任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界・復活編」

第一章 驚き
第一話 突然の出来事

真子の自宅。
今の自分の生活をみんなに見せたいこともあり、年末年始を本部と天地山で過ごした真子。本部のみんな、そして、天地山の人たちの笑顔を元気の素にして、大阪にある自宅へと戻ってきた。
大阪に戻れば、いつもの生活に戻る。
組関係の事、そして、母であること…。


真子は、朝食の片付けを終え、洗濯カゴを持って、庭に出る。そこでは、美玖と光一が、理子と一緒にはしゃいでいた。

「真子、あとは、洗濯なん?」
「うん。四十分後かな」
「ほな、公園行く?」
「いこかぁ」

真子は洗濯物を洗濯機に入れ、セットする。

「よし。コート着て、出掛けるぞぉ!」
「おー!」

真子の言葉に元気に応える子供達と理子だった。


玄関の鍵を掛け、真子達は公園へ向かって歩き出す。その途中、見覚えのある人物が居た。大きめの用紙を持って、何やら話し込んでいる様子。その人物は人の気配を感じたのか、顔を上げ振り返った。

「あれ?」
「あっ、真子様っ!!」

その人物は、真子達の姿を観て、深々と頭を下げる。

「あれ? って、あれ?!?! 理子、ここって、園田さん家…」
「既に九州へ引っ越したで。挨拶に来たけど、真子、ほら…」
「そうだったんだ…」

真子の自宅から公園に向かう方向へ三軒目の向かいにあった園田邸。真子がこの地域に住み始めた頃からの付き合いがあったらしい。理子の言葉通り、九州に引っ越していた。真子に挨拶をしに来たが、真子は入院中だった為、何も言わずに、そっと引っ越した様子。

「それで、これは……」

その園田邸のあった場所は、新築の家が建っていた。最終チェックをする為に、大きめの用紙を広げていたらしい。

「最終チェックです。今月中頃には、新しい方が
 お住まいになりますよ……って、真子様、すでに
 チェック済みで、承認印もらってますが…」

その人物こそ、松本の下で働く従業員である梅原という男。住宅関連を任される程の力量で、世間的に言えば、主任に当たる。

「…………自宅の住所まで、把握しとらん…」

真子の言葉に、梅原は力が抜けた。

「あれ? これって…」

設計図を見ただけで、どんな人物が住むのかわかる真子。家のほとんどがバリヤフリーになっている。

「車いすの方です。余生を静かな街で過ごしたいということで
 おやっさんに相談がありまして、そして、こちらをお奨めしたんですよ」
「それが、園田さんとこだとは、思いもしなかった」
「真子ぉ…、一体、何のチェックしてるんやぁ」

思わず理子が口を出す。

「松本さんとこの、仕事内容。住宅建設とか、ビル建設とか
 建設場所の周辺とか、その地域に住む方々とのやりとり、
 建設までの経緯でしょ、建設費、材料、環境問題、進行状況、
 それに……」
「って、まだ、あるん? えらい、細かいなぁ」
「うん。予定に関しては前の日、日報は次の日、遅れが出てたら
 遅れを取り戻す為の方法とかをアドバイスかなぁ」
「一軒だけちゃうやろ?」
「そうやねん。松本さんとこ、仕事多いから、いつも、
 こぉんな束になってる」

真子が示した束の太さ。それは、優に十センチを超えていた。

「でも、まぁ、ほとんどを、くまはちがまとめてくれるから、
 くまはちを通さなかったら、どれだけ多いか…」
「……その、くまはちさんの行動から、こうなったんですが…」

梅原が言った。

「…………そういや、そんな話を昔、耳にしたことが……」

遠い昔を思い出した、真子だった。

「おやっさんが密かに、企んでたんですよ。えいぞうさんに
 それとなく、真子様に伝えるようにと、話をふって…」
「うん…えいぞうさんから聞いてた。だから、くまはちが
 大阪から戻ってきた時に、その話をしてたんだけど…」
「……なんとなく、想像できるで、真子。くまはちさんの事だから
 更にムキになって、細かくしてたんやろ? それが今に繋がって…」
「その通りなんですよぉ、理子さぁん」

理子に嘆く梅原だった。

「ママぁ、うめはらさん、おしごとちゅうだよぉ」

美玖が促す。

「そうでした…ごめんなさい、梅原さん。お時間を…」
「いえいえ。…その、公園に行くんですか、美玖ちゃん、光ちゃん」
「はい!」
「目一杯、楽しんできてね」
「はい! うめはらさんも、おしごと、がんばってください」

美玖と光一が声を揃えて言うと、梅原は、子供の目線に合わせて姿勢を落とし、

「ありがと。頑張るぞぉ!」

輝く笑顔で、応えていた。

「ほな、行くでぇ」
「お気を付けて……って、組長っ!!」

梅原は小声で真子を引き留めた。

「ん???」
「その……くまはちさんはビルじゃありませんかっ!
 どなたが、側に…」
「母と子の時間だよぉ。それに…」
「存じてますが、それは自宅だけであって、公園は…。
 それに、先程から感じているんですが…」

そう言って、梅原は、一カ所に鋭い目線を送った。

「そこに居るんですが…」
「……やっぱし、わかるんや…。流石、松本さん一押しの
 梅原さんやわ…」
「私が側に…」
「…仕事中でしょうが」
「チェックだけですし、みんなの仕事っぷり見てましたから
 心配してません」
「……クールさんなの」
「キルの弟分の?」
「うん。キルさんがね、どうしてもって言うから…大丈夫なのにぃ」

真子は少し困った表情をして、クールが身を隠している場所に目をやった。

「母と子の時間でも、周りを警戒するだけだと言って…」
「本部でのこともあったからでしょうね」
「………どこまで知ってるん?」

五代目のオーラを醸しだし、真子が尋ねた。

「あっ……その………新たな敵の話と、そのクールという
 人物の話ですね…。キルが来た頃に、うちの事務所に
 忍び込みましたよね」
「あぁ、あったね、そういうことが…」
「その時に、全て知るように言われました。もしもの時に
 手を出さない為でもあります」
「ったく……真北さんでしょ…」
「……はい……」

言ってはいけない内容だったが、話し相手は真子。自分達にとっては、目上の人物に尋ねられて応えなければ、何が起こるが想像できる。だから、つい、梅原は応えてしまった。

「ほな、行くわ」
「はい。お気を付けて」

梅原は深々と頭を下げた。そして、公園の入り口で待っている美玖達に駆けていく真子の後ろ姿を見送った。少し遅れて、クールが屋根を飛び越え、公園へと向かっていった。屋根を飛び越えた時、ちらりと梅原に目線を送り、軽く頭を下げていた。

「まさか、会話まで聞こえていたとか…?
 日本語、まだ理解してへんかったよな…」

周りの気配を探り、怪しい感じが無いことを悟った梅原は、仕事に戻った。



公園では、美玖と光一が木々の間を駆けていた。そして、一本一本、何かを探すかのように、上を見上げている。

「ここにもいないぃ」
「どこだろぉ」

辺りを見渡す美玖と光一。一緒に公園に来た真子と理子は、ベンチに座って、話し込んでいた。朝早いこと、そして、季節的なこともあって、遊びに来ているのは、真子達だけだった。他の家族が居ない時だからこそ、美玖と光一は、何かを探していた。

「まこママのちかくには、いないから…」
「すこし、はなれたとこかも」

光一と美玖は、少し離れた場所に目をやった。

「いた!!!」

そう言って、二人は、真子とは対照にあたる位置にある木に駆けていった。

「くーるさぁん、みっけ」

美玖達が駆け寄った木には、クールが身を隠したように、枝に腰を掛けていた。美玖と光一の姿に気付き、声を掛けられ、スタッと、降りてきた。

「ねぇねぇ、あそぼぉ」

光一が声を掛けるが、クールは日本語がわからない。だけど、光一が言いたいことは理解していた。笑顔を向け、ジェスチャーで会話をする。

両手で目を覆う。
そして、両手を広げ、一本一本指を折り曲げていく。
自分自身を指さして、上に向けた。

「はい!」

美玖と光一が元気よく返事をし、そして、両手で目を覆った。

「いーち、にぃー、さぁん、しぃー…」

二人は数を数え始めた。すると同時に、クールは素早く身を隠した。

「じゅぅ!!」

十を数え終わった二人は、公園にある木の上を一本一本確認するかのように見上げていく。
どうやら、クールとかくれんぼ遊びを始めた様子。



天地山から本部に戻った時、キルはクールを紹介した。本部の者達だけでなく、美玖と光一にも紹介していた。

「真子ママのために、側に付いててもらうことにした。
 これ以上、真子ママに入院されては困るだろぉ」

真子の立場=阿山組五代目だということは、美玖達は知らない。ただ、何かの仕事で常に忙しく動いていることは、理解していた。組関連での怪我のことは、『体が弱い』という偽りの言葉で、伝えている。最近、入院生活の方が増えているから、美玖が、それとなくキルに言ったことがあった。

『ママとふたりのとき、ママがたおれたら、
 みく、なにもできない…』

連絡をする方法は教わった。だけど、連絡するものが無い場所に居る時は、どうすることもできない。美玖は美玖なりに、悩んでいたらしい。クールが側に居ることを許可されたとき、キルは、そのことを思い出し、真子の反対を押し切って、クールには真子の側に居るようにと、伝えていた。
クール自身、本当はキルの側に居たかったが、キルは医者という職業に就いている。クールには、何も手伝えない。自分に出来ることは、敵を察知することだけだった。
それなら…ということで、真子の周りに誰も守る者が居ないときだけという条件の下、こうして、真子の側に居ることになった。
だけど……。



真子と理子は、美玖達の様子を見つめていた。
クールがジェスチャーで美玖達に何かを伝えて、すぐに身を隠したところを見ていた。

「ほんと、クールさんって、わからんわぁ」

理子が呟いた。

「そうかなぁ。なんやかんやと、キルさんの言葉に忠実やん」

クールが身を隠した所に気付いてる真子が言った。

「なんで、身を隠す必要あるんや? ああやって遊んでくれるのに
 隠れる必要ないと思うんやけど…って、どこに行ったん??」
「滑り台の側」

真子の言葉通り、クールは、滑り台の側にある木に身を隠してた。

「うちには、わからん」

理子には見えてないらしい。美玖と光一にも、クールの場所は気付かれてなかった。一本一本を丁寧に見上げて、クールの姿を探す二人を、温かい眼差しで見つめる真子。

「午後から勉強なん?」
「どうやろ。でも、真北さんから、たっぷりと資料もらってたから
 それを覚えるのに、必死かもしれへん」
「資料って、組関連?」
「いいや、日本語」
「キルさんの時は、どうやったん?」
「真北さん、入院してたやん。その時に、たっぷりと
 教えたらしいわ」
「よっぽど暇やったんやろなぁ」

笑いながら理子が言った。

「で、真子」
「ん?」
「どうするん。クールさん」

理子は、クールの今後の身を心配していた。

「キルさんの側に居たいみたいやけど、病院関連は
 これ以上は、橋先生、怒りそうやわ」
「そっか…。キルさんだけでなく、色々と関わってるし…」

そこまで言った理子は、何かを思い出した。

「医学関連やったら、橋先生、怒らんのとちゃうん?」
「まぁ、そうやけど…」
「今でも、天地山の支配人、引き込もうとしてたやん」
「そりゃあぁ、まささんは、一応、生徒だったし、その時の
 腕を、橋先生が惚れ込んでしまったらしいしぃ」
「そうやったんや。…あっ、見つけたみたいやな」

美玖と光一は、クールを見つけ、はしゃいでいた。

もう一度。

そういう仕草をしたクールは、再び身を隠した。美玖と光一が数を数え始める。
クールは、真子と理子が座るベンチの後ろの木に身を隠した。
真子が振り返ると、クールと目が合った。

「(わかりましたか…?)」
「(動きは、目で追えるよ)」
「(素早く動くと、先程の男が反応しそうで…)」

少し恐れた雰囲気で、クールが言うもんだから、真子は思わず笑ってしまった。

「(笑わないでくださいっ!!)」
「(ごめんごめん! 大丈夫だって。梅原さんは、
  実戦型だから)」
「(松本の部下は、みんなそうなんですか?)」
「さっきから、外国語で話してるけど、なんとなく
 話してる内容がわかるで………」

理子が言った。

「松本さんって、相当な腕の持ち主なん?」
「その道では、片手に入るらしいよ」
「AYビルと隣の本屋ビルが、そうなんやろ? こないだ知って
 びっくりしたわ。ほら、避難訓練。まさかの構造に…。あれも
 松本さんの設計なんやろ?」
「うん…。設計図を見せてもらった時は、驚いたもん」
「不思議には思ってたんやけど」
「ママぁ」

美玖と光一が駆けてきた。

「くーるさん、いないぃ」

二人は、探し疲れた様子。

「ママしってる?」

美玖が真子に尋ねたが、

「知らないなぁ。木の上、探した?」
「ぜんぶ、さがしたぁ」
「それじゃぁ、木の上じゃないかもよ」

真子の言葉に美玖と光一は、ひらめいたような表情をして、木の周りを探し始めた。そして、

「みつけたぁ!!!」

真子のすぐ後ろにある木に身を隠していたクール。美玖と光一に見つかって、姿を現した。

「(真子様、そろそろ時間では?)」
「ん? あっ、洗濯終わった時間だ!! じゃ、帰るよぉ」
「はいっ!」

真子の掛け声に元気よく応え、公園を出て行った。もちろん、クールは姿を消す。帰路の途中、梅原の仕事っぷりをちらりと確認し、軽く会釈をして、自宅に戻っていった。
クールは、真子の家の屋根に登り、そして、庭へと舞い降りていった。その様子を見つめていた梅原は、深刻な表情へと変わっていた。



真子が洗濯物を干し終えた頃、美玖と光一は、離れにあるむかいんの部屋で、オモチャで遊んでいた。理子が子供達を見守るように側に居る。その様子を見つめ、真子は、

「(クールさぁん)」

クールを呼んだ。すぐに、真子の側にやって来るクールは、一礼する。

「勉強しよっか」
「よろしくおねがいします」

たどたどしい日本語で返事をした。


リビングのソファに腰を下ろし、テーブルの上にたくさんの資料を広げるクールは、何かを確認するかのように、資料に目を通していた。
真子が、飲み物を持って、やってくる。

「ちゃんと覚えた?」

真子は飲み物を置きながら、敢えて、日本語で尋ねた。

「はい」
「挨拶は大丈夫だろうけど」

真子は言葉を切り替える。

「(会話は難しいでしょ?)」
「(はい。今日の理子さんとのお話も、わからないところが
  多かったです)」
「(じゃぁ、昨日の続きするよぉ)」
「おねがいします」

真子の目の前にあるのは、国語の教科書だった。それは昔、真子が外出を許されていない頃に教わった教科書の一つ。その教科書を使って真子に教えていた人物こそ、真北、そして、ぺんこうだった。



橋総合病院にある、院長の事務室。
そこに一人の男を治療する、強面の医者が居た。
無言のまま治療を終え、片付け始める。

「…なんか言えよ…」

治療された男が、ボソッと呟いた。
医者は何も応えず片付け終え、そして、男に振り向いた。

「何も言わんでも、わかるやろが。ったく、いつまでも
 同じ事しかせぇへんのぉ」
「しゃぁないやろが」
「聞き飽きた」
「さらに強化されとるんや」
「知らんわっ」
「そら、知らんやろうけど、ここから出すなっ」
「休暇やねんから、どう動こうか指図できんわ」
「あがぁぁっ、もうええっ!」
「って、怒りを俺にぶつけるなっ!」

二人の会話は、徐々に喧嘩腰になっていった。

「あの、その…お二人とも……」

事務室に居た、もう一人の人物が、恐れながらも声を掛けたが…。

「なんやっ」
「うるさいっ!」

反対に怒られてしまった。

「それで、新たな情報、仕入れたんか?」

治療された男が怒りを抑えたように言うと、

「まだです」

即答する。

「ここに来て三十分。その間、ずっと一緒に居て、
 新たな情報を手に入れることができると思ってるんか?
 真北ぁ、頭打ったか?」
「キルなら、できそうやろがっ」
「運動神経は桁外れやけど、特殊な能力は持ってへんやろが。
 ほななにか? キルはテレパシーで情報入手してるとでも
 言うんか?」
「橋院長、その……」
「キルは、黙っとれ。こいつが、全部悪いんや」
「すみません…」
「年末年始、敵の行動が変わったからと言ってやな、
 お前が動くことないやろが。そういうのは、全部、
 キルたちに任せとけばええやろ。向こうのことには
 お前よりも長けてるやろが。お前は、こっちのことを
 優先すればええんちゃうんか?」

なぜか、無関係の橋総合病院の院長である、橋が怒っている。
それもそのはず。
年末年始は真子の実家と天地山で何もせずに、のんびりと過ごすと言っていたにも関わらず、真北は動き回っていた。帰阪してからは休むことなく動き回っていた。その真北の行動を知った橋は、特別休暇をキルに与えて、真北の護衛に向かわせたというのに、キルには何もさせず、真北自身が動き、敵を倒し、真北自身の立場を超えての行動。
それが病院へ来ることになった怪我。それは……。

「…で、真子ちゃんには、どう伝えるんや?」

真子が気にするほどの状態らしい。

「今日は帰らん」
「休め」
「休めん」
「悪化する」
「これくらいは、平気や」
「いつも以上に酷い状態やのに、平気なわけないやろが」
「お前の治療がいつも以上に素晴らしかったから、平気や」

真北の言葉で言葉に詰まる橋。

「キル…」
「連絡しておきます。なので、真北さんは、こちらで
 体を休めてください」

真北が言い切る前に、キルが応えた。その力強さに、真北は観念したような表情になり、

「奥、借りる」

短く言って、事務室の奥にある仮眠室へと入っていった。
静かに閉まるドアが、真北の体調を語っている。

「相当疲れてるんやろが」

橋が呟いた。
キルは少し時間をおいて、仮眠室のドアを開け、中の様子を覗き込んだ。
真北は、ベッドの上に倒れ込むように眠っていた。
キルは真北の体を動かし、寝やすい体勢にし、布団を掛けた。

「ったく。キルに動かされても起きないほど
 疲れとるんやろが。…で、休んでへんのか?」
「はい。本部でも天地山でも、いつもの行動でした」
「えいぞうと健に任せてたんやろ?」
「それでも、追いつけない状態に悪化してるようです」
「そうか…」

そう言って、橋は大きく息を吐く。

「しゃぁない。こっちも体勢を整えとくか。キル、頼んだで」
「心得ております」

キルの言葉は力強かった。

「ぺんこうには、俺が連絡しとくから」
「ありがとうございます」

橋はデスクの受話器を手に取り、ボタンを押した。




真子の自宅・リビング。
クールが手に毛布を持って、リビングへと入ってきた。
ソファには、真子が眠っている。クールは、真子の体に、そっと毛布を掛けた。その時、真子が寝返りを打つ。
髪の毛が、さらっと動き、額が露わになった。
額の左側に、傷跡があった。クールは、その傷跡に気付き、じっと見つめる。

「(銃創…?)」

クールは、真子の額の傷跡に、ゆっくりと手を伸ばした。

「(触れると、やられるぞ)」
「(!!!!)」

その声に驚き、立ち上がるクール。リビングのドア付近には、ぺんこうが立っていた。

「お帰りなさいませ」
「(勉強の最中に、先生が寝ては、生徒も困るよな)」

そう言いながら、ぺんこうは真子に近づき、額の傷をそっと隠すように、髪の毛を下ろした。

「(真子が一番気にする傷なんだよ)」
「(そうでしたか。すみませんでした)」
「(続きは俺が教えてもいいが、どうする?)」

ぺんこうは、テーブルの上にある教科書を確認する。

「(クール。もしかして、覚えるのは早い方なのか?)」

短時間で小学校で学ぶ国語を全て覚えた様子。山積みされている教科書の一番上は、小学六年生の教科書だった。

「(そりゃぁ、真子も疲れて眠るわな)」
「(その……)」
「(ん?)」
「(真子様が速かっただけでして…その…)」
「(その速さに付いていったんだろ?)」
「(はい)」
「(疲れてないのか?)」
「(私は大丈夫です。疲れを知らないところを買われましたから)」
「(…なるほどな)」
「ワタシは、これで、かえります」

日本語で返すクールだった。

「(キルが動いてる。恐らく、来ると思うよ)」
「かしこまりました。それでは、失礼します」

そう言って、クールは一礼し、リビングの庭に通じる窓から出て行った。

「……ったく。あいつらは、ドアを使うことを知らんのか…」

ふぅっとため息をついた時だった。

「先生お帰りぃ。早かったねぇ。美玖ちゃんは光一と寝てる」

理子がリビングへやって来た。

「……って、真子も寝てるやん。あれ? クールさんは帰ったん?」
「庭からな」
「そりゃぁ、庭から入ってきたら、そこから帰るわなぁ。ほんと、
 玄関とかドアを使わないんやからぁ」
「キルが普通に生活できるようになるまで、かなりの時間が
 かかったからなぁ。クールは、もっと掛かるかもしれんなぁ」
「真子、上に連れてく?」
「そうする。美玖を頼んだよぉ」

ぺんこうは真子を抱きかかえ、リビングを出て行った。

「先生が早いということは、真北さん、帰ってこないんや…」
『その通りや』

リビングの外から、ぺんこうが返事した。それには、理子は大笑い。

「そう怒らんでもええやん、先生」
『じゃかましぃ』

ぺんこうの言葉に、更に笑った理子だった。




クールは、自分と同じように動く人物に近づいていった。

「(兄貴っ!)」

もちろん、その人物こそ、キル。

「(ぺんこう先生は、ご帰宅か?)」
「(はい。…その……実は…)」

二人は、人気のないビルの隙間に降り立った。

「(真子様に国語を教わって、休憩の時に、テレビを付けたら
  驚くことが放送されてまして…)」
「(何だ?)」

キルの眼差しが鋭くなった。




〜回 想〜

「じゃ、休憩しよか」

真子がクールに声を掛ける。

「はい」

そう言って、閉じた教科書は小学六年生の国語。一年生から一気に六年生まで教えていた真子。その早さには気付いていなかった。
真子が新たに飲み物を用意し、リビングへやって来る。そして、テレビのスイッチを入れた。

「情報を入手する方法は、テレビもあるからね」

日本語で言った真子だったが、クールは首を傾げていた。

「(情報の入手方法は、テレビも………)」

テレビ画面を指さして、真子が外国語に言い直した時だった。真子の様子が変わった。

「真子様?」

真子は、テレビ画面を凝視していた。クールもテレビ画面に目をやった。

「!!!!!!!! ブライト・リドル!」

その画面に映っていた人物。
それは……。


〜回想 終了〜




「……えっ…?」

キルは驚いた。

「(確かに、そうでした。真子様も驚いて…)」
「(二人が映っていた? それも動いていた……というのか?)」
「(はい。声も本人でした)」
「(真子様は、なんと?)」
「(信じられないという表情で、その後、突然、何かに
  何かに怯えたように震えだして、集中してました。
  それから、急に眠ると言って……)」

真子は倒れるように眠ったらしい。

「(そのことは、ぺんこう先生に伝えたのか?)」
「(伝えてません。真子様が誰にも言うなと仰ったので)」
「(内緒にしていても、今日中には、みんなが知る…)」

キルは深刻な表情をして、考え込む。

「(…取り敢えず、今日の予定を変更する。その情報を
  集めることにする。…クール、行くぞ)」
「はっ」

二人の姿は、ビルの隙間から消えた。



夜十一時。
くまはちが帰宅する。部屋に行く前に、リビングの灯りに気付き、顔を出す。

「おう、お帰りぃ。飲むか?」

ぺんこうが、コーヒーを煎れているところだった。

「いいや、いい。組長が起きてるのかと思ってな」
「真子は美玖と寝てる。むかいんは夜食作ってたけど、
 喰うか? 温めるで」
「今日はいい」
「珍しい……」

そう言って、くまはちに振り返ったぺんこうは、首を傾げた。

「どうした?」

くまはちには珍しく、突っ立ったまま深く考え込んでいた。

「あっ、いや…」

ぺんこうに声を掛けられて我に返ったらしい。

「なぁ、ぺんこう」
「ん?」

コーヒーをカップに移しながら、返事をする。

「肉の塊になった人間と、砕け散った人間が、
 人間の形に戻る…なんてこと、あり得ると思うか?」
「……何の話や? それが、架空の世界じゃなく、
 現実での話だとしたら、肉の塊と砕け散った人物は
 大体、想像付くけどな。それが、人間の形に戻ると
 いうことは、そういうことなんだろうけど、…くまはち…
 忘れてないか?」
「何を?」
「俺たちは、そういう状況……一度だけ経験しとるやろ」
「一度……?」

何かに気付いたのか、くまはちは、顔を上げた。

「…そうだったな……。それなら、お前も、むかいんも
 あり得る状態……って事だよな」
「…あぁ。……考えないようにしてるが、そうなるはずだ。
 その影響は無くなったと言われても、そう思えないからな。
 自分の体や。それくらいは、感じてる。お前はどうやねん」
「いいや、俺は、違うだろが」
「そうやったな。…で、どうした?」

椅子に腰を掛けて、コーヒーを一口飲みながら、ぺんこうが尋ねた。

「そっか。昼間はテレビは観ない生活だったな」

そう言いながら、くまはちは、テレビのスイッチを入れる。

「今日は早く帰ってきたけど、テレビは観なかったなぁ」
「この時間なら、放送してるかもしれんな」

くまはちは、チャンネルを替えた。ちょうど、次の話題に変わったところだった。

「……おい…くまはち……。それは、昔のものか?
 それとも、新しいものなのか?」

ぺんこうが、ゆっくりとリビングのテレビまで歩み寄る。

「新しいものだ」
「……まさか、組長に接触するんじゃないだろうな…」

ぺんこうは、拳を握りしめた。

「可能性はある。だが、この雰囲気は、俺の知ってる
 奴の雰囲気とは違う。……プラスの方だ」
「……それでも、組長に…」
「ぺんこう」
「なんだよっ」
「伝えない方が、良かったか?」

テレビのコーナーは、別の物に変わっていた。くまはちは、テレビのスイッチを切り、ぺんこうに振り返った。
ぺんこうの表情には怒りが現れていた。
くまはちに言われて、我に返る。

「…すまん…。だが、考えられることだったと思うと、
 悔いてしまう。…組長は………。…真子は知ってるのか?」
「昼間にテレビを観たのなら、可能性はある。それに、
 知らないとしても、時間の問題だな。須藤や水木たちは
 知ってる。だから…」
「幹部会で聞いてくるかもしれんな…」

ぺんこうは、大きく息を吐いた。

「…兄さんの状態は、まさか…」
「真北さんは、橋先生とこか?」
「あぁ。思った以上に怪我が酷かったらしい。
 奥の事務室に入った途端、深く眠ったそうだ」
「そっか。………それでだな」
「ん?」
「肉の塊は、もう一つあったんだが…」

くまはちの言葉で、ぺんこうの心は、どこかに飛んでいってしまったような表情へと変わってしまう。

「キルに調べてもらってるんだが、この時間になっても
 連絡が無いということは、恐らく、情報は掴めてないかもな」
「…あぁ、そうだな…」

素っ気ない返事をした、ぺんこう。

「……くまはち……場合によっては…」
「それが、お前の本来の思いなら、俺は何も言わん。
 そして、真北さんには、何も言わせん。だけどな…」

くまはちのオーラが変化する。
それは、ボディーガードとしてのオーラではなく…。しかし、ぺんこうのオーラの変化に、言おうとした言葉を飲み込み、言葉を変えた。

「…皆まで言わんでもわかってるか…。負担は掛けさせないさ」
「いつも、すまんな」

フッと笑みを浮かべる、ぺんこうだった。

「聞き飽きてる。ほな、風呂入って寝る」

くまはちは風呂のスイッチを入れ、リビングを出て行った。足音を立てないように階段を上がり、二階の自分の部屋へ入っていった。
ぺんこうは、ソファに腰を掛け、深く息を吐いた。

あの頃に戻ったのか…。

背もたれにもたれかかり、天井を仰ぐ。

それなら、俺も……いいよな……。

そっと目を瞑り、頬を膨らませる。
くまはちが、二階から降りて、風呂場へと入っていくのがわかる。その行動は、リズミカルだった。その動きが、いつも通りであることに気付いたぺんこうは、体を起こし、気を引き締めた。

暫くは、任せるか…。

すっと立ち上がり、空になったカップを片付け、そして、リビングの電気を消して、自分の部屋へと戻っていった。



湯船に浸かるくまはちは、ぺんこうが部屋に入っていくの様子を伺っていた。

「ふぅぅぅ〜〜〜」

長く息を吐いて、湯に潜る。
ザバッと湯から上がると、前髪が頭にピッタリと張り付いていた。鏡に映る体は、筋肉質。そこには新たな傷跡があった。その傷跡を見つめるくまはち。そして、体を洗い出す。体に付いた泡を洗い流すと、先程見つめていた新たな傷跡は、うっすらとしか残っていない。

益々……早くなってるよな…。

再び湯に浸かり、体をほぐし、湯から上がるくまはち。その体にあったはずの傷は、消えていた。

これなら………。

新たな決意が芽生える、くまはちだった。




AYビル・三十八階にある会議室。
そこには、阿山組系の関西の幹部が集まっていた。前日に入手した情報の交換をしている。内容は全て……。

「木原の話だと、本物や。しかし、木原に対しては、
 初対面と同じ接し方だったらしい。確か、組長に
 紹介したのは、木原だろ?」

水木が、怒った口調で報告していた。

木原とは、サーモ局のジャーナリストで、その昔、阿山組のことを悪く思っていた。それを調べようと、特に、真子の事を執拗に追いかけ回していた者だった。ある日、真子が敵対する組から襲撃されたを目の当たりにし、その時の真子の言動で、自分の考えがガラリと変わり、真子に協力をするようになった人物である。その後、真子の事を書いた本を発表し、海外へと幅を広げ、今では世界的有名なジャーナリストとなっていた。
そして、阿山組に関しての報道は、全て抑え込む程の力量の持ち主でもある。

「まぁ、そっちは大々的に姿を現したとして、暫くは様子を観るが
 もう一つの方は、どうやねん、水木」

情報収集には長けている水木組。そのことに期待をしている幹部達。須藤が静かに尋ねたが、

「わからんままや。情報が入ってこん。一応、製薬会社にも
 足を運んでみたけどな、観てないという応えや」

椅子にふんぞり返って、水木が応えた。

「お前…それを信じとるんか? あいつのことや。
 命令しとるやろが。それに、ほんまの事をお前に
 応えんやろ」

どうしても喧嘩腰の口調になる須藤。

「真北さんが一緒になったとしてもか?」
「真北さん、動いてたんか?」
「まぁ、………な…」

言葉を濁す水木。

その帰宅途中に襲われたことは、内緒やし…。

「それにしても、情報がこれだけって、組長には
 どう報告するんや」

須藤が頭を抱える。

「組長、知ってるんやろ?」

谷川が言った。

「そこまでは、知らん。でも、いずれは知ることになるだろ。
 差し障りない程度に報告すれば、ええんちゃうか?」

水木の口調に、どうしても怒りを感じるのか、須藤のこめかみが、ピクピクと動いていた。それに気付かない水木ではない。

「…俺に怒っても、何も進まんで」
「じゃかましぃっ!」
「…それで、どうするんや」

その場の雰囲気を変えるかのように、谷川が口を開く。

「今ある情報を無理ない程度に伝えとくわ」

須藤が、書類をまとめながら応え、

「ほな、各自、よろしくな」

会議を終えた。



須藤組事務所。
組長室のデスクで頭を抱えながら書類をまとめる須藤。そこへ、組員のみなみがお茶を差し出した。

「ありがと」
「組長、ご存じではないのでしょうか…」
「テレビの方は知っとるかもしれへんな」
「それでしたら、もう一つの方にも気付かれると思います」
「そうやな。…木原の情報が本当なら、奴の行動は
 限られるやろ」
「はい。…組長の拉致、もしくは、命を狙う…」

過去の事件から考えると、誰もが考えることだった。

「あぁ。だからこそ、先手を打ちたい。今の組長の生活を
 壊したくないからな」
「…おやっさん…」
「ん?」
「もし、その三人が、あのときの三人と同一人物だったら、
 まさちんにも、可能性がありましたよね」
「そうだな。だが、まさちんの場合は、表向きでの行動だったろ。
 心に秘めた思いは、お前も知ってる通りや」
「はい。存じてます。ですが……」

みなみが静かに語る内容。
それは、是か非か。今は未だ、どちらか判断できない状態だった。
そこに……。

『組長到着です』

真子がやって来た。事務所の外に聞こえる挨拶の声と、真子の声。

「ほな、行ってくるわ」

須藤が書類を手に取り、事務所を出て行った。



「組長」

須藤が呼び止めると、真子とくまはちは、事務所のドアを開けたところだった。

「須藤さん。おはよぉ。今日は朝早くから幹部会やったん?」
「はい。その報告をすぐに…」

真子が真剣な眼差しで、須藤に振り返った。

「…組長……まさか…」
「連絡があってね。黒崎さんとリックがもうすぐ来る」
「なぜ、二人が…? 新年の挨拶とは思えませんが…」
「恐らく、その書類に書いている内容の結果だと思う。
 ……昨日、テレビで知った。二人の姿が映ってた。
 ただ、その姿からは、何も感じなかった。だって…」

そう言って、真子は右手を須藤に差し出した。
真子の右手は、ほのかに青く光り出す。そして、スゥッと消えた。

「…………組長……いつ…? そして……そのことは…」

須藤は、焦ったように、くまはちに目をやった。
くまはちは、そっと頷く。

「くまはち以外には、誰にも言ってない」
「それなら、なぜ、私に…」
「…感じなかったから」
「えっ?」
「この能力が戻ってるというのに、何も感じなかった。
 二人の姿を見ると、必ず反応してたのに」

真子は右手をグッと握りしめた。

「…組長。青い光の能力が戻ったのなら、赤い光は?
 そして、相手の心の声が聞こえる………!! まさか…」
「ごめん、須藤さん。聞こえてきたから…。気を緩めてしまった」

恐縮そうに真子が言った。

「私の方こそ、申し訳御座いませんでした」
「ライとカイトの方は、テレビで見た通りで、その時に感じた
 通りだと思うから、気にしてないけど、ただ、もう一人…
 竜次のことが、わからないだけに…。キルとクールが
 調べてくれたらしいけど、情報が入らないらしいし…」
「製薬会社には、姿を見せてないようです」
「うん。連絡あった」
「……組長……いつ、製薬会社の社員と連絡を…」
「メール……。ほら、クレナイたちの事件があったでしょ。
 その後から、色々と情報をくれるようになってて…」
「そうでしたか。でも、竜次に仕える者なら本当の事は…」
「竜次の姿を観なかったか…と、真北さんが尋ねてきたけど
 どういうことかと逆に尋ねられた。それでね……」

話している時だった。
廊下の先に、二人の男が現れた。
須藤が鋭い眼差しで振り返る。

「てめえら、今頃……何のようだっ!」

須藤が怒りを露わにした。

「真子ちゃん。須藤も交えるんですか?」

そっと尋ねてきたのは、黒崎徹治(くろさきてつはる。黒崎組四代目だった男。ある事件をきっかけに、四代目を引退し、海外へ逃亡。その後、真子が五代目となったことを知り、日本へ戻ってきた。その時の状況から、真子を守る立場に一変。今は海外から真子を守っている)と、リックだった。

「いいえ。須藤さんは、報告書を持ってきただけですよ。
 では、須藤さん、そのように進めてくださいね」
「かしこまりました」

真子の言動で、真子の思いを察したのか、須藤は書類を真子に手渡し、事務所へと戻っていった。突然尋ねてきた二人を睨むことを忘れずに……。

「須藤は、なぜ、私たちに怒りを?」
「年末年始の事で、怒ってるみたいで……」
「そうでしたか…」
「黒崎さん、リックさん。お久しぶりです。お元気でしたか?」

真子は、素敵な笑顔で二人を迎えた。



真子の事務室。
ソファに座る黒崎とリック。くまはちが、お茶を差し出した。
真子が、二人の向かいに腰を掛け、

「お話というのは、例の二人と…」

真子はリックを見つめる。そして、黒崎に目線を移し、

「竜次のこと…ですね…」

黒崎は、ゆっくり頷いた。

「裏の組織の誰かが変装してるということでは?」
「そこまで巧妙に変装はできませんよ。それに、変装しても
 何のメリットもありません。あのように公の場所に姿を
 見せるという行動も、危険ですから」

静かに応えるリック。それに加えるように、黒崎が話し始めた。

「ライとカイトは、テレビで放映されていた通りで
 害はないと思うんだが、竜次については、この俺でも
 解らない。真子ちゃんも知ってるように、竜次は…」
「黒崎さんの命を…狙っていた」
「あぁ。…木原からの連絡だと、ライもカイトも
 記憶の一部を失っているらしい。そこから推測できるのは
 竜次にも、同じ現象が起こっている可能性がある
 実際、墓の中から体が消えていた」
「ライ様の体も消えていました」

暫く沈黙が続いた。

「再生能力があることは、青い光のことで知っていましたが、
 まさか、人の形としての再生能力が存在するとは、思いもしなかった」

リックは項垂れる。

「カイトに関しては、よく解っていません。確か、このビルの
 料理店で、体は砕け散って消滅したはずです」
「あぁ」

あの時、その場に居た、くまはちが応えた。

「橋先生から聞いたけど、ライの腕、繋がらなかったんでしょ?」
「はい。右腕は、竜次の放った銃弾で繋げることも出来ない程
 砕かれてました。……まさか、その腕から……?」

ふと思い浮かんだ考えに、リックは身震いした。
そして、遠い昔を思い起こす。

「ライ様とカイトは、能力を持つ者同士で、何かを交わしていた。
 その時、カイトの紫の光が、ライ様の両腕に吸い込まれたような
 雰囲気だった。まさか、ライ様には、カイトの能力が…」
「まさちんをブルーから助けたあのときに、カイトから預かった力を使ったと、
 ライが話してくれたけど、もしかして、まだ残ってた?」
「そうかもしれません。しかし、今は、二人のことよりも…」
「……黒崎さん。記憶の一部を失っているということは、
 残っている記憶で行動を起こしているということですか?」

リックの言葉を遮るかのように、くまはちが、深刻な表情をして、黒崎に尋ねた。

「あぁ」
「竜次が黒崎さんの命を狙っていたという記憶で
 行動を起こすことも考えられますよね」
「……あぁ」
「それなら、なぜ、こちらに?」

静かに尋ねる、くまはちから、怒りのオーラが現れた。

「くまはちっ! それは、竜次の行方についての情報を
 交換するからだと、言っただろっ」
「ですが、組長。竜次の思いは…」
「黒崎さんの命だけでなく、私の命、そして…」

真子が言おうとした時だった。
突然、事務室の窓の外が暗くなった。
真子達は、窓に振り返る。

「えっ!!!!!」

光を失い暗くなった窓は、突然、真っ白に変化した。
そして……。



大音響が、AYビル全体に響き渡った。



(2013.2.9 第一章 驚き 第一話 改訂版2014.12.29 UP)



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