「てめぇらぁ…」
「…抵抗すれば、お前らの大切な奴の命はないぞ」
「…くそっ…」

それは、川原組組事務所での話。
川上組の組員たちが、殴り込みにやって来た時のこと。
藤の言った通り、川上組は、真子たちの命を口にして、脅していた。それを言われては、手を出すことができない川原だった。
川上組組員は、にやりと笑って、そして、事務所内で暴れ始めた。


「…次だ…」

そう言って、川上組は去っていく。

「川原親分!!」

川原組組員が、床に横たわる川原に近づいて、騒いでいた。川原は、右目を押さえていた。押さえてる手から、血が滴り落ちていた。



橋総合病院。

「大丈夫や。つぶれてへん」
「すんません…」

川原が、治療を受けていた。

「しかし、藤も同じようにやられていたなぁ。…大丈夫なんか?」
「…奴ら、脅迫してきやがるんですわ」
「真子ちゃんを盾に…か…」
「橋先生からも、お願いできませんか? その…」
「真北は、真北でやってるぞ。お願いせんでも大丈夫やろ。
 それよりも、やられっぱなしっつーのはお前らやったら、
 気ぃすまんやろ。暴発だけはすんなよ」
「わかってますよ。…治るのは何時でっか?」
「三週間はかかるやろ。つぶれてへんけど傷は入ってるんやで。
 視力も危ないかもな…」
「そうなんでっか? …組長にばれたら…」
「真子ちゃんに顔を合わせなければええんちゃうか?」
「そやけど…」
「…真北の手を借りるつもりやったら、これ以上、事を荒立てるなよ。
 それこそ、真北の足を引っ張る事になるからな…」
「…真北さんは、今?」
「真子ちゃんの行方を追ってるよ。お前らの事も
 気にしとった。だから、こうして俺も協力を…な」
「橋先生…」

長年の付き合い。
橋と関西極道たちは、阿山組傘下になる前から、色々と付き合った仲。なので、みなまで言わなくとも、お互いの思いは解る。
しかし、今は、橋は親友の立場も考えている。

間違っても、真北を暴走させてはならない。

………そっちが心配なだけだが……。

「真子ちゃんは、無事やから。安心しろ」
「…はい…」

川原は、橋の優しさが伝わってきたのか、涙ぐんでいた。

「泣くなよ。傷がひどなるで」
「…わかってますよ…」

川原は、鼻をすする。橋は、川原の肩を軽くたたいて、励ましていた。



その頃、川上組の組員は、ミナミの街を歩き回っていた。そして、角を曲がり、人気のない所を歩き出した。
その道の先にあるのは……、
『谷川組組事務所』



橋総合病院。
橋は、治療の後かたづけをしていた。その側には、谷川が項垂れて座っていた。目はやられなかったが、腹部に攻撃を受けていた。

「ったくぅ〜」
「しゃぁないですよ」
「…手も出せないんか?」
「出したら、何をされるか…」
「だからって、やられっぱなしは、ないやろ」
「橋先生やったら、どうするんでっか?」
「反撃に出るかな…」
「…組長の命が危険にさらされても…ですか?」
「…あぁ」
「…なにぃ?」

谷川の怒りが沸き立ってくる。

「私の為に、大切な人たちが傷つくなんて…、耐えられない…。
 真子ちゃんは、常にそう言ってるからな。真子ちゃんが、
 心配してしまうような事は絶対にやりたくないしな…」
「…橋…先生……」

橋の言葉に、谷川は怒りを殺がれた。

「…間違ってるんだよ、お前らは…。いつ気づくか
 そう思ってたんだけどな…」

谷川は、何かを思いだしたような表情になる。そして、徐々に顔つきが変わっていった。

「…でも、真北の足は引っ張るなよ…」
「わかってますよ。あの人を怒らせたら怖いですから」

橋は、苦笑いをしていた。そこへ、患者がやって来た。

「…あのなぁ…」

呆れたように声を挙げる橋。その患者は、えいぞうだった。額から血を流していた。

「谷川さんもですか」
「えいぞう、まさかと思うが、お前もやられっぱなしか?」

橋が、えいぞうに肩を貸しながらベッドに寝かせた。

「先生、俺がそんなことすると思いますか?」
「…思わんがな…」
「奴ら、客を狙いやがったんだよ。それを阻止したときに、こうなったんや。
 …奴らは、這うように逃げたけどな…。組長の命のことで脅しをかけたら
 大人しくなるとでも思ったんかなぁ。そんなことをしたら…絶対に…、
 組長に怒られるからな…。…って、もっと優しくしてや、先生ぃ〜」

橋は、えいぞうの傷口に、消毒液をぶっかけた。

「お前はこれくらいやないと、あかんやろ。…それに、
 精密検査せな、中の方が心配や。かなり強く殴られたやろ」
「知らんわい」
「そぉかぁ」

そう言って橋は、内線をかけていた。

「頭部CTの準備しといてくれ」

橋は、えいぞうをストレッチャーに移した。

「谷川、悪いな、留守番頼む」
「はぁ?」
「…この調子やったら、まだ、来るやろ。俺の仕事が
 増えてるんや。それくらいは、ええやろ」
「…わかりましたよ…。…治療はしませんよ」
「できるんやったら、やったれや。ほななぁ」

橋は、ストレッチャーを押して事務所を出ていった。ストレッチャーに寝かされているえいぞうは、橋を見上げながら言った。

「先生、あいつに任せるなんて、どうなっても知りませんよ」
「大丈夫やろ」
「あいつ…治療下手ですよ」
「わかってるって」
「…くまはちは、どうなんですか?」
「…真子ちゃんの事をきいてな…傷を悪化させたよ」
「あほやなぁ、ほんまに」
「体が勝手に動いたみたいやな。今は絶対安静だよ。…お前もやで、えいぞう」
「それは、結果次第でしょ?」
「さぁな」

そして、放射線科に到着した。

「あとは、よろしくな。病室に移動させて、抑制しとけよ。
 こいつも、動きまくるやろうからな」
「わかりました。院長も大変ですね」
「院長言うな。ほな!」
「はい。では、小島さん、動かないでくださいね」

えいぞうに優しく声をかける放射線科の看護婦に、えいぞうは、動くこともできずにいた。

「…次は、誰やぁ〜?」

橋は、困ったような、うれしいような顔をして、事務室へ向かって行く。



真子たちが監禁されている建物。
真子は、ソファの上で目を覚ました。

「次は、こいつだよ…」

真子は、むくっと起きあがり、座り直す。

「わかったよ…」

真子の右手が青く光り出した。そして、目の前にいる傷だらけの川上組組員に向けて、光を放つ。
組員の傷は、すぅっと消えた。

「…二人は、無事なんだろうな」
「あんたが、拒めば、どうなるかは、わからんぞ。くっくっく」

真子は、そう言った相手を睨みつけていた。その相手は、川上組の川上だった。
川上は、かなり余裕をかまして、座っていた。

「まだ……続けるのか?」
「まぁね。目的は、まだまだ、達成できていないからな」

真子は、川上を睨みながら、気を失ってしまった。

「しかし、この能力があるにも関わらず、阿山組は
 使っていなかったんだな…。何を考えてるんだろ。
 これなら、容易く全国制覇できるのにな…」

川上は、立ち上がり、そして、部屋を出ていった。
とある部屋の前に立つ。ドアについている小窓から中をのぞき込んだ。

「なに?!」

壁にくくりつけられているはずの二人の男が見当たらない。ドアを開けて、中の様子を伺おうとした時だった。

「うぐっ…」

腹部に強烈な何かがぶち当たった。しかし、平気な顔をして、それを確かめていた。

「ったく、お前ら…」

川上が睨む相手…それは、まさちんとぺんこうだった。素早く川上の腕を取り、後ろ手にし、壁に押しつけるまさちん。

「組長はどこだ?」
「さぁなぁ。まだ、利用させてもらうよ」
「そうはさせない…」

そう言って、鎖を手に近づいて来たのは、ぺんこうだった。ぺんこうは、異様な雰囲気を醸し出していた。

「…俺に何か遭ったら、お前らの大切な親分の
 命は、ないぞ…。それでも、いいのかな…?」

川上の言葉に、手をゆるめるまさちん。その隙を川上は逃さなかった。すぐに手を返し、まさちんを壁に押しつけた。そして、腹部を蹴り上げた。

「うごっ……」

飲まず食わずで、かなり体力が弱っているまさちんには、かなり強烈な蹴りに感じられた。

「まさちん!」

まさちんに駆け寄るぺんこうには、川上の回し蹴りが炸裂。ぺんこうは、そのまま後ろへ倒れてしまった。

「…今、おかれている立場を考えろよ、な…」

川上は、足下にいるまさちんを蹴り上げた。そして、ぺんこうが持っていた鎖を手に取り、それで、まさちんを殴りだした。必死で急所をかばうまさちん。しかし、容赦ない攻撃に、気を失ってしまった。
的は、まさちんから、ぺんこうに変わった。まさちんと同じように鎖で殴りつける川上。ぺんこうは、その鎖の端をタイミング良く握りしめた。そして、睨んでいた。

「…流石だな…。何度も言うように、どうなっても知らんぞぉ」
「組長は、そんなことを望まないさ…」
「それでも、阿山真子の命は、俺の手の中で転がせるんだぞ?」

ぺんこうは、ゆっくりと鎖を放した。そのぺんこうに蹴りを入れる川上。
ぺんこうは、勢いで壁にぶつかり、気を失ってしまった。

「おい! こいつら、動けないように、しっかりとくくっておけ! あほんだら!」
「へぃ!」

川上組の組員が、部屋へ駆けつけてきた。そして、床に横たわっているまさちんとぺんこうを壁にくくり始めた。その組員の中には、先ほど、真子の能力で傷を治した者もいた。

「まるで、暗示をかけるようだな。阿山真子の命が
 どうなっても知らないぞ…という言葉にこんなにも
 弱くなるとは、驚きだよ。てめぇら、抜かりないな?」
「はい」
「この調子で、大阪を手に入れろ」

そう言って、川上たちは、部屋を出ていった。


次の日も、川上組は、阿山組系組事務所を襲っていた。

橋総合病院には、ひっきりなしに、阿山組系組員が運び込まれ、橋の仕事は、更に増えた。一方で、阿山組の反撃に遭った川上組組員たちは、怪我を負って引き上げるものの、次に来るときは、その怪我は、どこにも見あたらなかった。
それを不思議に感じ始めた阿山組組員たち。その事は、真北の耳にも届いていた…。



この日、橋は、手術の予定で手がいっぱいだった。川上組に襲われた阿山組組員も、やられっぱなしではなかった。反撃に出る阿山組組員。しかし、怪我人は出る。そして、橋総合病院へ駆けつける阿山組組員。

「…しゃぁないやろぉ。橋先生、今日は手術で
 時間があかん言うてたんやからぁ」

それは、谷川だった。なぜか、この日の組員の治療を任されてしまったのだった。

「いややぁ。お前、腕悪すぎやんかぁ」

嘆いているのは、藤だった。

「ったく、お前なぁ、怪我増やすなよなぁ」
「そんなん言われてもなぁ。あいつら、何度も来るんやからぁ〜。
 こっちも反撃に出たけどな。…ほんまに、あいつら、怪我がすぐに治る…」
「…やはり、組長の…能力…利用されてるのかな…」
「かもしれないな…」
「まさちんが、ちらっと口走ったことあったけど、
 組長、体力が続かないんとちゃうか…」
「それやったら、まさちんとぺんこうでは、組長の奪還は
 むずかしいんとちゃうか…。二人も怪我してるはずだろ?」
「あぁ。はい、おしまい」

谷川は、藤の治療を終えた。藤は、治療のあとをじっくりと眺めて驚いた表情をしていた。

「…うまいな…」
「当たり前や。橋先生から直々に教わったんや」
「そぉかぁ。ほな、帰るわ」
「あとで請求書まわるからな」
「お前がやってるんやったら、ただちゃうんか?」
「俺からまわるんや…」
「…あほか」
「おい、藤ぃ、無茶するなよ」
「わかっとるわい。ほななぁ」

藤は、事務所を出ていった。残された谷川は、後かたづけをして、カルテをつけた。

「…って、なんで、俺がやってるねん…」

谷川はやっと、何かがおかしいことに気がついた。



水木組組事務所前。
川上組が立ちはだかる。そして、ドアを開けた。

「!!!!!!!!」

なんと、水木組は、川上組の殴り込みを予測していたのか、待ちかまえていたのだった。
驚く川上組組員たち。
川上組が仕掛ける前に、水木組は行動に出た。いきなりの攻撃に為すすべもない川上組組員。やられる一方だった。
阿山組系が本気になれば、どうってことない相手の川上組。川上組は、武闘派ではなく、頭脳派。真子が以前、手を助けた桜小路財閥を利用して、裏での行動から予測できるかもしれない。
なのに、なぜ、このように、無謀な行動に出ているのか…。


水木組組事務所の前には、川上組組員の無惨な姿がたくさん転がっていた。

「ええかげんにせぇよ…ったく。片づけとけ」

指示を出す水木。水木の命令に、水木組組員は、道に転がる男たちをトラックの荷台に乗せ、去っていった。

「…あっ、しまった…。口が利けるくらいの意識を
 残しとけばよかったか…。やりすぎた…」

確かに。
真子が監禁されている場所を聞き出そうと思えばできたものを…。
今まで、我慢していたことが、一気に爆発してしまったのか、歯止めが利かない…。
頭をかきながら事務所へ戻っていく水木だった。


その頃、真北は、川上組が密かに構えている事務所や隠れ家を探しまくっていた。あらゆるところから情報も入手していた。

「くそぉ。どこも外れか…」

かなり焦りをみせる真北。

落ち着け…落ち着け…。

自分に言い聞かせていた。
目を瞑ると真子の笑顔が、瞼の裏に浮かんでくる。

真子ちゃん……。直ぐに向かうから…。

真北の思いは、真子に届いているのか?
目を開けた真北は、先程以上に、鋭い眼差しをしていた。



(2006.3.2 第三部 第二十一話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


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