任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第一部 『絆の矛先』

第九話 どうしても、喧嘩腰!

阿山組本部の門を二人の男がくぐっていった。

「お帰りなさいませっ!」

門番が元気な声で出迎える。その声を聞いた若い衆が玄関に集まり、一列に並んで、深々と頭を下げた。

「お帰りなさいませ!」
「組長は、部屋に居られるのか?」
「はい。まさちんさんとむかいんさんも居られます」

男の質問に応えた若い衆。その応えを耳にした途端、もう一人の男・茶髪の男は眉間にしわが増える。

「そう露骨に現すな」
「ほっといてください」
「ったく、俺にまで冷たく当たるなよ」
「あなたに一番冷たく当たりますよっ」
「あのなぁ」
「何も言わないで下さいっ」
「ちっ」

…と、半ば喧嘩腰に話ながら、二人は真子の部屋に向かって行く。
呆気に取られる若い衆。

「…どうして、いつもあの二人は喧嘩腰なんだろうな」
「真北さんが、ぺんこうさんにべったりしすぎだと思う…」
「真北さんって、組長だけでなく、ぺんこうさんにもべったりと
 してるよなぁ」
「…先代にも、そうだったよな」
「真北さんが注意する人物って、危険人物って聞いてるぞ」
「………やはり、健ちゃんが一目置くほど、ぺんこうさんって、
 凄いんだ…」

若い衆が口々に話し始めた。
先程、喧嘩腰に話ながら去っていったのは、真北とぺんこうの二人。若い衆が言うように、二人は昔っから、喧嘩腰でしか話し合えない様子。一体、何が二人の間にあるのか。若い衆は知らなかった。

「そりゃぁ、ぺんこうさんって、こっちも凄いからさぁ」

若い衆の一人が、日本刀を持ったように手を振りかざす。

「山中さんと肩を並べる程だったっけ?」
「あの日以来、封印してるらしいけどな」
「封印??」
「ほら、真北さんと一度、思いっきり殴り合いしてたろ。あの後」
「へぇ〜。真北さんでも、ぺんこうさんを殴るんだ」
「真北さんが唯一手を出さないのは、組長だけだもんな」
「…だな」

そんな話をしながら、若い衆は、真子の部屋の方に目をやった。

もしかしたら、今頃……。



「真北です。入りますよ」

真北は、真子の部屋の前に立つと同時に、中へ声を掛ける。そして、返事も聞かずにドアを開けて、入っていった。

「真北さん! 前から何度も言ってるでしょう! 返事を聞いてから
 部屋に入って下さいよ!! 組長が、もし……」
「もし??」

真北の行動が常に気にくわないぺんこうが、真北が入っていくのを注意しながら、自分も真子の部屋に入っていった。

「真北さん、お帰り! ぺんこう!! お疲れ様!」
「こんにちは、組長。大阪はどうでしたか?」

ぺんこうは、真北と話している時とは、うってかわって、健やかな笑顔で真子に話しかける。
それには、真子に抑え込まれて床に寝転んでいる、まさちんが怒りを覚える。

「今日は、いつまで?」

真子は、まさちんを抑え込んだまま、ぺんこうと話し続ける。

「今日は泊まりますよ」
「じゃぁ、たっぷりお話して!」
「勉強の方はどうですか? …その…学校の事…」
「真北さんに教えてもらってるから、大丈夫だもん!
 それに、ぺんこうが教えたら、今は…駄目なんでしょう?」
「元教え子に教える事くらいは、大丈夫ですよ。ね、真北さん」
「俺にふるなっ」
「…って、それよりも、俺の態勢観て、何も思わんのかっ」

まさちんが、怒り口調で訴えるが、

「思わんな。…それより、組長、ひねり足りませんよ?」

と、ぺんこうは、助言までしてしまう。

「えっ? そうなの?」
「はい。…こうですね」

ぺんこうは、真子が抑え込んでいる、まさちんの腕を手に取り、真子が捻っていた時よりも強くひねり出す。

「…って、こらっ! ぺんこうっ、てめぇ〜」

それには、まさちんはカチン……。ぺんこうの腕を逆手に取る感じで、まさちんは素早く起き上がり、ぺんこうの腹部に拳を入れる。
しかし、ぺんこうは、その拳をいとも簡単に受け止め、握りしめた。その瞬間、ぺんこうは、まさちんの腹部に向けて膝蹴りを繰り出す。その蹴りを、足で受け止めた、まさちん。

「てめぇ〜、手加減無しかよっ!」

まさちんとぺんこうは、声を揃えて言った。

「……って、お前らっ! 周りを見てから、殴り合えっ!」

真北の声に振り返る二人。

「…あっ!! 組長、大丈夫ですかっ!!」

まさちんを抑えていた真子。真子の下に居たまさちんが、起き上がったら、真子の体に何が起こるか、考えなくても解る。しかし、二人は、周りが見えずに、おっ始めた。
真子が仰向けに倒れる。
それに気付いたむかいんが、素早く手を差しだしたが、間に合わない。真子は、腰を床にぶつけてしまう。むかいんが、真子を起こし、真北が駆け寄り、真子の腰をさする。
そして、真北は二人に怒鳴った……。

真子が倒れた事に気付いた二人は、真子に駆け寄るが…。

鈍い音が一つ、部屋に響いた。

「………なんで、俺だけなんですかっ」

まさちんは腹部を抑えながら蹲る。

「まさちんが、私を押し倒したんでしょうっ!」

ハッ!!……

「す、すみません…組長……」
「もぉっ!」

真子はふくれっ面になった。



真子の部屋では、真子とぺんこう、まさちん、そして、むかいんの四人がソファに座り、にこやかに語り合っていた。真子は、ぺんこうの仕事っぷりを聞いて、感心していた。

「一度でいいから、ぺんこうの教師っぷりを観てみたいなぁ。
 むかいんは、観たことあるの?」
「教職に就いたぺんこうは、観たことありませんね。組長に教えていた頃の
 姿なら、何度も観ておりましたから、恐らく、その時と変わらないかと
 思いますよ」
「細かすぎて、他の生徒さん、付いて来れないんじゃないのぉ?」
「それは、どうでしょうか…。まだ、始まったばかりなので、
 今は生徒の気持ちを理解するのに必死ですね」
「大丈夫だよ! だって、ぺんこうでしょう?」

真子は、飛びっきりの笑顔で、ぺんこうに言った。
真子の言葉には、真子自身の気持ちが含まれていた。
自分の心を和ませてくれた、そして、楽しい時間を過ごせた。
何よりも、私の夢の為に、お父様に無理を言ってくれたから…。
だから、みんなの気持ちを理解するって!

真子とぺんこう、そして、むかいんが、昔話に盛り上がっていた。しかし、三人よりも、何年か後に阿山組にやって来たまさちんは、昔の話に参加出来ず、ちょっぴりふてくされていた。ふてくされながらも、真子の話だけは、しっかりと聞いているのだが……。

「組長、すみません。そろそろ夕食の時間なので、
 私は準備に取りかかります」
「ぺんこうの分…あるの?」
「食料は、充分ございます。それに、今日は、大食らいが居ませんから」
「そうだね! じゃぁ、飛びっきり素敵な料理がいい! 疲れも吹き飛ぶもの!」
「かしこまりました」

明るく返事をして、むかいんは部屋を出て行った。…と思ったら、引き返してくる。

「……あの…私…居なくて、大丈夫ですか?」

心配そうに、むかいんが尋ねてきた。

「う〜ん……ちょっと難しいかも……」

と言いながら、真子は、ぺんこうとまさちんを交互に見やった。

「ぺんこう、疲れてないなら、一緒に作るか?」
「まさちんに言え」
「こいつ、散らかすから嫌だ」
「……久しぶりの時間なんだぞ」

ぺんこうは、ちょっぴりふくれっ面になる。
真子と過ごす時間は、本当に久しぶりなのだった。
ぺんこうの想いを知っているむかいんは、困ったように頭を掻いた。
まさちんとぺんこうを二人だけにすると、犬猿の仲とも言われる二人の事。必ず殴り合い、蹴り合いの喧嘩を始めるだろう。それは、長年一緒に暮らしていたら、絶対に解ること。そんな二人を停めるのは、むかいんかくまはちのどちらかだった。
真子はというと、二人を停めに入るものの、何故か、もみ合いに参加する状態に。
そんな三人を停めるのは、真北の役目だが、今は、その真北はここには居ない。
もちろん、くまはちは、そのまま大阪に残って、次の生活の準備をしていた。
むかいんは、腕を組んで悩む。
夕食の準備の時間は刻一刻と迫ってくる。
その時だった。

「失礼します」

組員が部屋にやって来た。

「どうしたの?」

真子が尋ねる。

「はっ、真北さんが、まさちんさんをお呼びです」
「…なんで、俺だよ」
「組関係です」
「解った。直ぐに行く」
「はっ。失礼しました」

組員は丁寧に頭を下げて、去っていった。

「…組関係なのに、どうして、私じゃないんだろ……」
「恐らく、組長の仕事の補佐に関する事だと思います」
「そっか。…後で報告してね、まさちん」
「はい。では、失礼します」
「夕飯までには、済ませるようにするんだよぉ」
「心得てます!」

まさちんは、真子の部屋を出て行った。
暫く沈黙が続く。

「…ということで、俺は行くぞぉ」
「あ、あぁ…」

むかいんは、夕食の準備のため、食堂に向かう。
むかいんが去った後も、沈黙が続く真子の部屋。

「ねぇ、ぺんこう」
「組長、その…」

二人は同時に口を開く。

「ごめん、先にどうぞ」
「組長、お先に……」

どうしても声が揃う様子。
それが、あまりにも面白かったのか、二人は笑い出した。

「組長、大阪の話、もっと聞かせて下さい」
「いいよ! ぺんこうは、行った事あるの?」
「道場での旅行で一度だけですね。大阪城を見学して、
 ミナミの街を歩いて、お笑いを観た…くらいでしたね」
「ミナミの街は、水木さんに案内してもらった! たくさん人だったのぉ。
 私ね、あまり人混みのあるところは、行っては駄目って言われてたでしょう?
 あんなに人が多い街は、本当に感動したの! どこから集まるのかなぁって」
「そうですね。若者ばかりでしたか?」
「若者がほとんどだった! それでね、それで…」

真子は爛々と輝く目をしながら、ぺんこうに大阪での事を話し続ける。
真子の話を聞きながら、先程、真北がまさちんを呼んだ時の事を思い出す、ぺんこう。

あの人は、本当に、組長のことしか考えてないんですね…。

自然と笑みが浮かぶぺんこう。
真北が組関係の仕事と称して、まさちんを呼びつけたのは、真子とぺんこうを二人っきりにさせるため。
久しぶりに逢う真子とぺんこう。二人の話は尽きることがないだろう。
そして、これからの生きる道の事を考えての、安らぎの一時を与える為でもあった。
二人に関しては、本当に甘い……。

まさちんは、真北に言われる仕事を、ふてくされながらも、次々と終わらせていく。
真子とぺんこうが二人っきりで居る事に、気が気でない、まさちん。
早めに仕事を終わらせて、そして、二人の所へ戻って……。

「それと、これもだなぁ」

ちょっぴり意地悪っぽく言って、たくさんの書類を差し出したまさちん。

「げっ………」

って、これは、山中さんの仕事じゃないですかっ!!

と言いたい言葉をグッと飲み込み、まさちんは、真北に言われるがまま、仕事をこなしていった。
夕食までには、その仕事は終わり、真子達と一緒に食卓を囲むことが出来たまさちん。
ホッと一安心したものの、疲れも一際だった。
むかいんの料理は、その事も考慮してあったのか、食べ終わる頃には、まさちんの心は、とても和んでいた。


しかし、それが、驚きの出来事へと結びつくとは、この時は、想いもしなかった。



夜。
虫の声が聞こえるほど、静かな阿山組本部。何事もなく、平穏な夜に、突然響き渡る音。

「…組長?」

まさちんが、目を覚まし、激しい音が聞こえてくる方に耳を傾けていた。
確かにその音は、真子の部屋から聞こえてくる。
まさちんは、急いで真子の部屋に向かって行った。
真子の部屋のドアを開けた。暗闇の中だか、部屋が荒れていることは解った。

「組長? 何が? …!!!! うわっ!」

まさちんは突然、暗闇から飛び出してきた何かに勢い良く押され、壁にぶつかった。

「…なんだよ……」

まさちんは、目の前に誰かが立っているのがわかった。その人物に目を向けた…。

「…組長?」

まさちんを見下ろす真子は、普段と様子が違っていた。
真子の醸し出す雰囲気が、幹部の前で暴れた時とは違い…まるで、鬼のような形相。いや、それ以上?…そして、真子の体は、微かに赤く光っている

許さない…。
「…???」

まさちんは、真子の言っている事が解らなかったが、その声に恐怖を感じた。
地を這うような低い声。
一体、真子に何が起こったのか…。
真子は口元をつり上げて、踵を返して、どこかに向かって走っていった。

「組長!」

まさちんは、真子を追って走っていった。

真子が飛び込んだ部屋。そこは、真子の父・慶造が愛用していた部屋だった。

「組長、何を!!」

真子は、床の間に飾っている刀を手に取り、鞘から抜いていた。そして、手にした刀を肩に担ぎ、まさちんの方を振り返る。
口元は、先ほどよりも更に、不気味につり上がっていた。
すると、体が赤い光に包まれて始める。

あいつは、どこだ?
「あいつ…とは? 誰のことですか?」
……あいつだよ……!!

真子は、日本刀を持って、暴れ始めた。まさちんは、突然の事で、戸惑ってしまったが、気が付くと、真子を停めに入っていた。

離せよ…。
「どうされたんですか? 組長?」

真子は、優しく尋ねるまさちんを斬りつけた。右の手の甲を斬りつけられたまさちん。しかし、痛がることもなく、再び真子を止めに入る。

「組長! しっかりしてください! 組長!!」

大きな物音と、まさちんの叫び声で目を覚ました組員達が、慶造の部屋までやって来た。そして、二人の様子を見て、何が起こっているのか、把握できず、ただ、見ているだけだった。その人だかりをかき分けて、部屋に入って来る、真北とぺんこう。日本刀を手にした真子は、真北とぺんこうの姿を観て、勢い良く、まさちんを押しのけ、二人の前に立ちはだかった。

…あんたか…。
「いい加減にしろよ」
うるせぇーなぁ。

真子は、真北とぺんこうに斬りかかる。二人は、慣れたような感じで真子の攻撃を交わし、そして、ぺんこうが、真子の腹部に拳を勢い良く当てた。真子は、力無くその場に座り込む。…それと同時に、赤い光も消えた。

「…まさか、今頃、現れるとはな…」
「そうですね。…まさちん、大丈夫か?」
「…そういうお前こそ、大丈夫なのか?」
「ん? あぁ。これか? 大丈夫だよ。お前こそ…」
「これくらいは、平気だよ」

ぺんこうは、頬を斬りつけられていた。そして、横たわる真子を抱きかかえ、慶造の部屋を出ていく。
組員達は、ただ、その様子を見ているだけだった……。



真子は、静かに眠っていた。
ぺんこうとまさちんがが散らかっている真子の部屋を片づける。真北が、真子の耳元で何か囁き、そして、すっと立ち上がった。

「まさちん、最近、組長に何か変わったことなかったか?」
「変わったこと……変わったことと言っても、先日、大阪で、夢を見て
 興奮状態に陥ったくらいで…。いつもと変わらなかったんですが…」
「そうか…」
「一体、あれは…組長の、あれは、何なんですか?」
「…組長に術をかけてるの、知ってるよな…」
「はい。俺の…あの時の…」
「その時に、組長の能力の事も押し込めているんだよ。しかし…まさか、
 もう一つの…光が…」
「…赤い…光…?」
「あぁ。能力には、青い光ともう一つ、赤い光があるんだよ。
 青い光は、まさちんも知ってるように傷を治す。
 赤い光は、先ほどのような恐ろしいまでの力とそして、
 …組長と正反対の考えなんだよ…」
「正反対の考え?」
「命を…なんとも思っていない…」
「まさか…」
「…この能力のことは、調べている最中だ。しかし、詳しい文献は、
 なかなか見つからない…。その昔、調べていた人物が居たんだが…」

真北は、ため息を吐く。


「一番、恐れているのは、組長の本能と、その赤い光が同調する事…」
「本能と、同調?」

まさちんは、真子の本能のことは、薄々解っていた。しかし、光のことは、無知だった。…青い光で、自分の傷を治したことは、知っているが…。

「一体、どうすれば…」

まさちんは、頭を抱えてしまった。真子を守ると決心したのに、光の能力のことは、ほとんど知らなかったからだ。
自分に苛立ちさえ覚えるまさちんは、拳を握りしめる。

「…まさちん、そう悩むな。お前は、今まで通りでいいんだよ。光のことは、
 気にせずに、今まで通り、組長と過ごしていればいいんだ。…というより、
 そうして欲しい。今、組長に一番必要なのは、普通の暮らしよりも、まさちん、
 お前の存在だよ」
「真北さん…」
「それに、俺達も居るしな」
「ぺんこう…」

まさちんは、二人の真子に対する気持ちを改めて知った。そして、その二人の中に、自分の存在もあることに気が付いた。
阿山組の中では、異質な存在として、周りから思われていたまさちんだったが、いつの間にか、阿山組、そして、真子にとって、必要な存在になっていた。




朝。
真子が目を覚ました。自分の部屋に、まさちんだけでなく、真北、ぺんこうが居ることに気付き、

「何? どうしたの?」

おはようの挨拶よりも先に、声を発していた。

「おはようございます」
「……まさか、私……」

いつもと違った感じで、あいさつをしたまさちんを、真子は気にしていた。

「いいえ、何もありませんよ」

まさちんが、真子の言葉を遮るように言った。

「……まさちん? ……その怪我、どうしたの?」

真子の視野に、白い物が入った。

「えっ? あっ、これは…」
「すみません、あの、それは、俺とまた…」

今度は、ぺんこうがまさちんの言葉を遮るように言った。

「ぺんこうと、また…? …ほんとにぃ〜。いい加減にしなさい! どうして、
 まさちんもぺんこうも仲良くできないのよぉ。ぺんこうは、久しぶりに
 本部に遊びに来たのに…。二人を停めたのは、真北さん?」
「あっ、ま、そうですね…」
「ありがとう。さぁて、朝ご飯!」

真子は、ベッドから下り、顔を洗いに部屋を出ていった。

「…組長、覚えていないんですか?」
「まぁね。あの後、記憶をすり替えた」
「真北さん…、本当に、いいんですか、そんなことをして…。
 組長に何らかの影響はないんですか?」

まさちんは、あっけらかんと話す真北に何か不安を感じていた。

「大丈夫だよ」

真子が戻ってくる。
部屋に漂う異様な(?)オーラに、真子は首を傾げる。

「朝ご飯、出来てるみたいだよ?」
「そうですね。もう、そんな時間ですから」

まさちんは、ちょっぴり嫌味を含めた言い方をする。真子は、時計を見た。
朝の九時を回った所……。

「もぉ〜っ!! 早く起こしてよっ!」

ふくれっ面になる真子。

「昨日の疲れが出ると思って、起こさないように言っただけですよ」

真北が優しく応えた。

「そっか…ありがとう、真北さん、まさちん」

真子はニッコリ微笑んだ。

「真北さん、ぺんこう、まさちん、行こう!」
「…っと、その前に、真子ちゃんは着替えるようにっ」

真子は、まだ、ネコ柄パジャマを着ていた……。

「はぁい」

返事をしながら、パジャマを脱ぎ始める真子。まさちんは、慌てて部屋を出て行った。

「では、食堂で待ってますよ」

真北とぺんこうも部屋を出て行く。
真子は、パジャマから部屋着に着替えてから、部屋を出て行った。



阿山組本部の食堂。むかいんが、料理を運んで来る。

「いただきます!」
「どうぞ」

真子は、むかいんの作った料理をおいしそうに、嬉しそうに食べていた。夕べの表情とは、全く正反対、いつもの真子だった。

「あっ、そうだ。ぺんこう、ごめんね」
「何がですか?」
「こうして、一緒にご飯食べたり、本部に来たりすること、
 これから、あんまり出来ないと思う」
「なぜですか?」
「あのね…。私が、学校に行きたがってること、知ってるよね」
「はい」
「それで、通っていた学校から、来ないように言われたことは?」
「知ってます」
「それで、真北さんの提案で、私、大阪で暮らすことになったんだ…。
 そこで、学校にも通えるんだよ!!」

真子は嬉しそうに話していた。

「そうですか。それは、よかったですね」
「うん。だから、…ここを離れるんだ…。ぺんこうとも、こうして、逢うことも
 難しいかも…。本当はね、ぺんこうとも一緒に暮らしたいんだけどね、
 ぺんこう、こっちで教職に就いたしね…。無理だよね」
「組長…あの…」
「組長、食事時に暗い話は、止めましょう。せっかくの
 おいしい食事ですからね」

真北がぺんこうの言葉を遮るように言い、ぺんこうに目配せをする。ぺんこうは、真北が言いたいことを察する。

あのことは、まだ、言うな。

「よかったですね、組長。私は大丈夫ですから」
「…私が寂しいんだけどなぁ」

真子は、呟くように言った。その真子の声が聞こえていたのは、まさちんだけだった。まさちんは、敢えて何も言わなかったが、真子の切ない気持ちが伝わっていた。

「大阪では、水木さん達が居ますよ。ここ以上に楽しくなりそうですね」

ぺんこうがその場の雰囲気を切り替えるように言った。

「うん。水木さんって、楽しい方だし、須藤さんは、やくざ一筋って感じだし…。
 松本さんは、やくざに見えないし…。大阪のみなさんとも仲良くやって
 いけたらいいなぁって、思ったんだけど…やっぱり、甘い考えかなぁ」
「そんなことはありませんよ。それが組長ですから」
「そうかなぁ」
「そうですよ」
「…そっか。それが、私だ。…ぺんこう、ありがとう」
「笑顔、絶やさないで下さいね」
「うん。それは、もう、ばっちりだよ!」

真子は、笑顔でサムズアップをぺんこうに向けた。

「ごちそうさま! むかいん、今日もおいしかったよ! やっぱり、むかいん、
 お店開いた方がいいよぉ。この味が、阿山組内にだけなんて、もったいないもん」
「いいえ、私は…組長においしくいただいてもらうだけでいいんです。
 組長の為に…組長の笑顔の為に…」
「むかいん……ありがとう。これからもよろしくね!」

真子は、素敵な笑顔だった。

「はい」

むかいんは、そんな真子に応えるかのような笑顔をしていた。
真北は、そんな食卓風景を見つめていた。

これからもずっと、このような笑顔の耐えない日々を送れたら、いいなよなぁ。

その眼差しは、父親のように、優しかった。



(2005.6.23 第一部 第九話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
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※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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