任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第二十三話 無茶する男の、予感的中!?

橋総合病院にある病室。
そこで眠っていた二人の男が、スゥッと目を開けた。

「…起きたのか?」
「…目覚めたよ」
「動けるか?」
「無理だな…」
「あのときは、動けたのにな…」
「あぁ。火事場のなんたらってやつだろな」
「そうだろうなぁ」
「首、動くか?」
「それも無理や」
「どうしたら、ええんや、まさちん」
「知らんわい、ぺんこう」

同じ病室に入れられたまさちんとぺんこうは、目覚め一発、言い争っているようだった…が、全く勢いが無かった。
体力は、回復していない。
動くことができない。
それぞれが、そんな自分に苛立っている様子。険悪な雰囲気が漂う病室に、真北が入ってきた。

「少しは、ましになったか?」
「真北さん…。組長は?」

ぺんこうが静かに尋ねると、

「…ICUだよ。意識は…まだ…」

真北は静かに応える。

「申し訳…ありませんでした…。俺としたことが……」

真北に言うまさちんの声は、震えていた。
真北は、二人の間に座り、安心したような表情でそれぞれを見つめる。

「安心したよ。お前らが無事で」
「ご心配をおかけしました…」

まさちんとぺんこうは、声をそろえて言った。

「まさちん、悪かったな。お前を呼び出さなかったら
 こんなことにはならなかったんだよ」
「そんなことは、ありませんよ…どっちにしろ、奴らは
 俺を狙っていたようですから。ここから出ていく俺を
 狙っていたらしいんですよ」
「それにしても、…うかつだったよ…。…ぺんこう、
 学校にまで手が及ぶとは想像できなかったよ…」
「私もですよ。…生徒たち、心配してるでしょうね」

ぺんこうは、しんみりと言った。

「無事は伝えておいたから」
「ありがとうございます」
「……いつまでも、他人行儀だな、お前は…」
「知りませんよ…」
「…そうか…」

沈黙が続く。

「…そのな…監禁されてた時なんだけどな、お前らに…
 組長は、…青い光を使ったのか?」

真北の質問は唐突だった。

「…俺達の傷を能力で治したということです。
 そして、あいつらに利用されて…」

ぺんこうは、監禁部屋での真子の様子を思い出しながら応える。

「やはりな。川上組の連中、ミナミで暴れ回っていたんだよ。
 傷だらけになって帰っていくのに、次の日は、傷が全く無くなっていた
 という話しだ。恐らく、組長の能力で治していたんだろうな」
「…真北さん…」

真北の、苛立ちを隠しているような口調が気になるぺんこうだが、それ以上、何も言えなかった。
何かを発すると、真北が無茶な行動に出そうな気がした。…しかし、それは、既に……?

「これからが大変だよ。あいつら、まだミナミで暴れているらしいからな」
「くそっ!」

まさちんが、怒りを露わにした。

「…まさちん、お前は、回復するまで、起きるなよ。
 ぺんこう、しっかり見張っておいてくれよ」
「…当分、起きあがれませんから…。安心して下さい」
「あぁ」
「組長は、いつ頃…」

まさちんが、病室を出ていこうとしている真北を引き留めるように言った。

「…わからないよ…」

そう応えて、真北は静かに病室を出ていく。病室内は、重々しい雰囲気に包まれていた。



橋の事務所。
橋と道は、深刻な顔で向き合っていた。

「それが、本当なら、…恐らく…」

道が、持ってきた真子の能力に関する書類をめくり始めた。そして、ある場所で止まった。

『青い光の後には、必ず赤い光が現れる』

「真北の言うことだと、それは、実証済みだ。青い光を使った
 真子ちゃんは、必ず、赤い光を使って、暴力行為に及んでいる」

橋が、眉間にしわを寄せながら言った。

「だけど、体力が急に劣って気を失ったり、立てなくなったりした時もあるだろ?
 今回の場合は、青い光の使いすぎで体力の回復が遅れているだけだろう?
 …まさか、赤い光が現れる前兆なのか?」

道が、言った。

「…わからないよ…」

いつにない橋の重々しい関西弁のない言い方に、道は、何か途轍もないことが起こるのではないか?という不安感にかられていた。

それは、的中するとは思わず、道は、東京へ帰っていった。




「組長!!!」

まさちんとぺんこうは、同時に飛び起きた。お互い同じ行動をしていることに驚いている二人。

「…夢?」

二人は、再び同時に呟いた。

「く、組長が…赤い渦の中へ…」

まさちんが、一点を見つめながら静かに話す。

「…渦の中から、組長が、助けを…」

二人は、更に驚いていた。

「…夢、なのか?」

まさちんとぺんこうは、同じ夢を見ていたのだった。

笑顔の真子が、赤い渦の中へと吸い込まれていくのを目の当たりにし、手を伸ばしても、助けることができない。そして、…初めて真子が口にする言葉…。

『助けて…』

「組長の身に…何かが起こっているのでは…?」

二人は呟くと同時に、体は自然と真子の居るICUへと向いていた。
真子は、ガラスの向こうで眠っていた。
二人は、ガラスにへばりつくように中をのぞき込む。

「…お前らぁ、起きたらあかんと言っとるやろがぁ」

二人の姿に気付いた橋が、呆れたような表情で、二人に言った。

「橋先生…。組長は…」
「真子ちゃんは、あの通り、意識はまだ回復してへんけど、
 大丈夫やからと言っとろうがぁ、ったくぅ」
「…何か、変化は?」
「…特にないぞ。兎に角、病室に戻れぇ」
「…はい……」

橋の睨みに負けたのか、まさちんとぺんこうは、渋々病室へ戻っていく。

「…不思議な現象のことは、言わない方がええな」

橋は、真子を見つめていた。

まさちんとぺんこうは、病室に戻り、ベッドに横たわる。そして、二人は、同じように天井を見つめていた。
沈黙が続く………。



「…よぉ。その後調子はどうやぁ?」

真北が病室へ入ってきた。

「真北さん、ミナミの状況は?」

まさちんが慌てたような口調で真北に尋ねた。

「かなり恐ろしい状態になってるぞ」
「それは、本当ですか?」
「あぁ。ミナミで暴れ回っていた川上組の組員のほとんどが、
 瀕死の重傷を負っている。それらには、赤いコートの女が
 絡んでいるようなんだよ。負傷の組員に尋ねても、誰一人として
 このことには触れたがらないんだ。よほど怖かったんだろうな」

真北の話は続く。

「…残りは、三人だ。森、田水、そして、川上…。今、この三人を
 マークしているところだよ。赤いコートの女…。いくらなんでも、
 暴れすぎだ。行方を捜し、情報を入れては追いかけてるが
 全く、追いつかない…お手上げ状態だよ…」

疲れ切っているのが解る。
それには、やはり、

「真北さん、少し休まれた方がよろしいかと」

ぺんこうが、真北に忠告する。
今にも倒れそうな雰囲気の真北。しかし、何かが真北を支えているのか、ぺんこうに笑顔を送っただけで、病室を出ていった。

「…無理しずぎですよ…」

ぺんこうは呟いた。その横でまさちんは、深刻な表情をしていた。

「赤いコートの女…?」



ICU。
橋は、真子の心電図の記録をチェックしていた。ふと、疑問に思う事を発見する。

「あれ? これって……」

橋は、過去の記録と比べ始める。よく見ると明らかに同じ部分があった。

「こことここって、同じ?」



そして、その夜…。
静かなICU。
真子は、未だ意識が回復していなかった。容態も変わらず…と思われた。
突然、真子の体がほのかに赤い光に包まれ始めた。その直後、真子の容態を逐一診ているモニターに異変が起こった。
モニターが突然、ビデオの巻き戻しのような状態になり、ある場所で止まった。そして、そこから、再生されているような感じで再び動き出したのだ。
すると…意識が回復していないはずの真子が目を見開いた。
…その目は赤く光っている……。



夜のミナミ。
水木と谷川が、街の様子を見回っていた。すると、そこで真北の姿を見つけた。

「…真北さん」
「変わりないか?」
「えぇ。…って、真北さん、少しお休みになられた方が
 よろしいんじゃありませんか?」
「…大丈夫だよ…。じゃぁな」

真北は、そのまま歩き出した。しかし…!

「真北さん!!」

ふらつく真北に気付いた水木と谷川は、

「私の店で、少しお休みください」

ただ、微笑むだけの真北に手を差し伸べた。
いつもなら、そんな手を払いのける真北だが、この時は違っていた。二人に支えられ、近くにある水木の店へと入っていく。

水木の店の奥にある椅子に真北を座らせる。その途端、真北は横たわり、眠り始めた。そんな真北に毛布を掛ける水木。

「ここ数日、一睡もしてへんみたいやな」

水木が真北の寝顔を見つめて言った。

「眠れんやろ、こんな状況やったらな…」

谷川が、言った。

「そうやな…。川上組との争い、そして、組長の容態。
 まさちんとぺんこうの容態…。ミナミに出没する
 謎の女…。いきなりややこいのが重なっとるし…。
 …ミナミのことは、わしらに任せればええのにな…」

水木は、ため息を付いた。

「一体、真北さんは、何を考えているんだよ…」

呆れたように言う谷川に、

「…この人の頭の中には、組長のことしかないんだよ…」

水木が、何かを思い出すような言い方をした。

「…それは、言えてるな…」

谷川は何かに納得したように言った。
その時、水木の店の外から、真北を探す声が聞こえていた。原たちが、突然姿を消した真北を探し回っているらしい。

「…どうする? 探してるんとちゃうか?」
「そうやろな…。もうしばらく寝かせておこうや」
「そうやな」

水木と谷川は、寝入る真北を優しく見つめていた。




橋総合病院で、ここ数日続く、不思議な現象。この夜も、起こっていた。

「先生、真子ちゃんが居ません!!」

看護婦が、前と同じ時間に橋をたたき起こした。ICUに向かいながら橋は、看護婦に尋ねる。

「本当に、ちゃんと確かめたのか? 前もこんなこと
 言われて駆けつけたんだけど、…こんな風に、
 真子ちゃんは眠って居るんだ」

橋が言ったように、真子は、静かにベッドに横たわっていた。

「あ、あれ??」

看護婦は、驚いて、目をこする。

「そしてな……」

橋は、布団をめくって、真子の左手を確認した。

「このように、血で染まっているんだ…」

真子の左手は、包帯の上から真っ赤な血で染まっていた。それを見た看護婦は、驚いたように声を挙げる。

「おかしいです。おかしいです…。私、ちゃんと包帯を交換して……。
 傷口は、ちゃんと塞がってました。なのに……どうして??」

看護婦は、その場にしゃがみ込んでしまった。橋は、心電図のモニターを見た。そして、フロッピーを取り出し、ICUを出ていった。
この夜の真子の心電図をチェックしていた橋は、何かに気が付いた。

「ここと、ここが、全く同じじゃないか。約二時間。
 ん? なんだ。この乱れは……」

約二時間分の繰り返しが行われているような箇所の直前、激しい乱れがほんの一瞬だが、記録されていた。橋は、眉間にしわをよせて、真子のこの不思議な心電図を見つめているだけだった。


次の日。橋は、何気なくICU前にやって来た。そして、その前に居る人物を観て、少し苦笑い。

「おぉ、今日も来とったんか」

ICU前には、いつものように、真北が座っていた。まるで日課のように、やってくる真北。

「今日も変わらずってとこか」

必ず、真子のことを心配する。

「…実はな、お前に聞きたいことがあるんだよ」
「何?」
「…真子ちゃんなんだけどな、時々、異変が起こるみたいなんだよ。
 ここ数日、夜の巡回中に看護婦が真子ちゃんが消えたと言って、
 駆け込むんだよ。だけど、俺が駆けつけると、ちゃんとベッドに寝ている。
 そして、必ずといっていいくらい左手の包帯が赤く染まっている。
 心電図にも異常が見られるんだよ。瞬間的に乱れたあと、それより約二時間前の
 記録と全く同じものが記録されているんだよ。…それも決まった時間に」
「なんだよ、それ。……決まった時間? 何時だよ」

真北は、『決まった時間』という言葉に何かひっかかるものがあった。

「日付の変わる午前零時から二時間だ」

真北は、驚く。

「…ミナミの事件、知ってるな」
「あぁ。赤いコートの女が、川上組を襲っているという事件だよな」
「川上組の連中が襲われる時間帯があるんだよ。日付の変わる
 午前零時から二時の間なんだ…。森、そして、田水が襲われて、
 残りは、川上だたひとり。…毎日のように起こるこの事件…」

真北は突然、言葉を失ったように、口を噤んだ。

「……橋…。俺は、今、途轍もない事を考えてしまった…」

言いたくないような雰囲気で、真北が言う。

「…今夜、組長を見張っててくれないか…頼むよ…」

そう言いきった真北は、気を失ってしまう。もちろん、予測していたように、橋が真北をしっかり支えていた。

「お前、無理しすぎだよ。何が、お前をここまで
 動かしているんだよ」

ふと、思うことがあった。そして、ガラスの向こうに居る真子に目をやる。

そうだよな。…今のお前には……。

「……わかったよ。お前の考えが、違っていることを…祈るがな…」

橋は、ICUの真子を見つめていた。


夜も賑やかなミナミに、真北が歩いていた。時計は、夜の十一時五十分を指していた。

一方、橋総合病院では、橋が、真子の様子を隠れて伺っていた。

日付が変わった。
橋が見つめるその前で、真子がほのかに赤く光り始めた。そして、モニターに異変が現れる。

「何??」

驚いた橋は、ICUのドアを開けて、駆けつけたが…すでに真子の姿はどこにもなかった。橋は、布団をめくったまま、目の前の出来事が信じられないという表情で立ちつくす。

「嘘…だろ?」

そして、ゆっくりとした足取りで、ICUを出ていった。


「あぁ、真北か…。真子ちゃんの姿が…消えたよ…。たった今だよ…。
 …悪かった…俺としたことが…。…真北…無理すんなよ…」

橋は、真北への電話を切ったあと、拳をデスクに激しくたたきつける。

「……こんなこと、信じられない…。くそっ!!」



ミナミの街。
真北たちは、女と遊び回る川上を見張っていた。

「いいか、川上から目を離すなよ…。そろそろ例の女が
 …現れる可能性がある…」
「真北さん、あれ!」
「…赤いコート…の女…? …赤く光っているだけなのか?」

赤いコートの女が、川上の前から現れた。一緒にいた女達は、赤いコートの女を見て、恐れて、川上の側から素早く去っていく。
川上は、その場に立ちつくす。
その表情になぜか余裕があった。

「…狙いは俺だろ?」

赤いコートの女の口元が、不気味につり上がっていった。今にも川上に襲いかかろうとした女は、その川上の後ろに立っている真北の姿に気が付く。そして、きびすを返して、逃げていった。

「待て!」

そう叫んで、川上を追い越して、逃げる女を追いかける真北。真北の気配を感じていなかった川上は、驚いていたが、すぐに二人を追っていった。


女はものすごい速さで走っていた。真北も、同じ様な速さで追っていく。
心身共に疲れ切っているはずなのに、真北の何処に、こんな体力が残っているのか…。

「そこまでだ!」

赤いコートの女を路地に追いつめた真北が叫んだ。女は、立ち止まり、そして、ゆっくりと振り返る。

「…これ以上、川上組を襲わせるわけにはいかない。…もう、やめろ」

女は、何も言わなかった。目深にかぶった帽子で顔が隠れているが、口元だけで、無表情だと解る。
真北は、女にゆっくりと近づいていった。
その時、駆けつけた川上が、真北の後ろから女目掛けて、持っていた銃を向け、発砲した。
銃弾は、女の左頬をかすめたのか、左頬から血が滲み出てきた。
しかし、女は全く動じていない。

「くそっ!」

川上は、更に一発発砲した。

「!!!!」

銃弾は、女の左手で受け止められた。
女の口の端が、軽くつり上がる。

「信じられない……」

その場に居た誰もが、呟いた。
女の手のひらから受け止められた銃弾がぽとりと下に落ちた。誰もが、落ちる銃弾に目を奪われた時だった。

「ど、どこだ?!」

それは一瞬の出来事だった。落ちた銃弾に気を取られた真北達の目の前から、女の姿が消えていた。
真北は、時間を確認した。
一時四十五分。
懐から携帯電話を取りだした。

「…まさちん、組長は? …本当か? …左頬に…傷?」

そう言ったっきり、真北は一点を見つめたまま、座り込んでしまった。

「予感…的中…か……」

真北は、電話を切ってからも暫く、その場から動く事ができなかった。

「…川上!?」

川上の姿が見あたらない事に気がついたのは、かなり後だった。

「くそっ!」

真北は、慌ててどこかへ走っていった。

「これ以上、最悪の事態が起こらなければいいんだが…」

真北は、胸騒ぎがしていた。




橋総合病院に着いた真北は、その足で橋の事務所へ入っていく。そこには、信じられない出来事を目の当たりにして、落ち込む橋が座っていた。

「橋……詳しく聞かせてくれ…」

夜が明け、朝が来た。
朝日が辺りを照らし始めた頃、この橋総合病院では、歴史に残るくらいの恐ろしい出来事が起こってしまった…。


ICU内が真っ赤に染まった後、ガラスが爆風で粉々に飛び散った。
そこに現れたのは………。






橋総合病院・とある病室。
真北が目を覚ます。目の前にいる橋に驚いた。

「お前、何してる?」

真北は、自分がおかれている状況を把握できていのか、橋に尋ねていた。

「…記憶喪失か? …大丈夫か、真北?」

橋は、突然発した真北の言葉に驚きを隠せない様子だった。

「真子ちゃんが、赤い光に支配されて、お前らは、そんな真子ちゃんを
 阻止しようと、体に無理をしてまで、頑張っただろ? そして、
 まさちんの腕の中で、真子ちゃん、赤い光から解放されて…。
 その後、お前らは、安心したかのように、気を失ったんだぞ。
 そして、こうして、お前は病室に…。まさちんとぺんこうもだよ。
 もちろん、真子ちゃんもやけどな…。…記憶、ないか?」

真北は、徐々に何かを思い出す。

「…川上は?」

真子の無事が解った真北は、そう尋ねた。

「…即死や」

その言葉に、真北は、息を吐く。

「そうか……。って、こいつらと同じ病室かい」

病室には、他に二つのベッドがあり、そこには、まさちんとぺんこうが眠っていた。

「ここしかないんや」

橋が言った。

「………川上は、一体何が目的で?」

もう一つ、気になっていた事。
それは、川上の行動だった。
自分が入院していた時に見た、川上の姿。そのことも思い出し、真北は、橋に尋ねた。

「川上の母親がな、この病院にいるんだよ組同士の抗争で、
 重体になったとか…。なかなか治らないから、ここに転院してきたんだ。
 ここへ来てから少しずつ良くはなってきていたんだよ」
「じゃぁ、何回か見舞いに来ていたんだろうな。そして、俺達が
 話している光のことをどこかで耳にして…母を助けたい一心で、
 こんなことしでかしたのか…。気持ちはわかるが…もっと違った
 やり方があったのにな」

真北は、隣に眠るまさちんとぺんこうを見つめていた。そして、起きあがり、帰り支度を始める。

「おいおい、まだ、退院できへんぞ」
「…俺は、もう大丈夫だよ。それより、こいつらと…組長が心配だ…」
「…真子ちゃんは、まだ、眠っているよ。…もう、
 赤い光に支配されることはない様子だし」
「……光…無くなったのかなぁ」

真北は、呟くように言った。

「…さぁ、それは、わからへんな。ただ、再びこのようなことが
 起こらんようにお互いが気ぃつけんとあかんな」
「ふふっ。お前の関西弁、久しぶりに聞いた」
「そっか? そうやな。俺も安心しとんねん」

真北と橋は、クスクスと笑い出す。
それは、真子の能力・光に関する事件が一段落着いたことに安心している二人の心の現れだった。

「…どこ行くねん」
「…事後処理…」
「原くんが、やってるんちゃうんか?」
「任せられっかよ…」
「はいはい。…それが、お前らしさや。もう、大丈夫やな」

真北は、後ろ手に手を振って病室を出ていく。橋は、優しい眼差しで真北を見送っていた。
真北の足取りは、少しふらついているが…。




AYビル・会議室。
阿山組系関西幹部が集まり、それぞれが、安心した表情で座っていた。

「一件落着やけどな…。組長、まだ、意識戻ってへんねやろ」

谷川が言った。

「そうや…。戻るかどうかもわからんって言うとったぞ」

藤が、橋の病院で、橋から聞いた言葉をそのまま伝えた。

「二人はどうなんや? かなりの怪我なんやろ?」

須藤が、まさちんとぺんこうの心配をしていた。

「…あぁ。組長の能力をまともに受けたらしいよ…」

水木が、頭を抱えてため息混じりに言った。

「…見舞いはええんか?」
「…それどころやないんや…。こっちが一件落着したら、
 本部から、こんなんが送られてきたんや…」

水木が、書類を配り始めた。受け取った幹部たちは、観るやいなや驚いていた。

「…こんな事態になってたんかい!!」

山中が気にしていた、九州方面と東北からの情勢の変動が、かなり激しくなっていると書かれていた。
九州方面で勢力を伸ばしつつある青野組が、かなり進出していた。

「関西での川上組との抗争で、痛手を負ってるとでも
 思っとるんかいのぉ、青野組はぁ」

かなり怒った口調で、谷川が言った。

「関西は、わしらだけとちゃうやろ…。青虎がおるぞ…」

須藤が、何か嫌なことを思い出したような表情になる。

「今は、大人しいがのぅ。…それより、東北やで」
「東北といえば、鳥居んとこよなぁ。連絡取れてないみたいやな」
「千本松組との抗争も落ち着いたんとちゃうんか?」
「その後がどうなっとるんか、知らんやろ、誰も」
「そうやな…。…わしら、別の事ばかりしとったからのぉ」
「…本来の仕事…忘れとったな…」

それぞれが、真子の命令に対して、不信感を抱き始めた瞬間だった。

「…改めて、考え直すとするか…」

そして、会議は終わった。
真子が、何かを忘れたように眠っている間、阿山組内で、紛争が起ころうとしていた…。




橋総合病院。
ぺんこうが、目を覚ます。そして、同じ部屋に居るまさちんを見つめた。

「…目、覚ましたかぁ?」

まさちんは、体を起こして、ベッドに座っていた。ぺんこうも起き上がろうとしたが、体は言うことを利かない。

「…俺の方が、ひどいのか…」

ぺんこうが、悔しそうに同室のまさちんに言った。

「そりゃぁなぁ、お前の方が、ひどいだろ? …まともに、受けただろ?」

ぺんこうは、赤く光る真子の怒りをまともに喰らっていた。
胸に刻まれた傷…。
そして、
飛ばされた時の全身の打ち身…。

「…それで…組長は?」
「…まだ…眠っている…。…それに、回復も遅いらしい。
 …橋先生が言うには、恐らくあの時の閃光で、組長の能力…
 光が散ってしまったんだろうって」

まさちんは、ぺんこうが横たわるベッドに腰掛ける。

「…組長のあの驚異的な回復力は、その光の影響だったのか?」

ぺんこうが、まさちんに尋ねた。

「…山中さんとやり合った時に受けた傷…かなり深かったんだよ
 …なのにな、その傷は…ある日を境に消えていたんだよ。
 …まさに…青い光を使った後にな…」
「…青い光は、俺達だけでなく、組長自身にも影響を与えていたんだ…」

ぺんこうは、赤い光に支配されていた真子が、まさちんの腕の中で、閃光を発して元に戻った時を思い出す。
そして、目を瞑った…。

「ぺんこう?」

まさちんは、そんなぺんこうの行動に疑問を抱く。
無理をしてるのだろうと思ったらしい。

「…少し…寝るよ…」

ぺんこうは、静かに言った。

「あぁ。俺は、組長の様子を」
「よろしくな」
「お休み」
「ん…」

まさちんは病室を出ていった。
ぺんこうは、目を開けて、まさちんが出ていったドアを見つめる。

「…お前と俺は、…何処が違うんだよ…」

ぺんこうは、両腕を顔に覆い被せた。その腕の隙間から、涙が流れていた。

組長を思う気持ちは、俺の方が強いはずなのに…。
組長を赤い光から、解放…させられなかった…。
やはり、あの赤い光の組長は、俺を憎んでいたのか……?

真子がまだ、五代目になる前の事を思い出すぺんこう。
その時の、赤い光の真子に対しての行動が、脳裏を過ぎった。



まさちんは、病室を出た後、ドアの前でしばらく立ちつくしていた。そして、ため息をついて、ICUに向かって歩いていく。

『立入禁止』

そこは、真子が赤い光に支配され、そして、荒らした場所。
ガラスは割れ、壁にはひびが入っていた。
まさちんの足は、ゆっくりと真子愛用の病室へと向いていた。
ゆっくりとドアを開けて、中へ入る。
真子は、静かに眠っていた。
まさちんは、真子の側にそっと座り、優しい眼差しで真子を見つめる。

「…早く、お目覚めください…」

まさちんは、真子の手を握りしめた。
赤い光に支配されていた時の、あの、恐ろしいまでの真子の姿が脳裏を過ぎる。

ぺんこうが、俺を助けるような事をした…。
体を張ってまで…。
あいつの怒りを初めて肌で感じたよ……。

「あいつの方が、俺よりも、組長を思う気持ち
 ……強いのかもしれないな…」

まさちんは、真子の手を握りしめたまま、項垂れる。
そして、床に一滴、涙が落ちた…。



真北は署に戻って、ミナミの事件の処理に追われていた。
机の横には、週刊誌やあらゆる新聞が山積みになっている。それらには、真子=阿山組に関する記事が載っていた。
休む暇なく働き続け、体力も回復しないまま、橋の反対を押し切って退院した為なのか、書類で埋もれた机の上に、突っ伏して眠りこけていた。

「真北さん…起こせませんね…」
「そうだよなぁ。安心なさったんだろ」
「…こんな短期間にいろいろありすぎましたからね」
「…真北さん自身、体力を回復してないんとちゃうん?」
「…真北さんは、仕事が好きだから…」

署員の噂を知っているのかいないのか、真北は、それでも、眠っていた。懐かしい夢を見ているのか、顔が綻んでいた。

そんな真北を起こす、意地悪な奴…。

「真北さん、真北さん!」
「ん?」

寝ぼけ眼で体を起こし、自分を呼んだ人物を見た。

「…? …原 なんだ?」
「…お休みのところ、すみません。お客様がお見えです。
 …その…木原さん…」
「木原??」


応接室には、木原が待っていた。お茶をすすりながら、真北を迎えた木原は、明るい笑顔で真北に言った。

「少しは、元気になったみたいですね、真北さん」
「ん? まぁ、な。…で、なんだい?」

真北は、木原の向かいに座る。

「今回は、…俺の力不足だった…」

木原は、真北に頭を下げていた。真子=阿山組の記事が世間に出回ってしまったことに対してだった。

「…それは、仕方ないよ…。木原さんでも無理だよ。…あれだけ、
 大きな事件だからな。で、今日は、それだけじゃ、ないだろ?」
「ふふふ…、お解りでしたか…。流石、真北さん」

木原は、何か期待に満ちた顔をしている。真北は、それを見逃さなかった。

「実は…許可を頂きたくてね。いくらなんでもこれは、勝手に
 書けないかなぁと思ってね。それに、真子ちゃんの保護者である
 真北さんに許可をもらえれば、俺としても安心だしな」

そう言いながら、木原は鞄の中から、たくさんの書類を取り出し、真北に差し出した。
真北は、その書類を見ながら、木原と話し始める。真北は、困ったような、安心したような表情で木原に話していた。





橋総合病院。
まさちんが、病室に戻ってきた。
ぺんこうは眠っている様子。

「…ったく…」

ぺんこうの布団が少し乱れているのが気になったまさちんは、そっとかけ直し、自分のベッドに腰をかけ、ぺんこうを見つめていた。

お前には、負けたくないな…。

心の中で、そう呟いたまさちんは、ため息をついて、布団に潜り込んだ。

「…様子は…」

ぺんこうは、布団の中からまさちんに話しかけた。まさちんの気配に気付き、目を覚ましたらしい。

「…変わらず…」

静かに応えるまさちん。

「そっか…」
「あぁ…」

素っ気ない会話を交わして、ぺんこうとまさちんは、同時に眠りに就いた。



(2006.3.4 第三部 第二十三話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
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 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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