任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第二十六話 決意の眼差しと輝く笑顔

「…ま、まさちん…」

真子は、ベッドから降りた。しかし、脚に力が入らずに、その場に座り込んでしまう。

「まさちんを…とめないと…北野さんが…」

真子は、意を決して立ち上がった。ふらつきながらも病室を出ていく。
病院の裏口から駐車場に通じるドアがあった。真子は、そこに行くのが一番近道だと判断し、必死に歩いて、歩いて……。

「遅かった…くそっ! …この脚の馬鹿!!」

そう言いながら、真子はドアを開け、表に飛び出した。そして、手を伸ばしながら、歩き出す。
まさちんは、北野の胸ぐらを掴み、拳を振り上げていた。

「まさちん…やめろ!」

まさちんは、その声に振り返った。

「組長!」

まさちんは、北野を突き放し、おぼつかない足どりで歩いてくる真子に駆け寄り、手を差し伸べた。

「組長、無理をなさっては…」

すでに車に乗っていた山中が、車から降りてくる。
真子は、まさちんの手を取り、そして、北野を見つめた。

「…北野さん、私…跡目はゆずりませんよ。こんな私だけど、
 阿山組五代目組長なんだからね。川上や、竜次のように、
 命の大切さ、知らない輩にそれを教えていく…それが…
 私の流儀だから。人の命を弄ぶようなことは、許せない…」

真子は、しっかりと自分の脚で立っていた。

「だから…歩いてみせるよ。…山中さん大阪のことは、
 このまさちんに任せてある。山中さんの言葉、
 ありがたいけど…こっちはこっちでやっていく。
 だから、山中さんには東京の方をお願いする」

真子は、凛とした表情で山中を見つめていた。

「…確かに、私はやくざが嫌いだよ。だけどね、私は、
 …そのやくざな世界で育ったんだ。だから、組長でも構わない。
 そんな中でも、…命の大切さを忘れないで欲しい」

真子の息が上がる。それでも、山中と北野を見つめていた。
凛としてスキのない真子の眼差し。
それは、まさしく『五代目組長』だった。

「…組長、大阪のことは、まさちんにも同じ事を言われましたよ。
 跡目のこともです。…組長、直々にお言葉を頂いたことで、
 安心しました。…それでは」

山中は、静かに語り、そして、安心した表情で車に乗り込んだ。

「一生ついていきますよ」

山中は、正面を向いたままだったが、真子に言った。
真子は驚いていた。それ以上に驚いたのは、まさちんだった。

「山中さん…」

車は去っていった。
いつまでも車が去った方向を眺めている真子。

「組長、だめですよ、こんなところまで…」

まさちんは真子を睨んでいた。

「…怒るなよ」
「歩く練習もしてないんですよ。なのに、こんな長距離歩いて…」
「しゃぁないやん。まさちん、すんごい剣幕で
 病室を出ていったんだもん。心配だったんだから」

真子は、ふくれっ面になる。その表情で、まさちんは、いつもの真子に戻っていることに気付いた。

「…すみません…」
「戻ろっか、まさちん」
「はい」

まさちんは、真子を軽く抱きかかえた。

「まさちん、いいよ。大丈夫だって」
「だめです」

まさちんは、有無を言わさず、真子を抱えたまま、病院へと戻っていった。
真子は、まさちんの胸に顔を埋める。

「…私、がんばるから…」

真子は、呟いた。

「組長…」
「命…大切にしないとね…」

真子は、まさちんに微笑んだ。まさちんも真子に微笑み返した。

…俺の知ってる組長だ…!



新幹線の中。
山中は、何も言わずに窓の外を眺めているだけだった。
富士山がてっぺんから裾野まで、美しく偉大な姿を山中に見せつけていた。

「…悔しいなぁ…」

山中が呟いた。

「はい、何でしょうか?」
「ん? …北野、その顔、ひどいな…」

山中は、話を逸らす。

「…まさちんの奴、手加減なしでしたよ」
「あいつは、組長の事しか頭にないからなぁ。
 お前が組長に言った言葉が、相当頭に来たんだろな」
「知りませんよぉ。そう伝えるように言われたんですから。
 ったく、俺までとばっちりですよぉ。組長を敵にまわしたくないのにぃ」
「…悪かったな、北野」
「…かまいませんよ、組長が元気になったんですから」
「そういうお前も、健と同じような態度だもんな」
「…山中さぁん、いい加減にして下さいよぉ〜」
「はいはい。これ以上、何も言いません」

山中は、微笑んでいた。





梅雨。
どしゃぶりの雨が降っていた。真子は、窓際に椅子を持ってきて座り込み、窓ガラスを滝のように伝って落ちる雨を見つめていた。

「…飽きませんか?」
「…うん」

真子の後ろには、まさちんが立っていた。真子は、かなり長いこと外を眺めている様子。

「そろそろトレーニング室へ行く時間ですけど…」
「うん〜。わかったよぉ」

真子は、ゆっくり立ち上がり、歩き出した。まさちんは、慌てて真子に車椅子を差し出す。

「室までは、これでと言われていますよ、組長」
「歩いていくの!」
「駄目です!」
「歩く!!」
「駄目ですよ。あまり体力を消耗しないようにとも
 言われているんですよぉ。私が怒られます!!」
「……だったら、いいやん。怒られときぃ」

真子が冷たく言い放つ。

「組長ぅ〜。お願いですからぁ」
「嫌ぁ」
「お願いですからぁ」

そんなやりとりをしながら、真子とまさちんは、病室を出て、そして、廊下を歩き、トレーニング室へ到着してしまった。

「組長…到着してしまったではありませんかぁ」
「そのつもりやったもん」
「チッ、はめられた…」
「…まさちん。今、チッて言ったね、チッて!」

真子は、まさちんを睨み上げる。

「言いました、言いました、言いましたぁ!!」
「あぁ、ほんとに、最近、反抗的やなぁ」
「別にいいではありませんかぁ」
「…覚えときやぁ」

真子が、ふくれっ面になると、まさちんは、そんな真子の頬を突っついた。そのまさちんの手を払いのける真子。しかし、バランスを崩して、倒れそうになった。

「あわぁ、組長!!」

まさちんは、タイミング良く真子を支えた。

「ご、ごめん…。感覚が…まだ、つかめてないんだもん…」
「ったくぅ〜」

まさちんは、真子を抱えて、側にある椅子に座らせる。

「橋先生にお願いしますよ」
「何を?」
「退院するまで、私の言うことを聞くようにとね…」
「まさちんの言うこと?」
「えぇ。そうでもしないと、組長の怪我が増えてしまいますよ」
「その通りやなぁ。許可するで、まさちん」
「橋先生!!」

真子とまさちんは、同時に驚いた。

「何も驚くことないやろ。トレーニングの時間やからと
 真子ちゃんの病室に行ったら、二人で漫才しながら
 出てくるもんやから、ずっと後ろをついてきただけやで。
 ほんまに、真子ちゃんはぁ。ちゃんと車椅子で来なあかんって
 言ったやろがぁ〜。…わしが、真北に怒られるやないかぁ。
 それだけは、勘弁してやぁ」

真子は、橋を見つめる。その眼差しは、冷たい…。

「怒られたらええやん。私、知らんもん!」

そう言って、一人でマシンに向かって歩いていった。

「真子ちゃんまでぇ〜。冷たぁ〜」

そう言いながらも、橋は、しっかりと真子の様子を視ていた。



橋の事務室。
まさちんが、橋に呼ばれていた。

「…あのな…、今日視てて、思ったことそのまま言うで」
「はい」
「…真子ちゃんの体力やねんけどな、回復の兆しが見られへんのや…。
 いつもやったら、って言い方おかしいけどな、いつもの真子ちゃんやったら、
 あれの三倍くらいは、動かせるはずやのになぁ。
 …真子ちゃん、手を抜いてへんか?」
「それは、ありませんよ。あの日以来、やる気満々ですから」
「まぁな、退院は夏頃やと思とるんやけどな、
 それは、歩くくらいの体力やと思うで」
「歩く…くらい?」

まさちんは、橋の言葉に疑問を感じる。

「あぁ。まぁ、体育の授業ないらしいから、大丈夫やろ。
 通学は当分、送迎したらええやろうし…。そや、組の方、
 どうやねん。くまはちに任せっきりとちゃうんか?」

橋の話は別へと飛んだ。

「そうですけど…。まぁ、今のところ、問題になっていた
 九州地方との争いは、避けることできましたけど、
 …東北の方が、今のところ、情報がつかめないんですよ」

まさちんは、頭を抱える。

「お前の今の仕事は、真子ちゃんのリハビリの手伝いやろ。
 なんで頭を抱えるんや」
「…はぁ」
「疲れてるんちゃうか?」
「…疲れてませんよ。ただ…」
「ただ?」
「組長が素直に言うことを訊いてくれればなぁと思って…」
「……それは…あるな…」

橋とまさちんの意見が一致した。

「…頑固…やもんなぁ」



真子は、愛用の病室で大きなくしゃみをする。

「…橋先生やなぁ。もぉ」

真子は、窓の外を眺め、

「早く止まないかなぁ〜」

たいくつそうに呟いていた。




梅雨も明け、暑さが増してくる時期…あっという間に、夏が来た!

えいぞうの店。
氷の旗を見て、誘われるように店に寄る客、客、客……。この日も忙しく働いているえいぞう、そして、健。

「すんません、満員ですねん」
「かまいませんよぉ。待ってます」
「すんません」

そう言ってカウンターから、あるテーブルに向かって歩いていく、えいぞう。

「真北さん、奥使って下さいよ」

客の中に、真北が居た。

「ん? あぁ。ええんか?」
「はい。待ちがかかってますので」
「はいよ。行きましょうか」
「えぇ」
「すんません」

そう言って、真北ともう一人の男が、えいぞうの店の奥へ入っていった。
テーブルの上を素早く片付け、

「お客さん、お待たせしました。こちらへどうぞ!」

待っていた客を招いた。

「ご注文は?」
「えっとぉ…」



奥の部屋へ入ってきた真北。そして、一緒に入ってきた男は…。

「きれいやなぁ」
「えいぞうより、健の方が、きれい好きなんですよ」
「へぇ〜。健と言えば、確か、私達が欲しがる技術をかなり
 持っているとか?」
「その道のプロと言ってもいいくらいですよ。でも、駄目ですよ、
 健の仕事は、法律スレスレですからね」
「バイトで雇おうかなぁ」
「…木原ぁ」

真北がドスを利かせて言った相手は、サーモ局の木原だった。真子に関する記事を連載中の木原は、こうして、真北に真子の事を聞きに足を運んでいた。

「お待たせ致しました」

そう言って健が新たなコーヒーを持って入ってくる。

「健さん、俺んとこで、バイトせぇへんか?」
「バイト?何の?」
「情報収集」
「駄目ですよぉ。それしたら組長に怒られます」
「真子ちゃんに?」
「はいぃ。組長命令で、そっち方面の仕事は禁止されましたぁ」
「でも、真子ちゃんの為には、してるんやろ?」
「もう引退してますよ」
「残念やなぁ。かなり時給を弾もうと思ったのになぁ」
「私は、茶店で働く方が楽しいですよ。では失礼します」

そう言って、健は去っていった。

「なんやぁ、真子ちゃんなら、しっかりと利用してると思ったのにな」
「…違うんですよ。禁止されたのも、最近ですよ」
「最近?」
「健の奴、組長を隠し撮りしてたんですよ。それが組長にばれて、
 こないだ、病院で思いっきり怒られてましたよ」
「真子ちゃんを隠し撮り?」
「…これですよ」

真北は、懐から手帳を取り出し、内側に貼っている真子のシール写真を木原に見せた。

「あっ、それ。俺も持ってますよ」
「はぁ?」
「これですよね」

木原が見せたシール写真。それは、真北が持っているものと同じだった。

「木原さん。どこで? 健からもらったんですか?」
「アイドルショップ」
「…はぁぁ????」

真北は、突拍子もない声を張り上げてしまった。そして、何か気付き、いきなり大声を張り上げた。

「…健!!!! ちょっと来い!!!」
『は、はい!!!』

真北の声に、すぐ反応して、部屋へ戻ってきた健。

「おかわりですか?」
「…健、お前、何か裏でやってないか?」
「…裏…? ……あっ…」

健は、木原がピラピラさせているシール写真を見て、逃げるように部屋を出ていった。

「あんにゃろぉ〜〜」

そう言って、健を追いかけて駆けだした真北。

「待たんかぁい!」
「すんませぇん!! そんなつもりや無かったんですよぉ。
 それ作ってくれるように頼んだ店主がぁ、売る言うてぇ〜!」

健は、店を飛び出し、逃げ回る。その後を追う真北。
流石、真北刑事。
すぐに健に追いつき、取り押さえた。そして、思わず、健に手錠を掛けてしまった。

「うわぁ、真北さぁん、これは、ひどいですよぉ」
「…ん、あっ、すまん、つい、体が反応して…」

真北は、そう言って、手錠を外した。



健は観念した様子で、部屋の隅に座っていた。

「…お前個人で楽しむもんやと思ってたから、許してたけどな、
 なんでアイドルショップで、組長の写真を売るんや」
「店主に言われた時に、断ったんですよ。やばいからって。
 だけど、名前を証さなかったらええやろって言われて…」
「いくらもらったんや?」

真北の醸し出す雰囲気。それは、取り調べをする刑事そのもの。

「50…」
「…これ以外にも、あるやろ?」
「…はい…すんません!!!!」
「…ったくぅ〜」
「だから、真北さん。店主を責めんといてください。
 組長に怒られてから、作ってませんからぁ〜」
「…責めはしないけどな…。呆れてしまったわい…」
「そりゃぁ、健は、店主に作ってもらうのやめたわなぁ」

そう言ったのは、えいぞうだった。

「あ、あ、あ、あ、あ兄貴ぃ!!!」

健は慌ててえいぞうに駆け寄り、口をふさぎに行った。…が、遅かった。

「シール写真作る機械、買うたもんな」
「兄貴ぃ〜!!!」

真北は、卒倒。

「ま、真北さん!?」
「…負けた…。そこまで、すごいとは…もう、何も言えん…」

真北は、健の予想以上の行動に腰が砕けてしまったようだった。
真北の言葉に、勝利を覚えたのか、健は、ガッツポーズを取っていた。

健の真子への愛情は、過激になっていく一方のようで、兄貴であるえいぞうも、それは、止めることができないらしい。どこまで過激になるのか、楽しみにしているえいぞう。
やっぱりいい加減な男??




橋総合病院。
世間は夏休みに入り、病院の庭も、緑が青々として、セミも元気に鳴いていた。
真子は、まさちんとじゃれ合いながら、散歩していた。体力は、あまり回復していなかった。それでも、セミに負けないくらい元気な笑顔を見せるようになっていた。


まさちんは、病院の玄関前で、何処かに連絡を取っている様子。
深刻な顔をしていた。電話を切って、ふと目をやった。

「何やぁ」

思いっきり不機嫌な顔をして、歩いてくる人物を見ていた。
それは、ぺんこうだった。
ぺんこうは、まさちんを無視するような感じで横を通り過ぎた。

「おいおいおいおいおいぃ〜!!」

まさちんは、そんなぺんこうの肩をつかんで、歩みを制止。

「…俺って、わかったんか…」
「わかるわい。どうみても、ぺんこう、お前やないけ」
「…えらい関西弁やなぁ」
「…ん? あぁ、今まで水木さんと連絡取ってたからね」
「何かあるんか? 組関係」
「お前が気にすることやないけどな」
「最悪な事態ではないみたいやな。その態度やったら」
「まぁな」

二人は、真子の病室へ向かいながら、めずらしく仲良く話していた。

「組長の調子は?」
「まだ、完全回復とは違うみたいだよ」
「…やはり、あの能力の影響か…」
「…みたいやな…」
「それとも、まだ、何か悩んでいるとか…」

ぺんこうが静かに尋ねる。

「悩み事は、いつも同じや思うけどな…」

まさちんが、嘆くように言った。

「そうやな…」

二人は、それっきり何も話さず、エレベータに乗り、真子の病室がある階に向かった。そして、病室の前にやって来た時だった。
真子の病室から、笑い声が五月蠅いくらいに聞こえていた。

「笑い声?!」

まさちんとぺんこうは、お互い顔を見合わせて、ドアに耳をつけて、中の様子を伺う。
真子の病室には、理子、そして、大学の友達の相原と西田が来て、賑やかにおもしろおかしく語り合っているようだった。
真子の楽しそうな笑い声、それも、まさちんやぺんこうに向けるものとは、違うものに、二人は、ドアの所に突っ立ったまま、動けずに居た。

「…声、掛けられないな…」

ぺんこうが呟く。

「そうだな…」

まさちんが応えた。そして、二人は、廊下にある椅子に腰を掛けた。
沈黙が続く。

「…あんな様子だから、組長って、呼ぶこと、
 ためらってしまったよ…。…ふぅ〜」

ぺんこうが言った。ため息を付いたぺんこうは、いつになくだらしなく座っていた。

「…どうした?」

そんなぺんこうを不思議に感じたまさちんが、尋ねた。

「ん? …組長…。やっぱり五代目でなく、あのまま、お嬢様で育てば、
 あんな感じで友だちと笑ったり、ふざけあったりしたのかなって思うとな、
 …なんだか、俺、組長に悪いことした気がしてさぁ」
「…俺も、思うよ。だけどさぁ、組長は組長でよかったんだと思うよ。
 五代目で…。五代目にならず、あのまま育っていたら、
 今のような、組長は観れなかったかもしれない…そう思わないか?」

まさちんもだらしなく座った。

「…組長に出逢わなかったら…今の仕事を続けるなんて、
 できなかっただろうなぁ」

ぺんこうが呟く。

「なんで? お前の夢だったんだろ? 教師は」
「あぁ。感情を失った子供達の感情を取り戻す。
 …そんな人間らしさを与えようと教師になったようなもんだしな」

遠い昔を思い出したような眼差しで、ぺんこうは話し続ける。

「だけどな、…組長に逢うまでそんな気持ちなんて、
 持ってなかったよ。…お前も知ってるように、
 俺、短気だしな」

ぺんこうは、微笑んだ。

「そうだよな。お前、短気だもんな。俺以上に」

まさちんも微笑んでいた。
いつの間にか、この二人は、何か見えない絆で繋がっているようで…。

「で、まさちん、お前の夢は、何だったんだ?」
「俺の夢? ……忘れたよ。俺は、オヤジのことで荒れていたからなぁ。
 どうにでもなれ! てね。だけど、組長と出会ってからは、変わったね。
 あの頃は、組長の命を狙っていたのにな。なのに、気が付くと
 組長を守っていた…。それは、もう、俺に染みついていたんだろうなぁ」
「…俺達の人生を変えたのは…」
「…組長の…笑顔だな」
「やっと戻ったんだ。これ以上、無くすようなこと、
 起こさないようにしないとな、まさちん」
「あぁ」

まさちんとぺんこうは、お互いサムズアップをして、ぶつけ合っていた。
その時、真子の病室のドアが開いた。
理子達が帰る様子。真子は、とびっきりの笑顔で、三人を見送りに歩いていった。

「ったく、組長はぁ〜」

まさちんとぺんこうは、呟きながら立ち上がり、真子に気づかれないようにこっそりとついていった。



真子は、理子たちを玄関まで見送りに出ていった。
まさちんとぺんこうは、ゆっくりと歩み寄る。
真子は、理子たちが見えなくなるまで手を振っていた。そして、振り返りながら、

「…でぇ、いつ、二人は仲良くなったん??」

と二人に声を掛けた。

「気づいてらっしゃったんですか…」

まさちんが尋ねると、

「当たり前やん」

真子が笑顔で答えた。

「んで、いつから、二人は、そんなに仲良しになってるわけ?
 ずっと廊下で何をしてたん? なっかなか入って来ないから、
 滅茶苦茶笑いすぎてお腹痛いやんかぁ。もぉ〜!!」

真子は、二人が廊下に居たことに気付いていたらしい。二人に文句を言ってふくれっ面になっていた。

「そんなこと、知りませんよ!」

ぺんこうが言った。

「せっかくの四人の会話にお邪魔するのは、良くないと思ったんですよ。
 理子ちゃんにお逢いになるのは、久しぶりですよね?」
「うん。理子、変わらないね」
「野崎のあの明るさは、絶対に変わらないやろなぁ」
「おぉ、教師っぷり発揮!!」
「道で逢っても、あの調子ですからねぇ。声かけられた
 私の方が、恥ずかしいくらいですよぉ」
「理子、声大きいもんなぁ」
「大学でも、あの調子ですもんね」

まさちんが、思い出したように言った。

「何処に行っても変わらないということですね」

ぺんこうが、結論を出したような言い方をした。

「それと、組長」
「何? まさちん」
「お一人で歩くのは、まだ、許可出てませんよ」
「いいやんかぁ。二人がついてくると思ったからぁ」
「…絶対に、お一人では、歩かないで下さいね」

優しく言ったものの、表情は厳しいまさちん。

「はぁい」

真子は、素直に返事をして、とびっきり素敵な笑顔を二人に向けた。
今までに見たことのない、素敵な笑顔だった。
まさちんとぺんこうは、そんな真子の笑顔に一瞬、我を忘れる……。

「…どしたん? 二人とも」

そんな二人に無邪気に声を掛ける真子。

「いいえ、別に…」

声を揃えて応える二人。

「…やっぱし、二人、仲良いんやろぉ。いつからぁ??」
「仲良くありませんよ」

再び声を揃えて応える二人。

「ほらぁ」
「むぅぅぅ…」

まさちんとぺんこうは、歩みを止めて、にらみ合う。背後にそんな気配を感じた真子も歩みを止め、そして……。

ガツッ! ボコッ!

ぺんこうは頭を、まさちんは腹部を押さえていた。

「…戻るよぉ」
「はいぃ〜」

弱々しい声で返事をするまさちんとぺんこう。
やはり、声は揃っていた……。

仲良しやんかぁ、もぉ〜。

真子は、そんな二人に妬いていた。




とある倉庫の鍵が開けられた。
男達がドアを開け、中へ入っていく。そこは、かなり埃にまみれていた。
倉庫の中央には、シートで隠された何かが置かれている。それを、勢い良くめくる男達。
埃が舞う。
埃が治まった時、一人の男が、目の前にある木箱に手を掛け、そして、ふたを開けた。

そこには、銃器類が納まっていた。

「他もあるぞ」
「はっ」

男達は、他の木箱を開けた。そこにも、あらゆる銃器類が納まっていた。
男達は、それぞれを手に取って眺め始める。

「かなり放っていたからな。手入れをしないと使えないぞ」
「そうですね。…でも、よろしいんですか、その、組長に…」
「その組長をまず狙うんだからな…。わかってるのか?
 しっかりと手入れしろよ…」
「はっ」

ドスの利いた声で返事をした男達は、銃器類の箱を倉庫から運び出した。





AYビル・むかいんの店。
むかいんは、両手を使って調理をしていた。
怪我もすっかり治った様子。

「料理長、真子さんが来られましたよ」
「あと、頼む」
「は、はい」

むかいんは、調理をコックに任せて、滅茶苦茶嬉しそうな顔をして、厨房を出ていった。

「…えらい嬉しそうな顔をして…」
「本当ですね」
「そりゃぁ、復帰した姿を見せたいんでしょう。毎日毎日
 聞かされてましたからぁ」
「そうだよなぁ」

厨房では、むかいんの噂をしながら、ほのぼのとした雰囲気で調理に取りかかっていた。


「むかいん!」
「組長!!」

むかいんは、真子の席へ近づき、真子の元気な姿を見て、なぜか、目がうるうるさせた。

「むかいんが復帰した姿を一番に見たくてね!」

真子は、すばらしい笑顔でむかいんに言った。

「この通り、しっかりと動きます!」

むかいんは、右手を真子の前で、素早く動かしていた。真子は、嬉しそうに微笑む。

「私より、組長の方は、どうなのですか?」
「まだ、完全回復じゃないけど、この通り、元気だもん!」
「おめでとうございます」
「ったくぅ、橋先生、なっかなか退院させてくれへんかったもんやから、
 すっかり外の世界、忘れてたよぉ」
「では、仕事の方も?」
「うん。理子の顔を見るまで、大学のことも忘れてた!」

元気に言った真子に、むかいんは、呆れたような笑みを浮かべ、

「組長ぅ〜、それじゃぁ、理子ちゃんがかわいそうですよ。
 週に三回は、こちらに来られましたよ」

優しく応えた。

「やっぱりなぁ。むかいんの事、こないだチラッと
 理子から聞いたんだもん。それまで、まさちんもくまはちも
 真北さんも、ぺんこうも、むかいんの事を話してくれないんだよぉ」
「組長、怒らないで下さいね。それは、私が、言わないように
 お願いしていたんですから」
「えぇ〜?! なんでぇ?!」
「しっかりと動くようになった姿を見ていただきたかったので。
 …私に、自信がつくまで、組長には、お知らせしないようにと
 お願いしてました」
「…そうだったんだ…。…ごめん、まさちん」

まさちんは、ふくれっ面になっていた。
むかいんは、まさちんの表情で、全てを悟る。

「悪かったな、まさちん」

むかいんは、飛びっきりの笑顔を、まさちんに見せた。

「俺、組長に、蹴られっぱなしやったぞぉ」

それでも、まさちんは、ふくれっ面になっている。

「いいやないか。お前には似合ってるやろ」
「むかいぃぃん〜!!」
「組長、今日は、新作をご用意致しましたが、そちらで
 よろしいですか? 退院祝いも兼ねております」

むかいんは、まさちんの言葉を無視して、真子に話しかけた。

「むかいんに任せるよ!」
「かしこまりました。では、早速ご用意致します」

そう言って、むかいんは、厨房へ向かっていった。
真子は、そんなむかいんの後ろ姿を嬉しそうに眺めている。

組長に笑顔が戻った…!

真子を見つめるまさちんは、真子の表情に釣られるように微笑んでいた。



(2006.3.7 第三部 第二十六話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
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