任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第三十五話 真子への思い

真子の部屋。
真北が、真子を抱えて入ってくる。そして、布団にそっと寝かしつけた。真子の頬に伝う涙を優しく拭い、布団を掛けた。

「ん…。…真北さん…?」
「すみません。起こしてしまいましたか?」
「…あれ?? くまはちと橋先生の所に行ったのに…」
「私も橋の所に居ましたので、くまはちと交代したんですよ。
 調子は、どうですか?」
「だいぶまし…」

真北は、心配そうな顔で真子を見つめていた。そんな真北の表情が気になったのか、真子は起き上がる。

「…何か、遭ったの? 真北さん…」
「えっ? あっ、いいえ、特にありませんが…。その…組長…」
「どうしたの?」
「怖い夢でも…?」
「えっ…? …あ…」
「頬を涙が伝ってましたから」
「…夢…お母さんの夢…みてた」
「ちさとさんの夢?」

真北は、ベッドに腰を掛けた。

「うん。…遠くにね、お母さんが立ってるの…。いつも声を掛けるんだけど、
 私の声が、聞こえないみたいで…。そのまま何処かへ行ってしまうの…。
 いつになったら、振り返ってくれるんだろ…」
「組長……」
「…ねぇ、真北さん…」
「はい」
「お母さんの話…聞きたいな…」

真子は、俯き加減に言った。

「く、組長…それは、私自身が…その…」
「あっ、ご、ごめんなさい…」
「組長が鏡を見れば、そこに、ちさとさんが居ますよ
 本当に、ちさとさんに似てきましたから」

真北は、優しく微笑んでいた。

「また、それを言うぅ〜」


ぺんこうが、帰宅した。
玄関にある真子と真北の靴に気づき、二階へ上がっていった。


真子と真北は、階段を上ってくる足音を聞いた。

「ぺんこうかなぁ」

真子が言った。

「そのようですね」

真北は、真子の部屋から廊下に顔を出した。ぺんこうが、ちょうど階段を上りきった所だった。

「…組長に何か?」
「ちょっとな」

ぺんこうと真北は、素っ気ない会話をしていた。ぺんこうが、荷物を置いて、真子の部屋へ入っていく。

「お帰り、ぺんこう。そろそろ卒業式の準備で忙しいでしょ?」
「えぇ。来年度は、一年間、クラスを持たないことになりました」
「へぇ〜。体育教師だけ? つまんないやろぉ」
「そんなことありませんよ。この仕事が好きですから」

ぺんこうの表情は輝いていた。
真子は、そんなぺんこうを見て、嬉しそうに微笑んでいる。
真北は、そんな二人を優しい眼差しで見つめていた。

「…体調でも? …確か、一平くんとデートでしたよね?」
「うん。はしゃぎすぎちゃった!」

真子は、かわいらしく首を縮めた。

「くまはちたちのガードを禁止したから、まさちんが、須藤に
 連絡を入れた。すると、須藤が、よしのをガードに付けた。
 しかぁし! 組長は、見事によしのを撒いて、一平くんと
 二人っきりになることに成功したぁ」

真北は、淡々と語る。

「…真北さぁん…あのねぇ〜…」
「よしのが、組長に撒かれたから、まさちんが、何故か躍起になって
 組総動員で組長を捜し回って、街の中は大騒ぎだった」

なんとなく、真北の語りには、怒りが込められている感じが…。

「…俺にまで連絡があったんですよ、組長。
 『街中で、阿山組が動いてるのは、何かあるのか?』
 ってね」
「だから、反省してるって…。もぉ〜」

真子はふくれっ面になっていた。

「しかし、組長は見つからない…。何処に居たと思う?」

真北は、ぺんこうに尋ねた。

「むかいんの店でしょ?」

ぺんこうは、あっけらかんとした感じで応えてしまう。

「…なんでわかるんだよ、お前は」
「灯台もと暗し。それに、一番落ち着けますからね、組長」
「うん」
「でも、次は、駄目ですよ。真北さんにまで、迷惑を掛けては」
「反省してます…」

真子は素直だった。そんな真子を見て、真北とぺんこうは、顔を見合わせた。

体調、まだ、悪いな…。

「組長、食欲は?」

ぺんこうが、真子に尋ねた。

「少しお腹空いた」

その時、真北の携帯電話が鳴った。真北は、電話を手に取る。

「橋からだ…。ぺんこう、あと、頼んだよ。夕食は俺が作るよ」
「えっ!?」
「ほんまに?!」

ぺんこうと真子は、同時に驚く声を…。

「…なんだよ、その返事はぁ〜」

真北は、ぺんこうを睨んで、そして、真子の部屋を出ていった。

「…組長、ゆっくりお休み下さい。まだ、よくないようですね?」
「うん…」

そう言って、真子は、布団に潜った。

「…ぺんこう…。夕飯できるまで、ここに…居て…」

真子は、布団の端から目だけを出していた。

「どうしたんですか? 何か不安でも?」

ぺんこうは、真子の顔を覗き込むような感じで近づいた。真子は、起き上がり、ぺんこうの胸に顔を埋めた。

「組長?」
「…ごめん…しばらく、このままで…いい?」
「えぇ。約束ですから」

ぺんこうは、真子の背中にそっと手を回した。
真子は、暫く動かなかった。そして、呟くように言った。

「夢…見るの…。お母さんの…」
「ちさとさんの夢…ですか?」
「あの日から…」
「あの日?」

真子は、小さく頷いた。



真北は、橋と電話で話しながら、リビングへ降りてきていた。

『血液検査の結果がな…』
「DNA一致か?」
『…まだ、根に持ってるやろ?』
「まぁなぁ。で?」
『細胞が弱ってるんだよ』
「細胞が弱ってる?! どういうことだよ」
『再生能力が劣ってるっつーことや。真子ちゃんの体力が完全に
 回復せぇへんのは、それが関わってる可能性があるよ』
「あまり、疲れないことすれば、いいんだろ?」
『…なんで、わかる?』
「お前、関西弁だからな。大事に至ることじゃないんだろ?」
『…まぁ、な。原因は、恐らく、能力を異常な程に使った事だろな。
 赤い光が、真子ちゃんを移動させるくらいだもんな…』
「あぁ」

真北は、何も言えなくなった。

『おぉ〜い。真北? 大丈夫やでぇ〜。真子ちゃんに無理さえ
 させへんかったらええんやからな。兎に角、今は、学業だけに
 専念させとけよ。組関係やAYAMA関係は、まさちんと
 くまはちに任せておけよ。解ったかぁ?』
「解ったよ。ありがとな」
『お礼は、さっきの話の続きでええで』
「お前、ええ加減にせぇよぉ」
『…やっと患者が来た!! ほな、またなぁ』

橋は、電話を切った。真北は、携帯電話の電源を切り、ため息を付く。

「そんなこと言うても、組長は…無茶するしなぁ〜」

真北は、真子の部屋の方向を見つめた。

「…あいつに任せるか。…さてと…」

真北は、腕まくりをして、久しぶりに台所に立っていた。
その昔、まだ、阿山組に来る前、刑事として恐れられていた頃によく見られた光景。阿山組に来た頃は、時々自分でご飯を作っていたが、真子が生まれ、むかいんが、真子専属の料理人となってからは、自分で作ることは、ほとんどなくなっていた。
包丁さばきも、フライパンを持つ手も、かなり上手い真北は、少し鼻歌混じりになっていた。
悩みはどこへ?



真子は、まだ、ぺんこうの胸に顔を埋めたままだった。

「組長、あの日…とは?」
「…大学でのあの事件…理子のお母さんに言われたこと…」
「あれは、もう、解決したのでは?」
「うん…。理子のお母さんがね、言った言葉…。
 『母が子を思う気持ちは強いの…。子の命が危険だと思うと、
  そうなっちゃうのよ…』
 って…。ICU前でのおばさんの姿を見ただけに…。
 その言葉が、いつまでも、耳から離れないの…。
 …お母さんが、私を守って…。お母さんも、そうだったのかなぁって
 思うと…。私、どうすればいいのか、わからないの…」
「組長…」

真子を抱きしめるぺんこうの手に力が入る。

「いつものように、明るく元気に…素敵な笑顔でお過ごしください。
 いつまでも、そのように悩んでいたら、ちさとさんも気になさりますよ」
「ぺんこう…。…なぜ、…私を守ったの…?」
「立場を変えて考えてみてください。もし、私の命が危険にさらされていたら
 組長は、どうされますか? 体を張ってまで、守ろうとするでしょう?
 怪我を負ったら、能力を使おうとするでしょう?」

真子は、ぺんこうの言葉に反応するかのように、ぺんこうからそっと離れ、そして、頷いた。
ぺんこうは、真子の目を見つめる。

「その時の気持ちと同じですよ。ちさとさんもそうだったはずです」
「でも…あの時…青い光を使うなと…言われたの…」
「当時の事は、全く知らないのですが、能力を使えば、
 恐らく今と同じ様な体調になっていたのでしょう。
 それを心配したのかもしれません…」

真子の表情が暗くなった。

「組長?」
「…ご、ごめん…。心…読んじゃった…」
「…す、すみません…」

ぺんこうは、真子に話している時、ふと思った事を後悔した。

「…ありがとう、ぺんこう。…私、もっとしっかりとしないとね…。
 これ以上、真北さんや、ぺんこうのように、哀しむことのないように
 笑顔で楽しく過ごせるように…、この世界を変えないとね…」
「い、いや、その…組長。私のことは、心配なさらないでください…!!」
「…あの時の電話の相手…真北さんだったんだ…」
「へ?!」

ぺんこうは、真子の脈絡のない言葉に、変な声を上げてしまった。

「…私が、まさちんの正体のことで悩んで、ぺんこうの通う大学まで
 行った後、ぺんこうの家で、私、寝入ったでしょ? その時の電話…」
「すみません…。まさちんのこと、お知らせしないと…と思いまして…」
「あぁぁ、もぉ、ぺんこうぅ〜!!」

真子は、何故か怒っていた。
ぺんこうの心に出たモヤに対してだった。またまた、心を読んでしまった真子。

「すみません…。暫く、お待ち下さい…」

ぺんこうは、息を整えていた。そして、気を集中させて、真子を見つめた。

「もう、大丈夫ですから。組長は、どうですか?」
「…少し…元気になった。ぺんこう、ありがとう」
「安心しました。…もう、無茶はしないように」
「はい」
「遊びも程々にしてくださいね」
「はい。…って、私、これでも大人なんだけどなぁ〜」
「四月からは、四回生ですね。…早いですねぇ〜」

ぺんこうは、しみじみと言った。

「自分でもびっくりしてる」
「単位の方は?」
「全部取った。だけど、まだ、おもしろそうな講義があったから、
 それを受けるつもり」
「そうですか。がんばってください」
「うん」

真子は、微笑んでいた。そして、体調もよくなったようだった。
ぺんこうから、力を分けてもらっていた。

ぺんこうの胸に顔を埋める。
この行為は、真子が、ぺんこうに慣れ、笑顔を向けるようになってから、よく行われる光景だった。
ぺんこうの胸は、なぜか落ち着く……真子は何かに悩んだとき、勇気をもらうために、ぺんこうの胸を借りていた。

何か悩んだときは、いつでもお貸しします。

それは、ぺんこうが、真子に約束したこと…。


『ぺんこう、ご飯できたよぉ』

階下から、真北の声が聞こえてきた。

「組長、夕食どうですか?」
「食べる!! 久しぶりの真北さんの手料理でしょ? 楽しみにしてたもん」
「私も何年ぶりでしょうか…」
「ほな、行こかぁ」

真子は、とびっきりの笑顔をぺんこうに向けた。ぺんこうは、それに負けないくらいの素敵な笑顔を真子に返してくる。

「…真北さんにも、そうしたら?」
「嫌ですよ」

ぺんこうの心に根付いていること…。

裏切りに対する真北へ怒り…。

真子が、ふと、ぺんこうの心を読んでしまった時に感じていたモヤ…。真子は大きくなるにつれ、それが、なんだったのか、理解できるようになっていた。
それは、真子も気にしている事。
真北とぺんこうの関係の修復…。
二人の間にできた溝…。それの原因は……。

「頑固だなぁ」
「組長に言われたくありませんね」
「うわぁ〜、頑固トリオで夕飯…なんか、こわぁ〜」
「…想像したくありませんよ…」

真子とぺんこうは、ふざけながら、リビングへ入っていった。 そして、静かな頑固トリオの食卓風景が……。



リビングでは、真北がソファに座って、お茶をすすっていた。
台所では、ぺんこうが、後かたづけをしていた。汚れ一つ残さずに、ピカピカに仕上げている。

「これで、怒られないだろ」

そう言って、台所からリビングへ移った。

「それで…。組長は?」
「逆の立場でしたら、同じ様な行動をとっているでしょう、と
 お聞きしたら、少しは納得されたようですよ」
「そんなことがあったとはな…。やはり、ちさとさんの話を
 した方がいいのかな…」

真北は、湯飲みをつついていた。

「それは、あなたの心次第ではありませんか?」
「俺の…心…か。そうだよな…」

真北は、考え込んでしまう。

「その…組長の体力のことですが、細胞の弱体化ですか…」
「再生能力が劣っているそうだよ。それも、普通の人よりも…な」
「あの能力自体のバランスが、未だに保たれていないということ
 ですか? …私は、文献を読んだことないので、はっきりとは
 わからないのですが…。…図書館で能力の事を調べている
 組長は、そのことを御存知では、ありませんか?」
「これは、海外の文献にしか、載っていないことだ。
 津田でも知らないことだろうな…」

真北は湯飲みを、そっとぺんこうに差し出した。ぺんこうは、何も言わずに、真北の差し出した湯飲みにお茶を注ぐ。




その日の夜。
AYビル。
まさちんとくまはちは、三十八階からエレベータで降りていた。それは、二階で停まる。ドアが開き、二人はとある店を目指して歩いていった。
二人が立ち止まったのは、むかいんの店。ドアには、すでに閉店の札が掛かってあった。そんなことは気にせずに、二人は、中へ入っていった。

「むかいん、置いていくぞぉ。未だかよぉ」
『もう少しぃ〜!』

厨房の方から、むかいんの声が聞こえてきた。そして、厨房の電気が消え、むかいんが出てくる。

「悪い、悪い。明日の仕込みに手間がかかった」
「ほな、帰るで」

まさちんが、言った。

「…どっちの運転?」

むかいんが、尋ねたら、まさちんが、自分を指さしていた。
むかいんは、怪訝そうな表情になる。しかし、その顔は、直ぐにホッとした表情に変わった。
なぜなら、まさちんの手を払いのけ、くまはちが、自分を指していたからだった。


「…なんで俺の運転、嫌がるかな…」

まさちんは、後ろの席でふくれっ面になっていた。

「体が自然と避けるみたいや…」

助手席に座るむかいんが、思いっきりくつろいだ感じで言った。

「そんなことより、昼間は、えらいことしてくれたな…」

むかいんは、怒気をはらませて言った。

「しゃぁないやんか。組長を捜し回っていた身にもなれよぉ」

まさちんが、運転席と助手席の間から顔を出して、むかいんに言う。むかいんは、まさちんの額を叩いた。

「いてっ…なんだよ…」

まさちんは、ふくれっ面になった。

「客が怖がってたんだよ」
「俺には、むかいんの方が、怖かったぞ」

むかいんは、くまはちを睨んだ。

「久々に聞いたよなぁ」

くまはちは、懐かしむような表情をしていた。

「俺は、初めてやろな…。あっ、一度だけあるぞぉ。記憶が遠くに
 行っていた時かなぁ」
「のんきに言うなよなぁ。あの時は、ほんまに大変やったんやぞ。
 あぁでもせな、よしの達が動き出すところだったんやで」
「…しかし、俺も、あれくらいで、気を失うなんてなぁ」
「…お前なぁ、十一発も弾喰らって、平気な顔して組長を迎えに行って
 みろ…。恐ろしくて誰も近寄らなんで。俺でも怖いわっ」

くまはちが、左にウインカーを出しながら言った。

「何言うてんねん。頭蓋骨陥没のまま、敵を倒して、
 車で逃走する奴の言葉かよっ!」

まさちんが言うと、

「お前らなぁぁぁっ〜」

なぜか、むかいんの機嫌が悪くなった。
それを感じ取った二人は、思わず口を噤んだ。
そして、車は、自宅に到着。駐車場に停め、三人は、揃って家に入っていった。



リビングでは、真北とぺんこうが、真子のことを話していた。

「しばらくは、学業に専念するように言うつもりだよ。
 四月から、四回生。あと一年だな…」
「早いもんですね。あれから、三年経ったんですか…」
「あぁ」

二人は、しみじみと語っていた。

「…組長、卒業後のことを考えているんでしょうか…」

ぺんこうが、思い出したような口調で言った。

「そんな話…していないな…。でも、AYAMAの仕事があるから、
 そっちに専念するだろうな」
「組長が、どこかの企業に就職したら、それこそ、やっかいですよね」
「上司が嫌がるだろうな」

真北が、少し嫌みったらしく言った。

「そんなこと、ありません。仕事をやり過ぎて、困らせるだけですよ」
「先輩に嫌がられるわけか」
「…真北さん、あくまでも、組長が他の企業で働くことを
 反対するおつもりですね…」
「…どこも雇ってくれないだろ…。五代目…という肩書きがある限りな…」
「…そうですね…。これから、どうなるんでしょうか」
「俺には、さっぱりわからないな…。帰って来たようだなぁ」
「三人揃ってますね…」

ぺんこうの言うとおり、まさちん、くまはち、むかいんの順でリビングへ入ってきた。

「お疲れ」

真北とぺんこうが、同時に言った。

「ただいま帰りました」

まさちん、くまはち、むかいんは、声を揃えて応える。

「組長は?」

まさちんが、真北に尋ねた。

「部屋で寝てるよ。…って、まさちん、待て」

真子の部屋へ向かおうとしていたまさちんを引き止めた真北。真剣な顔をしていた。

「お前らにも話がある…」

真北の言葉で、まさちん、くまはちは、ぺんこうの隣に座った。むかいんは、台所で、それぞれの飲み物を用意し始めた。


真北の湯飲みにお茶が、足された。
むかいんは、まさちんの前にはアップルジュース、ぺんこうの前にはホットコーヒー、くまはちの前には、ミネラルウォーターを置き、そして、自分の前には、紅茶を置いた。
それぞれが、飲み物を口にし、一息ついた時だった。
真北がゆっくりと話し始めた。

「組長の体調だけどな…、体力の回復が遅いことは知っているよな」

四人は頷いた。

「橋からの連絡だと、組長の細胞の再生能力が
 通常よりも劣っているということだ。それが、関わっているらしい。
 そこで…。組長にはあまり、負担を掛けないように
 気を付けて欲しいんだよ。組関係は、まさちん、
 AYAMA関係は、くまはち…お前らが組長に代わって、
 暫く、進めて欲しいんだよ」
「組長は、学業に専念してもらう…ということですね」

まさちんが、真北の言いたいことが解っているかのような感じで言った。

「あぁ。…頼んだよ。…それと、くまはち…」
「はい」
「お前、何を調べている? 橋んとこで、あの時、交代しなかったら
 徹夜だったろ? …何を調べているんだよ」
「…そ、それは…」
「俺に言えないことだったら、それ以上、進めることは許さないぞ」

真北は、低い声で言った。

「…阿山組を密かに探っている輩がいるそうです。
 それも日本ではなく、海外の者が…」

くまはちは、諦め混じりに応えた。

「一体、阿山組の何を探っているのか、それを調べているんですよ」
「…それは、俺も知っているよ。組長の能力に関する文献を調べている時に
 その情報も入っていた。しかし、危害を加えるような素振りは見せてない
 から、それ以上は、調べていなかったんだが…。お前らに知らせる必要も
 ないと思っていたんだ」

真北は、くまはちを見つめた。くまはちは、真北に応えるような表情で語っていく。

「確かに、危害を加えようという感じではありませんでした。
 それでも警戒していて、損は無いと思います」
「だけど、あまり無茶はするなよ」
「それは、約束できません」

くまはちは、力強く言った。

「なぜだ?」
「…組長をあの時のように…哀しませたくありませんから…。鳥居の事件…。
 俺は、遅れを取ってばかりだった…。いつの間にか、俺は、組長の言葉に
 甘えていた…。ボディーガードだけど、自分を危機に陥れてまで
 守らないで欲しい…組長は、そう、おっしゃった。その言葉に、甘えて
 いたばかりに…鳥居に関する情報…遅れを取ってばかりだったんだ…」

くまはちは、目を瞑った。

「それでは、駄目なんですよ。一歩、…いいや、それ以上、先を知ってこそ
 組長をお守りできるんです…。先手必勝…そう言うことですよ」

くまはちは、真北を見つめる。その目には、揺るぎがない。

「くまはち…。お前の仕事は、確かに組長を守ることだ。だけど、組長は
 無茶をしてまで、守ってくれとは、言っていないんだぞ…。
 組長の為に、生きてこそ、組長を守っていることになる…」
「俺は、簡単に倒れませんよ。自信ありますから。それに、組長を
 守るのは、俺だけではありません。…まさちんが居ますから。
 俺は、俺なりの方法で組長を守ろうと決心したんですよ。
 ですから、今回のように、阿山組を調べるような輩のことは
 把握しておこうと思っているんです。どんな形で関わってくるか
 わかりませんから…」

さらっと言い放つくまはちに、真北は、何かを感じていた。

「それで、どうなんだ?」
「…正体が掴めないんですよ。なかなか手の内を見せない…。
 それが、返って、不気味なんですよ…」
「そうか…。その資料、俺にも見せてくれ。俺からも調べておくよ」
「…ありがとうございます」

くまはちは、深々と頭を下げていた。

「あの時の二の舞は、しないでくださいね、真北さん」

ぺんこうが真北を見つめ、静かに言った。

「わかってるよ」

真北は、静かに返事をする。
二人の間には、見えない絆があった。

「…真北さん、組長の送迎ですけど…」

まさちんが、思い出したように口を開く。

「それは、お前がするんだろ?」
「組長の許可を取らないと…嫌がりますから…」
「そっか…。…それは、俺から言っておくよ」

真北は、頭を掻きながら言った。
暫く沈黙が続く。
それぞれが、飲み物に手を伸ばし、同時に飲み干した。

「…むかいん、おかわり」

まさちん、ぺんこう、くまはちは、同時に言った。

「はいはい」

むかいんは、それぞれのコップをお盆に乗せ、立ち上がる。
真北は、湯飲みにお茶を注いだ。…急須からは、ほんの数滴しか、お茶は注がれなかった。
真北は、静かに、むかいんに急須を差し出す。
むかいんは、静かにそれを受け取り、それぞれのおかわりを用意し始めた。

リビングでは、男達が、顔を寄せ合って、話し込んでいた。
それは、なぜか、異様な光景に見えた……。




空気がピンクに染まる頃。
真子は元気に通学中。
まさちんは、ふくれっ面で組関係の仕事、くまはちは、嬉しそうにAYAMAの仕事に精を出していた。

「くまはちさん、これ、どう思います?」

真子の代わりに、企画書に目を通すのは、くまはちの仕事だった。駿河が差し出した企画書に目を通すくまはち。
眉間にしわが寄っていた。

「…駿河さん…。やはりこれは、駄目ですよ…」
「そこを何とか…。経験豊かなくまはちさんの意見が必要ですから…」
「…お断りします。私の力は、組長の為のものですから」

一体、駿河は、くまはちに何を頼んでいるのか……。



ピンクの絨毯の上に立ちつくす真子は、ボォッとしていた。

大学のロータリーに高級車が停まる。そして、まさちんが降りてきた。

「…組長??」

車から降りたまさちんは、真子の姿を探して、辺りを見渡していた。

「組長!」

桜の木の下で、立ちつくしている真子を見つけた。

「組長…??」

まさちんは、真子を見つめていた。
真子は一向に動く気配がない。

「まさか、体調を…?」

まさちんは、車のエンジンを止め、真子に駆け寄った。

「組長! どうされましたか?」
「……ん…? …まさちん…?」

真子の目は、どことなく現実から離れたところを見ているような雰囲気だった。しかし、まさちんの姿を見て、我に返ったのか、にっこりと笑ってまさちんを見つめた。

「どうしたの?」
「…いいえ、その、どうしたのは、私の方ですよ。ここで、何を…」
「ピンクの絨毯が綺麗だな…と思って……」
「そうでしたか…」

まさちんは、安心した表情をする。

「どしたん?」
「へ?」

二人の話は、かみ合っていない…。
どことなく、可笑しく思ったのか、二人は、笑い出してしまった。

「帰りましょう」

まさちんが、真子に優しく語りかけた。

「うん」

真子は、素敵な笑顔でそれに応え、そして、二人は、車に乗って帰路に就いた。家に着くまで、真子は、組関係の書類に目を通して、そして、サインをしていた。

「…まさちん、間違ってるで」
「ど、どこですか??」
「ここ」

真子は、後ろの席から、間違っている箇所に印を付けた書類をまさちんに差し出した。まさちんは、運転しながら、書類に目を通す。
赤信号で停まった。

「…すみません…すぐに訂正しておきます」

まさちんは、書類を助手席に置いて、車を発車させた。

「…やっぱり、組関係も、やるぅ〜。これじゃぁ心配やぁ」

真子が嘆く。

「駄目ですよ。私がやるように言われてますから」

それに反論するかのように、まさちんが力強く言うが、

「だったら、間違いないようにしてよねぇ〜」
「以後気を付けます…」

まさちんは、ふくれっ面に。
まさちんのふくれっ面をルームミラーで観た真子は、思わず微笑む。

「ふてくされてるぅ〜」
「してません!!」
「してるって!!」
「して…ふぎゃぁん!組長ぅ〜!!!」

もちろん、いつもの通り、車は蛇行する……。



(2006.3.16 第三部 第三十五話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
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※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
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 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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