任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第四十四話 首が抜けない状態に。

なんやかんやと日々が過ぎ、十一月中旬。
大変な事が起こってしまった。
まさちんは、いつものように、朝、真子を大学まで送り、その足で、AYビルへ向かう。そして、ビルでの仕事をこなし、幹部会に出席した。

「なぁ、まさちん、また、泊まりに来いや」
「桜姐さんからですか?」
「娘、娘とうるさいんやぁ」

呆れたような表情でまさちんに言う水木。水木が、幹部会に出席しているということは、例の裏での仕事は、終止符を打たれた事を意味している。

「いっそのこと、娘作れや」

須藤が、笑いながら言った。

「…そっか。今夜から、がんばるかな…」

須藤の冗談を真に受ける水木だった。

「で、水木さん、その後は?」

まさちんは、話を切り替えるように尋ねると、

「まぁ、平穏無事ってとこかな。未だに、危ないとこもあるけどな、
 こっちが手を出さなかったら、動かんという約束や。だから、
 何事もないってことや。AYAMAの方なんやけどな、まさちん、
 前から、駿河に言われとる企画、進めるように言うたで」

と一気に応えた水木。
未だに勢いづいたままのご様子。

「…水木さん、それを発売したら、組長が怒りますよ」
「ええんちゃうかぁ。結構魅力的な企画や思たけどなぁ」
「それは、我々の家業から見たら…の話でしょう。しかし、あれを
 購入するのは、一般市民ですよ。それこそ、組長が嫌がります」
「そう言われてもなぁ〜」

水木は、困ったような顔で頭を掻いていた。まさちんは、頬杖を付いて、呆れたように水木を見つめ、そして、軽くため息を付いた。




車の中。
まさちんは、音楽をガンガンかけながら、大学へ向かっていた。大学のロータリーに近づいた時だった。女子学生二人に指をさされてしまう。

「…あいはーさんとにっしんさん??」

その女子学生は、真子の友達の通称・あいはーと理子の友達の通称・にっしんだった。
この二人は、高校の時からの友達で、それぞれが、真子と理子と大学で友達となり、類は友を…ということで、真子と仲良しさんになっていた。
まさちんは、車を停め、窓を開けた。

「まさちんさんですよね?」

あいはーが、開口一発に叫んだ。

「あいはーさん、どうされました?」
「真子ちゃんが、倒れちゃって…今、保健室なんですよ」

そう言ったのは、にっしんだった。

「組長が?」

まさちんは、血相を変えて、大学内を走り出した。一目散に向かう先は、保健室。

「…はや……」

あいはーとにっしんは、まさちんの猛ダッシュを目の当たりにして、声を揃えて驚いていた。


バッターン!!!

「組長!!」
「あほぉ!! 保健室へは、静かに入ってこんかぁい!!」

静かな声でまさちんに怒鳴る保健医・大東。
その声が聞こえてるのかいないのか、まさちんは、真子の居るベッドに近寄った。

「すみません…」

恐縮そうに言って真子を抱きかかえようと手を差し伸べる、まさちん。

「…かなり無理しとるで」
「わかってます」
「わかってるんやったら、なんで、橋先輩のところに…」
「それでも、組長は、笑顔で頑張っているんですよ…。
 そんな組長に、…言えませんよ…」

まさちんは、大東の言葉を遮るように言った。

「ふぅ〜〜。真子ちゃんやもんなぁ。しゃぁないかぁ。そや。
 まさちんさんは、車に戻っといて。こうなら、こっちも意地や。
 真子ちゃんの口から、病院行くって言わせたるぅ」
「先生…」
「まかせときぃ!」



まさちんは、保健室から出てきた。
廊下には、理子、にっしん、あいはーが、待っていた。

「ったくぅ、まさちんさん、私を無視するんやからぁ」

理子は、少し怒っていた。
保健室前に駆けつけたまさちんを見かけたので、声を掛けようとしたが、まさちんは、周りを見向きもせず、保健室へ駆け込んでいったのだった。

「すみませんでした…。あの、私は、車で待つように言われたので、
 組長、気が付いたら、車まで、お願いします」
「なんで?」

理子は、聞き返した。

「組長の口から、病院に行くと言わせると大東先生張り切ってしまって…」
「そうやろなぁ。真子が運ばれた時、めっさ怒ってたもんな」
「そうでしたか…。みなさんにまで、心配をお掛けして…」
「ほな、まさちんさん、そう言うことやったら、任せときぃ。
 ちゃんと連れて行くから」
「お願いします」

そう言って、まさちんは、去っていった。



真子が目を覚ました。目の前に居たのは…怒りの形相・大東だった。

「真子ちゃん! あかんやろぉ。倒れるまで無理したらぁ」
「すみません…今日は体調が良かったので、がんばってたんですが
 突然だったので…。私も驚いてます…。あっ、時間…」
「時間?? あぁ、迎えの」
「はい。お世話になりました」
「理子ちゃん達、廊下に居るから。ちゃぁんとお礼言うときや。
 それと…」
「はい?」
「迎えに来るまさちんさんに、ちゃんと言うこと」
「何をですか?」
「体調不良と、病院へ行くって言う言葉。また倒れたら、どうするん?
 まさちんさんに心配掛けないようにと思うのは、いいけど、
 こうして、倒れたら、すごく心配するんとちゃうか?」

真子は、大東の言葉をしっかりと聞いていた。

「…わかりました…。病院に…行きます」

真子は、素直だった。
ということは、かなり無理しているという証拠。
真子は、立ち上がり荷物を持った。そして一歩踏み出した。

「真子ちゃん!」

真子の足取りはふらついている。大東は、しっかりと真子を支えていた。

「大丈夫か?」
「…大丈夫です。ロータリーまで、歩けば…大丈夫ですから」

真子は、そう言って、何かに集中した。そして、深く息を吸って、気合いを入れる。大東に手を離すように合図して、一礼してから、保健室を出ていった。

「…見事な気合いやな…あれが、やくざの組長さんの気合いか…」

真子が出ていったドアを見つめながら、呟く大東だった。



まさちんは、ロータリーに停めている車の側に立って、まっすぐ歩いてくる四人を見つめていた。
真子の足取りはしっかりしている。笑顔で理子達と話している。
それでも、やはり、不安なまさちん。
だけど、平静を装って…。

「まさちん!! お待たせぇ!」

真子が元気な声で、まさちんに話しかけていた。
まさちんは、先程の事を知っているが、知らない振りをする。

「みなさん揃うのは、久しぶりですね。お元気そうで」
「まさちんさんもやね」

理子達は、笑顔でまさちんと話していた。

「ほな、またねぇ!!気ぃつけやぁ!」
「ありがと! そっちこそ、気を付けてねぇ」

真子は、去っていく三人に笑顔でそう言って、手を振り続ける。三人の姿が見えなくなってから、まさちんに振り返った。

「遅くなって…ごめん…。行こうか」
「は、はい」

まさちんは、期待していた言葉と違う言葉が返ってきたことに、不満を抱く。

組長…。

真子は、車のドアを開け、乗り込もうとした時に、動きが停まった。

「組長、どうされました?」

気になるまさちんは、そっと尋ねる。

「…怒らないで聞いて欲しい…」

真子は、静かに言った。

「実は…学内で気を失ってしまったの…。それで、先程まで保健室に
 居た。だから、遅れてしまった…。ごめん…。体調が思わしくない事も、
 黙っていた。でも、今日は、元気だったんだよ…。
 ……橋先生のとこ…向かってくれるかな…」
「組長……」

真子は、まさちんと目を合わそうとせずに、車に乗り込んだ。まさちんは、そっとドアを閉め、運転席に周り、車を出発させる。

「ごめん…まさちん……」

真子は、俯いたまま、静かにまさちんに言った。

ルームミラーで真子を見つめる、まさちん。
真子の寂しそうな思いが、伝わってくる。

組長…。




入院。

真子に下された結果は、そうだった。
真子は、ふてくされたまま、愛用の病室で眠ってしまった。

「あかん…なんでや? 真子ちゃんの体力、全く回復する兆しが
 ないで…。それを調べに言った真北は、また帰国延期なんか?」
「そう連絡ありました」
「一体何をしてるんや?」
「それは、私にも解りません…。ただ、厄介な事に巻き込まれたとか…」
「あのあほぉ。目立たないようにすると言っておきながら…」

橋から、関西弁が消えた瞬間だった。

海外滞在一ヶ月。
その予定で出張に行った真北とくまはち。
一体、何が起こって、帰国が延期になっているのか…。
それは、例の男が、くまはちの力量に惚れ、躍起になって引き抜きを行おうとしているからだった。
連日のように、くまはちを仕事に連れ回す男。全く疲れを知らないくまはちは、男に付いていくことで、あらゆる情報を手に入れていた。
それは、真北よりも……。




十二月になった。冬将軍がそろそろ暴れ出しそうな季節。

橋総合病院。
橋は、手術を終え、事務所へ帰ってきた。満足げな表情の中に、疲れが見えている。奥の部屋で珈琲を入れ、ソファに腰を掛けて、一段落つけていた。

「ふぅ〜……」

目を瞑って、何かを考え込む。

「さてと…」

そう言って、部屋から出ていった。
デスクの上に重ねられている書類に目を通し、そして、あるファイルを手に取った。

特殊能力に関する文献

橋は、何度も読み返しているのか、その文献は、手垢で汚れていた。

「橋先生!!」
「ん?」

事務の女性が事務所へ走り込んできた。

「真子ちゃんが来ました。…うつろな目をしてます」
「うつろな目??」
「へらへら笑って、そして、愛用の病室で、ダウンしました」
「…ったく…だから言ったんや。入院しろって…。まさちん一緒か?」
「はい」

ガツン!

橋は、机に拳を振り下ろし、怒りの形相で、真子愛用の病室へ向かって行った。

「嵐…来るかも…!」

事務の女性は、なぜか、楽しむような目をしていた。



「だから、わし、あの時言うたやろ…。無茶やって」
「組長には、逆らえませんから」
「ったく、真北が帰ってきたら、一番に怒られるの、まさちんやで」
「それでも、組長の意志にお任せしたいんです」
「そういうお前も、疲れとるやないか。やせたやろ」
「いいえ、変わりませんよ」

嘘だった。
橋の言うとおり、十一月中旬頃、真子が、大学内で倒れたあと、入院しろと言われていたが、病院嫌い、医者嫌いの真子のこと。強引に退院し、いつも通りの生活をしていたのだった。
一日を疲れ切るまで過ごし、そして、夜は、死んだように眠る真子。
そんな日々が続いていたが、やはり、例の夢は見るようで…。
まさちんは、自分の睡眠時間を削ってまで、真子の様子を逐一、伺っていた。

それが…疲れる第一歩。

そして、真子の代わりに組の仕事、真子の送迎。時々、一緒に講義に出席……。まさちんは、なぜ、ここまで自分の体に鞭を撃つようなことをするのか…。

橋は、まさちんに栄養剤を打った。

「いくらお前でも、倒れるで。お前が倒れたら、真子ちゃんは
 誰が守るんや? ちゃんと休んでおけ」
「できませんよ。それに、俺は、そう簡単に倒れませんから。
 …で、やはり、入院ですか?」
「いつ、使ったんや、能力」
「えっ?」
「最近使ってないか?」
「…すみません…。それは、言えませんが…」
「ふぅ〜………。まぁ、ええけどな。真北にも言わないんやろ。
 文献にな…、能力の赤い光に支配されても、青い光に支配されても、
 その両方がぶつかり合っても、能力は、消えないと…。その人物が
 死なない限り…。…そう書かれてあったんだよ」
「…その通りですね…」
「…真北も読んどるで、その文献。そして、今、調べに行ってるんやろ。
 真北が、真子ちゃんの能力は、まだ、消えてないことを知ったら、
 それこそ、あいつ、無茶しよるからな…。あいつには、あまり、
 負担掛けたないんや…」

橋の本音。
親友であるからこそ、真北の無茶も解る。
もちろん、それは、長年付き合っている…、

「それは、組長もおっしゃってます」

真子も解っているらしい。

「だから、真北には、真子ちゃんの能力のこと、言ってない」
「ありがとうございます…」
「体力の回復が遅れているのは、赤い光の影響が強いらしいな。
 ここから、ミナミまで真子ちゃんを瞬間に移動させるくらいやしな…。
 何か途轍もない力が働いたんやろな」
「…真北さん、何か掴めたらいいんですが…」
「そうやな…」

まさちんと橋は、ベッドに静かに眠る真子を、複雑な思いで見つめていた。



「組長、組長?」

まさちんは、真子を起こす。
恐らく、怖い夢を見ているのだろう。真子の目から涙が流れていた。
真子は、目を覚ました。

「また、怖い夢を?」
「まさちん、ここ、病院?」
「く、組長…ご自分で歩いて、車に乗ってビルを出てきて、
 病院に…ご自分の足で歩いて来たんですけど…」
「…そうだったの??」

真子は、この日の記憶が曖昧になっている様子。

「組長、今日は、本当にどうされたんですか? 記憶が曖昧というか…。
 それに…ビルでは、急に倒れてしまったし…」
「……ほんと、どうしたんだろう…」

真子が起き上がり、ベッドに腰を掛けたので、まさちんは、真子の肩に優しくカーディガンを掛ける。

「検査も終わってます。橋先生は、すべてお見通しです…。
 その…体力と…能力…」
「えっ?」
「恐らく、あの文献からでしょう。しかし、真北さんには、内緒に
 してくださってます。これ以上、真北さんの負担にならないようにと…。
 …文献には、能力の赤い光に支配されても、青い光に支配されても、
 その両方がぶつかり合っても、能力は、消えないと…。その人物が
 死なない限り…。ですから…」
「…使い方を間違えないように、そして……
 光に支配されないようにすれば、いいんだよね」

まさちんの言葉を遮るように言った真子の言葉に、まさちんは驚いた。

「はい。それと、体力の消耗ですが、やはり赤い光の影響のようです。
 無理な行動で体力は、なかなか回復の兆しを見せないようです。
 ですから、兆しを見せるまで、やはり、…その…入院を…」
「…わかった」

真子は素直に受け入れた。

いつもなら、嫌がるはずなのに…なぜだろう…。

「その兆しは、いつ頃か、わかる?」
「…それは、未だわからないそうです」
「そっか」

真子は、俯いて、一点を見つめていた。



夕方。
橋は、あの後、二件の手術を終え、事務所でくつろいでいた。
電話が鳴った。

「橋です。…繋いでや。……何や、こっちは心配あらへん。
 はぁ? もう一回、言ってみろ……」

電話の相手は、真北だった。電話の口調から、関西弁が消えていた。
一体、何が起こっているのか…!!




くまはちは、例の男と行動を共にして、二ヶ月が過ぎていた。

「(どうだ? 考えてくれたか?)」

男は、目の前に座るくまはちに、ドスを利かせて言った。

「(かなり、手を貸したし、俺の情報もかなり役に立ったはずだ。
  …あんたの情報は、どうなんだ? 例の組織のこと…)」

くまはちは、男を見つめる。

「(ふぅ〜。どうしても、俺の所で働く気はないってことか。
  仕方がない。諦めるか…。お前の腕、頭…気に入ったのにな。
  この仕事の魅力も解っているはずなのにな。どんなときでも
  猪熊…お前の頭の中には、一人の女しか、ないんだなぁ)」

男は、ソファにふんぞり返って、微笑みながら、

「(逢ってみたいな…その女に)」

そう言った。

「(無理…ですね。あなたは、危険ですから)」
「(手は出さないぞ)」
「(解ってますよ。私が言った危険というのは、組長の本能を
  目覚めさせてしまうほど、あなたは危険だということですよ)」
「(是非、逢ってみたいよ)」

その時だった。表が騒がしくなった。
窓際に立っていた組員が、外の様子を伺って、懐から、銃を取りだした。

「(何が起こった?)」
「(龍山です)」
『猪熊ぁ、おるやろ!! 出てこんかい!』

組員の言うように、外では、龍山が叫んでいた。

「あのあほ…」

くまはちは、呆れたように頭を抱えて俯いた。

「(すみません。俺の失態ですね。行ってきますよ)」

くまはちは、立ち上がり、服を整える。一歩踏み出した時だった。

「(猪熊。お前が手を下す程じゃないよ。どっちにしろ、俺は
  奴と手を切るつもりだったさ)」

そう言った男は、窓際の組員に合図をした。組員は、うなずき、外に居る組員に合図を送る。龍山とその組員を抑えるように立っていた組員は、急に手を離し、その場から散った。
龍山は、周りに組員の姿が消えた事で、更にいきりだつ。

「猪熊ぁ、出てこいよ」

シュン……ドッカァァーーーン!!!

「ぐ、ぐぐぅ……」

窓から、龍山達を見下ろす男。その男の手には、ダイナマイトが!
にやりと笑って、導火線に火を付けた。それを地面に横たわる龍山達に向けて投げる。
再び大音響と共に爆発した。
龍山達は、見る影もなくなっていた……。

「(何も、そこまで…)」

同じように窓から外を見下ろすくまはち。
その目は、哀しみに溢れていた。
男は、この時、くまはちの何かに気が付いた。

「(なるほどな…お前は、そう言う男か)」
「(ん?)」
「(喧嘩は好きでも、殺しは嫌い…か。…そんな男は、俺の組織には
  必要ないさ。解放…してやる。)
「(約束の…ものは?)」
「(お前が帰国する日に、渡してやるよ)」
「(…あぁ。解ったよ)」
「(長い間、ありがとうな。予定より、一ヶ月延びたな)」
「(仕方ないさ)」

くまはちは、作り笑いで、部屋を出ていった。
後かたづけをしている組員の横を無表情で通り過ぎるくまはち。窓から見下ろす男は、いつまでもくまはちの後ろ姿を見送っていた。

「(命を大切にする親分のボディーガードか…)」




真北とくまはちが、帰国する日。
ホテルでチェックアウトを済ませ、荷物を手に持った時だった。アルファーが、血相を変えて走り寄って来た。

「(アルファー。どうした?)」
「(猪熊…情報は渡せない。あの男が、そう伝えて……)」

アルファーは、そこまで言って口を噤んだ。

「(何が、遭った?)」
「(あの男と電話で話していた時だ。突然の大音響が、電話の向こうに
  聞こえた…。そして、俺は気になり、直ぐに駆けつけたんだ…。
  あの建物は、跡形もなく、消えていた。…瓦礫に埋まった男を
  見つけ、駆け寄ったが…。お前に、伝言を言って…息絶えた)」
「(な、なに…?)」
「(敵は、恐らく、猪熊、お前が知りたがっていた組織だろう。
  黒崎さんが、今、情報収集を始めた)」

くまはちは、悔しさを満面に現す。そして、何かに気が付いた表情をして、アルファーを見つめた。

「(黒崎さんが、危ない。案内しろ)」
「くまはち、お前、首を突っ込みすぎだ!」

真北が、くまはちの腕を掴んで叫ぶ。

「真北さん、あの男は、俺との約束で、やられたんだ。
 それを調べようとしている黒崎さんも、同じように…」
「…これ以上、手を出さない方がいい。それに…くまはち、
 お前の仕事は、阿山真子を守ること…だろう?」

くまはちは、真北の言葉に、ハッとした。しかし、その表情は、一変する。

「そうです。しかし、こちらでの仕事も…組長を守ることになるんですよ」
「…はぁ…あのなぁ。お前がそんなに躍起になっている間に、組長の
 体に異変が起こっているんだぞ。それに、まさちん一人に任せっきり
 となると、心配にも度が過ぎるだろ」
「そうですが…。黒崎さんにまで、迷惑は掛けられないですよ」
「…だったら、俺も行く」
「ま、真北さん…」
「俺の仕事は、終わったよ。一緒に帰国しないと、組長に怒られるのは
 俺だからな」
「真北さん…すみません…」

くまはちは、深々と頭を下げた。

「(案内しろ)」

真北が、アルファーに言った。アルファーは、真北に頭を下げて、真北とくまはちを案内するように、ホテルを出ていった。



『つーことや』
「…お前も無理するなよ」
『わかってるよ。だから、組長のこと、頼むよ』
「…長引くのか?」
『新年は、こっちで迎えることになるだろうな』
「それだけ、厄介なのか?」
『そうだ。この俺でさえ、手こずるくらいだよ』
「真子ちゃんは、入院だからな。暫くは大丈夫だよ」
『まさちんだけでなく、むかいんとあいつにも言ってくれよ。
 あぁ、やっぱり、むかいんは、いいや。忙しいだろうからな。
 この際、仕方ない。えいぞうに言ってくれ』
「解ったよ。こっちはこっちで、ちゃんとしとくから。本当に、無茶
 しないでくれよ。俺は、そっちまで行くことできないからな」
『あぁ。じゃぁな』
「真子ちゃんには、どう伝える?」
『仕事が増える一方だと伝えてくれよ』
「わかったよ」

電話は切れた。
橋は、受話器を置いて、ため息を付き、そして、事務所を出ていった。



真子の愛用病室の前にあるソファに寝転んでいる男が居た。

「まさちん」
「ん? …は、橋先生」
「寝てたんか?」
「すみません。追い出されました」
「誰に?」
「体力馬鹿教師」
「なるほどな。で?」
「ここで休憩を…」
「俺の事務室で寝ておけよ。奥の部屋でな」
「そ、それは…」
「ぺんこう、忙しい時期じゃないのか?」
「期末テストの時期ですからね。しかし、今は、組長の家庭教師の
 面してますから。大丈夫でしょう」
「なら、はよ、俺の事務所に行け。気になって自宅まで行く勇気が
 ないんやったらな。ここで、休まれると他の患者に恐れられるからな」
「すみません…。では、お借りします」

そう言って、まさちんは、その場を去っていった。

「真子ちゃん〜」

橋は、真子の病室へ入っていった。

「しぃ〜」

ぺんこうが言った。

「なんや、寝てたんか」
「今、寝たところです」
「そうか。…真北から連絡あってな…。新年は向こうで迎えるとさ」
「くまはち、厄介な事に、首を突っ込んだんですね」
「そのようだったよ」
「慶造さんが心配なさる事になってしまった…か」
「ん? 阿山慶造が心配する?」
「猪熊家の血筋ですよ。危険な場所に居る時ほど、輝くらしいですね。
 本来の姿が表に出ると、本当に予想も付かない状態になると
 お聞きしたことあります。だから、くまはちには、本来のガードじゃなく
 別のことをさせたかったと……時々嘆かれました」

ぺんこうは、苦笑い。

「それで、真北と共に行動…か…」
「えぇ。あれでも、あの人は制御しますからね」
「だろうな」

誰かの為に……な。

「う〜ん、この際、仕方有りませんね。俺とむかいんとで、交代に…
 あっ、むかいんは忙しいから、駄目か…。しゃぁないなぁ」

と諦めたような声に代わり、

「えいぞうに頼むか」

ぺんこうが言った。

「何を?」
「まさちん一人だと、いつか、あいつが倒れますからね。交代しないと」

ぺんこうは、真子の頭を優しく撫でながら、橋に話していた。
橋は、驚いていた。

「やっぱし、あいつとお前って…」
「…何ですか?」

ぺんこうは、不思議そうな表情で、橋に振り返った。

「ん? 何でもない。兎に角、真北が心配せんような状態に
 戻しておかないとな」
「橋先生くらいですよ。真北さんの心配をしてくださるのは。
 他の誰もが、真北さんは、疲れを知らない男だと思って
 いますからね。本当のことですけど」
「俺は、あいつの為に医者になったようなもんやからな」
「そうですね」

ぺんこうは何かを思い出すような表情をしていた。

「明日は休みですから、後は、私が。何かありましたら、連絡します」
「あぁ。頼んだで。ほななぁ。…そや。まさちんなら、俺の事務所で仮眠中な」
「そのまま、起きないようにしててください」
「そうしとく」

橋は、微笑みながら、病室を出ていった。

「ほんと、俺よりも、あなたのことを御存知なんですね。橋先生は」

ぺんこうは、少し悔しそうな顔をしていた。



橋は、事務所へ戻り、奥の部屋をそっと覗き込む。

「そこまで、疲れ切ってからにぃ〜。そんなに真子ちゃんが
 大切なんだな。まさちん、お前にとっては」

優しく微笑みながら、まさちんにそっと毛布を掛けて、部屋を出ていった。
まさちんは、橋の気配に気が付かないほど、熟睡していた。

「しかし、同じ事を考えるなんて、思考回路まで似てくる
 もんなんかなぁ〜。…なんだかなぁ」

二人の男が発した同じ言葉に、橋は、椅子にもたれかかって、呆れていた。



(2006.3.24 第三部 第四十四話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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