任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界・復活編」

序章 喜び
第十話 大晦日の過ごし方

向井家は、いつもよりも賑やかだった。

「わぁっ! それも、あかんっ!! 理子っ!」

むかいんの、慌てる声がする。

「ええやろぉ! 初めて見るんやからっ」
「それでも、あかんっ!! おかん、止めてやぁ」
「止めませんよぉ。理子さん、これは、どう?」
「…………驚くことばかりや…。涼って…」
「ええやろがっ……若気のなんたらや」
「この頃から、暴れん坊?」

理子は、むかいんの母・美涼に尋ねた。
美涼は暫し考え込む。遠い昔の事を思い出そうとしているらしい。突然、プッと吹き出すように、美涼が笑った。

「その通りかなぁ。この後かなぁ、『料理人になるっ!』って
 いきなり言い出したのは。ねぇ、あなた」

美涼が声を掛けたのは、むかいんの父・光也だった。光也は、孫の光一と二人で遊んでいた。

「どれどれ」

そう言って、光一と一緒に光也が近寄ってきた。

「…あぁ、そうだな。この後は、必ずと言っても良いほど
 片手に調理器具か料理の材料を持ってるはずだ」

美涼が、めくるアルバムの1ページ。

「ほんまや……」

そのアルバムこそ、むかいんの幼い頃の写真がたくさん納められているもの。
両親の記憶が戻った今、むかいんは理子と光一と一緒に、実家に帰省中。実家に向かう中、色々と思い出していく、むかいん。迷うことなく、実家に到着した。実家の周りは、かなり変化があったものの、むかいんの実家は、むかいんが阿山組に世話になった頃から変わっていなかった。
変わったといえば、電化製品くらいで、玄関、庭は、そのまま。
懐かしさのあまり、暫し佇んでいたむかいんに、美涼と光也が声を掛けてきたのだった。

「ただいま」

輝く笑顔で言った、むかいん。
美涼も光也も、同じように輝く笑顔で、息子一家を迎え入れた。

そして、今。

懐かしいアルバムを見ている向井家一同。
ほとんどが、むかいんの幼い頃の写真。光一と同じ年頃のむかいんの写真もあり、なんとなく、光一に似ているという話から盛り上がり、今までに見たことのないむかいんの愉快な表情が写っている物へと……。





猪熊家・リビング。
本当に、賑やかだった。


「待てっ! それは、無理があるやろがっ!!」

突然、剛一が言った。

「そんなこと、あらへん! これは、序の口」

くまはちが応えた途端、

「八造ぅ〜、お前は、ほんまに、厄介になっとるなっ」

喧嘩腰に、剛一が言う。

「ほら、ぺんこう」
「ん? あ、あぁ…」

剛一の言葉に何も応えず、くまはちは、ぺんこうに声を掛けた。ぺんこうは、サイコロをふる。

「1、2、3……。一回休みか…。はい、美玖」
「はい! えいっ!」

美玖がサイコロを放り投げる。

「6!!」

コマを進める美玖。

「パパ、なぁに?」
「ん? 6番の人に、肩車をしてもらう」
「かたぐるま!!! 6ばん、ごういっさん!!」

そう言って、美玖は剛一の側に駆け寄った。

「ほい」

軽々と美玖を肩車する剛一だった。

「どうや、美玖ちゃん」
「たのしい!!」
「…似合わねぇ……」

思わず呟く、くまはちだった。

「………それでさぁ、くまはち」

ぺんこうが声を掛ける。

「ん?」
「ほんまに、いつ、終わるんや?」
「夕飯には終わるで。そのように、和也君が作ってる」

そう耳にした途端、ぺんこうは、双六のボードを見つめながら、暫し考え込む。

「……ほんまや、すごいな……そういうとこまで計算してるんや」

感心したように、ぺんこうが言った。

「毎年、お手製なのか?」
「そのようや…。…で、兄貴、いつまで?」
「ん? 次の番までやろ」

剛一は、まだ、美玖を肩車していた。

その時だった。

呼び鈴が鳴る。素早く反応したのは、くまはちだったが、

「俺が出る」

と言って、剛一が美玖を肩車したまま、リビングを出て行った。

「はい」

剛一は玄関の戸を開けて、応対する。
そこに立っていたのは………。

「こんにちは」

真子だった。

「ご……!!! いきなり、どうされたんですか!!」

そりゃぁ、驚く。

「…仕事…させてもられなくて、暇…」
「だから、申したんですよ。山中さんと親父に任せておけば
 よろしいと。あの仕事は、お二人に合った仕事なんですから」
「そうだった。……って、剛一さん、美玖……」
「あっ…双六の関係で……」
「ママ!! ごういっしゃのかたぐるまね、くまはちゃぁと、おなじ!!」
「…八造……肩車してるんですか?」
「はい!」
「えぇ、まぁ……」

言ってよかったのかなぁ…。

そう思いながらも、真子は、美玖と同じように返事をしていた。

「ママも、スゴロックする?」
「私は、夕食の準備をお手伝いするつもりだけど……駄目ですか?」

うるうるとした眼差しで、真子が言う。
もちろん、そのような眼差しには弱い、猪熊家の長男。

「あっ、いや…………。小百合ぃ〜」

何かを誤魔化すかのように、キッチンに居る小百合を呼ぶ剛一。

「どうぞ、入ってください、真子さん」
「お邪魔します」

真子の声は、キッチンだけでなく、リビングにも聞こえていたらしい。
小百合や子供達が玄関へと駆け寄ってきた。

「こんにちは」

笑顔で真子が言うと、

「真子さんも、双六参加!!」

恵美が、言った。

「あっ、いや、その……私は……」



真子がサイコロをふる。
『5』が出た。

「……5!…えっと……3番の人と腕相撲………くまはち…」

3番目は、くまはちだったようで……。

「勝てば、5こ進む…なんだってぇ、くまはち。どうする? 本気?」
「えぇ。これ以上、追いつかれては、困りますから」
「ふ〜ん……」

そう言った、真子の眼差しは、本気。
……果たして、勝負は…………。






道病院・休憩室。
勤務時間を終えた医師や看護師たちが、ゆっくりと時を過ごしていた。
話題と言えば……。

「休憩も無しで働くとは、本当に、驚きですよね。
 それも、私たち以上に動いているというのに」
「あぁ、そうだよな。小島先生が止めても、言うことを聞かないとは!
 俺、初めて見たよ。小島先生の困惑した顔!」
「私もです。本当に、休まなくても大丈夫なのかなぁ」

もっぱら、キルの動きっぷりだった。

「手当ては出ないらしいよ」
「えっ!!! それって、ただ働きってこと?」
「あぁ」

キルと一緒に仕事をした医師が応えた。そして、

「それでも、いいって、言ってたよ」
「どうして?」
「課せられた物だそうだ」
「課せられた?!」
「あぁ。……真子さんに命を救われる前は、殺し屋だったんだって」

その言葉を耳にした途端、誰もが硬直した。

「真子さんに助けられて、それまでの自分の行いを改めたって
 凄く申し訳なさそうに話してたよ」
「…………騙されてないか?」
「えっ?!」
「あのように、患者に接して、子供にも優しく接する医者が
 殺し屋だったなんて、思われないよ」
「そ、そうかなぁ……。まぁ、確かに…」

話にも出たように、キルが患者に接する態度は、それは、とてもとても優しく、患者が抱える不安を取り除くこともあった。時に、泣きやまない子供の患者に対しては、子供に解りやすく怪我の具合や体の具合を説明し、泣きやませてしまうほど。時間が掛かって、ちょっぴり怒っている患者に対しても、丁寧に素早く応対する。その後、その患者が帰る時は、笑顔でお礼を言ってくる様子もあった。

「俺も…見習うべきなんだろうなぁ」
「俺もだ」

そう話している時だった。

「あっ、良かった。まだ居られたんですね」

キルがやって来た。

「喜隆先生、どうされましたか?」
「申し訳ありません。勤務時間外な事は充分承知なのですが、
 どうしても、これだけは、私の手では行えないようなので、
 お願いしてもよろしいですか?」

キルが見せるカルテに目を通した医師は、

「おぅ、すまない。これは、無理だな。この際、覚えておくか?」
「よろしいんですか? それでしたら、美穂先生の許可が…」
「許可なら取ってあるよ。喜隆先生が知らないことは全部教えるようにと
 来られる前の日に言われましたので」
「そうでしたか。ありがたいです。宜しくお願い申し上げます」

深々と頭を下げるキルだった。
そして、医師と一緒に休憩室を離れていった。

「……殺し屋ぁ〜??? 見えないよなぁ」
「真子さんの命を狙ったという話も聞いたけど…」
「……騙されてるって」
「そうなのかなぁ」

キルの話は、尽きないらしい。




キルは、新たな技術を覚え、医師にお礼を言った後、次の仕事に行こうとした。

「喜隆先生」
「はい」
「先程、耳にしたのですが…」
「ん?」
「本当に、殺し屋だったんですか?」
「えぇ」
「患者への接し方を観ていると、そう思えないんですよ。
 みんな、騙されてるって、言うんですけど…」

その言葉に、ちょっぴり困ったような表情を見せるキルだったが、

「真子様の命を狙って、反対にやられました。その時に、
 それまでの私は消されました。その時まで奪ってきた命の数、
 新たに与えられた今こそ、それ以上の命の数を救いたい。
 だからこそ、自分の限界まで、動きたい。そう思っているだけです」
「それで、私たち以上に動いているんですか?」
「…すみません…お仕事を奪うような感じで…」
「道病院で働く者は、他の病院よりも素早い動きをすることで
 知られているんですよ。誰もが自分の腕に自信があり、そして
 それをみんなに伝えたいという思いが、凄く強いんです」
「はい。観ていて解ります。だからこそ、凄く勉強になります」
「だけど……」

そう言って、医師は軽く息を吐いた。

「???」

キルは、医師の表情が不思議に思ったのか、首を傾げる。

「どうしても、負けてしまうんですよね」
「負ける?」
「橋総合病院の医師たちに」
「えっ?」
「橋院長の教え方なのかなぁ。…でも、道院長も同じなんだけどなぁ。
 ほら、平野先生居るでしょう?」
「えぇ」
「あの方の腕も、凄かったんですよ」
「橋院長に一番近い腕を持つ方です」
「そう。だからこそ、道院長も手放そうとしなかったんだけど…。そして、
 今度来た、喜隆先生も、腕だけでなく、心も優れているんですから…」
「あっ、いや、その……これは、……命の恩人である、真子様の期待に
 応えるためです」
「それだけとは思えないなぁ。……素質かも」
「いいえ、私の素質は、殺しだけでしたから…、あっ、すみません。
 そろそろ時間が…。本当に、お時間を頂きましてありがとうございました。
 それでは、これで。お気を付けて」

そう言って、キルは、別の場所へと向かっていった。

「腕には自信がある。…だが、喜隆先生は、私たちに無い何かを
 持っている………。色々な世界を観てきたからなのかな…」

医師は、自分の手を見つめ、考え込んでしまった。



キルは、治療を終えた患者を待合室まで案内する。
そこに栄三がやって来た。キルは頭を下げる。
栄三は、『気にするな』という感じで手を挙げて、病院の奥にある美穂の事務所へと向かっていった。

「美穂先生は、手術中ですよ!!」

キルの言葉に栄三は、『解ってる』という感じで後ろ手を振った。

「そうでしたか」

キルはフッと笑みを浮かべて、次の仕事へと取りかかる。
時刻は夕刻。
窓の外は、すっかり暗くなっていた。





「真子ねぇちゃん、強い!」

恵美が嬉しそうに言った。

「いやぁ、それほどでもぉ〜、ね、くまはち」

真子は、にっこり微笑んだ。
その目線の先には、肩の力を落としている、くまはちの姿があった。

「くまはちおじさん、弱かったんだ…」
「うふふふ……」

真子が笑い出す。

「…くまはちは、優しいからねぇ。さてと。小百合さぁん、
 お手伝いしますよぉ……」

真子はリビングを出て行った。

「くまはちおじさんは、真子さんには、頭が上がらないもん」

和也が言うと、恵美は納得したように頷いていた。

「そっか」
「それに、ここで暴れたら、お父さんに怒られるしぃ」
「俺は怒らんぞ」

未だに、美玖を肩車している剛一が応えると、なぜか、笑いが起こった。

「……くまはち、本気やったやろ」

ぺんこうが、呟くように言うと、くまはちは苦笑い。

「九割は怒りが含まれとった」

小さく応えた、くまはちだった。

「あっ…ちょ、ちょっと、くみ……真子さん!!!」

突然、何かに気付いたように、くまはちは立ち上がり、リビングを出て行った。



くまはちが、キッチンに顔を出すと、真子が小百合たちと一緒に夕食の準備に取りかかっていた。慌てて入ってきた、くまはちは、

「組長は、お客様ですよ!!」

美玖の姿が見えない所では、『組長』と呼ぶ、くまはち。

「気にしない気にしない。それに、小百合さんと
 色々とお話したいしぃ」
「あっ、いや、その……組長……」
「ん? なぁに、くまはちぃ」

その呼び方は、何となく、恐怖を感じる……。

「いや、その……」
「天地山に行くまでに、完全に治しておくこと。解った?」
「……申し訳ございません」
「ほら、みんな待ってるで」
「失礼します」

くまはちは、去っていった。

「真子さん、苦手なんでしょう? 賑やかな場所」
「これでも、かなり慣れた方ですよ。それに、今は大丈夫だから」
「それなら、安心した」

小百合は、真子のことをそれとなく、剛一から聞いていたらしい。


真子が持っていた特殊能力。
それには、青い光と赤い光だけでなく、人の心の声が聞こえてしまうという能力もあった。それが、光の影響であることも解っている。だからこそ、人が多い場所では、色々な人の声が聞こえてきてしまい、その中には、真子の命を狙っていた者の心の声も含まれていたから、真子自身、なるべく、人が少ない場所を選んで過ごすことを心掛けていた。
自分を狙う者が居る。
もし、大勢の中で、命を狙われた時、周りを巻き込んでしまうかもしれない。
そういう恐怖もあり、外出を控えていた。
それがかえって、『人が多い場所が嫌い』という勘違いをされてしまうことになる。
だが、真子のことを大切に想う者達、そして、真子の特殊能力のことを理解している者達は、真子の思いを知っていた。

「小百合さん」
「はい」
「毎年……、くまはちが居なかった年も、あのような
 感じだったんですか?」
「そうなのよぉ。前は、あの人が双六を作っていたけど、
 今は、和也が受け継いだの。だから、凄く、濃い内容でしょう?」
「はい、確かに……凄く、濃い内容でしたね…」
「あの人、兄弟が多いでしょ。お金を掛けずに楽しめる方法を
 探していたら、双六を思いついたらしくて。最初は、兄弟の事を
 題材にしていたんだって」
「話題…尽きなかったんだろうなぁ」

真子が言った。

「そうみたい。成長するにつれ、勉強の話題になっていったって、
 武史くんが、言ってたよ」
「猪熊さんって、何でもこなすから、憧れますよ」

かなり大きめのテーブルに箸と食器を並べ始める真子。

「うふふ。ありがとう」

嬉しそうに微笑んだ小百合。その表情は、まるで恋する乙女だった。
夕食の準備が着々と進むと同時に、双六の方も、いよいよ、ゴールに近づく者が出てくる。



「そろそろ終わる頃じゃないかなぁ」

小百合が言うと、キッチンに和也がやって来た。

「美玖ちゃんが優勝した」
「えっ!!!」

それには、真子が驚いた。

「美玖は、一回休みとか、三つ下がるとかあったのに?」
「ゴールに近づくと、厄介なコマが増えていくから、一位だったのに
 ビリになったり……。美玖ちゃん、凄く上手いこと、そこを飛び越えて
 一気にゴールに着いた」
「すごい……ということは……」

どうやら、双六の優勝者に、プレゼントが用意されているらしい。


それは、夕食の時に証された!!!


「みくが?????」

驚くように、美玖が言った。

「そうだよ。これは、優勝者のケーキ。それと、優勝者は、次の双六を
 作ることにしてるんやけど……美玖ちゃん、作ることできる??」
「う〜ん………」

美玖は、考え込んでいた。その仕草は、幼稚園児とは思えない。
なんとなく、誰かに似ている………。

「つくる! だいじょうぶだもん」

やる気満々。

「でも、つくりかたは、かじゅやにいちゃん、おしえてね!」
「まっかせなさぁい!」

美玖は、嬉しそうに笑った。

「では、いただきます!」
「いただきまぁす」

猪熊家の夕食タイム。
日頃は、一人もしくは、二人だけの食事だが、この時期だけは、かなりの人数になっていた。
八人兄弟がそれぞれ、家庭を持った。それだけでも二倍の人数だが、それぞれ家族が増えている。それでもテーブルは、まだ、座る余裕があった。そこに、真子達家族が座っていた。
テーブルに並ぶ料理の数も、かなりの多さ。
くまはちが買い物係だったため、今年は、いつも以上に料理があり……。

「小百合おばさん、はりきりすぎ!!」
「ええやんか! 真子さんも一緒に居たから、ついつい…」

賑やかな食事風景。
いつも静かに食している真子達にとっては、とても珍しい光景だった。しかし、この時ばかりは、ぺんこうの怒りの声もなく、周りに溶け込むように一緒になって、話し込んでいた。





「お休みぃ! 良いお年を!」
「よいおとしを!」

元気よく挨拶をして、真子達は猪熊家を後にする。
少し遅れて、くまはちが駆け寄ってきた。
真子は、くまはちの足音を耳にしたのか、急に立ち止まり振り返った。

「直ぐ、そこ!」
「いいえ、これだけは、譲れません。お送りしましたら、
 直ぐに帰宅します」

くまはちの言葉は力強い。
観念したのは、真子だった。

「ったく。…でも、今日は楽しかったよ。ありがと、くまはち。
 美玖も、楽しかったでしょ?」
「うん! みく、すごろく、つくり、がんばる!!」
「美玖には、まだ早いのになぁ。ほな、次の時までに、
 たっくさん、考えようか! そして、和也くんとも一緒に
 作ろうね、美玖」
「はい! くまはちゃぁ、つぎ、たのしみにしててね」
「大阪に帰った時に、私も一緒に作りますよ」
「はい! おねがいします!」

真子達は、阿山組本部の前に到着。
短い会話の間に到着するほど、猪熊家と阿山組本部は近いのだが……。

「では、私は、これで。今日は、ありがとうございました」

くまはちは深々と頭を下げる。

「おやすみなさいませ。良いお年を」
「よいおとしを!」

美玖が言った。

「三日の朝だからね、出発。それまで、ゆっくり過ごしときや」
「心得ております」
「ほな、お休み!」

真子は美玖と一緒に本部の門をくぐっていった。

「くまはち、ありがとな。ほな」

ぺんこうも、本部の門をくぐっていく。

「あぁ」

短く応えたくまはちは、本部の門が閉まるのを見届けてから、帰路に就いた。
真子達を迎える組員の声が、塀越しに聞こえてきた。年末年始は実家に帰らず、いや、帰るところが無い組員や若い衆が、本部で新年を迎える。中には、大切な者と一緒に迎える者も居る。昔なら、本部で過ごすよう、厳しく言われるのだが、真子の代になってからは、そのようなことは、緩和されていた。
いいや、慶造の代からだったかもしれない。


くまはちは、自宅の玄関を開け、静かに入っていった。
リビングからは子供達の賑やかな声が聞こえてくる。
五月蠅いのは、嫌いだった。なのに、今は、そう思わない。心が安らぐ瞬間でもあった。

「くまはちおじさん、明日の写真の場所を決めるんだって!!」

リビングから、奈々美がやって来た。

「場所は、毎年同じだったのに?」
「くまはちおじさんの隣がね、凄く人気があって、ジャンケンで
 決められなくて…。だから、今回から、場所を決めるクジを
 作ったの!」
「私は、余ったところで」
「クジは、公平! 早く!!」
「解りましたよぉ…」

奈々美に連れられて、くまはちは、リビングへと入っていった。


猪熊家では、元旦に、家族揃って写真を撮っていた。毎年、同じ場所に立って撮影をすると、それぞれの成長や時と共に……の姿が、ありありと伝わる写真が出来上がる。新たな顔ぶれもあることも、楽しみの一つだった。
だが、一つだけ空席があった。
それこそ、くまはちの場所。
ある日を境に、その空席は埋まった。
人気者のくまはちの隣に座りたがる子供達。だからこその、クジ………。
果たして、新年に、くまはちの隣で写るのは、誰なのか……。





真子と美玖は、お風呂に入っていた。
その間、ぺんこうは、道場で体を動かしていた。
時間が出来ると、どうしても、ここに来てしまうらしい。

癖……だな…。

そう思いながら、体を動かすぺんこうを、真北が見つめていた。

「ぺんこう、夜はどうする?」

真北が尋ねる。その手は、一杯引っかけるのか?という仕草。

「今夜は遠慮しますよ。あなたこそ、休んでくださいね」
「充分、休んどる」
「そう…見えませんよ」
「この時間に姿があることで、察しろ」
「はいはい」

邪険に扱うぺんこうだった。

「真子と美玖は、お風呂ですよ」
「解ってる。上がる頃には、戻るけどな。…それより、どうやった?」
「猪熊家ですか?」
「あぁ」
「賑やかでしたよ。忘年会の賑やかさ以上でした」
「大人数だもんなぁ」
「はい。私まで、一緒にはしゃいでしまいましたよ」
「……そういう時間……お前には、無かったもんな…」

静かに言って、真北は去っていった。

「真北さん?」

いつにない、真北の言動に驚いた、ぺんこうは、凄く不安に駆られてしまった。…が、それは、取り越し苦労だった。真北が去っていったのは、真子と美玖が風呂から上がり部屋に戻るところを観たからだった。少ししてから、真子と美玖の二人の笑い声が聞こえてきた。真北が何かを話している。そんな三人に、ちょっぴり嫉妬する、ぺんこうだった。



真子と美玖が静かに眠りに就いた頃。
真北は、一人で縁側に座って、酒を飲んでいた。いや、一人ではなく、側に今は亡き『だれか』が居るような雰囲気を醸し出していた。

「すまんな、慶造。…俺が、味わってさ…」

フッと笑みを浮かべて、真北は酒を飲み干し、新たに注いだ。



ぺんこうは、真子の隣の部屋で寝転んでいた
その昔、自分が使っていた部屋。自分が阿山組を出てからは、まさちんが使っていた。部屋に残されたのは、自分が学生の頃に集めた、たくさんのレコードと本。本は、大阪の部屋にも置いてある。一人暮らしをしていたマンションの一室にも置いている。かなりの数の本だった。
時が経っても、自分が使っていた頃の雰囲気は残っていた。
だから、くつろげる。
目を瞑ると、遠い昔を思い出す。
まだ、自分が兄貴を慕っていた幼い頃の日々。

寝返りを打ったぺんこうは、そのまま、静かに眠りに就いた。


それぞれが、その年の最後の日の夜を過ごしていた。
除夜の鐘が響き渡る。
そして、

新年を迎えた。



(2010.7.25 序章 喜び 第十話 改訂版2014.12.29 UP)



序章 第十一話



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※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
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※この〜復活編は、任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』の極編の後の物語です。
※任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』を全シリーズを読破しなければ、登場人物、内容などが解りにくい状態です。
※取り敢えず、任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』を全てお読みになってから、アクセスお願いします。
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以上を踏まえて、物語をお楽しみ下さいませ。


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