任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界・復活編」

第一章 驚き
第十三話 目覚めは、もう少し先。

真子達が、天地山にあるレストランで楽しい時間を過ごしている頃……。


三人の男が、とあるビルの地下駐車場から一階の受付へやって来る。

「お疲れ様です」
「今から明け方まで、使いますので、よろしくお願いします」
「かしこまりました」

受付嬢は一礼し、連絡網へと入力する。

三人の男は、受付を離れ、二階へ通じるエスカレータに乗る。

「飯が先や。これ以上、腹空かしとったら、
 くまはちが、益々厄介になるやんけ」
「特別室、予約しときます」

みなみが、とある店へと駆けていく。

「先にまとめておいた方が、よろしいかと…」

前髪の立った男・くまはちが、眉間にしわを寄せながら言った。

「あかん。休憩と食事が、さ・き」

『先』という言葉を強調し、くまはちの眉間に指を差した須藤は、くまはちを心配げに見つめていた。

「おやっさん……相席になりますが……」

先に行っていた、みなみが困った表情で須藤に伝える。

「水木も来とるんかい」
「真北さんと栄三と健だそうです」
「水木は?」
「……真北さんが先回りして終わらせて、水木さんは
 厄介な二人を真北さんに任せて、自由行動ですね」

低い声で、くまはちが応える。

「……健からか?」

どうやら、健の連絡先は、くまはちだったらしい。

「……なのに、ここに居るのん、知らんかったんか?」

驚いたように須藤は、くまはちに尋ねるが、くまはちの怒りを抑えた表情を見て、何かを悟る。

「だから、先にまとめたがっとったんかい。すまんのぉ。
 でも、わし、腹が減ってるから、飯が先や。諦めろ」
「諦めてますので、行きますよ。相席になりますが」

くまはちは『相席になる』ことを強調する。
それに含まれる意味は……。




折角の美味しい料理なのに哀愁が漂い始める。それには、料理人も困り果てていた。

「……なんで、先に上に行かなかったんですか?
 お持ちすることも可能ですよ?」

むかいんが、静かに言う。

「すまん…。腹が減ってる方が勝っただけや。
 それに、ここまで険悪になるとは想像できへんかった」

須藤は、むかいんに恐縮そうに応えた。

「お腹が空くと、判断力が鈍りますからね…。
 今の くまはちが、良い例ですね…」

呆れたように、むかいんが言った。

「誰が停めるんや…」

須藤の言葉に、むかいんが静かに手を挙げ、そして、

「くまはち、先に食べろよ。冷めるやろが」
「……あぁ。…俺が食べてる間に、解決案よこせよ、健」
「わかっとるわ。そう急かすな」

いつになく、健が怒りを抑えたように、くまはちに応えていた。

「……いつもの三倍、頼む」

くまはちが、健を睨みながら言うと、

「料金は、須藤さんでよろしいですか?」

なぜか むかいんは、支払いを須藤に依頼する。

「かまへんから、はよ持ってこい」
「ありがとうございまぁす」

その場の雰囲気を変えるかのように、明るい声で、むかいんが応え、そして、特別室を出て行った。

「おやっさん、金額すごいことになりませんか?」
「むかいんに悪いことしたから、しゃぁないやろ」

溜息を吐く、須藤だった。


くまはちは、食べることに集中し、健は何かを調べていた。そんな二人を静かに見つめながら食べる、真北、栄三、そして、須藤とみなみ達。

「…で、栄三から聞いたけど、須藤、どうするつもりや?」

真北が静かに尋ねた、

「いつも通りに対応する予定ですが、予想以上の数と
 依頼に時間が掛かりそうですね。そちらの方で
 何とかなりませんか?」

須藤の言う『そちらの方』とは、真北の本来の仕事=特殊任務のことである。

「くまはち」

真北が、くまはちに意見を求める。

「助けを求めてきた組に関しては、原さんにお願いしました。
 任務の方で、対応してくださるそうです。現時点では、
 反対意見の組と、密かに行動していた組に関しては、
 キルとクールが情報収集中。栄三と健が行う予定の分も
 含まれてますね。確認できる部分については…となります。
 まだ他にも、水面下で行ってる可能性も予想してますので、
 須藤さんと同じように、真北さんの方でお願いしたいのですが、
 難しいですか?」

いつになく、早口で長く話す くまはちだった。
くまはちの言葉に、真北は口を尖らせ、眉間にしわを寄せながら考え込む。

「お待たせしました〜」

むかいんが、たくさんの料理を手に、特別室へと入ってきた。

「真北さん、栄三、健には、デザート持ってきました。
 で、会計は、誰が?」

栄三が挙手し、財布から十枚ずつ束ねられた札を二つ取り出し、

「後からの三人の分も一緒や。釣りは要らん」
「釣りは無いなぁ〜。ほんま、計算速いなぁ」

遠慮無く、栄三の手から受け取る むかいんだった。

「予想は付く。それに、接客業は長いからな〜」
「金には無頓着やと思ってたけどなぁ。きっちりしとるわ」

むかいんと栄三のやり取りを見ていた須藤は、関心したように言い、料理に手を伸ばした。

「そっちは、栄三の方で、できへんか?」

まだ、眉間にしわを寄せたままの真北が尋ねる。

「得意な二人は帰省中ですよ」
「連絡、取れるやろ?」
「組長に怒られますので、無理でぇ〜す」
「ええわ。俺がやる」

そう言って、真北はデザートを口に放り込み、じっくりと味わう。

「って、真北さん! 組長が居ないからといって、
 今夜も動くおつもりですか?」
「その方が、やりやすいからな。ほなな〜。
 帰りは、電車で帰れよ〜」

軽い口調で言って、真北は自分の財布から、栄三が出した金額と同じ枚数のお札を栄三に手渡し、特別室を出て行った。

「栄三、ほっといてええんか? あの人の単独行動、
 もう、俺には停められへんで」
「須藤さん、気にすること無いですよ。行き先は、
 橋総合病院ですから」
「院長んとこで休んでるんか…」
「家に帰っても、疲れは癒されませんからね」

真北から受け取ったお札を、自分の財布になおしながら、栄三は、デザートを頬張った。

「ほい、できた。後で確認してんか」

健もデザートに手を伸ばし、ゆっくりと味わうように噛みしめていた。

「むかいん、これ、茶店で出してええ?」
「ええで。そのつもりで作ったやつやし」
「いつもありがと〜」
「ぺんこうに、ばれへん程度にしとけよ。
 くまはち、追加持ってこよか?」
「上に行くから、二時間後、持ってきてくれ」
「わかった。須藤さんは、どうですか?」
「夜食希望や。よろしく」
「かしこまりました。では、二時間後、お持ちします」

むかいんは、空になった食器を重ね、片付け始める。

「ごっそさ〜ん。ほな、俺らは一旦戻って休むで。
 くまはち、明日の予定は?」
「立ったら連絡する。私は事務所でまとめますので、
 出来次第お持ち致します。むかいん、ごちそうさま。
 では、お先です」

そう言って、くまはちは立ち上がり、素早く特別室を出て行った。

「落ち着かんやっちゃな〜ったく。わしらは、もう少し
 ここでゆっくりさせてもらうで」
「デザートとコーヒーお持ちします」
「ほな、俺らも、失礼しまぁす」

栄三と健、そして、むかいんは一緒に特別室を出て行く。部屋に残った須藤とみなみは、大きく息を吐き、

「ほんま、あいつら、動き出したら、停まらんな。
 組長の偉大さ、改めて感じるで…、のぉ、みなみ」
「えぇ」

 それに負けたくないからと、おやっさんも無理なさるんですから…。

言いたい言葉をグッと堪える みなみだった。





ところ変わって、天地山にあるレストラン。

「ごちそうさまでした!」

真子達が声を揃えて、レストランの料理長の天野に言う。

「久しぶりに拝見して、嬉しく思います」

料理長の天野は、本当に嬉しいのか、いつにない笑顔で真子達に応えた。

「…………天野の野郎、大阪でも真子さんの前では、
 常に、こうやったんやろなぁ〜。俺が見たこと無い表情や」

ちょっぴりふてくされたように言う真平を見て、まさは笑いを堪えている。

「…兄貴…笑わんとってくださいよぉ…」
「嫉妬せんでもええやろが。むかいんの影響やろ」
「憧れる人が大切に思う人やもんなぁ。しゃぁないか」

まさと真平が小声で話してる間、真子達と天野は昔話が弾んでいるのか、話が尽きないようで、見かねた真平が、声を掛ける。

「真子さん、そろそろ戻らないと、光一君と美玖ちゃんの
 お休みの時間が迫ってますよ」
「あっ、ほんとだ。二人とも……眠そうや…」

真子が言う通り、美玖と光一は、眠そうな目をしていた、まさが、二人を抱きかかえると、二人は、まさにしっかりと抱きつき、そして、眠り始めた。

「まささんの腕の中って、気持ちいいんだよね〜」
「……兄貴、どれだけ、抱きかかえてたんですかっ!」
「幼い頃は、しょっちゅうでしたよ」

懐かしむかのように、真子が言うものだから、まさは、ちょっぴり照れていた。

「では、戻りますよ」
「天野さん、またね〜! 涼に、伝えとくね」
「あっ、いや、それは、私の方から、連絡しますので、
 理子さんは、何もなさらないでくださいぃ!!」
「あかぁん! 涼から頼まれたんやもん」
「変わりなく過ごしてるとだけ、お伝えください」
「腕上がってることも言うとく〜! ごちそうさまでした!」

理子は、まさの腕から、光一を受け取り、抱っこする。

「真子さん。…その…色々とお聞きしてるのですが、
 …ご無理なさらないように、お願いします」
「天地山で、のんびりするから、大丈夫なのにぃ。
 それに、私が居ない方が、みんなが動きやすいからね〜」
「そうでしたね…。でも、本当に…」
「ありがと。美味しかったよ。では、またね〜!」
「いつでも、お待ちしております!!」

天野は、深々と頭を下げて、真子達を見送った。



レストランを出た真子達は、レストランの直ぐ横にある地山一家組事務所の駐車場へとやって来る。

「真子様、今日はありがとうございました。親父も
 喜んでいると思います」
「私の方こそ、突然訪れて、申し訳御座いませんでした」
「いや、もう、ほんと、原田支配人は意地悪ですからねぇ」
「お嬢様を驚かせたかっただけなんだがなぁ」
「充分驚きました」
「うちも、驚いたで……キンキラキン…」
「これでも、大人しい方なんやけどなぁ」
「……普段は、もっと…?」
「大阪での話です」
「では、これで」

深々と頭を下げ、まさから美玖を受け取った真子は、光一を抱っこしたままの理子と一緒に車に乗り込んだ。

「…例のこと、よろしくな。一応、軸守に頼んでる」
「かしこまりました。兄貴は、暫く、動かずに、
 真子様と、ゆっくりお過ごしくださいね」
「これ以上、怒られないように気を付ける」

まさの言葉に、真平は笑いそうになる。

「お気を付けて」
「今日は、色々とありがとなぁ」

そう言って、まさは、運転席に座りエンジンを掛け、アクセルを踏んだ。
駐車場を出て行く まさの車に向かって、真平と、いつの間にか外に出てきた組員達が、深々と頭を下げていた。

「…調べたか?」
「まだ、半分です。今、連絡待ちとなってます」
「まさ兄貴に聞いた。昨日よりも更に進展しとるらしいわ。
 一応、健ちゃんにも連絡取っといてや」
「健さんの方も、連絡待ちとのことです」
「そっか。ありがとな」
「…楽しかったですね。光一君と美玖ちゃんに癒されました」
「俺もやで。真子さんと理子さんの子供やもん。
 ほんま、おもろかったわ〜」
「健さんの影響もありそうでしたね」
「ほんまやで」

この日の出来事を語りながら、真平と組員は、事務所へと入っていった。


真子達は、天地山ホテルへと到着した。部屋に戻った頃、美玖と光一は目を覚ます。少し眠っただけで、眠気が納まったのか、歯磨きをした後、温泉へと向かっていった。
まさは、真子達が温泉に入って行くのを見送り、満に後のことを頼んでから、一応、真北には、この日の事を連絡し、仕事に戻った。





橋総合病院・橋の事務室。
カルテをまとめている橋は、どこかと連絡を終えた真北に目線を移した。

「原田、なんて?」
「真平ちゃんと天野のレストランで、楽しい一時を
 過ごして、今は部屋で寝てるってさ」
「寝てるって、早くないか?」
「子供達に合わせて寝てるだけやろ。まぁ、恐らく、
 理子ちゃんと目一杯、語り合ってるんちゃうかなぁ」
「一緒に行けば良かったやん」
「今回ばかりは、無理やな」

真北は、急須にお湯を注ぎ、新たなお茶を湯飲みに注ぐ。そして、味わうようにお茶を一口飲んだ。

「今夜もここか?」

一仕事を終えたのか、橋が振り返る。真北は、橋が愛用している湯飲みに、お茶を注いだ。

「真子ちゃんが帰ってくるまで、ここや」
「まぁ、お前にとっちゃぁ、ここも自宅みたいなもんやな」

そう言いながら橋は、真北の向かいのソファに腰を掛け、真北が煎れたお茶を飲み、ふぅ〜〜っと、大きく息を吐いた後、頭を抱えるように、手を当てる。

「で、キルとクールは、いつ戻る? 仕事休みにしとるけど、
 最大で十日や。それ以上は無理やな」
「あと二日で、一旦戻ってくるやろ」
「……真北〜っ、お前、また、こっそりと…」
「今回は、無傷や」
「毎度毎度、怪我しとったら、俺だけじゃなく、
 お前の体も、そろそろやばいやろが」
「俺の体や、気にするな。それに、お前が居るから、
 大丈夫やし、限界は見極めとるから、安心せぇ」
「安心できへんから、言うてるんや」
「俺のための外科医やろが」
「それでも、上限があるやろ」
「まだ、達してへん」
「ったく……。程々にしとけよ。それでなくても、
 昔より、やること増えとるんやからな」
「いつも、ありがとな」

フッと笑みを浮かべた真北は、懐で震えた携帯電話を手に取り、相手を確認する。

「噂をすれば……。もっしぃ〜」
『全て終了しましたので、戻りますが、…その院長は…』
「まだ大丈夫や」
『栄三さんと健ちゃんの方には先に連絡しております。
 少し時間を置いた方が良いという結論です』
「わかった。で、何時頃戻る?」
『……今、病院の前です』
「ちゃんとドアから戻ってこい」
『!!! 院長っ!! 直ぐに、戻りますっ!!」

真北の電話の相手が、キルだと判った途端、橋は、電話を奪い取り、強引に変わっていた。


電話の電源を切ってから、二分も経たないうちに、橋の事務室のドアがノックされ、キルとクールが戻ってきた。

「お疲れ〜。…で、予定よりも早すぎへんか?」

真北が笑顔で二人を迎えた。

「例の男達の姿もありましたので、分担しました」
「分担って……。……向こうの方が、人数多いか」
「えぇ」
「それで、先に栄三に報告か…」
「はい。えっと、院長も交えて大丈夫ですか?」

報告をしようと思ったものの、場所は、橋の事務室。そして、関わってはいけない、関わらせてはいけない橋が、側に居る。なので、キルは気を利かせて、真北に尋ねていた。

「俺は、かまへんで。一部、関わってるようなもんやし」

やくざの世界だけでなく、ライたちの組織の方も動いていることもあり、そのライを病院の敷地内に匿っている為、今回の事に関しては、一部、関わっていることになる。

「では、遠慮無く…。栄三さんと健ちゃんが予定していた
 内容を全て受け取りまして……」

キルは、クールと一緒に行った内容を、淡々と語り始める。真北は、キルの話を何も言わずに聞いていた。内容によっては、口を尖らせる。予想以上の動きについては、笑いを堪えるかのような表情を見せた。時々、橋が加わり、質問をする。その間、クールは、キルの報告の仕方や真北と橋とのやり取りを見つめていた。

「恐らく、優雅の情報から、更に進展していたのでしょう。
 向かった先で、北守の指揮で動く七名の男と重なりましたので、
 情報交換したところ、私たちが向かう先は、全て終わったと
 いうことで予定より、早めに終わりました」
「…例の男達の結果は、栄三に渡ったんだな」
「申し訳御座いません」
「元々、栄三と健がやる予定やったし、そっちの結果は、ええわ。
 どれも任務の方で対応できる結果やから、気にせんでええ。
 ありがとな」
「では、私とクールは、これにて、失礼します」
「あと二日、休みやで。何もするなよ」

橋が伝えると、キルが困った表情になった。

「……何するつもりや?」

低い声で、橋が尋ねる。

「明日から、仕事を…と思っておりました。それに、今夜
 休むだけで、大丈夫ですし、クールも勉強したいと
 帰路に着きながら、話していたのですが……駄目ですか?」
「お前らは、どんな体やねん。休み無しで動いてたんちゃうんか?」
「もしもの為の体力を残して、常に行動するのが
 当たり前でしたので、これだけは、今になっても、抜けませんね…」
「ほんまに、ライは、どういう指導の仕方しとったんや、ったく…」

キルと話す橋は、困ったような口調だが、何かを期待するかの眼差しになっていることは、真北だけ気付いていた。

 ライが復活したら、教わるつもりやな、この目は…。

言いたいことをグッと堪えるかのように、真北は、お茶を飲み干した。

「ほな、気を付けてな〜」

真北と橋は、キルとクールを見送った。

「ふぅ〜〜」

二人は同時に溜息をついた。

「取り敢えず、真北は休暇か?」
「動きが止まったんなら、あいつらに任せて、
 俺は、天地山に向かう」
「……予想しとったやろ。二人が戻ってきた時の
 あの笑顔で、全て悟ったわ」
「……ほっとけ」
「あぁ、ほっとく。後は、栄三や原くん、須藤たちがやるやろ」
「そうやな。あっちとそっちは、そいつらに任せとく」

あっちとは、やくざの世界で、そっちとは、それらに対応する任務の方。どっちの世界にも足を踏み入れ、両方の世界とは遠ざかった立場である真北にとっては、やることが無い状態。
まぁ、それも、

「本来なら、俺、謹慎中やもんなぁ。任務の方やけど」

いつも以上に動き、いつも以上にやり過ぎた結果、いつものように、任務の上司から、謹慎を言い渡されていた。

「それ、聞き飽きとる」

そう言って、橋は笑った。





翌朝。
真北は、キルとクールの二人と入れ替わるかのように、橋の事務室を出て、誰にも伝えずに、天地山へ向かった。
橋は、一応、まさに伝える。

『予想通りですね…ったく』

まさの一言に、橋は大笑い。

「すまんな」
『いえいえ。連絡ありがとうございました。お嬢様に伝えておきます』
「あ〜! 真子ちゃんには言うなと言っとったで」
『それでしたら、伝えた方が賢明ですね』
「ほんま、意地悪なやっちゃな〜原田は〜。真平ちゃんにも
 意地悪したんちゃうやろな」

橋の言葉に、まさは何も言えなくなる。

その通り……。

「ほな、真北のこと、よろしくな」
『怪我は?』
「珍しく、無い」
『……夏ですよ? 雪降るんちゃいますかね…』
「あり得る」
『では、これで。橋こそ、ちゃんと休めよ』
「ここんとこ暇や」
『あれ? 栄三が壁に埋めた連中は?』
「治療済み。その後は何事もあらへん」
『拍子抜けですね。腕鈍りませんか?』
「ほな、原田がやるか?」
『遠慮しまぁ〜す。では、これで!』
「はいよ〜。ほな、またな〜」

橋は受話器を置いた。

「お待たせ。今日の予定は……」

受話器を置いたと同時に、橋は、キルとクールに指示を出す。

 仕事好きですからね…院長も。

言いたい言葉を堪えて、キルは、橋の指示を聞いていた。




天地山に向かう電車に、真北が乗った頃…。

ところ戻って、天地山・支配人室。
窓を開け、山から吹き込む風のお陰で、この夏も、支配人室は、とても快適に過ごせる状態になっていた。その風を感じながら、まさは、デスクで仕事中。

ふと、窓に振り返った。

窓の外にあるバルコニーに一人の男が舞い降りていた。そして、まさに一礼し、慣れた感じで、支配人室へと入ってきた。

「真北さんは、電車を乗り換えましたよ」

ニッコリ微笑みながら、まさに伝えたのは、北守だった。

「時間通りに到着しそうだなぁ…」
「…そんなに嫌ですか? なんなら、電車停めておきましょうか?」
「やめとけ。他の乗客に大迷惑や」

機械関連ならお手の物である北守が口にすると、実行しそうで、ある意味恐怖を感じるまさだった。

「真北さんが、こっちに向かったということは、
 少し様子を見ることになったな…これは…」
「栄三ちゃんも同意見です。それと、八造君が
 真北さんを追いかけて、こっちに向かったそうですよ」
「……須藤が嘆いてるな、これは」
「須藤が睡眠を取ってた三時間で、全てまとめて、
 各組への意見と指示を書いた文書を作って、
 勢い余ったのか、水木関連まで、まとめあげて、
 須藤と水木に手渡したとの報告入りました」

北守が矢継ぎ早に伝えるものだから、まさは、笑いを堪えるように、顔を伏せた。

「……ライの組織と、竜次の方は?」
「阿山組の動きと、地山一家の動きを察したのか、
 鳴りをひそめてますね…」
「あの状況じゃ、そうするしかないよな……」

そう言いながら顔を上げた まさは、何かを深く考え込んでいるのか、眉間にしわが寄っていく。

「阿山組と真北さんの方の両方が動かないなら、
 私共で進めておきますが、どうされますか?」
「お願いしていいのか?」
「頭領の意志ですので、問題ありません」
「それなら、頼む」
「御意。では」

一礼した途端、姿を消した北守だった。

「……ったく、俺は、支配人なんだけどなぁ〜」

まさに対する北守の態度が敬う感じになるのは、まさの父が関係していた。
北守は、まさの父が健在だった頃、まさの父の弟子だった時があった。だからこそ、まさに対しての態度は、師匠の息子に対するものであり、その時の恩義が身に染みているからこそ、長年、支配人として生きている まさに対して、敬ってしまうらしい。

何度言っても、それだけは、治さない北守に、まさ自身、言うのも諦めていた。

実は、冬の間だけだが、北守は、天地山ホテルの監視員として、バイトをしている。真子達が来た冬にも、監視員として働いていたが、その後の状勢を知った途端、本来の仕事へ戻り、その際、地山一家に連絡を取っていた……ところを、まさに見つかり、叱責されてしまう。

その行動が、まさ自身が奥底に眠らせ、絶対に起こそうとしなかった魂に触れてしまった事が、まさの今の行動に現れ、真子の逆鱗に触れることにもなっていた。

未だ、真北や阿山組本部、そして、関西の連中、そして、密かに行動を起こし、阿山組を狙う者達には、気付かれていない、まさの行動。そして、ライの組織やキルたち、竜次や黒崎は、知らないことである。

動かざる者が、密かに行動を開始していること。
それは、真子が長年掛かって築き上げた世界が、悪化に向かっていることを物語っている。

何か、途轍もないものが、動き始めていることを、肌で感じた、まさだった。


まさは、窓の外を眺める。
今日も、真子達は、天地山のてっぺんで、自然を眺めていた。そして今。ゲレンデをゆっくり歩いて降りてきている。
まさが、バルコニーへ出た。そして、

「そろそろお昼ですよ!」

真子達に向かって、言った。

「時間ぴったり?」
「はいっ!」

真子の言葉に、まさは、元気に返事をした。

「おなかすいた〜!!」

光一と美玖が、声を揃える。

「どうして、歩いて降りてこられたんですか!!
 リフト、動いてますよ!!」
「歩きたかったんだもん! ね、光ちゃん、美玖!」
「うんっ!!」

子供達の笑顔、その笑顔で更に笑顔が輝く理子、その三人を見て、嬉しそうに笑う真子。そんな四人の姿が、太陽の光の影響も受けているのか、目映いくらいに輝いていた。

 守りますよ。守ってみせます。
 それが、本来の私の仕事ですから。
 そして、あなたの思いですから。
 そうでしょう? 慶造さん。

真子達の笑顔に応えるかのように、まさは微笑んでいた。
心の奥に目覚めた思いを、秘めたまま……。





真北が、天地山最寄り駅へ到着した。
電車から降りた乗客の中の一人が、真北の方を見つめていた。
くまはちも同じ電車に乗っていたらしい。

「……追いつくんか…? くまはちぃ」
「同じ電車だとは思いませんでしたが……どこに寄り道を?」
「聞かんでも判っとるやろが」
「新たな情報ですか?」
「そんなとこやけど、それについては、言わん」
「小島家の地下の者達が動くだけだと推測しておりますが…」
「その通りや」

くまはちと真北が、そんな話をしながら、改札口へとやって来る。

「あれ? 予定変更されたんですか?」

改札に立っていた秀一が、真北とくまはちの姿に気付き、驚いたように声を掛けてきた。

「まぁな」
「突然の訪問ですから、支配人の迎えは御座いませんし、
 送迎バスは、すでに終わりましたが…」
「徒歩で行くから心配せんでええ。ありがとな」
「お疲れ様です。お気を付けて」

秀一は、深々と頭を下げ、真北とくまはちを見送った。
突然、くまはちが、一人の男の襟首を掴み上げた。

「!!! 八造君〜急にどうしたんですかっ!」

襟首を掴み上げられたのは、北守だった。
天地山最寄り駅名物のお菓子を買おうと手を伸ばしているところで捕まってしまった。真北とくまはちの事には気付いていたが、その二人よりも、やっぱり名物お菓子の方が気になっていたらしい。

「そちらの情報も頂きたいのですが、難しいですか?」
「真子様ご滞在の期間中は、私共で行いますので、
 何もなさらないでください」

そう応えたことで、情報を入手することは難しいと悟る くまはちだった。

「ごゆっくり。では、失礼します」

右手に三箱、左手には四箱持って、北守は、駅舎を出るまで、一般市民を装い、駅舎を出た途端、姿を消した。

「くまはち…お前の目的は、そっちなのか?」
「真北さんの目的と同じだと思い、追いかけてきたのですが…、
 違っておりましたか…」
「俺、やること無いから、こっちに来ただけや」
「そうでしたか…」
「ったく、俺の行動を察知して、一気に仕上げること無いやろが。
 それに、帰宅も二人に頼んでるんやから、お前こそ休んどけば
 良かったやろが」
「八つ当たりは、もう、こりごりです」
「そっちは、同意見や」

そう言って、真北は大爆笑。それに釣られるかのように、くまはちも、笑っていた。

子供達の参観日前後で、真子達の世界の動きに非常に敏感になっている男が、真子の自宅に居る。
自宅に戻る度に、その男は必ず怒りを見せていた。
それに慣れているはずだが、耐えかねたのか、真北は橋の事務室へ、くまはちは、ビルの事務室で過ごす時間が増えていく。くまはちの行動が、いつも以上に激しくなったのも、その頃からだった。

「いつも、すまんなぁ〜」
「改めて言わなくても、存じ上げております」
「お納め頂きまして、ありがとうございます」

くまはちの口調で、どれだけ怒りを抑えているのかが解る真北は、くまはちを敬っていた。

「さぁてと。どうする?」

そう言いながらも、真北の目線は、駅のロータリーに移っている。
そこには……。

「お迎えに参りました」

まさの姿があった。



まさ運転の車は、天地山ホテルに向かって走っていた。ルームミラー越しに、まさは、後部座席を見る。くまはちが、珍しく眠っていた。

「やはり眠ってなかったんですね」

まさが静かに言った。

「まぁなぁ。俺は、橋んとこで熟睡したけどなぁ」
「ぺんこうとむかいんを巻き込みたくないのは解りますが、
 くまはちが躍起になって、あなたの職場まで
 手を出してしまうなら、少しくらいは……」
「まさ〜」

低い声で まさを呼び、ルームミラー越しに、まさを睨み上げる真北。その眼差しだけで、真北が言いたいことを理解している まさは、眼差しだけで応えていた。

「…俺でも、怒るわ」
「あなたよりも、お嬢様の方が怖かったです」
「反省してるなら、もう言わん」
「ありがとうございます。……で、どうしますか?」

車は、天地山ホテルの駐車場へと入っていく。

「真子ちゃんたちは?」
「レストランでお待ちですよ。恐らく、くまはちが来ることは
 ご存じないでしょうから」
「……橋のやろうぅぅぅぅ。内緒や言うたのになぁ」

真北が天地山に向かったことは、橋しか知らないことなのに、橋から まさへ、そして、まさから真子に伝わったことに、真北は、このとき、初めて知った。

「私が迎えに行ったことで、悟られたと思いましたが…。
 ……あなたにも、休暇が必要ですね。誰も彼もが
 動きすぎです」
「お前もな〜」

真北が言うと同時に、車を定位置に停め、エンジンを切ったまさ。

「まさぁ〜、あんたもな」

エンジンが切れたことで目を覚ました くまはちが、先程の真北の声よりも低く、怒りを抑えた感じで、まさを呼び、睨み付けた。

「ここで怒りは禁止やで」

くまはちの怒りを抑えるかのように、まさが言い、大きく息を吐く。

「……暫く、ここで待機です。お互い、納めてから
 お嬢様にお会いすることにしますよ」
「しょぉがねぇなぁ〜」

真北は、崩れた口調で応え、

「心得ました」

くまはちは、丁寧に応えた。

三人が車を降り、天地山ホテルのレストランへ向かったのは、エンジンを切ってから、五分も経っていなかった。
真子の為なら、切り替えが早い三人。
流石である。





天地山の頂上は、この日も緑輝く木々が、目下に広がっていた。空は清々しいほど晴れ渡り、鳥たちが楽しそうに飛び交っている。

天地山の頂上の、いつもの場所に、真北の姿があった。
景色を眺め、空を仰ぎ、そして、腰を下ろした途端、大の字に寝転がった。
草木が、風に揺れる音が、通り過ぎる。
真北は、ただ、空を眺めているだけだった。


くまはちは、美玖と光一の二人とゲレンデの下で、一緒に遊んでいた。真子と理子は、三人が遊ぶゲレンデが見えるホテルのロビーにあるソファに腰を掛けて、話し込んでいる。時々、子供達に笑顔で手を振っていた。

真北とくまはちが天地山に来てからは、まさ自身、支配人として仕事をしている。
夏に訪れるお客様には丁寧に対応し、冬季以外は従業員の数を減らしていることもある為、いつもは従業員が行う仕事も、まさは行っていた。
中腹にある休憩所は、夏季の間は閉鎖中。その休憩所より更に上には、夏季の間だけ入ることができる展望台があり、天地山の景色を眺めることができる。
そこは、真子達の場所とは別の方向にあり、真子の意見で出来た展望台でもあった。

もちろん、展望台には、ホテルのお客様が、素敵な景色を眺めながら、心を和ませている姿がある。
展望台を訪れている客のチェックも忘れていない支配人・まさだった。



雲が流れる。

静かな時間が、とても心地良いのか、いつの間にか、真北は眠っていた。

 おや、珍しい。

展望台の様子を伺った後、例の場所へと足を運び、真北の様子も伺おうとした まさは、真北が本当にくつろぎ、眠っていることに気付き、ゆっくりと、足を忍ばせながら、近づいていた。
本当に、眠っている……。
まさが来たことに気付かず、そして、目を覚まさない。

 う〜ん。何も無いと、橋に聞いていたんだけどなぁ。
 怪我じゃなく、体調……悪かったのかな……。

身についたなんとやら。ついつい、気にしてしまうらしい。
真北の体調を確認するが、真北は起きない。
本当に、本当に……真北は、熟睡していた。
まさは、真北の隣に腰を下ろし、目の前に広がる景色を眺める。

 あぁ…確かに、気持ちいいもんなぁ。
 今年は特に、心地良い風が吹いてる。

風を肌で味わうかのように、まさは、そっと目を瞑った。
風が、眠気を誘うようだ。
まさは、両手を後ろに突き、天を仰ぐ。

「てめぇは、これ以上、何もするなよな…まさぁ」
「おや、起きておられた」
「嫌でも目ぇ覚めるわ、あほ」
「……まだ、駄目ですか?」
「本部に忍び込んだ時より、ひどいな」
「はぁあああ〜〜〜。熟睡するあなたを起こすほどとは…」
「まぁ、お前が奥底に眠らせたものやし、しゃぁないか」

そう言いながら、体を起こす真北は、和かな表情で、まさを見つめた。

「誰も知らないはずですけどねぇ」

怪しげな笑みを浮かべながら、まさは真北に振り向く。

「おぉ、悪そうな表情や〜」
「ほっといてください」
「ほっとけへんわ」
「そういう、あなたこそ、何を企んでおられるんですか?
 お嬢様に会いに来たのは口実で、お嬢様よりも先に
 例の男達から情報を得るおつもりですか? 北守とは、
 駅でお逢いになったのではありませんか」
「くまはちが威嚇したけど、収獲ゼロや。暫くは、例の男達で
 動くから、のんびりしとけ〜言われただけやな」
「そうでしたか…」

まさが真北を迎えに行く車の中で、駅に向かって駆けていく北守に気付いた。まさの目線に振り返り、北守は会釈し、

 牽制しておきます。

目で伝えてきた。
北守の駅での行動は、予測できた。

二人に気付かれるように動き、そして、自分達の行動を伝える。

だからこそ、あの時、少し時間を遅らせて、真北の前に姿を見せた。


「ところで、まさぁ」
「はい」
「……ほんまに、好物なんやな、あのお菓子の…」
「売れ残りそうなら、全部買い上げてますからね」
「よぉ解らん人やな、北守は」
「未だに、理解できない人ですよ、北守さんは」

そう言って、まさは微笑んだ。

「昼は要らん〜。夕方まで、ここに居らせろ」

真北は再び寝転ぶ。

「かしこまりました。私は、仕事に戻ります」
「そうせぇ。そんで、心も戻せや」
「御心配、痛み入ります」

まさは、姿勢を正し、そして、真北に向かって、深々と頭を下げた。
その姿は、天地山ホテルの支配人。

「では、失礼します」

まさは、その場を去って行く。
まさの足音が遠ざかるのを耳にしながら、真北は目を瞑り、スヤスヤと、眠り始めた……。





真子達が帰る日。

天地山ホテルへ、あずまとたかしがやって来る。
真子達が荷物を持って、ロビーで待っていた。

「遅くなりました〜」

たかしが、真子達に気付き、声を掛けた。

「…………って、どうして、真北さんとくまはちさんが
 居るんですかっ!!」
「何も聞いてへんのか?」

真北の言葉に、たかしは細かく頷く。

「ほんまに、里帰りで、のんびりしとってんな」
「約束でしたから。…でも、大阪に戻れば、動きます」
「程々にしとけ。栄三が倒れる」
「栄三さんの代わりですから、ご安心を」

真北とたかしが話し込んでいる間、あずまは、美玖と光一に声を掛け、天地山での事を尋ねていた。嬉々として、あずまに話す美玖と光一。真子と理子は、二人の話を聞きながら、笑顔を見せていた。

「真子さんと理子さん、そして、美玖ちゃんと光一くんは、
 来たときと同じように、私の車でお送りします。
 真北さんたちは、真平にお願いしてますので…」

落ち着いた感じの服を身につけた真平が、少し遅れてロビーへやって来た。どうやら、真子達を見送りたいと買って出たらしい。

「では、行きますよ」
「はぁ〜い!」

美玖と光一が元気よく声を挙げた。


まさ運転の車に、真子達が乗り、真平運転の車に、真北達が乗り込んだ。
車は天地山ホテルから、離れていく。

「絵日記、たくさん書きましたね。残りの夏休みは
 何を書くんですか?」

まさが、美玖と光一に声を掛ける。

「ママのじっかで、ごあいさつしてから、いえにかえるの」
「そうでしたか」
「理子さんは、むかいんの実家に行かれるんですか?」
「うん。涼の分もしっかり、挨拶するねん」
「おや? それでしたら、美玖ちゃんと光一くん、一緒に
 過ごせないじゃありませんか?」
「よるのあいだだけだもん。だいじょうぶだよ」

光一が元気に応え、

「おひるは、いっしょにあそぶの」

美玖が嬉しそうに応えた。

「もしかして、落ち合う予定でしたか?」

ルームミラー越しに、まさは真子に尋ねた。
時期は、お盆。
お盆には、阿山家の墓前へ欠かさず挨拶に訪れている男・真北。その真北が本部へ向かうのは判っていたこと。そして、真子は、天地山から大阪へ帰る途中にある本部へ途中下車し、実家へ帰る。そうすると、真子達と真北は、本部でばったりと逢うことになる為、まさが尋ねたのだった。

「全く考えて無かった」
「誰が、送り迎えを??」

真子の実家とむかいんの実家は、離れており、車での移動手段しかない。歩いて移動するのは、少し大変なので、まさは、真北が来ても、真子達に逢う予定じゃなかったことに気づき、真子達の行動を気にしていた。

「実家に居るみんなも里帰りするから、人数少ないし、
 山中さんには頼めないから、榎木さんか緑川さんに
 お願いしようと思ってた」
「そうでしたか」

榎木と緑川の素性は、まさも知っているらしい。
真子の考えに気付いていたのは、もう一つの車に乗っている真北たちだった。


「南守視(みなみ)も里帰りしてたんか…」

真北が、たかしに尋ねる。

「まぁ、里帰りというより、動き回ってましたけどね」
「で、詳細は、これやねんな」

真北の手には、小さな物が握りしめられている。

「北守がまとめてますので、細かいですよ」
「栄三には?」
「送ってます。真北さんにもお渡しするように言われました」
「ほな、こっち方面は、真平ちゃんにお願いしてもええか」
「お任せください。まさ兄貴には、させませんので」
「そうしてくれ。あいつが動くと、俺の方が忙しくなる」

まさが動けば、必然と、真北本来の任務の方に影響する。

「俺の方が忙しくなると、くまはちが更に動いて、
 ここに来る前の二の舞になるからなぁ〜。
 なんで、あいつら、くまはちに頼むんや…。
 本来の立場は、敵やないか〜」
「特殊任務の方々には、関係ありませんから」
「俺に内緒で、何か結んでへんやろな」

特殊任務の規律にあることを指している。

「それは、真北さんと組長の間のことですので、
 それぞれの部下としての行動になります」
「それなら何も言わん」

真北は手に握りしめているものを、懐に入れた。

「あずまとたかしは、小島家に寄るんか?」
「そうですね。室長にも伝えなければいけませんし、
 隆栄さんのことも気になりますから」

たかしが応える。

「小島さんなら、いつもと変わらんけどなぁ」
「資料整理も兼ねてます」
「それは、南守視がやってるんちゃうん?」
「今は里帰り中ですから」
「どこまで飛んでる?」
「企業秘密です」
「さよか…」

そう言って、真北は、前を走る車に目をやった。
天地山最寄り駅駅前の駐車場に入っていく。

「真北さん」

くまはちが呼んだ。

「ん?」
「私は、大阪へ直行しますので、その資料は、私に…」
「あかん。栄三に聞けや」
「先に知りたいのですが…」
「大阪に着く前に動くつもりやろ」
「いけませんか?」
「あかん。お前も暫くは休め。そして、猪熊さんを
 停めておいてくれ。それと、剛一くんの行方も
 それとなく、調べてくれへんか?」
「……お気づきでしたか…」
「それもあって、動いてたことくらい、お見通しや」
「その資料でしたら、優雅の資料に含まれていたはずですよ」

真北とくまはちの会話に割り込むかのように、真平が言った。

「無かったで」
「…真子さんのみ…かもしれませんね」

真平の言葉に、くまはちの顔色が青ざめていく。

「く、くまはち、大丈夫や。真子ちゃん、いつも通りやったやろ」
「そうですが、もし、知られたら……」
「剛一くんは、海外出張ということにしとけ」

真北が強引に話を締める。
車はとっくに、駐車場に停まり、エンジンが切れていた。
くまはちは、真北の言葉に気を取り戻し、直ぐに本来の仕事に就く。
車から降り、真子達の方へと駆けていく。そして、真子達の荷物を手に取り、一緒に駅舎へ向かって歩いて行った。

「…で、どうされますか、真北さん。猪熊剛一も
 疑問に思っているから、行動しているんでしょう?」
「俺は写真でしか知らんのやけど、一緒に過ごしていた時期が
 あるし、剛一君の仕事でもあったらしいから、気になるのは
 解るんやけどな……。あずま、たかし、どうやねん」
「それに関しては、申し訳ありませんが、私共も、
 情報を掴んでいません。真平さんの方も難しいですよね」
「その通りや。でも、調べてみる価値はある」
「お願いします」

そう言って、真北達も車を降りて、真子達へと駆けていった。


まさが、真平に頼んだ理由は、ここにあった。
真子には絶対に知られてはいけない情報がある。
だからこそ、真平に運転を頼み、真平も知っている内容と東守たちが調べた内容をまとめ、真北とくまはちに伝える為だった。

結果だけを、真子に報告する。

今はまだ、経過の段階。
真子に伝える状態では無いし、真子には伝えない方が賢明。
だって、今は……。

 母ですから。

まさは、真子達が改札を通り、ホームへの階段を登っていくのを見送っていた。
電車が到着し、去っていく音を感じながら、真平と駐車場までやって来る。

「まさ兄貴は、暫くは動かないでください」
「あぁ、そうする。でも、報告だけは怠るなよ」
「御意」
「じゃぁ、よろしく」

そう言って、まさは、車に乗り、天地山ホテルへと戻っていく。
去っていく車に深々と頭を下げ見送る真平。顔を上げたその表情こそ、その世界で生きる者の狂気を醸し出していた。

静かに眠らせていた心が、目を醒まそうとしている………。



(2020.8.12 第一章 驚き 第十三話 UP)



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※この〜復活編は、任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』の極編の後の物語です。
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