任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第二十八話 職業病の影響

野崎家。
理子が、大学へ出かける準備をしている所へ、母がやって来る。

「理子、真子ちゃん、今日から一緒なんだよね?」
「うん。久しぶりやから、真子、緊張してるんちゃうかなぁ」
「…そう…」

母は、何やら不安げな表情をしている。気になる理子は、尋ねた。

「どしたん?」
「…その…真子ちゃんだけどね…。理子と生きてる世界が
 違うでしょ? それに、入院していたのだって…」
「…だからぁ、何度も言ってるやん。真子は、普通の女子大生だって」
「だけど…」
「もぉぉぉ、心配性なんやからぁ。大丈夫やって。
 ちゃぁんとまさちんさんがガードしてるし」
「…うん……」

母は煮え切らない様子だった。




真子の家。
まさちんは、リビングで食後のアップルジュースを飲んでいた。

「それにしても、組長、大丈夫かなぁ」

まさちんは、後かたづけをしているむかいんに嘆く。

「無理させなかったら大丈夫やろ。じゃぁ、俺は出勤するで」
「あぁ。気を付けてなぁ」
「お前こそ」

そして、むかいんは、出勤した。
まさちんが、ソファにくつろいだ時だった。
真子の部屋から、叫び声が聞こえた。

「組長?」

まさちんは、気になり、リビングから顔を出した。すると……。

ドタドタドタドタァ〜!!!!!!

「……あわわ…!!!」

真子が、階段から転げ落ちてきた。脚がもつれ、バランスを失った瞬間を見たまさちんは、駆け寄ったが、
間に合わなかった……。
焦った顔で、真子を覗き込むまさちん。

「組長! お怪我は?!?!」
「だ、だいじょうぶぅふぅ〜」

真子は、腰をさすりながら立ち上がった。

「腰を?」
「少々……。それより!! 遅刻ぅ〜っ!!!」

真子は、何故か慌てていた。そして、急いで靴を履き始める。

「あの…組長…。一限目は休講だとお聞きしておりましたけど…。
 違いましたか?!」

まさちんの言葉で真子の行動がぴったりと止まる。そして、ゆっくりと振り返ったその目は…怒っていた。



まさちんは、車を運転していた。後部座席には、真子がふくれっ面になって、ルームミラー越しにまさちんを睨んでいる。

「早く言ってよぉ〜」
「そうおっしゃったのは、組長ですよ。昨日、あいはーさんから、
 電話で休講だと言われて、ゆっくり寝ることできると
 大喜びされていたのに……。お忘れですか?」
「忘れてたよ…。もぉ〜」
「久しぶりに、あいはーさんとご一緒ですから、
 私は、外で待機しておきます」
「…じゃぁ、まさちんには、ビルの仕事任せていい?
 確か、明日までに目を通さないといけない書類が
 あったと思うんだけど。夕方、寄ろうと思っていたんだ」
「わかりました。では、私が片づけておきます」

車は、真子の通う大学に到着した。真子は、車を降り、ドアを閉める前に、

「じゃぁ、帰りは、理子たちとだから、いいよ!」

まさちんに告げた。

「かしこまりました。お気をつけて」

真子はドアを閉め、手を振る。まさちんは、真子に見送られながら、車を発車した。

「無理なさらないでくださいよぉ」

まさちんは、いつまでも手を振る真子を見つめながら、去っていった。




AYビル。
まさちんは、真子の事務室に入ってきた。そして、デスクに置いてある書類を手に取り、目を通す。

「…って、組長、すでにサインをしてるではありませんか…」

まさちんは、呆れた表情で項垂れた。そして、ふと、何か思いだしたような表情に変わる。

「物忘れ?」

まさちんは、何処かに電話を掛けた。

「橋先生、私です」
『…まさちんか。どうした?』
「組長のことなんですけど、その…物忘れが続くのですが…」
『物忘れ?』
「昨日のことをすっかり忘れてしまうようです…。まさか、
 特殊能力に関係しているとか…。能力を失ったと同時に
 記憶力に何らかの影響が…とか…」

えらく心配そうに落ち込んだ声のまさちん。その声でまさちんの心境を悟った橋は、

『…わかった。調べてみるよ』

まさちんを落ち着かせるような口調で言った。

『だから、まさちん、ええか? いつも通りに振る舞えよ。
 心配している顔を悟られるなよ。真子ちゃんに逢う前に、
 しっかりと鏡で自分の表情を確認せぇよぉ。わかったなぁ?』

矢継ぎ早に、続けた。
返事をするスキも見せない速さで言われたまさちんは、

「は、はい…」

と応えるのが精一杯だった。
受話器を置いたまさちんは、橋の言葉を思い出し、慌てて鏡で、自分の顔を確認する。




まさちんは、家に帰ってきた。車を停め、玄関の鍵を開けて家に入っていく。玄関には、真子の靴がすでに置いてあった。

「組長、もう帰ってきたんですね」

まさちんは、時計を見て、真子の帰宅時間が早いことに気が付いた。そして、そっと真子の部屋のドアを開け、真子の様子を伺った。
真子は、ベッドで熟睡していた。

「お疲れさまでした」

まさちんは、優しい眼差しで真子を見つめ、ドアを閉めた。そして、自分の部屋へ入っていく。


夜…。
くまはちが、疲れた様子で帰ってきて、そのまま自分の部屋で、寝入ってしまう。
まさちんは、気を利かせて、部屋を出て、真子とリビングでテレビを観ていたその時だった。

「ねぇ、まさちん…」
「なんでしょうか?」
「あのね、今日、理子たちに、職業病だと言われた」
「職業病??」
「うん。好きな人おるんかって。私の周りには男の人が多いから、
 その中で将来を約束した人おらんのかとか…。愛が芽生えるとか…。
 恋愛の話をしていた時なんだけどね…」
「恋愛の話…?」
「そう。私は、その話、疎いとか…。でね、まさちんといつも
 一緒にいるから、何か感情を持っているんちゃうかって…」

まさちんは、ソファからずり落ちた。

「それで、にっしんが『やったらええやん』って言ったんだ。
 でも、やるって、なんでまさちんを殺さないとあかんの?
 なんて聞いたら、みんな大笑いして…。それで、職業病やと言われた。
 …どういうことなん?」

まさちんは口をあんぐりと開けたまま、真子の話を聞いていた。そして、静かに声を発する。

「組長…。……確かに…職業病です…」
「えぇぇ〜?! なんで??」
「…申し訳ありません。私は…そのぅ、その…」

まさちんは、座り直して、真子の目をしっかりと見つめた。

「…次は、恋愛について、お勉強をなさった方がよろしいかと思いますが…」

そう言ったまさちんは、なぜか笑い出してしまった。

「ま、まさちん?!?! なんで笑うん??」

真子は、不思議な顔でまさちんを見つめる。そこへ

「ただいま…って、なに笑ってるんだよ、まさちん」

ぺんこうが帰ってきた。

「お帰りぃ〜。お疲れさまぁ〜!」
「組長、何か楽しいことでもおありですか?」
「ぺんこうに聞いてみるね、まさちん」

そう言って、真子がぺんこうに駆け寄り、そして、仲睦まじくリビングを出て行く様子を、まさちんは、ジッと見つめていた。二階のぺんこうの部屋のドアが閉まった音を耳にしたまさちんは、大きく息を吐き、ソファにふんぞり返った。そして、ぺんこうの部屋の方を見つめ始める。
暫くして、寂しさを感じたまさちんは、片付け始める。
テレビを消し、リビングを出て行った。そして、階段を昇っていく。
階段を昇るとするに、ぺんこうの部屋があった。そこから、笑い声が聞こえてきた。
ちょっぴり気になるまさちんは、聞き耳を立てる。小さな声が聞こえてくる。更に気になったまさちんは、そっとドアを開け、中の様子を覗き込む。
なんと、真子とぺんこうは、顔を近づけ合って……。

「て〜め〜えぇ〜〜っ!!!!!!!」

まさちんは、ものすごい剣幕でぺんこうの部屋へ飛び込んでいった。そして、ぺんこうを突き飛ばし、胸ぐらを掴みあげ、殴りつけた。

「?!?!」

ぺんこうは、突然殴られた事に驚いた表情を見せたが、反射的に、まさちんを殴っていた。

「えっ?! ど、ど、どしたん? 二人とも!!」

目の前でいきなり殴り合いを始めた二人を観て戸惑う真子。
今までのいろいろなことが一気に爆発したかのように殴り合う二人は、全く納まる気配を見せなかった。
真子が、二人を停めようと間に入る。

「ちょっと、まさちん!! ぺんこう! 二人ともやめなさいぃ〜っ!!!」

まさちんとぺんこうは、真子の言葉が聞こえていないのか、殴り合いは、更に激しくなっていく……。

まさちんの拳が、ぺんこうの頬に思いっきり入った。
ぺんこうは、倒れながらも、まさちんの腹部に蹴りを入れた。
強烈な蹴りに腹部を押さえ、座り込むまさちん。
ぺんこうは、殴られた頬に手を当てていた。
二人は睨み合う。
そして、再び、お互いを殴り、蹴り、突き飛ばし…。

「ど、どうしたのよぉ、もぉ!!!」

真子が停めに入れないほど、二人の勢いは、更に激しくなっていく……。

「くまはちぃ〜!!! 二人を止めて!! くまはち!!」


くまはちは、熟睡していたが、突然の真子の叫び声に、ガバッと起き上がり、部屋を出ていった。同じように部屋に居たむかいんも、突然の激しい物音と、真子の声に、部屋を出ていく。

「どうされました!!」

ぺんこうの部屋に入ってきたくまはちは、目の前の光景に、呆れてしまった。
まさちんとぺんこうは、殴り合っている。
それを真子が停めようとしている……。



「ただいまぁ。…って、何を騒いでるんだよ…」

のんびりと帰ってきた真北は、二階の騒がしさに気付き、その足で、階段を昇っていく。ちょうどその時、くまはちとむかいんが、ぺんこうの部屋に入っていく所。

「とうとう、始まったか…」

真北は、ゆっくりと部屋に近づいていった。
その時だった。

「くまはちぃ!!…きゃっ!!」

ゴツッ!!

「組長!!!」

真子は、くまはちに気を取られたちょっとのスキに、二人にはじき飛ばされ、本棚の角に頭をぶつけてしまった。その場に座り込む真子にくまはちが、慌てて駆け寄った。

「お前ら、いい加減にしろ!! 組長が怪我をしただろが!!」

その光景を目の当たりにした真北が怒鳴る。 その声で、まさちんとぺんこうは、手を停め、同時に振り返る。

「組長、大丈夫ですか?」

くまはちが、真子を支えて声を掛けている。
真子の額には、血が滲んでいる。

「………」

まさちんとぺんこうは、そっと真子を観た。
真子が、睨んでいる……。
真子は、突然立ち上がり、ぺんこうの部屋を出ていった。

バン!!!!!!!

真子の部屋のドアが、勢い良く閉まった。

「しまった!!」

そう言っても後の祭り。
まさちんとぺんこうは、自分たちのしでかしたことの大きさに気が付いた。そして、その場に身動き一つせずに座り込んでしまう。
真北は、呆れたように二人を見下ろしていた。

「…くまはち、頼む」
「はい」


くまはちは、救急箱を手に、真子の部屋へ入っていく。

「組長、傷の手当を」

真子は、手で傷を押さえていた。

「駄目ですよ、素手で傷口を触っては」

くまはちは、優しく微笑み声を掛ける。
真子は、傷口から手を離した。くまはちは、真子に近づき、素早く手当をした。
傷は、かすり傷だったが……。

「病院に…」

頭のことだけに、心配である。

「…大丈夫。かすっただけだから…。ありがと、くまはち」

真子は、そっと微笑んだ。

「…なんであの二人…。仲良くなったと思ったのは気のせい
 だったのかなぁ。…いつもいつも…。だけど、なんで、
 まさちん…怒ったんだろう。わからない…。なんで?」

真子がしつこく尋ねてくる。

「あの二人は、昔っから、犬猿の仲ですから。
 何かきっかけがあって、それでだと思います」
「仲良くできないのかなぁ」
「…それは、難しいかもしれませんね」

くまはちは、何かを隠していたように応えた。

組長が絡んでいるんですけど…ね。


リビングには、まさちん、そして、ぺんこうが、顔を腫らして、二人並んでソファに腰を掛けていた。その向かいには、真北が座り……。

「で、今回の騒動は、何が原因なんだよ」

怒りを露わにして、まさちんとぺんこうを睨んでいた。

「…組長とぺんこうが……顔を近づけていたんですよ。
 だから、その…キスを…していると…」
「はぁ?!」
「それを観た途端、気が付いたら、殴ってました…」

まさちんは、ふれくされた言い方をしていた。

「ぺんこうは、何をしていた?」
「…組長が、恋愛について相談をしてきたので」
「れ、恋愛?!」

真北は、ぺんこうの言葉に驚く。

「昼間、理子ちゃんたちの会話に、『やる』という言葉が出て、
 組長が、『なんで組員を殺すのか?』ということをおっしゃると、
 理子ちゃん達が大笑いをしたと…。それは、どういうことかと
 相談してきたんです。その説明をしていたとき、組長の顔が
 赤かったので、熱でもあるのかと心配して、…つい、…年齢を
 考えずに、額をくっつけてしまいました…」
「それをまさちんが、キスをしていると勘違いしたんだな」
「…すみません…」

まさちんは、ぺんこうの言葉を聞いて、かなり恐縮する。
真北はため息を付いた。

「…ったくぅ〜、お前らなぁ。もっと考えろ!」
「反省してます…」

まさちんとぺんこうは同時に言った。
二人の息は、ぴったり……。

「さぁ、どうするんだよ。組長、滅茶苦茶怒ってるぞ」
「はぁ……どうしましょうか…」

まさちんとぺんこうは、同時にため息をつき、そして、項垂れた。

「しかし、どのように説明したらいいのかなぁ〜」

真北は、困った表情になる。



それから、一時間後…。
真北は大事を取って、真子を車に乗せ、橋総合病院へ向かっていた。
道中、まさちんとぺんこうの騒動の原因を真子に説明していた。

「…だからって、何も急に殴ることないと思うのに」
「まさちんですからね。未熟者ですから。口より先に手が出るようですよ」
「…知らない!! まさちんは兎も角、ぺんこうまで」
「あいつら、日頃のうっぷんを晴らしたようですね」
「あの二人、時々、息がぴったり合うのに、なんで、仲良く
 できないんだろう…。ねぇ、真北さん、なんで??」
「…なんで…と、聞かれましても…私には…お応えできません…」

真北は、無邪気に質問する真子に困り果てていた。

「やはり、恋愛について、お勉強したほうがよろしいかと…。
 …誰にお願いしたら、いいのかなぁ」

真北は、ちょっぴり悩み始めた。




橋総合病院。
検査を終えた真子は、橋の事務室ですっかり眠っていた。

「ったく、あいつら、とうとうやったんかぁ」
「組長が停めに入っても、解らないくらいにな…」
「真子ちゃんが停めることできへんくらい、すごいっつーことか。
 なら、間に入ったら、お前でも怪我するで」
「くまはちなら大丈夫かな。で、結果は?」
「なんともない。かすっただけやな」
「そっか。頭だけに、心配したよ…。じゃぁ、帰るよ。
 遅くに悪かったな」
「気にするな。お前の大切な真子ちゃんのことだからな」
「うるさい!」

真北は照れたように言って、眠る真子を抱きかかえ、そして、橋に見送られながら、事務室を出ていった。
真北の後ろ姿を眺める橋。

「お前には、言わない方が、いいかもな…真子ちゃんの能力のことは…」

橋は、深刻な表情で、机の上に広げる文献を見つめていた。
それは、道が訳したもの…。

『記憶力の低下。それは、能力再発の兆候が視られる』

橋は、頭を抱えていた。



真北は、真子の頭を膝の上に置いて、運転をしていた。
時々、真子の頭を優しく撫でる。

「…真子ちゃんも、自覚してくださいね…」

温かい眼差しで、真子を見つめていた。




朝。
真子は、着替えて部屋を出てきた。廊下でばったりとぺんこうと逢う。

「おはようございます。…夕べは……って、組長ぅ〜」

真子は、ぺんこうと顔を合わせた途端、プイッと顔を背け、階段を下りていった。


真子は、リビングに入ってきた。
くまはちは、朝食を終えたのか、テレビゲームをしていた。その横から、まさちんが、画面を覗き込んでいる。

「おはよ!」
「おはようございます」

と短く挨拶をして、くまはちは、ゲームに集中する。

「おはようございます、組長」

キッチンにやって来た真子に、むかいんが声を掛ける。

「ねぇ、むかいん。くまはちって、まさかと思うけど、徹夜?」
「そのようですよ」
「やりだしたら、停まらないんだね…。いただきまぁす」
「組長、今日は…」

とまさちんが声を掛けてくるが、

「ね、むかいん。また、新作考えた?」

真子は、その言葉を遮るように…というよりも、無視をして、むかいんに話しかけていた。むかいんは、笑顔で真子に応える。


「…どうするんだよ。知らないぞぉ」

くまはちは、まさちんに小声で言った。

「いつも通りにしとけばええかな…」

まさちんが嘆く。

「ごちそうさまぁ。じゃぁ、くまはち! 行こうか!」

真子は、鞄を手にとって、くまはちに声を掛けてきた。

「は、はぁ…、私とですか?!」

くまはちは、戸惑ったように応える。

「私がお送りいたしま……」
「行くよ!」

真子は、まさちんの言葉を再び無視して、戸惑うくまはちを強引に引っ張って、出かけてしまった。
まさちんは、真子を追いかけるようにリビングを出てくる。

「く、組長!  し、しまった…」

まさちんは、もう閉まってしまった玄関のドアをいつまでも見つめていた。
二階から降りてきたぺんこうが、この様子を観ていた。

「…お前も無視されたか…」
「も…ということは、お前もか」
「顔を合わせたのに、プイッ…」
「はふぅ〜〜」

まさちんとぺんこうは、本当に息が合っているかのように、ため息を付く。
お互いの顔には、殴り合った跡が痛々しく残っていた。


一方、くまはち運転の車の中では…。

「組長、本当によろしいんですか?」

くまはちは、真子に尋ねた。

「いいの! 暫く反省しろって!」

真子はふくれっ面になっていた。

「そうですね」

くまはちは、今後の二人を想像して楽しんでいるような表情で応え、運転を続けた。


玄関先では、まさちんとぺんこうが座り込んで項垂れていた。
そんな二人を見つめる真北は、

「お前ら、自分で解決しろよぉ」

半ばからかうかのように声を掛ける。

「…真北さぁん…組長に何か吹き込みましたかぁ?」

まさちんとぺんこうは、同時に言った。

「…ほんまに、息ぴったりやな…。仲がええんか悪いんか、
 ようわからんのぉ」

真北は、そう言いながらリビングへ入っていく。

「……はふぅ〜〜……」

二人は、同時に大きなため息を付いた。
真北もソファでため息を付いていた。





「おはようございます、組長……はふぅ〜」

まさちんが、真子に声を掛けた…が、またしても、真子は見向きもしない。

「あれ? くまはちは?」
「今日は、調べることがあると言って、かなり早くに出かけましたよ」
「そっかぁ。じゃぁ、一人で行こうっと。いただきまぁす」

真子は、朝食を取り始める。

「組長、もう、許してあげてくださいよ。あの二人に
 嘆かれるのは、私なんですからぁ」

むかいんは、本当に困った顔をしている。

「知ぃらないっ!」

真子は、ふくれっ面になりながらも、朝食をたいらげた。

「ごちそうさまぁ。ほな、行って来るね。むかいん、今日も笑顔を忘れずに!」
「心得てます! では、お気をつけて!」

真子は、むかいんに笑顔を向けて、出ていった。
玄関まで来ると、まさちんが、そこで待っているかのように立っていたが、真子は、その横をすり抜けるように、出ていってしまった。

あうぅ…組長ぅ〜。

手を差し出して、淋しそうな顔をしているまさちん。真子の姿が見えなくなってから、肩の力を落として、項垂れながらリビングに入ってきた。

「今日は、午前で終わりやろ。迎えに行けよ」
「…わかってるって…」

そう言って、まさちんは、ソファに寝ころんだ。

「ぐわぁぁぁっ!!もぉぉぉっ!!!」

まさちんは、訳の分からない雄叫びを上げた。その途端、

「じゃかましぃ!」

むかいんに怒鳴られた。

「…すみません……」

そして、恐縮するまさちん……。




寝屋里高校。
ぺんこうは、ボォッとしながら、授業を行っていた。

「先生ぃ〜、ここは…って、先生???」
「ん? は、はぁ、どうした?」
「…先生、何かあったん? 珍しいな、ボォッとして」
「あ、あぁ、悪い…。で、なんや?」
「…ここ。どうすれば、いいん?」
「……あぁ、ここはな…」

生徒の声で我に返ったものの、やはり、惚けているぺんこう。

「…先生、それ、黒板消し…。字、書かれへんって…」
「ん? あ、あぁ…」

慌ててチョークを手に取るぺんこうだった。




講義を終え、真子は、その脚で図書館へ向かっていった。
図書館が見える場所で、まさちんは車を停め、真子を見つめていた。


夕刻。
真子が図書館から出てきた。そして、ゆっくりと歩きながら、門を出てきた。
まさちんは、真子をずっと見つめていた。
真子は、その目線に気が付いていたが、知らんぷりして、駅へ向かって歩いていく。
真子が歩いていく横を車で着いていくまさちん。
それにも気が付いていながら、真子は、駅の改札へ入っていった。

まさちんは車を停め、そして、ホームに立つ真子を見守っていた。
真子は、無事に電車に乗った。

「…竜見と虎石に、頼むしかないな…」

まさちんが呟く。
くまはちの行動には、抜かりがなかった。
まさちんに頼まれなくても、二人を真子の護衛にきっちりと付けていた。真子から少し離れた所に、それぞれが、警戒しながら、真子と同じ電車に乗り込む。

真子は、無事に家に帰ってきた。



リビングで、真子はくつろいでいた。ただ、なんとなくテレビを観ている所へ、

『ただいま』

ぺんこうが帰ってきた。
ぺんこうは、その脚でリビングへ入ってくる。

「ただいま、帰りました」

真子は、何も言わずにテレビを消し、そして、静かにリビングを出ていった。

「…あかんか…やっぱし…」

ぺんこうは、肩の力を落として、自分の部屋へ向かっていった。





ホテルの一室。
鳥居と組員が、ソファに座ってくつろいでいた。その手には、銃が握りしめられている。

「何か知らないが、大学内の護衛が無くなってるぞ」
「チャンス…だな…」
「では、明日、決行だ…」
「…はっ」

鳥居は、不気味な微笑みを浮かべていた。




阿山組本部。
くまはちは、本部に来ていた。
鳥居の足取りを、一昼夜調べ回って、結局何も掴めず、本部に帰ってきた時だった。
北野から、驚くことを聞かされた。

「…なんだと? それは、本当か!」
「…灯台もと暗し…ということだよ…」
「くそっ!!」

くまはちは、懐から電話を取り出し、何処かへ連絡を入れる。

しかし、それは、遅かった…。

電話を握りつぶすくまはち。
くまはちの急変に驚く北野が、

「ど、どうした?!」

静かに尋ねる。

「…組長が…大学内で狙われた…。相手は鳥居だそうだ…」
「な、なに?!」

本部内に緊張が走った…。




橋総合病院。
真子は、愛用の病室で目を覚ました。
何かに気付いたように、勢い良く起きあがった。

「いてっ……」
「組長、駄目ですよ。ご無理なさっては」
「…まさちん…。……理子は?」
「申し訳ございません…。理子ちゃんは…ICUに…危篤状態です…」
「うそ…!!!!!!!」

真子は、強い衝撃を受けた。そして、ベッドを飛び降り、ICUへ向かって駆けだしていった。

「組長!」

まさちんは追いかけていく。


ICU前。
理子の母が、震えながら、ICUに眠る理子を見つめていた。
足音に振り返った母。
そこに居るのが真子だと気が付いた途端、

「やはり、あなたとは、お付き合いさせるべきではなかったわ!!
 いつかきっとこんなことが起こるかもしれないって…。
 やくざな世界で生きているあなたと……。返してよ…理子を
 …返してよぉ〜!!!!」

泣き叫ぶ。
母の言葉は、真子の胸に突き刺さった。

とうとう、親友を…巻き込んでしまった……。
恐れていたことが起こってしまった…。

真子は、目を見開いたまま、唇を噛みしめ、そして、後ずさりをする。衝撃を隠しきれない真子は、涙を流すことなく、その場を去っていった。

「組長!!」

後を追ってきたまさちんの声は真子には届かなかった……。



ミナミの街。
鳥居と鳥居組組員が、大きな顔をして歩いていた。そこへ、別の鳥居組組員が駆けつける。

「どうだった?」

鳥居が尋ねる。

「…阿山真子は、無事です」
「チッ。あの女さえ、出てこなかったら、とれたのにな…」
「その女が危篤状態だそうですよ」
「…となると、阿山真子が、動くか…」

不気味な笑みを浮かべる鳥居だった。



橋総合病院・玄関前
真子が走って外へ飛び出してきた。 その後ろをまさちんが追いかけて来る。

「組長!!」

真子に追いついたまさちんは、真子の左腕を掴み、真子を引き留める。
真子の手は震えていた。

「……とうとう…巻き込んじゃったね…」

真子は、振り返らずに呟く。

「こんなこと、予想できたのに…私って…」

唇を噛みしめる真子は、それ以上何も言わなくなった。
真子の心が痛いほどわかっているまさちんは、真子からそっと手を放す。

「まさちん……」

真子が静かに呼ぶ。

「はい」
「……ケジメは…きちんとつけな…あかんな」

真子の声が、突然変わった。

「く、組長?!」

真子の雰囲気が突然変わったことに、戸惑うまさちん。

ま、まさか、また…赤い光の…。
しかし、能力は消えたはず…。

振り返った真子の目は、なんと…『阿山組五代目組長』の雰囲気を醸し出していた。

「組長、ご指示を」

真子のオーラに反応するかのように、まさちんが、自然と口にした言葉。
まさちん自身も、『やくざ』としての何かが目覚め始めていた。

「……まずは、鳥居の行方を追う。それからだ」
「かしこまりました」

真子は歩き出し、そして、まさちんの車に乗り込む。
車は、橋総合病院を後にした。



(2006.3.9 第三部 第二十八話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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