任侠ファンタジー(?)小説・組員サイド任侠物語
『光と笑顔の新た世界〜真子を支える男達の心と絆〜

第三部 『光の魔の手』

第四十六話 それぞれの行動

AYビル。
幹部会が開かれていた。水木や須藤たち、強面の男が雁首揃えて何かを企んでいるのか、深刻な表情をしている。

「手入れをさせているよ。長い間ほったらかしとったから、
 錆び付いてるものもあったよ」

谷川が、静かに語る。

「水木さんは?」
「言わんでも、わかっとるやろ。わしんとこは、封印されてる。
 されてるけど、こよりを切れば、いつだって使えるで」
「須藤さんは?」
「いつでもOKや」
「…川原さん…とこは、聞かなくてもわかってますよ」
「なんや、まさちんには、ばれとったんか」
「当たり前ですよ。どれだけもみ消しているのかもね」
「…って組長…には?」
「言ってませんよ。藤さんとこは?」
「大丈夫や。若い連中は、扱ったことないもんが多くて
 心配なんやけどな」
「それを抑えるのは、藤さんの力量ですよ。…呉々も組長に
 知られないように」
「あぁ」
「松本さんは…」
「いつもの通りや。組長に内緒で行うことには参加せぇへん」
「そうでしたね…。松本さんには、別の方法で、お願いします」
「改めて言わんでもわかってるよ」

松本は、微笑んでいた。

「さてと。あとは、それぞれの組で、行って下さいね。だけど、
 これだけは、決して、守ってください」

まさちんは、真剣な眼差しで、幹部達を見つめ、

「危険に曝された時以外は、使わないと…」

強く言った。
幹部達は、それぞれ、力強く頷く。



会議を終え、まさちんは、事務室へ戻ってきた。

「ふぅ〜」

ソファに腰を掛け、一息ついたときだった。
内線が鳴った。

「もしもしぃ。…明美さん…はい。はぁ…荷物…?? 天地山の
 原田…。なんだろう。あっ、いいです。取りに伺いますから」

まさちんは、受話器を置いて、事務室を出ていった。そして、一階の受付にやって来た。

「まさちんさん。これです」
「…でかぁ…。何やろ…。明美さん、ありがとうございます」

まさちんは、微笑んで事務室へ戻っていった。

箱を目の前において、眺めるまさちん。

「何が入ってるんやろ…。…まさか……」

まさちんは、嫌な予感がした。
その時だった。
電話が鳴った。

「びっくりしたぁ…。…もしもしぃ〜」
『原田だ。まさちんか?』
「…そうや」
『荷物届いたかぁ?』
「今、目の前にあるけど…これ、何や?」
『まだ、開けてないんだな。まぁいいよ。それはな…』




まさちんは、片手に大きな箱を持って、橋総合病院へ入ってきた。
その足は、自然と真子愛用の病室へと向かう。

まさちんがノックをして病室に入ると、そこでは、ぺんこうが、真子に付きっきりで、講義中。
真子は真剣な眼差しで教科書を見つめていた。

「ここは、…こう?」
「……いいえ、この方が…」
「んー……」
「なぁって。無視するなよぉ」
「あぁ、まさちん。ゴメン。過ぎてたね」

まさちんが、ノックをして、病室に入ってきたのに、全く気が付かなかった真子だった。
…ぺんこうは、気が付いていたようだが…。

「もう少しだからね」

真子は再び教科書に目をやった。
まさちんは、少しふくれっ面になりながら手に持っていた箱から、何かを取りだした。
それは、クリスマスツリー。
がさごそと何かを取りだしたまさちんが気になる真子は、まさちんに目をやる。

「何それ。どしたん?」
「まさからのプレゼントですよぉ。今日ビルに届きました」
「まささんから? どしたんだろ」
「お手紙ですよ」

まさちんは、箱の中に同封されていた手紙を真子に渡した。真子は、封を開ける。

『少しでも、クリスマスの気分を味わって下さいませ。
 元気になったら、思いっきり遊びに来て下さい!!
 お待ちしております。         masa』

「まささんったらぁ〜」

真子は、嬉しそうに微笑んで、手紙をぺんこうに見せた。

「毎年楽しみにしてるんですね、組長に逢うことを」
「私も楽しみにしてるんだもん。…残念だなぁ」
「ということで、飾り付けしましょうか」
「そだね」

真子とぺんこうは、クリスマスツリーの飾り付けに、何故か四苦八苦しているまさちんを見て、呆れたような表情になる。
まさちんが、四苦八苦するのもわかるような気がする……。

ツリーに灯りが、点灯したのか、病室内を照らしていた。
緑に、赤に、オレンジに…。
真子は、嬉しそうに笑みを浮かべる。

「ここに、ケーキがあったら、もっと楽しいのに…」

まさちんは、何か企んでいるような表情でぺんこうに目配せをする。
ぺんこうは、まさちんの企みに気が付いたのか、フッと笑みを浮かべた。

まさちんの企み…それは………。



真子は、ケーキを頬張った。

「んーー!!!! おいしいぃ〜!!!」
「ありがとうございます」

そう言って、素敵な笑顔を見せたのは、むかいんだった。
まさちんの企み。
それは、ツリーが届いたと同時に、まさから、むかいんには、ケーキを作るように頼んで欲しいと言われたのだった。

『お嬢様の笑顔の為に』

まさちんは、まさの真子への心遣いに少しやきもちを妬いたが、それも、お見通しのまさ。

『少しくらい騒いでも、橋は、怒らないだろう。
 橋には、俺からも、連絡しておくから。頼んだよ。
 お嬢様を驚かせたいんだよ。お前もだろぉ?
 ふてくされないで、頼んだよ』

そのような言葉も付け加えられていた。

真子愛用の病室では、少し賑やかにクリスマスパーティーが開かれていた。
真子を囲んで、まさちん、ぺんこう、そして、むかいんが、病室で楽しんでいた。

「これは、組長にだけ」

ケーキに手を伸ばしているまさちんとぺんこうの手を阻止するむかいん。

「俺にも喰わせろやぁ」

こんな時、必ず同じことを声を揃えて口にするまさちんとぺんこう。そして、案の定、二人は、睨み合う。

「むかいん、二人は、ほっといて、いいからぁ」
「…組長…!!!」

まさちんとぺんこうは、同時にそう言って、そして、素早くケーキを口に放り込んだ。

「あぁ!!!!! 食べんといてやぁ!! 私のやんかぁ」
「早い者勝ちですよ!」

ケーキを口に運ぶまさちんとぺんこうの手は早かった。

「あーーーーー!!」

真子は、その速さに追いつけないのか、ただ、見ているだけだった。

ガシッ!!

「もう一回……言おうかぁ?」

むかいんが、二人の手をがっしり掴んで、ドスの利いた声で言う。

「すみません…」

ケーキのクリームを頬や口の周りに付けたまま、まさちんとぺんこうは、恐縮そうな表情で、むかいんに言った。

「はぁ…もう、俺、嫌やで…。お前らを止めるのはぁ」

むかいんは、呆れた表情をする。

「ほんと、むかいんって、いっつも二人を止める役だよね」
「そうですね…。一番記憶に残ってるのは、ぺんこうが教員免許を
 取ったときやなぁ」
「あぁ、…あの時…」

真子、まさちん、そして、ぺんこうは、それぞれ思い出していた。

「…で、なんで、俺が、いつも止め役なんだよ…」
「なんでやろ…」
「う〜ん」

まさちん、ぺんこう、そして、真子は、考え込んでしまった。

「まぁ、兎に角、お前ら、やめてくれよな…」
「それは、約束できへんなぁ」

まさちんとぺんこうが、またまた同時に発した。

「…仲良いくせにぃ」

二人が同時に発した事に対して、真子は、微笑みながら言った。

「そうですよね」

むかいんが、納得するように言うと、その言葉に、まさちんとぺんこうは、睨み合う……。

「ったく…」

ボカッ!

「…だから、なんで、いつも私だけなんですかぁ!!!」

まさちんは、真子に頭を叩かれた。

「まさちんだから」
「ったくぅ〜!!!」

まさちんは、ふくれっ面。


いつもなら、天地山で過ごすクリスマス。
賑やかなパーティーで、素敵なドレスを着て、アルコールを飲んで…。しかし、今年は、橋の病院の病室で、たった四人の質素なパーティー。
それでも、真子にとっては、とても楽しいひとときだった。
笑顔を絶やさない真子。真子の笑顔で心が和むまさちん達。

「…組長…? 寝てしまった…」

真子は、隣に座っているむかいんの肩にもたれかかるように眠ってしまった。

「予想はしていたけどね」

むかいんは、そっと真子を抱きかかえ、ベッドに寝かしつけた。

「昔もそうだったよな、ぺんこう」
「あぁ。お前の作ったケーキ食べて、楽しく話し込んで、
 疲れて、そのまま眠る…。変わらないんだよなぁ」

ぺんこうは、テーブルの上を片づけながら、昔を懐かしむような感じで話した。

「それって、俺が来る前か?」
「そうやな。真北さんとくまはちが、今みたいに本部を
 留守にした時や。ぺんこうが授業の時は、ほとんど
 俺と過ごしていた時期があったんだよ。その時。
 組長な、凄く寂しがってて…それで俺…もっと
 心を和ませようと思って…」
「思って…???」
「飾り付けの楽しそうな洋菓子に凝り出したんだよ。
 試作のケーキを作っては、組長に試食してもらってね。
 ぺんこうが来た時は、話が弾んでなぁ」

むかいんは、懐かしむように語り出した。

「そんな時期もあったのか……」

少し悔しそうに、まさちんが呟く。

「まぁ、それも、お前が来たら、必要無くなったけどな」

意地悪そうに、むかいんが言うと、まさちんの表情が綻んだ。
むかいんは片付けを始める。

「むかいん、今から、ビルか?」

まさちんが、荷物を持ったむかいんに尋ねる。

「あぁ。今からが本格的やからな」

時間は、夜の八時。
クリスマスイブのこの日とクリスマスの日。忙しいのはサンタさんだけではないのだった。

「お前、働き過ぎやで」

ぺんこうが、仕事場に戻ろうとしているむかいんに言った。

「しゃぁないよ。この時期は、忙しいからね。
 今日は、無理言って抜けてきたんだからなぁ」
「そっか。明日がもっと忙しいんよなぁ。そして、正月に向けて
 更に忙しくなるんだっけ」
「まっ、それが、一番好きなことだからな。でも、久しぶりに組長と
 過ごせて、嬉しかったよ。まさにもお礼言っとかな、あかんなぁ。
 ほな、大晦日なぁ」
「無理すんなよぉ!」
「あぁ。お前もなぁ」

素晴らしい笑顔をぺんこうとまさちんに向けて、病室を出ていくむかいんだった。

「笑顔の料理人…怒らせないようにせんとなぁ」

まさちんは、呟く。

「そうやなぁ。あの夜の姿は、二度と見たくないな」

ぺんこうは、苦笑い。

「で、まさちん、今年は、本部に行かないんか?」
「行かないかな…」
「ええんか? 組長も真北さんも行かないで」
「ええやろ。組長は、いつも行くの嫌がってるからなぁ」
「そうだよな。…あんな場所で過ごすの…嫌だろうなぁ。
 安心できないのかもな」
「…いつになったら、安心できるんだろうなぁ」

ぺんこうとまさちんは、眠る真子を優しく見守りながら、仲良く話していた。

「しかし、まさの奴も、何を考えてるんだか。…俺、こんなツリー
 初めて見たよ」

まさちんが、呆れたように笑いながら言った。

「いくら、組長のことを思ってのプレゼントでも…なぁ。
 俺も初めてみた」

ぺんこうは、ツリーの飾り物を手に取りながら、言った。

「猫型ツリーなんてなぁ…」

まさちんとぺんこうは、声を揃えて呟いた。
やはり、二人は仲が良さそうで…???




クリスマスイブは、元気だった真子。
ところが、急に体力が劣り、歩くことさえ出来なくなってしまった。ベッドの上で起き上がるくらししか出来ない真子は、少し寂しそうな表情を見せていた。

大晦日。
真子の側には、ぺんこうが、付き添っていた…というより…。

「これなら、大丈夫でしょう」

真子は、こんな日まで、組関係の仕事の書類に目を通していた。
…入院生活が暇で暇で仕方がないだけなんだが…。
そんな真子の仕事を、ぺんこうが手伝っていた。

「…なるほど…やっぱり、ぺんこうって、すごいね。
 組関係の書類まで、ちゃんと教えてくれるんだもん」
「組長の教育係でしたから」
「今も…でしょ?」

真子に少し笑顔が戻っていた。

「いつまでも…ですよ」

ぺんこうは、ふと窓の外を見た。

「冷え込むと思ったら…組長、雪が降ってますよ」
「ほんとだぁ。積もるかなぁ」

真子は、振り返って、嬉しそうに言った。

「大阪では、難しいでしょうね」
「ぺんこう、ぺんこう!!」

真子は、ぺんこうに手招きして、何かを訴える。

「はいはい。わかりましたよぉ」

ぺんこうには、真子の言いたいことが解ったのか、真子を抱きかかえ、窓際に寄った。
真子は、ぺんこうの首に手を回し、窓の外を眺める。

「素敵だね」
「そうですね」

二人は、雪が止むまで、眺めていた。




年が明けた。
病院の庭は、昨夜に再び降り出したのか、うっすらと雪化粧されていた。

「…珍しいなぁ。雪で新年を迎えるとは」
「珍しいんだぁ」
「…真子ちゃん、毎年、年末年始は、大阪におらんもんなぁ。
 雪は、珍しくないか…」
「そだね…」
「暇やからって、何もこんな日に、組の仕事をせんでもええやろ」
「仕事始めがしやすいようにと思ったんだもん…」
「はい、おしまい。あんまし、回復に向かってへんなぁ」

真子は、検査のため、橋の事務室へぺんこうと来ていた。
橋の言葉を聞いて、真子は、肩の力を落とす。

「橋先生ぃ〜。組長に何を…」
「ほんまのことや。まさか、入院したとたん、どんどん
 悪化するとは思わへんかった。真北が帰国する前に
 元気になって欲しいんやけどなぁ。どないしたもんやろ。
 な、ぺんこう」
「な…って、私にふらないで下さい。医学の分野は、詳しくありませんから」
「授業に必要やろ?」
「専門的なことは、必要ありませんから。…組長、大丈夫ですよ。
 そんなに落ち込まないで下さい。これからですよ」
「うん……」
「では、先生、病室に戻ります」
「外には出るなよ」
「解ってますよ」

ぺんこうは、ちょっぴり落ち込む真子を車椅子に乗せ、橋の事務室を出ていった。

「組長、悩み事…ですか?」
「…テスト…出席したいな…」
「…組長…」

ぺんこうは、困った表情になる。その表情は、真子には見えなかった。

テストに出席したい。
この言葉は、真子の癖になってしまったのか、冬休みが終わり、教職に忙しいぺんこうと入れ替わったまさちんに、言いつづけていた。

「ねぇ、まさちん…」
「駄目です」

「ねぇ、まさちん…」
「組長、本当に、これ以上…」

「ねぇ、まさちん…」

まさちんは、真子が口を開くたびに、言うこの言葉に対して、悩んでいた。
組長の気持ちは、わかる…だけど…体調が……。




橋総合病院駐車場に、一台の車が入ってきた。指定の場所に停まった車から、一人の男が降りてきた。男の手には、大きな花束が…。にやりと笑った男は、病院の建物へ向かって歩いていく。
男は、とある病室の前で立ち止まった。
その病室には、表札はかかっていないが…。
男は、花束を持ち替え、ドアノブに手を掛けた。

「おっはようございまぁすぅ!!!」

花束を片手に持ち、両手を広げて、くりくりと腰を振る男…。

「…健、静かに」
「すみません…」

真子が静かに言った言葉に、素直に従う男…それは、真子の見舞いに来た健だった。

「では、いつものように花瓶に挿しておきます」
「ありがとう」

真子は、まさちんと深刻な話をしているのか、書類を見ながら、眉間にしわをよせていた。

「わかった。それは、まさちんの判断に任せるよ」
「では、今、申した通りに行います」
「うん。…さてと…。健!」

真子は、一段落付いたのか、花瓶に花を挿している健に声を掛けた。

「はぁい、なんでしょうか、組長」
「これから、たいくつなんやけど…。また、楽しい話し聞かせて!」

真子は、笑顔で言った。

「かしこまりましたぁ」

健は、嬉しそうな表情で、真子の側にやって来た。

「私は、ビルへ。健」
「あん?」
「ぺんこうは、三時に来る予定だから、それまで、お願いな」
「一晩中、ええで」
「あほ。では」
「気を付けてやぁ」

病室を出ていくまさちんに、明るく声を掛ける真子と健だった。

「…さてと。で…?」

真子は、先程とは違い、真剣な眼差しで、健を見つめる。
健は、懐から、小さな四角い物を取りだした。それは、パソコンだった。
真子の前にあるテーブルにパソコンを置いて、ボタンを押す。画面を食い入るように見る真子に、健が、優しく真剣な声で語り始めた。

「あまり、情勢は変わらないのですが、組長が気になさる事…、
 これらが、水木さんが昨年末までに抑えた組です」

画面には、たくさんの文章が表示されていた。真子は、真剣な眼差しで、それらを見つめていた。

「ふ〜ん。ま、どれも、以前からもめてたとこやね」
「今回、組長が入院していることも既に、知れ渡っているようですよ。
 赤印…不穏な動きもあります」
「水木さんは、気ぃついてるんかなぁ」
「水木さんとこも、俺と一緒で、情報網はすごいですから。
 それくらいは、御存知でしょう」
「なら…大丈夫かなぁ。今、くまはち居ないからなぁ。いつものように
 いかないでしょ。ったく、勝手な行動が多いんだからぁ」
「それも、組長を思っての行動ですから。それと、四国地方ですが、
 青野組が、行動に出ているようです。青野のことだから、ここまでは
 手を伸ばさないでしょう」
「健、これは?」

真子は、気になることがあったのか、画面を切り替えて、健に尋ねた。

「今、急速に成長している企業ですよ。ゲーム関係です。
 AYAMAと張り合うかもしれませんね」
「あぁ、椿社ね。確かに張り合うかもね。でも、AYAMAは未だ、
 爪を隠してるから、椿社の独占だろうなぁ…って、健、私が
 知りたい情報は、あっちの世界じゃなくて、こっちの世界。
 絶対、私に隠して、何かを始めようとしてるって」
「今のところ、そのような話は出てませんね。あるとすれば、本部ですよ」
「本部?…また、山中さん、とんでもないことを考えてるとか…。
 もぉ、やだよぉ。山中さんと勝負するのはぁ」
「俺、観たかったですよ。組長の勇姿。絶対、写真に撮って、パネルに…!」

ガツン!

「いてぇ〜! すみません〜」
「ったくぅ、写真シールにするわ、ラミネートかけるわ…それらを
 知り合いに配るわ…店で売るわ…。健、どこまでしてるん?」
「パネルも加えてください」
「健!!!」
「す、すみません!!!」

真子は、ふくれっ面になりながらも、健のパソコンを触り出す。

「…しっかし、どこも大人しいねぇ」
「そりゃぁ、組長が、力を発揮してますから」
「ありがと」

真子は、健に微笑んでいた。健は、思いっきり嬉しそうな表情で、真子を観ていた。

「これからも、もっと頑張らないとねぇ。…今月もあるんだっけ?」
「…あぁ、あの会議ですか? 恐らくあると思いますよ」
「そろそろ、私に出席しろって言ってくるやろなぁ〜、ややなぁ。
 特に、この辺りが…ねぇ」

真子が、切り替えた画面を覗き込む健。そこには、全国の極道情報が記載されているページ。
もちろん、作成者は健。

「松宮組と南川組…ですか。そうですね。特に松宮組が厄介ですよ。
 あの組長は、先代の時から、かんなり無理難題を仕掛けてきましたから。
 南川組は、今でこそ大人しいですが、やるときは、徹底的に
 仕掛けてきますからねぇ。でも、我々には、手を出さないでしょう」
「なんで?」
「阿山組五代目に興味を抱いているようですから」
「…私にかい!」
「えぇ。この世界に荒波をもたらしてまで、新たな世界を築こうと
 していることに…ですけどね」
「なるほどぉ」
「女性としての興味でしたら、私が許しませんよ」

真子は、少し照れたように頬を赤らめていた。

「ま、どこも、争いは避けようとしてますから。ご安心を」

健は、力強く言った。

「でも、いつ、仕掛けてくるか…解らないからなぁ」
「その時は、いつものように、ご連絡致しますから」
「うん…よろしく」
「あとは…!!!」

健は、廊下に人の気配を感じたのか、真子の目の前のパソコンの画面を切り替えた。
真子は、何事も無かったような表情で、パソコンを触っていた。
それは、ゲームだった。

ノックをして入ってきた橋は、

「健が、来てたんかぁ」

健の姿を見て、驚いたように言った。

「こんにちはぁ」
「…暇…なんか?」
「兄貴が喫茶店してたら、俺、することありませんから」
「それで、また、花束持って、真子ちゃんを笑かしに来たんか。
 あんまし、体力を消耗させるような笑いはすんなよ」
「抑えてますから」
「って、真子ちゃん。ゲームもあかんって言ったやろぉ」
「健がおもろいゲームあるって言うから…。今後のAYAMAの
 企画に役立つかなぁと思ったんだもん」
「…それらは、水木に任せてるんちゃうんか?」
「そうだけどぉ。で、何ですか? 検査は、しばらく無いって…」
「さっきな、真北から、連絡あって、急に空港の閉鎖が解かれたから
 便も取れたし…ということで、明日の朝、帰国するようやで」
「無事?」
「まぁな。少ししょげた声、しとったで。姿観たら、話しかけたってや」
「嫌ぁ」
「ほななぁ。健、あんまし、長居すんなよ」
「ぺんこうが来るまでですよ」
「なるほどな。でも、健だと、見張りにならんやろ」

そう言って橋は、ドアを開けた。

「見張りだなんて、組長は逃げたりしませんよ!!!」
「だまされるなよぉ!」

橋の背中に向かって、叫ぶ健をからかうような言い方をして、去っていく橋だった。

「あの医者は、ほんまにぃ」

ぶつぶつ呟きながら、健は、先程の画面に切り替えた。

「失礼しました。…あとは、これですね」
「あぁ、それは、まさちんに頼んであるから。さっきの事がそう」
「まさちん一人で大丈夫ですか? 相手はかなり大物ですよ」
「大物ほど、力を発起するのが、まさちんだもん。任せて安心」
「俺は、不安ですけどね。…まぁ、取りあえず、解っていることだけでも
 まさちんに連絡しておきます」
「よろしくね」
「川原組と藤組が、何かを始めようとしているようですね」
「私の命令に逆らうことじゃないんなら、ええけどね」
「末端の組のいざこざですが、未だに絶えないようです。川原が
 手こずってますよ」
「さつま…からんでないかな?」
「そうですね…密かに行動をしている可能性がありますね。
 調べてみます。…末端は、さつまの分裂ですからね…。
 それに、川原組と藤組は、今でこそ、仲が良さそうにみえますが、
 阿山組傘下になる前は、それこそ、血を見る感じでしたから…。
 何かありそうですね。二つが争うようなら、手を打たないと…」
「…むかいん…呼ぼか…」

あの夜に起こった出来事は、真子の耳には入っている。真子と健は、微笑み合っていた。

「むかいんって、ほんと昔っから、止め役ですね」
「こないだも、そんな話ししてたんだよ。むかいん、嫌がってた」
「そうでしょうね。俺だって、あの二人を止めたくないですよ」

健の言葉に、真子は微笑んだ。

「…須藤さんとこは?」
「変わりありませんね」
「…みんな、何か企んでない?」

真子は、健を睨み上げる。

「その様子は…ありません」
「そっか。なら、安心して、養生できる」

真子は、背伸びをした。

「ねぇ、健」
「はい」
「ほんと、いつもありがとう。組のこと、まさちんに任せてるけど、
 私に言わないこと多いから。特に、争いごと…ね。恐らく、
 真北さんから言われてるんだと思うけど…」
「組長…」
「これからも…よろしくね」

真子は、素敵な笑顔を健に向けていた。
健は、心が痛かった。
真子から、組関係の情報や阿山組内の不穏な動きに対する情報を、こっそりと教えて欲しいと言われている。今まで、真子には内緒で行われていた争いごと…それらが、真子の耳に入っているらしいことは、時々真子の言動で、解っていた。
その裏には、情報通の健がこのように、絡んでいたからだった。
それは、誰も知らないこと。
しかし、健の弱点は、真子ということは、誰もが知っているので、本当に、真子には内緒にしなければならないことに対しては、うるさく口止めされていた。
それは、今、本部で密かに進められていること…。

一体、それは…?

「では、これらの情報は、まさちんに伝えておきます。
 …組長、退院は、何時になるんですか?」
「わからん。暫くは…無理だろうけど…だけどね…、テスト…
 大学生活最後のテストくらい、…受けたいんだけどなぁ。
 健からも、お願いしてほしいなぁ」
「…私には、そんな力ありませんよぉ」

いつものおちゃらけ健に戻っていた。

「でも、寂しい時は、いつでも呼んでください。私は、すぐにでも
 駆けつけますから!」
「時々にしてね」
「なんでぇ〜」

健はふくれっ面になっていた。

「…笑いすぎて、疲れるの嫌だもん」
「では、期待に応えて…」
「応えなくていい!!!」

健は、真子の制止を無視して、おもしろいことをしたい放題…。
真子は、笑いっぱなし。
まるで、演芸場のような雰囲気の真子愛用の病室に、ぺんこうが、やって来た。

「はぁっはっはっはっはぁ…あはははぁ…あ?…ぺんこうぅ〜」

真子は、笑い涙を流しながら、ぺんこうに気が付いた。

「…健…お前なぁ。組長を疲れさせるなよ…」
「す、すみません…」

健は、何故か、ぺんこうには頭が上がらない。

「では、組長、今日はこれにて!」
「今日はって、また、笑かすん? やめてやぁ」

健は、明るく手を振りながら病室を出ていった。

「健! 忘れ物!!」

健は、真子の声に素早く反応して、病室へ戻ってきて、真子の手にある小さなパソコンを受け取り、去っていった。

「ぺんこう、時間より早く来たんだね」
「予感がしてましたから。健に笑い倒されそうな組長を」
「それ、正解ぃ〜。笑いすぎて、お腹痛いもん」
「ったく、健も伝えることだけ伝えればいいんですよ。それで、
 どうなんですか?」
「どうって…悪い状況には、なってないから、安心かな…」
「ったく…」

ぺんこうは、少しため息をつきながら、真子の頭を撫でていた。

「心配いりませんよ。阿山組組員は、組長に逆らえませんから。
 それに、組長の怖さ、身をもって知ってますからね…!!
 駄目ですよ、そんなことしてはぁ。体力の無駄遣いです!」

ぺんこうの言葉に、真子は拳を振り上げたが、それは、ぺんこうにしっかりと受け止められていた。

「だけど、組長、そんなに健を信じても、大丈夫なんですか?」
「…そりゃぁ、健自体も隠し事してるだろうけど、情報に関しては
 健か、水木さんに聞いた方が早いもん」
「健の話は、本部に居る時によく聞きましたからね」
「ぺんこうには、頭が上がらないみたいやね。なんで?」
「その事に関しては、組長、知らない方がよろしいかと…」
「…いつか、話してね」

真子は、かわいらしく微笑んだ。ぺんこうは、苦笑い。
この二人の会話でわかるように、ぺんこうだけは、真子の情報源を知っていたのだった。

「…組長、どうされました?」

急に暗い表情になる真子。
ぺんこうは、真子の講義の教科書を取り出しながら、真子の沈んだ表情が気になり、そっと尋ねた。

組長…??



(2006.3.26 第三部 第四十六話 UP)



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※旧サイト連載期間:2005.6.15 〜 2006.8.30


※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。


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