任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界・復活編」

序章 喜び
第三話 ただいまの後の大暴れ

阿山組本部の屋敷の奥にある道場。
そこからは、いつになく、何やら怪しい音が聞こえてくる。

ドサァ……。

人が床に落ち、そのまま滑るように壁へと移動した。

「次っ」

その声と同時に、顔を上げたのは、くまはちだった。

「お願いします」

若い衆の一人が、くまはちの前に立ち、一礼し、そして、構えた。
気合いを入れると同時に、くまはちに拳を向けたが、それは、軽々受け止められた。次に、蹴りを出したが、それも、軽々止められる。

「本気か?」
「はい」
「ここと、ここが、甘い!」

そう言って、くまはちは、その若い衆に指導する。
くまはちに言われた通り、再び、拳と蹴りを突き出した。
先程とは違い、少し早く、力強いものに見えた。

「そんな感じで、やってこい」
「はっ。山本先生、お願いします」

若い衆は、道場の中央に立つ、ぺんこうに歩み寄り一礼した。

「来いっ」

ぺんこうの言葉と同時に、若い衆は、くまはちに教わった拳と蹴りを出し続ける。しかし、それらは全て、ぺんこうに受け止められる。

「くまはち、指導が甘いっ!」

ぺんこうは、若い衆に蹴りを見舞った。その蹴りを横っ腹でまともに受けた若い衆は、真横に飛んでいった。

「うぐっ!!」

壁にぶち当たり、若い衆は呻き声を上げた。

「俺に言うな。親父に言えっ!」
「言えたら、言うてるわっ。で、次は誰だ?」
「白井です。お願いします」

白井が、ぺんこうの前に立つ。

「手加減せぇへんで」

ぺんこうが言うと、

「その方が、成長しやすいです。お願いします」

白井は構え、そして、拳を差し出した。
ぺんこうは、軽々と避ける。ぺんこうが避けた先に、白井の蹴りが向かう。
ぺんこうは、予測していたのか、その蹴りも軽々と避けた。

「次、俺からや」

そう言って、ぺんこうは気合いを入れる。そして、白井に向けて、蹴りを素早く繰りだした。

「えっ、ちょ、ちょっと!! 山本先生っ!! そ、それは!」

そう言いながらも、白井は、その蹴りを避けていた。

「ほんまに、動体視力は、ええみたいやな」
「これ以上は、無理です!!」

白井は、腕をクロスにして、ぺんこうの蹴りを受け止めた。

「やっぱし、憧れる奴に似てくるもんなんやなぁ、嫌な奴や」
「…目指す方ですから」

白井の揺るぎない眼差しに、ぺんこうは微笑んだ。

「まっ、そういう奴やったからこそ……」

白井に受け止められた足を軸に、ぺんこうは飛び上がり、もう片方の足で、白井の横っ腹に蹴りを入れた。

「えっ!?」

ぺんこうの攻撃に身構えられず、まともに蹴りを受けた白井も、他の若い衆と同じように、壁に向かって真横にぶっ飛んでいった。

「…これで、終わりか? くまはち」
「終わりやけど、俺が残ってるで」
「俺たちの手合わせだと、見本にならんやろ」
「お互い、本気になるもんなぁ、ぺんこう」
「そうやなぁ、くまはち」

二人は睨み合う。

「ええか、お前ら。教えた事は絶対に忘れるなよ。
 親父から、何を聞いてるのかは、大体察しが付くけどな、
 これから、ぺんこうとの手合わせをみせてやる。でもな、
 これよりも、奴らの動きは、素早いこと、頭に叩き込んでおけ」

くまはちが言うと、

「はいっ」

道場にいる者達が、力強く返事をした。

「……ほな、行くで、ぺんこう」
「…あぁ。手加減は、せぇへんからな、くまはち」
「幸い、美穂先生が来てるはずやから、…手加減せんで」
「……だれが…止める? 真北さんは、くつろいでるで」
「入ってきた奴が止めるやろ」
「そやな」

ぺんこうの言葉と同時に、二人は動いた。
ぺんこうの蹴りが、くまはちの体に炸裂する。しかし、くまはちは、その蹴りを全て避けていた。
ぺんこうが軽く飛び上がり、回し蹴りを見舞う。
それをくまはちは、左腕で受け止めた。
ずしりと重たい…。
くまはちの表情が、少し歪んだ。

「無茶するな……組長に言われなかったか?」

ぺんこうが呟くように言うと、

「それは、真北さんに言って欲しいな…」

低い声で、くまはちが応える。

「あの人まで守るなと、いつも言ってるだろがっ!!」

ぺんこうが勢いを付けた裏拳を、くまはちに向けた。


二人の手合わせを見ている者達は、唖然としていた。
早すぎて、目に留まらない。
二人の姿が見えた場所に目線を移すが、その時は既に、二人の姿は見えなくなっている。
風を切る音だけが、耳に聞こえてくる。
時々、人に当たる鈍い音も聞こえてきた。

「駄目だ…見えない…」

組員の一人が呟くと、

「かなり、重そうだな、山本先生の蹴りは。猪熊さんの表情が
 歪むほどですね」

白井が言った。

「ほんと、白井さんの動体視力は、凄いですね」
「でも…お二人とも、かなり手加減されていると思います。
 あの方の動きは、目で追うのが必死でしたから。それなのに、
 こうして、私が余裕で、追えるということは、本当に…」
「……くまはちさんの怪我は完治してないはずですよ」

別の組員が会話に参加してきた。

「えっ?」
「組長より先に来たのは、敵の動きを封じる為だったと
 耳にしましたよ。それに、猪熊さんと小島さんの会話にも
 ありましたから」
「そうだったんですか…」

白井は、そう言ったっきり、ぺんこうとくまはちの動きに目をやった。
二人の動きを見つめながら、何かを思い出しているのか、白井は、膝の上に置いている拳を、ギュッと握りしめた。

「確かに、奴らの動きは、想像できないほどのものでした」
「そっか。白井さんは、裏の組織の動きを見たことがあるんでしたよね?」
「気配も感じず、突然現れた。…でも、奴らと同じ動きをする人が居た」
「その方が……」

白井達が話していると、道場のドアが開き、明かりが差し込んできた。
それと同時に、二人の動きが停まった。

「そこまでです」

そう言って、くまはちの腕とぺんこうの脚を手に握りしめているのは、キルだった。

「邪魔するなっ」

くまはちとぺんこうが同時に言うが、キルは、手に握りしめている腕と脚を離そうとしない。それどころが、鋭い眼差しを向けてきた。

「離せっ!」

くまはちとぺんこうが、そう言うと同時に、くまはちは、もう片方の手で拳を握りしめ、ぺんこうは、もう片方の脚をキルに向けた。
キルは予測していたのか、素早く手を離して、宙に舞った。そして、二人から離れた所に着地する。

「それなら、相手をしろっ、キルっ」

またしても同時に言う、くまはちとぺんこう。
それが合図となったのか、二人は、キルに攻撃を仕掛け始めた。

「ちょ、ちょっと!! 二人同時は、やめてください!」

思わず口にするキルだったが、

「問答無用っ」

二人は聞く耳を持たない。

「(猪熊っ、八つ当たりは、やめろっ!)」

キルが他の国の言葉で、くまはちに言う。

「(じゃかましぃっ! 親父の指導に、腹が立っただけだ!)」

くまはちも他の国の言葉で言うと、

「(それなら、直接、猪熊のおじさんに!!)」
「(言えたら、言ってるっ!!!)」

くまはちの拳が、見えない速さでキルに炸裂! そのうちの三発が、キルの体に当たった。更に強烈な、くまはちの拳がキルに向けられた。

!!!!!

キルは、その拳を受け止めたが、あまりにも強烈なため、跪いてしまう。

「手加減…」
「せんわっ!」

キルが言い終わる前に、くまはちが短く怒鳴る。

「キルこそ、手加減は?」

ぺんこうが、尋ねた。
キルは、ぺんこうに、ちらりと目をやった。

「してません」
「それなら、俺も手加減せぇへんで…」

と言うと同時に、ぺんこうの周りの空気が変わった。
風もないのに、ぺんこうの髪が、スゥッとなびく。
キルは身構えた。
ぺんこうの本能を知っている。
数年前に起こった敵の攻撃。敵の中では、かなり腕の立つ者だったが、ぺんこうに、いとも簡単に倒されてしまった。だからこそ、キルは、ぺんこうのオーラが変わったと同時に、気合いを入れ直し、身構えたのだった。
ぺんこうの口元が、少しつり上がる。

来るっ!!

そう思った時は、すでに、ぺんこうの回し蹴りがキルの頭上を過ぎ去っていた。
寸での所で、避けた。
ほんの少し遅ければ、側頭部を蹴られ、壁に飛ばされていたかもしれない。

「ちょ、ちょ、ちょっと!! ぺんこう先生ぃっ!!!!!」
「攻撃は?」
「できません!」
「受けるだけだと、倒れるぞっ!」
「(序の口です)」

思わず口にしてしまったが、後の祭り。
ぺんこうの蹴りや拳が、更に素早く、そして、ずしりと重たいものへと変化した。
いくつか、体で受け止めてしまった。
裏拳が、繰り出されるのが、まるでスローモーションのように、視野に飛び込んできた。

キルは両腕で受け止めた。

「お二人とも、少しは手加減してくださいっ!!」

そう言うと、キルは、ぺんこうの拳を弾き飛ばし、二人から距離を取るように、宙を舞った。
しかし、着地点に、くまはちの蹴りと、ぺんこうの拳が!!!

「うわっ!!!」

という声と同時に、何かが壁に当たる音が、道場内に響き渡る。

「…っつー…」

ぺんこうとくまはちが、壁からずり落ち、座り込んでいた。

「キルのかちっ!」

そう言って、嬉しそうに拍手をするのは、美玖だった。

「つぎは、ママ?」
「えっ? 私は、ちょっと…」

道場に真子と美玖、そして、修司と隆栄、栄三が居ることに気付いた組員や若い衆が、一斉に立ち上がり、姿勢を整える。

組長の形を拝見できる!!

思わず、体に力が入る組員達。
真子は、『ちょっと…』と言いながらも、やる気を発していた。
ちらりと振り返る真子。
キルは、真子のオーラに気付いていた。

「真子様。私はお二人を止めるだけで、何も!!!」

キルの言葉は、遅かった。
真子の拳が、キルの腹部に見事に突き刺さっていた。

「もうっ! 止めに来た人が、何をしてるんよ!」

真子はキルの前に仁王立ちし、腰に手を当て膨れっ面になっていた。

「す、すみません…」
「それも本気になって…」

と真子がキルに言っている間、道場の様子を観ていた栄三。

「組長が一番本気になってるんだけどなぁ」

呟いていた。

「それにしても、お前らなぁ…」

若い衆に稽古を付けている修司が呆れたように言った。

「無理ですよ! 山本先生は本気なんですから!」
「くまはちさんに指導を受けても、無理です!!」

若い衆が口々に言う。

「あかんか…。でもなぁ、これ以上、ランクを上げると
 ほんまに付いて来ないしなぁ」

修司がため息を付く。

「おじさん、やっぱし目標を変えた方が、ええんちゃうかぁ」
「いいや、それでも、甘い方や。あいつなんて、もっと上やったし」
「いや、八っちゃんは、独学やん」
「家を出ると言ってた頃や」
「それやったら、中途半端やんか」

栄三の言葉に、修司は暫し考え込む。

「そうやな…中途半端で終わってるやん」

隆栄も会話に入ってくる。

「そう……なるんか……」

修司が口にした途端、栄三が座り込む。

「…八やん……」

栄三の目の前に、くまはちの姿があった。

「中途半端やないわ。ちゃぁんと兄貴を倒しとる。でもな、
 親父を倒してないし、家出する必要もなくなったしなぁ。
 ……で、親父、これで充分だと思っておられるんですか?」
「思ってないな」
「途中やと思って、よろしいんですね」
「あぁ。…明日も宜しくな。山本先生も、宜しくお願います」
「それは、駄目」

真子が言った。

「ご……ま、真子さま」

修司は、真子のことを『五代目』と呼んでいるが、子供の美玖が側に居る時は、『五代目』と呼ばないように気をつけている。

「一日でも間を開けると、体が鈍ります」
「駄目です。各自で体を動かすだけにしてください。
 それに、くまはちには休暇を与えてますので、御家族で
 過ごしていただきたいのです」
「心遣いありがとうございます…」

この後の修司の言葉を予想できる為、真子は、その隙を与えようとしない。

「おじさん、くまはちを連れて帰ってくださいね。おじさんの
 言うことなら、絶対に聞きますから」
「く……」
「真子様…」
「いいね、くまはち」
「はっ」
「それと、白井さん」

いつの間にか、キルと話し込んでいた白井は、真子に呼ばれて、素早く返事をした。

「はい!」
「年末年始は、帰省ように言っていたはずですけど、どうされました?」
「明日、組へ帰る予定です。真子様が帰省されるとお聞きしましたので
 その予定にしました。きちんとお伝えしなければなりませんから」

ニッコリ微笑んで、白井は応えた。
それは、あの時に見られた姿とは、正反対で、好青年にしか見えない姿だった。

「私の方が、頼まれたんだけどなぁ」
「本当に、いつまでも気に掛けていただいて、嬉しい限りです」
「ところで、忘年会は…」
「楽しみは先にとっておいてくださいませ」

白井は深々と頭を下げた。

「美玖、楽しみだね」
「はい! しらいさん、おねがいします」
「真子、美玖」

ぺんこうが二人を呼んだ。なんとなく、怒った雰囲気で……。

「ごめんなさい。美玖がどうしても、芯の姿を見たいって
 言ってきかなかったから、おじさんに許可をもらったんだけど、
 それでも、駄目?」

神聖な道場に、幼子を連れてきた事を、ぺんこうは怒っていた。しかし、

「ちゃんと礼儀はさせてますよ、山本先生」

修司が言った。

「そうでしたか。ありがとうございます」
「パパ、かっこいい!!」
「ありがとなぁ、美玖。キルが手加減してくれなかったけどなぁ」
「あっ、いや、その、山本先生ぃ〜」
「だいじょうぶ?」

焦るキルを余所に、美玖は、ぺんこうに声を掛ける。

「大丈夫だよ。美穂先生のところに行く必要はないからねぇ」

美穂が医務室で待機しておく…と言ったのは、道場での稽古で、恐らく、怪我人が出るだろうと考えての言葉だった。
ぺんこうとくまはちが揃うと、二人とも誰かが止めないと、気を失うまで手合わせを止めようとしない。それは、本部に居た頃から。だからこそ、美穂の言動だったのだが、今回は、そこまで大事にならなかった様子。
それもそのはず。
くまはちの体調は、まだ、完全ではないからであり、そのことは、真子には内緒であるから。

「では、今日は、これまで」

修司が言うと、

「ありがとうございました!」

組員や若い衆は、力強く丁寧に挨拶をした。


それぞれが道場の掃除に入る。
本来なら、くまはちも掃除を行うのだが、真子に言われた手前、修司が強引に、本部の側にある猪熊家へと連れ帰っていた。
ぺんこうは、若い衆からの質問に丁寧に応えていた。形を直したり、防御の方法を教えたり。その姿は、やはり教師だった。
真子と美玖は、栄三と隆栄と一緒に池の庭に再び来ていた。栄三に鯉の説明を受けながら、美玖は楽しんでいた。そこへ、美穂とキルがやって来て、更に賑やかになる。
真子が縁側に腰を掛け、美玖達の様子を微笑ましく眺めていた。その隣へ美穂が腰を掛けた。

「喜隆先生って、医者の卵のはずよね」

美穂が真子に尋ねた。

「すっかり、板に付いたでしょ。誰も思わないだろうなぁ」

真子は嬉しそうに応える。

「ほんと、真子ちゃんって、凄いわ」
「凄い?」
「その術、ちさとちゃんも持ってたみたいだもん」
「美穂先生は、お母さんの若い頃の事も知ってたっけ」
「そうねぇ。いっつも六人で楽しんでたわぁ」

懐かしそうに空を見上げながら美穂が言う。

「ちさとちゃんの笑顔が、慶造くんの心を落ち着かせてたし、
 私も癒されたもん。隆ちゃんだって、そうだと思うよ」
「その二人を優しく見守っていたのが、猪熊のおじさんだったんですか?」
「修司くんも、和んでたわ。今と同じ感じだったけどね」
「…本当に、連れて帰るとは思わなかったなぁ」

修司が、くまはちを強引に連れて行く姿を思い出したのか、真子は笑い出した。

「安心した」

美穂が短く言った。

「不安もありますけど、今は、大丈夫。こうして、普通の暮らしも
 堪能してるから。…本当に、みんなには感謝してる」

そう言う真子の眼差しは、『親』の眼差しだった。美玖の母親だけでなく、『組長』としての雰囲気も含まれている。

「でも……お父様とお母さんのことで、一人の人間が苦しんでた。
 阿山家と黒崎家の間にある蟠り。今は気にすることはないけど、
 大変だったなぁと…」
「そうやって、話せるようになったなら、本当に安心だわ」
「みなさんの優しさがあるから、こうして語れるんだと思います。
 …それにしても、美穂先生」
「はい?」
「えいぞうさんが言ったように、いつまでもラブラブですね…」

真子が急に話を切り替えた。

「真子ちゃんと、ぺんこう程じゃないわよぉ。そりゃ、栄三が妬くわ」
「えいぞうさんじゃなくて、真北さんの間違いじゃ…」
「!!! その通りだわ。相変わらずのようだもん、真北さん」
「兄弟喧嘩が絶えないので、困ってますぅ」

真子の言葉に、美穂は笑っていた。


真子と美穂の会話と雰囲気を背後で感じながら、栄三は美玖と遊んでいた。


心和む香りが、微かに漂い始めた。

「あれ? 今日は何もしないって言ってたはずなのに、
 この香りは……むかいんったら、うずうずしてたんだなぁ」
「でも、時間が早いと思うけど」

美穂が言うと、真子は何かを思い出したかのように、

「そういや、忘年会は夜のはずなのに。もしかして、腕試し…」

恐る恐る言った。

「うわぁ、笹崎さん、まだまだ厳しくいくんだ…。むかいんは
 プロと言っても良さそうな腕になって、店も任されてるのにねぇ」
「その覚悟はしてたみたいだから。……楽しみだなぁ、笹おじさんに
 逢うのも。…おじさんも楽しみにしてそうだなぁ。あっ!!!」

真子は何かを思い出したように声を挙げた。

「私、まだ、お礼言ってない……女将さんに…」
「そういや、ぺんこうとの逃避行…」
「女将さんにもお世話になっちゃったんだ…。今頃言っても大丈夫かな…」
「三人の姿を見せることで、お礼になるから、大丈夫でしょう!」

美穂は、自信満々。

「そろそろ部屋に入らないと、美玖ちゃん、冷えるよ」
「そうですね。美玖、そろそろ部屋に入るよ」

真子が声を掛ける。

「はぁい」
「はぁぁい」
「………えいぞうさん…」
「栄三……あんたねぇ…」

美玖と同じように返事をしてしまった栄三。
それには、栄三自身も気付いてなかったらしい。

「あっ、いや……その……。夕焼けが綺麗だなぁ」

照れたように顔を上げ、そのまま空を見上げて、誤魔化していた。




美玖は部屋に入った途端、この日の疲れが出てしまったのか、直ぐに眠ってしまった。
真子は荷物を整えて、美玖の隣に寝転んだ。そして……。


「真子まで眠ってしまったか…。…ちゃんと起きるかな…」

真子の部屋に顔を出した、ぺんこうは、二人が寝入っている姿を見て、ちょっぴり困っていた。
忘年会まで、あと二時間。
寝起きが悪い真子を気分良く起こすタイミングは、難しい。

「まっ、いいか」

ぺんこうは、そっと部屋を出て行った。そのまま庭へと降りていく。
道場で動かしたり無かったのか、それとも、くまはちやキルの動きで、体が反応してしまったからなのか、再び体を動かし始めた。
そこに真北がやって来る。

「おいおい、動かし足りんかったんか?」

思わず声を掛けた。

「その通りですね。相手…してくださいますか?」
「俺は遠慮する」
「やはり、無茶をしていたんですね。真子が怒るのも解りますよ」

ぺんこうは、体を動かしながら、真北と話し始めた。

「ほっとけって言ってるだろが。…で、真子ちゃんと美玖ちゃんは?」
「旅の疲れもあって、寝てます」
「こんな時間からか? 夜には起きることできるんかなぁ」
「それは大丈夫だと思います」

真北に仕掛ける。だが、真北は予測していたのか、軽く避けた。

「いつ行く?」
「慶造さんの墓参りの次です」
「俺は別行動や」
「周りを固める必要はありませんよ」
「解ってる」
「こちらは、もう安心なんでしょう?」
「まぁなっ」

真北の拳が、ぺんこうに向けられた。

「戻ったんですか?」

拳を片手で受け止めた、ぺんこうが尋ねる。

「敵の動きに対応するほどじゃない」
「致命傷ですね」
「ほっとけ」

服を整えながら真北は応えた。

「桂守さんが動いているほど、悪化してるんですか?」
「いいや、大人しい。桂守さんは、真子ちゃんに会いに来ただけだそうだ。
 って、道場に居って、気ぃ付いたんか?」
「キルのオーラですよ。あなただって、目が覚めたんでしょうが」
「…その時に気付いただけや」
「ほんまに、熟睡…」
「だから、ちょっと回復」
「さよですか…」

真北と会話をしながらも、ぺんこうは、体を動かしていた。

「ほどほどにしとけよ」

そう言いながら、何処かに向かおうとする真北。

「どちらに?」

ぺんこうが尋ねた。

「もう一つの帰省。お前も行くか?」
「遠慮します」
「お前に会うことも楽しみになさってるのになぁ」
「こちらにいる限り、いつでも逢えますから」
「そう伝えとくで」
「お願いします」

真北は、ぺんこうに後ろ手を振りながら去っていった。

「ったく」

ジッとするのは、いつになることやら。

ぺんこうは、ちょっぴり心を和ませていた。
気を引き締め直し、三度、体を動かし始めた。



真北が向かった先。
そこは………。


阿山組本部の屋敷から、隣の料亭へと続く渡り廊下があった。
その昔、隣の料亭は、とある組事務所であった。
真北が阿山組に来たときには、この廊下の先は既に、高級料亭・笹川だった。その料亭が組事務所だった頃は、普通の刑事として、仕事をこなしていた。
しかし、今は……。

「こんにちは、真北さん」

渡り廊下の先には、料亭の従業員が立っている。
料亭の案内人でもあり、お客様に、この廊下の先を知られない為にも、この場所に立っていた。客は料亭内で迷うことは滅多に無いが、たまぁに迷う客が居るらしい。

「こんにちは。むかいん、もしかして…」
「おやっさんに、試されております」
「それで、漂う香りが、むかいんの料理か」
「やはり、涼の作る料理は、違いますよね。独特の香りがある」
「使う材料が同じなのに、不思議だよな」
「えぇ」
「まっ、それが、むかいんの味に繋がるんだけどな」
「その通りですね」
「それで、笹崎さんは?」
「厨房におられます」
「いつまでも厳しいなぁ……あっ」

真北は、何かに気付いた。

「まさか、笹崎さん…」
「その通りのようです。でも、本番は、明日…」

従業員が真剣な眼差しを向けた。

「俺も緊張する。…でも、全ては、笹崎さんに任せてる」
「あとは、涼しだいです」
「そうだな…」

二人は、厨房のある方を見つめた。
その厨房では、今、まさに………。



(2010.3.28 序章 喜び 第三話 改訂版2014.12.29 UP)



序章 第四話



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※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
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※この〜復活編は、任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』の極編の後の物語です。
※任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』を全シリーズを読破しなければ、登場人物、内容などが解りにくい状態です。
※取り敢えず、任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』を全てお読みになってから、アクセスお願いします。
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以上を踏まえて、物語をお楽しみ下さいませ。


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