任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第四十五話 ふたりなら…

ぺんこうは、真子愛用の病室にあるソファに座り、薄明かりの中小さなテーブルの上で仕事をしていた。
書類を広げて、手に持つペンを顎に当てて、何かを考えている。

「…ぺんこう…」
「組長。すみません…眩しすぎましたか?」
「大丈夫だよ。目が覚めただけだから。って、なんでぺんこうが?」

今頃気付く、ぺんこうの姿。真子は、寝ぼけていた様子。

「まさちんと交代ですよ」

真子は、時計を見た。夜中の二時をまわったところ。

「こんな遅くまで、いつも仕事してるんだ」
「えぇ。なかなか片づかないですから」
「無理しないでね」
「ありがとうございます」

ぺんこうは、真子に優しく微笑んでいた。しかし、真子は、暗い表情になる。

「組長、どうされました?」
「…入院…だよね…」
「橋先生、カンカンに怒ってましたよ。強引に退院するからって。
 今度は、完全回復するまで、退院させないと躍起になってます」
「…後期の授業もあと少し…そして、テストを受けたら終わりなのに…」
「単位は、取れているんでしょう?」
「だけど、今受けてる授業も取りたい…」
「出席日数は?」
「ギリギリだけど、病欠扱いされてるから、大丈夫」
「では、あとは、テストだけですね」
「うん…」

ぺんこうは、真子に歩み寄り、ベッドの側にしゃがみ込む。

「明後日、組長の大学にお伺いする予定ですから、その時に
 尋ねてみましょう。残りを休んでも、テストを受けることできるか。
 それで、よろしいですね?」
「…お願いします…」

ぺんこうは、素直な真子の頭を撫でていた。

「灯り、もう少し落とします」
「いいよ、大丈夫だから。ぺんこう、目を悪くするでしょう?」
「では、灯りはこのままで」
「うん。それよりも、早く寝ないと…」
「明日は、休みですから。私が一日、お側に付いてます」
「安心した…。お休みぃ」
「お休みなさいませ」

ぺんこうの手が、優しく真子の目を塞ぐ。真子は、すぅっと眠った。
ぺんこうは、再び書類に目を通し始める。その時、病室のドアが開いた。

「ぺんこう。まだ、起きてたんかい」
「まさちんこそ、まだ、眠ってたんかい」

まさちんが、橋の事務室から戻ってきた。

「すっかり寝入ってしまったよ。こんな時間なのに、橋先生は、
 まだ、仕事してたよ」
「あの人、寝ないんじゃないんかなぁ」
「そう言うお前こそ。ここに来てまでも仕事か」
「たまる一方でなぁ。クラスを持たないと仕事が多くてな」
「大変やな」
「まさちんに、訊きたい事があるんや」
「あん?」

まさちんは、ぺんこうの向かいに座って、ぺんこうが広げる書類を見ながら返事をした。

「馬鹿は、どっちにかかるんや?」
「はぁ?!」
「体力の方か、それとも、教師の方か」
「…あぁ、昼間のあれかぁ。どっちにもかかるよ」

まさちんは、にやりとした表情で言った。

「なるほどなぁ。馬鹿ほど体力がある、馬鹿教師ってことか……!!!」

ゴン!

ぺんこうは、いきなりまさちんの脚を蹴った。

「…っつー!!!!」

ゴン!

まさちんは、痛がりながらも、ぺんこうに反撃。

「…!!!!」

ゴン!

ゴン!

ゴンゴンゴンゴン……。



外が明るくなった。
真子は、陽の光で目を覚ます。

「んーー!!!!……って、どしたん二人して…」

真子が背伸びをしながら起き上がった時、ふと視界に入った二人の姿。

「おはようございますぅ〜」

ヘナヘナな声と作り笑いで挨拶をするまさちんとぺんこう。
二人は、ソファに座って、前のめりになっている。両手は、両足のすねを押さえている。
真子は、事態を把握した。額に手を当て俯き、呆れた表情をする真子。

「…あとで、橋先生に…診てもらいぃ」
「すみません……」


診察の結果=全治一週間。
まさちんとぺんこうのすねは、青く腫れ上がっていた。



「何もそこまで、蹴り合わなくてもいいんじゃない?」
「つい…」

病院の庭を散歩しながら、真子とぺんこうは、昨夜の話をしていた。

「お疲れになりませんか?」
「今日は、大丈夫だから。しっかり休んだし。仕事ないし」
「組関係は、まさちんに、AYAMAは、水木さんにお任せすればよろしいんですよ。
 組長は、体力を回復することだけに専念してください」
「…心配だもん」
「報告は、毎日頂くということにすれば、安心でしょう?」
「そうだけど…なんだか…やっぱり…」
「一体、何を忘れたいんですか?」

ぺんこうの質問に、真子は何も言わなかった。

「以前おっしゃった、…ちさとさんの夢…まだ、見ているのでは?」

真子は、急に振り返る。

「当たりですね?」
「…うん。ぺんこうの言うとおりだよ。まだ、お母さんの夢…
 見るんだ…。前は、呼びかけても振り返ってくれなかった。
 だけど、今は、笑顔で…振り返ってくれる…だけど…やはり
 そのまま、どこかへ行ってしまう…」

真子の歩みが止まった。

「私…嫌われてるの…かな…」

ぺんこうは、寂しそうな表情をする真子を優しく腕の中に包み込む。

「ちさとさんも、照れているんですよ。大切な娘に突然
 呼びかけられて、驚いているのかもしれませんよ。
 組長は、嫌われてません。勇気を出して、駆け寄って
 みてはどうですか?」
「ぺんこう…。ぺんこうは、いつも私を優しく包んでくれる。
 どうして…? 私なんかを…? 私は、ぺんこうにとって…」
「大切な人…ですから。あの人にとっても大切な人ですから……」

真子の言葉を遮るかのように、優しく心に響く声で、ぺんこうが応えた。

「あの頃、あの人から、奪いたいという気持ちが、強かった…。
 あの人を困らせてやろうとそう思ってましたから。でも、
 その気持ちが、いつの間にか…」

…いつの間にか、愛情に変わっていた。

その気持ちをグッと飲み込んだぺんこう。
悩んだり、泣きそうになったりする真子を、こうして、自分の腕の中に優しく包み込むことで、その気持ちを満たしている自分に気が付いたのは、最近だった。
真子は、もう、大人…。
それを考えた途端、自分の行動を抑制出来なくなりそうで…。
しかし、そういう時にこそ、必ず脳裏に浮かぶ、真北の怒った表情。
思わず笑みを浮かべてしまった。

ぺんこうは、気を取り直して、話を続けた。

「私にとって、組長は、寂しがり屋で、優しくて…その上、私以上に
 頑固で、私を手こずらせる存在ですよ」
「…ひどぉ」

真子は、ふくれっ面た。

「ほんと、ぺんこうは、昔っから変わらないね」
「私が変わると、それこそ、真北さんが怒りますから」
「それって、私に手を出すってこと? …そう言えば、真北さんは
 ぺんこうが手を出すようなこと、言わないね。どうして?」
「それは、私のことをよく知ってるからでしょう」
「…どういうこと?」
「恋愛に関しては、疎い…ということでしょうね。そんなことないのですけど」

二人は、いつの間にか、愛用のベンチに腰を掛けていた。

「ぺんこうの恋愛の話、聞いたことないね」
「そうですね。お話したこと、ありませんね。いつも勉強の話か
 格闘技の話でしたからね」
「ないの?」
「ありますよ。学生の時に、コンパで知り合った女性と
 遊びに行ったりしましたよ」
「それって、私と出会ったあと?」
「えぇ。あの頃の組長に怒られて、再び大学に通いだした時ですね」
「あの時のお友達と一緒に?」
「友達…?…あぁ。あの二人ですか。そうですね。あの二人と
 その他大勢で、コンパで盛り上がりましたよ。だけど、私の
 心の中には、たった一人の少女の笑顔が残ってましたので、
 深いお付き合いまでは、ありませんでした」
「…深い付き合い…したかった?」
「いいえ。それで、よかったのだと思います」

ぺんこうは、懐かしむような表情で、遠くを見つめていた。
真子は、ベンチの背もたれにもたれかかって、俯き加減で呟く。

「ごめんね…」
「…組長のせいではありませんよ」

ぺんこうも、真子と同じ様な感じで背もたれにもたれかかり、背もたれの後ろに両手を下ろした。

「でも、組長には、責任を取ってもらいたいですね」

そう言って、ぺんこうが、真子を見つめる。

「…責任…?」

真子は、ぺんこうに目をやった。その眼差しを観て、真子は、

「いいよ。責任取る。…どうしたら、いい?」

真剣な表情で、ぺんこうに応えていた。

「笑顔を絶やさないでください」
「…それは、ぺんこうだけに?」
「そうですね。私だけ特別に」
「はぁい」

真子は、ニッカと笑っていた。
その表情は、とても滑稽だったのか、ぺんこうは、突然、お腹を抱えて笑い出してしまった。

「くっくっくっく……はっはっはっっは!!!!」
「ぺんこうぅ〜、笑いすぎぃ!!!」
「すみません…その…あまりにも…おもしろくて……。
 負けました。参りましたぁ〜!! はっはっはっは!!」
「もぉ!!!!」

真子は、そっぽを向いてふくれっ面になる。そんな真子の頭を撫でまくるぺんこう。その手に真子は、手を添える。
二人は、微笑み合っていた。



「なんとも言えない雰囲気やな。真北は、それを望んでるんかな」

この日、とっても暇な橋は、事務室の窓から、真子とぺんこうの様子を見つめて、微笑んでいた。

「…暇…やぁ……」

橋の嘆く声とは別に、真子とぺんこうは、まるで恋人同士のような雰囲気で、ベンチから立ち上がり、歩いて行った。





黒崎は深刻な眼差しで、真北を睨んでいる。

「真北…だから、もう、帰れと言っただろう」
「乗りかかった船だからな。…あの男がやられて、同じ様な
 ことを始めたあんたまで、やられてしまうんじゃないかと思うとな…」

真北も、黒崎を睨みながら、低い声で言った。

「俺は、お前にそこまで、義理立てられる程の男じゃないぞ。
 …その方が、お前にとって、一番嬉しいことじゃないのか?」
「…あぁ。あんたが、やられることは、俺にとって一番嬉しいことだ。
 だがな…俺の大切な人が、それを望んでいないんでな…。
 なんでだろうなぁ」

真北は、椅子にふんぞり返って、黒崎を見下すような表情で見つめる。

「そういう風に、あんたが育てたんだろ」

黒崎が言い切ると、

「憎い相手でも、怒りをぶつけるな…ってね。…真子ちゃんの手を
 血で…汚したくなかったんだよ。かわいい娘の手…をね」

自慢げに真北が応えた。

「そう言えば、阿山組は、お前が絡んでから、誰も手を下して
 なかったなぁ。…それまでは、当たり前のような感じだったのにな。
 …あぁ、一度だけ遭ったなぁ。…相手は天地組の親分だっけなぁ」

黒崎は、ふざけた口調で真北に言った。その姿は、黒崎には、あり得ない姿だった。

「お前が企てたにも関わらず、手を掛けた…。そりゃぁ、阿山の
 本能は、お前でも抑えられないわなぁ〜。あっ、それだけじゃないな。
 その後……っ!!!!」
「…黒崎ぃ〜」

真北は、黒崎の胸ぐらを掴みあげてしまう。

「…今、ここで、俺を殴っても、誰も…帰ってこないぞ…」

真北は、こみ上げる怒りを堪えているのか、黒崎の胸ぐらを掴む手は、震えていた。

「くそっ!」

思いっきり手を離し、真北は、ソファにドカッと座った。

「真子ちゃんの顔が過ぎったか…」
「…あぁ」

真北は、苛々しているのか、片足を揺すっていた。
そんな真北を見つめる黒崎の目は、何故か、温かかった。

「そんなあんたを、これ以上、巻き込みたくないんだよ。
 …真子ちゃんの…為にもな…」
「……ほんと、あんたは、変わったな」

真北は、膝に肘を付いて、両手で頭を抱え込む。

「くまはち!」
『はい』

別室で待機していたくまはちが、入ってきた。

「帰国だ」
「はぁ〜?!」
「なんだよ。その返事はぁ」
「空港閉鎖されてますよ」
「…はぁ〜?!????」

テレビでは、内戦が起こったとの放送。
真北は、頭を抱えて、

「くまはちぃ〜」

と静かに呼ぶ。

「はい」
「…お前が、首を突っ込まなかったら、こんなことには
 ならなかったんだぁ〜!!! うがぁ〜ぁ!!!!」

真北は、いきなり、側に居るくまはちを殴る蹴る……。

「な、な、な、なんですかぁ!!いきなりぃ!!」
「知るかぁ!!」

壁際に追い込まれたくまはちは、覚悟を決めた。

ガン! パラパラパラ……

「はぁはぁはぁ……」

真北は、くまはちを思いっきり殴る蹴るをしたため、少し息が上がっていた。

「……」

くまはちの顔の真横で、真北の拳が、壁にめり込んでいた。

この拳だけは、受けなくてよかった…。

くまはちは、真北の腕を見つめながら、そう思った。
真北の拳が、壁から、出てきた。

「…何も、そこまで、やることないでしょ!!」

くまはちが、真北に叫んだ。

「…いきおい…余った…」

真北は、壁に穴を開けた手で、頬をぽりぽりしながらくまはちに言った。

「いきおい、余った…って、真北さぁん〜」

真北のすっとぼけた表情を見ている黒崎は、思わず微笑んでしまう。

「猪熊、危なかったなぁ。真北、寸でで壁に方向変えただろ」
「…まぁな。…くまはちの顔に傷つけたら、いくら俺でも…な」

真北は、苦笑いした。

「…真北の性格、本当に、変わったな…。大丈夫か?」

黒崎は、くまはちの耳元で呟くように尋ねる。

「さぁ、それは、私にも解りません…。不安ですね…」

くまはちは、本当に不安なのか、眉間にしわをよせていた。
くまはちにしては、珍しい表情…。





黒崎は、部屋の一室でアルコールを手に、のんびりと時間を過ごしていた。
ふと、真北との会話を思い出す。

なぜ、あの真北が、こうして、阿山組のために
命の危険を顧みず、動いているのか。
特殊任務に就く男だから……?
それだけでは、無い。
黒崎は、知っていた。
真北の本来の姿を。

大きく息を吐き、グラスを空にする。そして、新たなアルコールを注いだ。
氷が、パチンと弾ける。
フッと笑みを浮かべた黒崎は、一口飲む。

ちさとちゃんの大切な…真子ちゃんの為…か。

遠い昔を思い出す。
まだ、阿山慶造が四代目となる前の事。
確かに、あの頃…。自分が目指していた事がある。
その昔、三家族が仲良く暮らしていた頃。
その頃のように、血を流すことなく、ただ、笑顔が絶えない日々を送りたい。
そう願っていた。

何が、狂ったのだろう…。

やはり、血は争えない。
それには、愛も絡んでいる…。
三家族が仲違いしたのは、愛のもつれ。
それを知っているのは、黒崎家の者だけだった。

竜次……。

胸を締め付けられる思い。
黒崎は、グラスのアルコールを、一気に飲み干した。

俺は、お前のために、何も出来ないんだろうか……。

弟思いの男。
それは、もう一人、居る。





真北は、グラスを差し出した。
そこに注がれるアルコール。グラスを満たした途端、一気に飲み干す。

「真北さぁん、これ以上は…」
「ほっとけ」
「放っておけないから…」

そう声を掛ける、くまはち。
その声から、優しい心が伝わってくる。

「…くまはち」
「はい」
「あまり…真子ちゃんに心配掛けるなよ」
「真北さん、それは……」
「俺の事は、ほっとけって」
「放っておけません」
「俺は、死なない体だからさ…」

あいつの……幸せを見届ける為に。
そして、真子ちゃんの幸せを……。

「注げっ」

そう言って、真北はグラスを差し出した。
くまはちは、アルコールを注ぐのを拒む。
真北が睨んでくる。

注げっ。
駄目です。
注げっ!
注ぎませんっ!

睨み合いながら、目で語る。しまいには、真北が、くまはちの手からボトルを取り上げた。

「ったく…」

そう言って、アルコールを注ぐ。

「…真北さん、あなたは、どうして、いつも…死なない体だと
 仰るんですか? …死なない体。死ねない自分……。
 その言葉を聞く度に、私は…」
「…別に、真子ちゃんが持つ特殊能力の影響を受けた訳じゃない。
 俺のここに秘めた思いが…そうさせるだけだよ」
「思いだけで……思いだけで、そのような言葉は」
「くまはちだって、そうだろがっ」

真北の言葉に、くまはちは、何も言えなくなる。
確かに、そう…。

でも、俺は……。

くまはちは、何も言えなくなり、拳を握りしめた。
ふと視野に飛び込んだボトルに手を伸ばし、

「って、こらっ! ボトル毎は、やめとけっ!!!」

ボトルから直接、アルコールを口にした。

ったく……。

くまはちの飲みっぷりを見つめる真北の表情は、とても、和らかい。

「って、飲み干すなっ!!!」

空になったボトルを、勢い良くテーブルに置いた、くまはちだった。

「組長……どうしてるんでしょうか…」
「体調は悪くなる一方だよ。…どうしてかな…」
「やはり……」

くまはちは、そう言ったっきり、口を噤んだ。

くまはち??

真北は、くまはちの言葉の続きが気になった。





林檎の皮が、するすると細く長く皿の上に重なっていった。

「ねぇ、まさちん…」
「はい、組長、なんでしょうか」

まさちんは、林檎の皮を剥きながら返事をした。

「…どうしても、駄目…なのかなぁ」
「テストに出席したい…ですか?」
「…うん……」

まさちんは、林檎の皮を切らずに、見事に剥き終える。
ちょっぴり自慢げな表情を見せるが、それは、悩む真子には気付かれていない。

「組長の気持ちは解ります。最後の試験ですから。
 …ですけど、今の組長の体調をお考えください…。
 考えなくてもおわかりになるでしょう?
 橋先生はともかく、真北さんを騙しているんですから。
 …組長の能力は、未だ、消えていないということ」

まさちんは、剥き終わった林檎を一口サイズにカットして、お皿にのせてフォークと一緒に真子に渡した。

「…そうだよね…。これ以上、秘密ごとを増やすのはよくないよね…。
 また、みんなに心配掛けちゃう。だけど…。まさちん…」

真子は、林檎にフォークを刺したまま、俯いていた。

「組長……」

まさちんは、幼い頃の真子を見ているような気がして、心が痛かった。

「明日から、私がビルに居る間は、ぺんこうが来ることになってます」
「…うん…。勉強みてくれる約束だから…」

真子は、林檎を一口かじる。

「ぺんこう、大学で尋ねてくれたんだ。テストまでは、休んでも
 大丈夫かって…。大丈夫なんだって。その代わり、ぺんこうが、
 残りの分をみるようにと言われたらしいよ。なんでだろうね」
「ぺんこうは、有名ですから」
「有名?? なんで?」
「さぁ、それは、私にもわかりませんが…」

まさちんは、真子の手にあるお皿の上から、林檎をひとかけ、手に取った。しかし、それは、まさちんの口に入る前に、真子の口に入った。

「組長ぅ〜!!!私が剥いたんですから、一口くらいぃ」
「駄目ぇ〜。全部私のぉ〜もぐもぐもぐもぐぅ〜」

真子は、お皿の上にあった、林檎を残らず、口に含んだ。

「くまぁめぇむまぁいぃ〜(噛めない)」
「……知りませんよ……。ったく……」

まさちんは、必死で笑いを堪えていた。
真子は、一生懸命、口に頬張った林檎を噛んでいた。
まさちんは、俯いて、必死で笑いを堪える。そんなまさちんの頭を軽く叩く真子だった。


廊下では、またしても、真子の様子を伺っている橋が、病室内の真子とまさちんのやり取りに、心が和んでいた。

「あいつも、早く、この輪に入りたいやろなぁ」

優しく微笑む橋。
橋の思うとおり、真北が、黒崎の前で見せた苛立ちは、真子の声を二ヶ月近くも聞いていないことが、原因だったようだ。
真北の病気、再発…???


「ねぇ、ねぇ、まさちん」
「はい」
「もう一個剥いてぇ〜」
「まだ食べるんですか?」
「切らずに皮を剥くところ、もう一回見たいぃ〜」

見てたんですか…組長〜。

「見てたもぉん」

まさちんの心の声に応えるかのように、真子が言う。
その声に、まさちんの心が弾む。

「では、もう一個! 今度は、全部、私が食べますからねぇ〜」
「駄目ぇ〜」
「嫌です!」
「やだぁ」

先程までの悩みは何処へやら。
少しばかり、心に元気を取り戻した瞬間だった。



(2006.3.25 第三部 第四十五話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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