任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第三十八話 それぞれの願い

八月。
真子の夏休み…相変わらず組の仕事に、AYAMAの仕事…学業を休んで、真子は、張り切っている。組同士の争いもなく、平穏無事な日々が続く……。

「最近、聞かないけど…」
「何がですか?」
「敵対している組が、狙ってる…という話」
「そうですね…。この暑さで誰も争おうと思わないんでしょう」
「そんなもんなん?」
「そんなもんでしょ」

軽く言ったまさちん。実は、全く違っていた。
水木が仕掛けた喧嘩。撫川組とのもめ事は、一段と増してしまった。

真子に負担を掛けるな。

真北が、まさちんやくまはち、そして、関西幹部達に言った言葉。
その言葉通り、裏では、厄介なことになっているなんて…誰も真子の前では言えなかった。

「今日は調子がいいから、水木さんとこに行こう!」
「へ?! 水木さんとこって…お店ですか??」
「うん」
「…ミナミ…か…」
「…何か不満でもぉ? 最近、平和な街なんやろ? だったら、ええやん」
「…わかりました…水木さんに連絡しておきます」

真子は、嬉しそうな顔をしていた。その反面、まさちんは、不安な顔をしている…。

まだ、やばいよな…。





夜・ミナミの街。
真子は、まさちんの車で、水木の店に乗り付けると、水木が出迎える。

「いらっしゃいませ」
「水木さぁん、何も出迎えなくてもいいのにぃ〜」
「たまには、よろしいかと」

水木は、素敵な微笑みを真子に送っていた。そして、真子を店に招いた。

そんな真子の姿を見つめる怪しい気配があったことは、誰も気付いていなかった。


真子は、カウンターの奥に座った。その横に、真子をガードするような感じでまさちんが座る。

「今日も、水木さんのお薦めね!」
「かしこまりました。…まさちんには、なしやで」
「俺にも」
「また、酔いつぶれたら、誰が家に連れて帰るんや?」
「ま、そうやな。…アップルジュース」



数人の客が入れ替わり、かなり時間が経った。客も少なくなったことで、水木が真子の前にやって来た。

「今夜も忙しいんだね」

真子が、水木に尋ねると、

「平穏無事。そんな街ですから。みなさん、くつろぎに来られますよ」

水木は、素敵な笑顔で真子に応えた。

「おかわり、どうですか?」

真子は、頬を赤らめながらも、かわいく頷いた。
水木は、真子のグラスにワインを注ぐ。

「真北さん、謹慎中だとか」
「飲酒運転だってぇ。でも謹慎中といいながらも、忙しそうだよ」
「そうでしょうね。あの人は、休むという事を知らないんでしょう」
「いくら頑丈でも、いつかは疲れるのに」

真子は、ワインを一口飲んだ。

「んーーーーー!! うまい!」
「ありがとうございます」
「水木さん、最近、元気ないみたいだけど、何か遭った?」

真子の質問は唐突だった。
水木とまさちんは、真子の質問に、顔を見合わせる。まさちんが、慌てたように応えた。

「…そんな感じには、見えませんよ、組長」
「そう? …私の勘違いかなぁ」
「組長の方が、お疲れなんですよ」
「私は、自分の限界を見極めたもん」

真子は、にこやかに言った。

ばれてないよな……。

まさちんと水木は、目で語り合う。



水木の店の前が、異様な雰囲気に包まれていた。
路地という路地に、男が身を潜めている。そんなことに全く気が付かず、真子は、水木の店で、楽しく話し込んでいた。

「組長、お楽しみのところ大変申し訳ありませんが
 そろそろ…。その…明日のことも考えて…」

まさちんは、少し困ったような表情で真子に言う。

「オールナイトぉ〜っ!!! ねぇ、ねぇ。
 まさちぃ〜ん、お・ね・が・い!!」

真子は、まさちんにウインクしていた。その姿に、まさちんは、硬直……。

「…組長…。ほんまですね。まさちん…。くっくっく…はっはっはっは!!」

水木は、真子に悩殺されたようなまさちんをみて、笑いを我慢できずに吹き出してしまった。

「…み、水木さん…、組長…!!!!」

水木と真子の策略に気づいたまさちんは、真子の後ろから、耳を引っ張った。

「まさちん、痛いって!!!!」
「いい加減にしてください!」
「やだもぉん。まさちんのリアクション、おもろいもん。ね、水木さん!」
「そうですね」
「水木さんまで〜」

そう言ったまさちんの頬を引っ張る真子。まさちんも負けじと真子の頬を引っ張っている…。
いつものように、じゃれ合う二人を楽しそうに眺めている水木だった。

ほんま、恋人同士…っつーよりも、猫のじゃれ合い??

水木は、自分の考えに、吹き出すほど笑っていた。



「ほな、またねぇ〜。水木さん」
「組長、お気をつけて! ……!!」

笑顔で真子を見送りに出てきた水木は、周りの異様な空気が気になった。

「まさちん…」

真子は、まさちんに目で合図する。
まさちんと水木も異様な空気に気がついていた。
そして、三人は、一斉にばらけた。その三人を追うように路地裏に隠れていた男達が出てきた。
男達は、真子だけを追っていく。



真子は、人気のないところへ走ってきた。

「ちっ、行き止まりかぁ。……!!!!」

真子は、目の前の壁を叩き、近づく足音に振り返った。

「…まさちん」
「ご無事でしたか」
「無事も何も、何だよぉ、いきなり。平穏な街になったんと違うんかぁ〜」
「だから、水木さんがおっしゃったんですよ。平穏な街でも、外見だけで
 何が起こるかわからないと…。組長の考えに反発する輩がいるからって」
「ったくぅ、隠してたやろ?」

真子は、まさちんを睨む。まさちんは、何も言えず、真子から目を反らすだけだった。

「…って、もめてる場合やないな…」

男達の足音が迫ってきた。

「しゃぁないかぁ…出口は、あっちしかないもんなぁ」

真子はそう呟いて、まさちんと一緒に足音の方へ向かって行った。
真子とまさちんの歩みが止まった。
二人の目の先には、異様な雰囲気を醸し出す男達が立っていた。
その手には、何か光る物が、しっかりと握りしめられている。
まさちんは、真子の前に出る。

「まさちん、無茶したら駄目だよ」
「…組長をお守りするのが、…私の生き甲斐だと
 申し上げませんでしたか?」

まさちんは、笑顔で真子に言った。

「まさちん…」

真子は、呆れたような顔をしたが、すぐに、笑顔に戻った。

「じゃぁ、たまには、お世話になりますか!」

真子は、まさちんに言った。

「…いつもですよ…」

まさちんは、真子にウインクした。
真子は、サムズアップで、それに応えた。
敵は、四人。
だけど、真子とまさちんには、余裕があった。

「うりゃぁ〜〜っ!!!!!」

かけ声と共に、男達は、手にしたドスを真子とまさちんに振りかざし、襲い始めた。
真子とまさちんは、お互いに守備・攻撃と、交合に華麗な技で敵を一人、また一人と倒していく。

「ふぅ〜」

真子とまさちんは、お互い顔を見合わせて、微笑んだ。
残りは、二人。
真子とまさちんは、それぞれの敵と向き合っていた。

「組長、手加減してはいけませんよ」
「まさちんこそ」
「では」
「OK!!」

二人はまるで、戦うことを楽しむかのような顔で、敵に向かっていった。



水木は、走っていた。

「くそっ…組長は、何処まで…!!!!」

水木は、路地から聞こえてくる物音にふと目をやった。

「…組長……」

水木の目は、凝視した。
敵と戦う真子の姿が、あまりにも華麗で、光っていたのだった……。

「…真北さんの言う通りやな……って、組長、体力…!!!」

水木の心配した通り、真子は、体力の限界に達したのか、息が上がっている様子……。

敵が下から斬り上げた。

「きゃっ!!」

真子は、服を切られただけだったが、弾みで地面に横たわってしまった。
真子は、直ぐに、敵に顔を向けたが、敵は、真子の目の前まで来ていた。
敵の男は、真子を見下ろし、口の端を不気味につり上げ、手に持つドスを真子目掛けて振り下ろした。

「組長!」

敵をねじ伏せていたまさちんが、真子の危険に反応し、手を弛めてしまった。

ドサッ…。

真子を狙った敵は、真子の真横に倒れた。
真子は、目の前にいる人物を見て安心する。

「水木さん…。ありがと」
「…組長、ご無理なさらないようにと申し上げませんでしたか?
 それに、私の仕事…取らないでくださいね」

そう言いながら、水木は、真子に手を差し伸べる。
真子は立ち上がった。そして、水木と二人で、まさちんの方を見た。
まさちんは、真子の無事を確認し、戦闘態勢に戻った。しかし、相手は、まさちんが手を弛めた隙に、まさちんから離れ、落ちていたドスを手にして、まさちんにかかっていった。
容赦ないドスの攻撃。
まさちんは、守りの体勢しかとれなかった。
まさちんが、ちょっとした隙を見せた。
相手は、そのスキを見逃さなかった。

ズブッ…。

ドスがまさちんの腹部に刺さる。
不気味に笑いを浮かべる敵だったが、それは、直ぐに恐怖の表情へと変化した。

「…だから?」

まさちんは、敵よりも、不気味な笑みとその眼差しを向ける。
そんなまさちんに一瞬気を緩めた敵。
まさちんは、そのスキを狙って、目にも留まらぬ速さで、相手を打ちのめした。
…まさちんの腹部は、血で赤く染まっていく。なのに、平気な表情で立つまさちんだった。
その敵が最後の一人の様子。

水木達は、店の前に男達を引きずるように連れてきた。その時、パトカーのサイレンの音が響き渡たり、刑事達がやって来る。そして、うずくまって倒れている男達を次々と連行していった。
水木は、その様子を見届けていた。

「えっ?」

水木は、目の端で青く光ものを感じた。

「組長? 組長? …だから…私のことは…!」
「…いいってことよ…」

振り返る水木は、驚く光景を目の当たりにし、身動きがとれなかった。
腹部を刺されたはずのまさちんが、何事もなかったような表情で、真子を支えて叫んでいた。
そんなまさちんの腕の中で真子は、静かに眠っていた。
我に返った水木は、二人に駆け寄る。

「まさちん、お前、腹の傷…。…ま、まさかと思うけど、組長の…」
「水木…」

まさちんは、真子を見つめたまま、

「このことは、…誰にも言わないで欲しい…。これは、…組長命令だ」

水木に言った。

「しかし、まさちん、組長の能力は…」
「…あの日以来、消えてしまったんだよ…」

その声に、水木は何も言えなくなる。
確かに自分の目には、青い光が映っていた。
それが、何を意味するかも解る。
なのに……。
まさちんは、真子を抱えて立ち上がり、近くに停めてあった車に乗り込み、去っていく。
水木は、いつまでも車を見届けていた。

「いくら、組長命令でも…、それは…。なぜ、組長は、隠したがるんだよ…」

水木は、ため息をついて、店に戻っていった。



「…お…かぁ…さん…」

車の中で、真子が呟いた。
まさちんは、まただ…という表情をして、真子を見つめた。
理子との仲が戻ってから、寝ているときに時々、呟いている言葉。
その事に対して、解決したように思えたが、それは、まだのようだった。

再発…? それとも、治っていない…?





真北が、帰ってきた。

「組長は?」

リビングの明かりに吸い込まれるように入っていき、焦るように尋ねる真北。
ミナミでの出来事を耳にして、予定より早く帰ってきたのだった。

「部屋で寝てます」
「…特に変わったことはないよな?」
「えぇ。…今日は、水木さんの店ではしゃぎ過ぎていたところに、
 あの出来事でしたので疲れてぐっすりですよ」
「本当に、大丈夫なのか? …その、怪我…」
「ご心配なく」
「…そうか……」

真北は、まさちんの言葉を信じ、自分の部屋へ向かっていった。
まさちんは、真北がリビングから出て行くまで真北の様子を伺っていた。そして、大きなため息をついて、立ち上がった。


すっと真子の部屋へ入っていくまさちん。

「…まさちん…」

真子は、目を覚ましていた。
体力が劣っていたため、起きあがることが出来ず、ベッドにゴロゴロしていた。

「真北さん、帰ってきたんだね。で、なんか言ってた? その…ミナミの…」
「…組長の事を心配なさっていただけですよ。…どうですか?」
「起きあがれない…かな」
「…組長こそ、無茶なさらないでください。体力だって、まだ、
 回復しておられなかったのに、あれだけ暴れ回って…」
「ごめん…。すっかりいつも通りだと思って行動していたんだもん…。
 気をつけるよぉ〜」

真子は、布団から目を出してまさちんを見つめていた。

「そんな目をしても駄目ですよ。真北さんに怒られるのは
 組長ですから」
「…ぶーーー」

真子はふくれっ面になってまさちんを見つめていた…そのまさちんの後ろから、真北が覗いていた。

「組長、調子はどうですか?」
「…ごめんなさい……」
「もう、充分反省されたんですね?」

真子は、頷く。

「…なら、怒りませんから。…ごゆっくりお休み下さい」

真北は、笑顔を真子に送り、まさちんの襟首を引っ張って、まさちん共々、真子の部屋から出ていった。
真子は、すぐに眠りについた。


廊下では、真北が、まさちんを睨んでいた。そして、襟首を掴んだまま、リビングへと降りていった。
リビングに放り込むようにまさちんを投げた真北は、まさちんに蹴りを入れた。

「ったく、あれほど気を付けろと言っていたやろが!
 今は、撫川一家ともめてると言うのに…。ケリは未だ、
 ついてないんだろ? 組長を襲ったのも撫川んとこの
 若い衆だろ? 水木も、お前も……」

真北はそう言って、大きなため息をして、ソファにドカッと座る。

「…もう、真子ちゃんを任せてられないな…。いくら、真子ちゃんに
 撫川一家とのもめごとを内緒といっても…な…」
「…ようは、撫川とケリをつければ、いいんですよね…」

まさちんは、低い声で言い、鋭い目つきで、真北を睨んだ。

「俺は、知らんぞ。手は貸さんからな」
「解ってますよ。こんなに長引くものは、俺の性に合わないですから。
 …今から行って来ます。…組長は、夜まで起きませんから」

そう言いきって、まさちんは、家を出ていった。
頭を抱える真北。暫くして、何処かへ連絡を取った。



まさちんは、車で撫川一家の屋敷の前にやって来た。
屋敷内は、静まり返っていた。

「…こんな時間に、静まり返るとは…??」

敵かが来れば、直ぐにでも若い衆が駆けつけるはずなのに、誰も出てこない。

確か、門番も居たはず…。
だれも出てこない…。
まさちんは、不思議に思いながらも、玄関から中へと入っていった。

「なに?!!!!!」

まさちんは、柱の影から、床に横たわる男を発見した。
恐る恐る覗くまさちん。

「…先を越されたか…。参ったな…」

まさちんは、廊下を埋め尽くすように倒れている男達を見て、頭を掻いた。
そして、ずかずかと奥へ奥へと入っていく。

ガチャァン!! ドン…。

奥の部屋から、途轍もなく恐ろしい音が聞こえてきた。

『くまはち、俺の分残しておけ!!』
『嫌ですよ。水木さんが、ほとんどやってますよ。俺の分です』
『俺は、気が済まんのや』
『私もですよ』
『うりゃぁ〜〜うわぁ…!!!』
『どうするんですか!!水木さん!!!泡吹いて気を失いましたよ』
『…気が済まん…』

ドス…ドス…バキッ…ガン!!!

「ふぅ〜。…!!!!!…まさちん」

何かをやり終えて、息をついた水木とくまはちは、背後に感じた気配に振り返ったところに、まさちんが居た。

「…何してんですか?」

まさちんは、呆れた様な口調で尋ねる。

「…大掃除」

水木とくまはちは、声を揃えて言った。

「なるほどね…」

まさちんは、辺りを見渡した。
この部屋は、撫川親分の部屋。部屋の床を敷き詰めるかのように、若い衆が気を失って横たわっていた。
水木とくまはちが、向いている方には、撫川親分らしき人物が、上半身が壁に突き刺さり、だらりとしていた。

「くまはちが…?」

まさちんは、その人物を指さして尋ねた。くまはちは、水木を指す。

「俺の分は?」

まさちんは、再び尋ねた。

「俺の分もないのに、あるわけないやろ」
「さよかぁ。しかし、どうすんねん。後始末」
「…そこまで気が回るかいな」

水木は、服を整えながら言った。

「組長の具合は?」
「今日一日寝てたら、大丈夫や。真北さん、帰ってきたしな」
「早いな」
「昨夜の事件を聞いたら、誰だって早く帰って来るよ。…あっ。
 結局、真北さん…連絡したんだな…。行くぞ」

まさちんの言葉に水木とくまはちは、素早くその場を去った。
三人と入れ替わるように、原たち警察が乗り込んできた。
原は、携帯電話で連絡を取りながら、様子を伺っている。

「遅かったですよ。…でも、まさちんさんじゃないようですね」
『水木やろ。ええから、そいつら、連行しとけ』
「はぁ。…一人、壁に突き刺さってますよ。…撫川ですわ」
『水木で確定やな。首、へし曲がってる奴おるか?』
「はい。三名ほど」
『くまはちも一緒やな。…ったく、あいつらは…。原、頼んだぞ』
「はい」

原は、電源を切り、警察達に指示をしていた。

その頃、撫川一家の屋敷の塀を飛び越えて、くまはち、まさちん、水木が出てきた。

「あのなぁ、俺は、お前らみたく身軽とちゃうで」
「しゃぁないでしょ。ここからしか逃げられないんですから」

くまはちは、楽しかったような表情をしている。

「ほんま、くまはちは、喧嘩好きやな」
「暴れるのが好きと言ってやってください」

まさちんが、代わりに返答した。
くまはちは、軽くまさちんに蹴りを入れた。

「さ、帰りますよ」

まさちんの声と共に、それぞれが、それぞれの車に乗り込み、撫川一家の屋敷から去っていった。
そして、撫川一家とのもめごとは、終結した…。





真子の自宅。
真北は、リビングで、眉間にしわをよせて座っていた。

「…で?」

真北の前には、くまはちとまさちんが、項垂れて座っていた。

「俺が駆けつけた時には、すでに終わってました」

まさちんが、ふてくされたような言い方をした。

「俺が到着したと同時に、水木さんが到着して…、二人で話をしながら、
 中へと入っていきました。途中で、何名かが、仕掛けてきましたが、
 どうやって倒したのか、記憶にありません…」

くまはちは、首を傾げながら言った。

「水木と言い争いながら、拳と蹴りを見舞っていただけやろ。
 それも、無意識に…な」
「はぁ。恐らく……」

真北の言葉に恐縮するくまはち。

「はぁ〜〜」

真北は、ため息をついて、呆れたような表情をし、湯飲みに手を伸ばした。

「いい加減にしてくれよぉ。俺の仕事を増やすなよ…なぁ」

真北は、疲れたご様子。

「すみませんでした…」

まさちんとくまはちは、同時に言った。

「まさちん…明日の予定は?」
「ビルで組関係です」
「組長に知れないようにしろよ。体調も優れないようだからな」
「すみません。気を付けます」
「くまはちには、話がある」
「はい」

そう言って、真北とくまはちは、リビングを出ていった。そして、真北の部屋へ入っていった。




次の日の朝。
AYビルに到着した真子は、案の定……

「海…嫌いだもん」
「まさか、真子ちゃん泳げない??」
「…水に浸かると言えば、温泉くらいかな…。授業は見学だったし…」
「スポーツ万能の真子ちゃんの弱点発見!!」
「格闘技なら、大丈夫やけど…」
「他に苦手なの、あるんちゃうん?」
「…う〜ん……」

真子は、ビルの受付嬢・ひとみと話し込んでいた。
夏なのに、何処にも行かないで、仕事三昧の二人。そんな二人の憩いのひととき…を阻害する人物…。

「組長……」

真子の真後ろに、まさちんが、仁王立ち。そして、真子の襟首を掴んで、エレベータホールへ……。

「あはは…相変わらずですね…ほんと」

そう言うひとみの後ろには、ひとみの上司が、こめかみに怒りのマークを付けて、腰に手を当てて、立っていた。

「あっ……」



真子とまさちんは、エレベータに乗っていた。

「ちゃんと連絡してくれた?」
「えぇ。でも、忙しいそうで…」
「やっぱしなぁ…。水木さんを交えてAYAMAの話したいのにな。
 しゃぁないな。明後日の幹部会で話すよ」
「はぁ」

まさちんの煮え切らない様子が、真子には、少し気がかりだった。



真子の事務室。
真子は、山積みになっている書類に目を通していた。
全く疲れを見せない真子。
事務仕事では、それ程体力を使わない様子。

「ふぅ〜。終了…」

真子は、デスクに肘をついて、一点を見つめていた。
その頃、まさちんは、本部からの連絡を受け、目を丸くしていた。

「まさちんからも、幹部に言っておいてくれ。
 もちろん、組長と真北には内緒や」

山中の言葉だった。
まさちんは、ため息をついて、受話器を見つめる。そっと受話器を置いて、自分の事務室を出ていった。

「失礼します」

まさちんは、真子の事務室へ入っていった。

「組長、そろそろ…って、組長…仮眠中…ですか。では」

そう呟いたまさちんは、真子のデスクに山積みになっている書類を全て手に取り、ソファに座ってチェックし、仕分けをする。
仮眠室を覗くと、真子は、柔らかい表情で眠っていた。

「お疲れさまでした」

まさちんは、静かに事務室を出ていった。



須藤組組事務所。
まさちんに手渡された書類に、須藤が目を通す。

「ありがと。これで、なんとか、先に進むよ」
「宜しくお願いします」
「…水木、やってくれたみたいやな」

須藤が、静かに言った。

「えぇ。私の分なしでしたよ」
「しゃぁないやろ。あいつは、自分のことは自分でやり通さな
 気ぃ済まん奴やからな。元はあいつが悪いんやし」
「そうですけどね」
「ほっといたれや」
「はぁ、まぁ」

煮え切らない返事をするまさちんを観て、

「…まさちん、疲れてるんちゃうか?」

須藤が尋ねる。

「ん? 大丈夫ですよ」
「何か、悩み事あるんか? 組長のこと?」
「まぁ、そうですけどね…」
「体調がええんやったら、一平に頼むんやけどなぁ。…チケットあるし。
 …まさちん、いるか? 最近、観てへんやろ?」
「…ちゃんと観てますよ。欠かさずね」
「ええやつ多いからなぁ、ここんとこ。…お疲れは、観すぎが原因か?」

まさちんは、ただ、微笑んでいるだけだった。

「まぁ、ええけどな。お前まで倒れたら、厄介やからな。
 気ぃ付けてくれや」
「ありがとうございます。では。これで」

須藤は軽く手を挙げて、まさちんを見送った。
須藤組組事務所を出たまさちんは、ゆっくりとした足取りで、AYAMAの階へ降りていく。

「まさちんさん、こんにちは。…書類ですか?」

AYAMA社の社員・八太が、まさちんの姿を見て、声を掛けた。

「サイン待ちの分と、組長からの新案です」
「…まさちんさん、例の件なんですけどね…くまはちさんから
 何か聞いてませんか?」
「聞いてるよ。俺も反対。やっぱり、組長にお願いします」
「…やっぱり駄目ぇ〜??」

AYAMA社の事務所の奥から、駿河が残念そうに言った。

「経験豊かな、お二人の意見を聞きたいだけなんですけど…」
「…私やくまはちよりも、水木さんの方が、豊富ですよ」
「ほんとですか??」

駿河の目が、ランランと輝く。そして、すぐに、事務所を出ていった。

「ほんとに、やる気なんですね。…知りませんよぉ」

まさちんは、去っていく駿河の後ろ姿に語るように言った。

「戦闘もんのゲームは、作らないという約束なんですけど…」

まさちんは、頭を掻いていた。



真子は、まだ、眠っていた。
まさちんは、そっと仮眠室のドアを閉め、時計を見た。

「時間だよな…。起きてこないんなら、しゃぁないかな…」

まさちんは、そう言って、帰る準備を始めた。



真子の自宅・真子の部屋。
まさちんは、真子を抱きかかえたまま、真子の部屋へ入り、ベッドに寝かしつけた。
そんな二人を覗き込むのは、ぺんこうだった。

「何や、そのまま帰って来たんか」
「起きなかったからな」
「…大丈夫か?」
「あぁ。熱はない…」
「着替えさせなくても、ええか?」
「…頼んでいいのか?」
「いつものことやろ」

そう言って、ぺんこうは、真子のクローゼットから、猫がプリントされたパジャマを取りだした。そして、真子を着替えさせる。その間、まさちんは、目を反らしていた。

「お前も許されてることなのになぁ」
「…できないよ…お前みたいに…割り切ってないからな」

まさちんは、照れたような感じで、頬を赤らめていた。

「組長、疲れてるんとちゃうか? …やせてるぞ」
「筋力が劣ってるらしいよ。橋先生が言ってた」
「…あれから、回復しきれていないってことか」
「あぁ」

二人は、真剣な眼差しで真子を見つめる。

「う…う〜ん……。…ぺんこう、朝?」

真子が目を覚ました…のは良いが、案の定、寝ぼけていた。

「夕方ですよ」

ぺんこうは、優しく真子に語りかけた。

「具合はどうですか?」
「…???? …ここ、部屋? ビルに居たはずなのに…」
「組長が起きなかったそうで、まさちんは、組長を抱きかかえて
 帰ってきましたよ」
「…これは…。いつもの通り?」

真子は、自分のパジャマを指さして言った。

「えぇ。こいつは、いつまで経ってもやろうとしませんから」
「…昔は、してくれたのに?」

真子は、まさちんを見つめた。
まさちんは、何かに焦るような感じで、真子の部屋を出ていった。

「あれれ??」
「…照れてますよ」
「なんでぇ?」
「……組長…年齢を考えてくださいね…」
「…だったら、ぺんこうは、平気なん?」
「組長は、まだまだ、子供ですから……ふぐっ!!」

ぺんこう、顔面で枕をキャッチ…。
ぺんこうは、枕を真子に手渡す。

「枕は、投げるものではありませんよ」
「どうせ、私は、子供ですよぉだ」
「元気になりましたか? …そろそろ夕飯ですから」
「…お腹空いてない…」
「そう言って、何度食事を抜いているんですか?」

ぺんこうは、真子の目線に合うようにしゃがみ込む。

「食事はきちんと取らないと、体力戻りませんよ」
「うん…」
「私だけでなく、まさちんやむかいん、くまはちも心配しますよ」
「真北さんは?」
「知りません」
「またぁ……」

真子とぺんこうは、微笑み合っていた。
まさちんは、廊下で二人の様子を伺いながら、ふてくされていた…。

「…もう少し寝る…」

真子は、そう言ったっきり、次の日の朝まで眠っていた。



朝。
リビングでは、真北、ぺんこう、まさちん、くまはちが、深刻な表情で顔を付き合わせていた。

「…やはり、組長には、ゆっくりと養生してもらわないと…」

まさちんが、寂しそうに言った。

「…天地山に連れていくか?」

真北が言った。

「しかし、組関係の仕事とAYAMAの仕事に精を出してますよ」

まさちんが、ため息混じりに言う。

「…十月まで、続けるよな…」

真北も、ため息混じりに言った。

「ふぅ〜〜……」

四人が、同時にため息をついた。

「それでな、こないだ、くまはちと話していたんだけどな、
 組長の能力のことを調べているという男に逢おうと思っているんだよ」

真北が、静かに語りだした。

「…海外に行かれるんですか?」

ゆっくりとした口調で、ぺんこうが尋ねる。

「あぁ。…組長の体力が戻る何かが解ればと思ってな…」
「…組長、寂しがりますよ」

ぺんこうは、昔を思い出していた。

「ぺんこうとまさちん、むかいんが居るから大丈夫だろ」
「真北さんと私達は、別ですから…」

ぺんこうの言葉に、誰もが頷いていた。
暫く沈黙が続く。

「兎に角、組長には、負担を掛けないように……!!!」

真北は、突然、目線を移した。

「組長……」

まさちんたちが、呟くように言った。
なんとリビングのドアの所に真子が立っていた。
それも、怒りの表情で……。

「そう言うことだったんだ」
「…何がでしょう」

真北は冷静に言う。

「私に負担を掛けないように? …そんな風に気を遣ってもらわなくても、
 自分の体くらい、自分でって…いつも言ってるでしょ? 組の仕事も、
 AYAMAの仕事も…大学だって、あとは後期の授業だけだから…。
 どれも、私が、しないといけないことでしょう? なのに……」

真子は、そこまで言って息が切れた。

「組の仕事は、私が以前から組長の代わりに行っている
 ことです。組長は、私に指示をしてくださるだけで
 構わないんですよ。なので、私が行います」

まさちんが、力強く言った。

「私は、組長をお守りすることが、本来の仕事です。しかし、
 組長は、それを望んでおられません…。そして、組長は、
 私に新たな事をするように…ボディーガードではなく、
 普通の仕事を勧めてくださいました。ですから、私は
 AYAMAの仕事を頑張っております。駄目ですか?」

くまはちは、真剣な眼差しで真子に訴える。

「まさちん…くまはち……」
「私達は、組長が、毎日を無事に何事もなく、そして、
 楽しく笑顔で過ごせるようにと思っているんですよ。
 今は、体力が劣っているんですから、まさちんやくまはちが、
 それぞれの仕事をするのは当たり前のことですよ。
 組長は、後期の授業に向けて、学業に励むこと。
 それが、今、必要なことですよ」

ぺんこうが、優しく言った。

「…みんなには、それぞれ、好きなことをして欲しいのに…」
「好きなこと、させていただいてますよ」

まさちん、くまはち、ぺんこうが力強く応える。

「組長には、ご自分の事を考えていただきたいんですよ。
 ご自分の好きなことをしていただきたい。
 私達は、そう願っているんですから」

優しく微笑んで、ぺんこうが言った。
しかし、真子は、唇を噛みしめ、俯いている。

何かが可笑しい……。

ぺんこう達は、そう思った。
…それは、的中した。

「私の為に…そんなこと…しないで!!!!」

悲鳴に近い声で真子が叫ぶ。その途端、頭を抱えて、力無くその場に倒れてしまった。

「組長!!!」

まさちん、ぺんこうが、慌てて真子に駆け寄った。
一体、真子に何が起こったのか…?



(2006.3.19 第三部 第三十八話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


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