任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界・復活編」

第一章 驚き
第十四話 仲直り。

髭のマスターが珈琲を煎れ、

「お待たせ致しました」

カウンターの客へ差し出す。客は、目の前に差し出された珈琲を何も言わずに一口飲んだ。そして、目の前のマスターを睨み付ける。

「いつ……仕入れるんや?」
「仕事がてら…かな」
「寄り道か?」
「予定に入れてるんやけどなぁ。
 ……で?」

客は、指を二つ出した。

「珈琲でも飲まな、やってられん」
「睡眠は大事やぞ〜」
「お前に言われたないわっ」

そう言って、客=ぺんこうは、珈琲を味わう様にゆっくりと飲み始める。

「今回もお土産や」

マスター=栄三は、紙袋をぺんこうへ差し出した。その中には、先程煎れた珈琲の豆の袋が二つと三通の封筒が入っていた。

「そんで、どうすんねん。お盆は行くんやろ?」
「まさか、天地山へ行ってるとは思わんかったわ」

ちょっぴり拗ねた感じで、ぺんこうが言うものだから、栄三は笑っていた。

「俺も気ぃ付かんかった。すまんな」
「ええって。お前も含め無事なら気にせん」
「おおきに」
「……で、まだ、閉めとくんか?」

ぺんこうは、珈琲を一口飲んで、栄三に尋ねる。

「豆の仕入れに時間かかっとるつーことで」

栄三は、珈琲豆を挽き始める。

「暫く、動かんのとちゃうんか?」

珈琲を飲み干し、カップをソーサーに置く ぺんこうは、ちらりと栄三を見た。

「実家に帰る予定や」

そう言いながら、新たに煎れた珈琲を、ぺんこうに差し出す栄三だった。

「一緒には行かんで」
「行き先一緒やのに?」
「なんで、お前と一緒に行かなあかんねん」
「そんなに邪険にすんなや。返してもらうで」

栄三の言葉で、ぺんこうは思わず、紙袋を栄三から遠ざけた。

「…で、これは経過なんか?」

ぺんこうは、紙袋の中から封筒を三つ取り出し、「1」と書かれた封筒の中身を出し、目を通す。

「停滞中が、それや。どうや?」
「そりゃ、無理やろな。これは…」

ぺんこうは、ペンを手に取り、そのペンを親指に沿うように くるり回した後、書類に何かを書き始める。
それは、慣れた感じだった。

「なるほど。こっちの世界の人間には、難しい案件やわ。
 八っちゃんと須藤も難儀しとったやつやで」
「……ほな、くまはちからも来る予定やったんか?」
「いいや、八っちゃんは躍起になっとったから、言わんやろ」
「勢い余って、あの人を追いかけて行ったってとこか」
「ご名答。…おっ、サンキュー助かった。残りは経過と
 組長には、まだ報告してへん結果や。帰阪してからの予定。
 で、いつ帰るん? 翔さんや航さんは、もう帰ったんやろ?」
「俺に仕事押しつけてな…」

苦虫を潰したかのような言い方をするぺんこうだったが、

「落ち着かへんから、請け負っただけやろがっ…!!!!」

栄三の言葉を聞くやいなや、回し蹴りを見舞っていた。

「おっかねぇな〜ほんまに」

ぺんこうの回し蹴りを華麗に避ける栄三に、ぺんこうは、舌打ちをし、

「明日帰る」
「ほな、途中で逢っても、嫌な顔すんなよ〜」
「うるさいっ」



………というやり取りがあったのが、昨夕のこと。

すんごぉ〜く嫌な顔をして、窓に顔を向けたのは、ぺんこうだった。

ここは、東京へ向かう新幹線の中。
三人掛けの席の窓際に座り、ゆっくりとくつろぎ始めたぺんこうは、出発間際に駆け込んで来て、隣の二つの席にそれぞれ座った二人の男に気付き、振り向いた。

「やっほぉ〜ん!」
「お待たせ〜」

そう言って、ぺんこうに声を掛けてきたのは、健と栄三だった。
ぺんこうが新幹線の席を予約した情報を仕入れ、速攻で、その隣の二つを予約した健。
まさか新幹線から一緒になるとは思ってもいなかったのか、ぺんこうは席を替わろうと立ち上がったものの、通路に出られないように、健と栄三が立ちはだかっているものだから、

「ぬぐぐぐぐ……」
「諦めろ」

栄三に言われ、席に座り、すんごぉ〜く嫌な顔をしてから、窓に顔を向けたのだった。

「いや〜まさか、隣になるとは思わなかったよ」

そう言いながら、栄三が、ぺんこうの隣の席に座り、くつろぎ始めた。

「…この新幹線やと、駅で逢うけどええんか?」
「そのつもりや」
「暴れんなよ」
「それは、わからんな」
「暴れんようにと、渡したやろが」
「余計に暴れたくなっただけや」
「停めへんし、組長の怒りは抑えられへんで。
 夫婦喧嘩は、絶対にすんなよ。美玖ちゃんが泣く」
「………怒りは道場で、くまはちに向けることにする」
「そうしとけ」

栄三は、姿勢を崩し、

「五分前に起こしてや〜」

そう言って、直ぐに眠り始めた。

「…健」
「はいな」
「眠ってへんのか?」
「俺は眠ったけど、兄貴、ずっと起きとった」
「進展あったんか?」
「例の男達の動きをチェックして、その後は、ぺんこうに
 教えてもらった例のやつを仕上げるのに、朝まで掛かってた」
「細かくやりすぎたか?」
「ちょうどええ量やったで。ありがと」
「……真子を哀しませるようなことだけは、すんなよ」

眠る栄三に優しく語りかけ、ぺんこうは、ブラインドを下ろした。





「五分前や」

怒りのオーラを出しながら、栄三と健に声を掛ける ぺんこう。

「…あん?? ありがと」

ぺんこうの怒りのオーラに反応しつつ、すぐに起きた栄三は、隣に座る健の肩を軽く叩いた。

「…お前まで寝るなよ…ったく」
「すまん〜。安心してもた」
「ぺんこうに安堵感を覚えてどうするねん」
「怒りは、道場でやるんなら、ええやんか」
「この面見てもか?」

健は、ぺんこうをちらりと見る。

「ほんまごめん」

健が直ぐに謝る程、ぺんこうの表情は、もう、表現しづらいほどのものだったらしい。

「……悪いのは、あの人やけどな」

そう呟いて、ぺんこうは、身の回りの荷物を手に取り、降りる準備を始めた。



新幹線を降りた ぺんこうたちは、他の乗客と同じようにホームを降りていく。そして、真子達が降り立つホームへと上がっていった。

「連絡しとったんか?」
「くまはちに連絡した」
「真北さんちゃうんや」
「その方が正確やし、兄さんやと教えてくれへんの
 判っとるやろ」
「俺が連絡しても良かったんやけどなぁ……あっ、
 まさか、その怒りの表情……」
「その通りやっ」

ぺんこうの回し蹴りが、目にも留まらぬ速さで、栄三の頭上を過ぎていった。

「ほんま、おっかねぇな〜」

そんなやり取りをしている間に、真子達が乗る新幹線がホームへと滑り込んできた。
定位置に停まり、ドアが開く。そして、乗客が降りてきた。
その中に……。

「あっ! 真子さぁ〜〜ん!!」

真っ先に、真子の姿を見つけた健は、真子に手を振り、いつものように、おしりをフリフリ…。

「健〜!」

真子も、嬉しそうに手を振り返してきた。





真子達は、東京へ向かう新幹線に乗り、子供達とあずまと楽しいことで、時間を潰していた。真北が、真子達の楽しい雰囲気を味わうかのように、気を緩めている時だった。
胸の携帯電話が震え、手に取り、画面を確認した。

「ありゃ? 芯が向かってる」

真北の声は、くまはちとたかしにしか聞こえていない。

「今年は、帰省せん言うてたのになぁ。くまはちの行動、
 気付かれてるで」
「誰が伝えたかは、なんとなく判りますが……」
「ほな、本部じゃ道場やな。気を付けろよ、くまはち。
 いつも以上の怒りと動きになるはずや」
「かしこまりました。手加減しません」

くまはちが、力強く応えるものだから、

「いや、いつものように、手加減したってくれ。俺が困る」
「それには、申し訳御座いませんが、応えられません」
「……こっちは、いつ到着か…と聞いてきてるんだが、
 どうする? てか、西守、栄三も戻るんやったら、
 足、どうするねん。伝えてるんか?」
「私と東守は、いつもの通りで大丈夫ですけど、
 お二人には岸さんが迎えに来られます」
「そうか〜」

軽い口調で返事をし、真北は、悪戯っ子の表情をして、ぺんこうに返信をする。その表情を見ただけで、解る。

 あ〜、絶対に、教えないなぁ〜。

真北の表情を見ていた くまはちとたかしは、フッと笑みを浮かべた。
くまはちの携帯が震えた。手に取り、そして、画面を確認する。

「お応えしてもよろしいでしょうか?」

くまはちは、真北に画面を見せた。

 席、どこや?

短いが、それだけで解る。
すでに、乗った新幹線は把握していると……。

「かまへんで」

素っ気なく応えて、真北は、真子達の席へと移動し、

「私も混ぜてくださぁい」
「まきたん、おはなし、おわった?」

光一が尋ねた。


真子達親子四人は、席を向かい合わせにして座り、周りに迷惑を掛けない程度に話したり、遊んだり、色々なことをして時間を過ごしていた。真北が、時々、振り返っていることが気になったのか、光一が、真北を誘ったものの、

お話があるから。

と、真北に断られ、その時の寂しげな表情が気になった あずまが真北の代わりに真子達のところへ行った。
その経緯があるものだから、光一が、真北の姿を見た途端、優しく尋ねていた。


「終わりましたよ〜。で、何を話してたのかな?」
「あのね、あのね!」

光一が嬉々として、真北に話し始めた。


真北の様子を伺っていた くまはちとたかしは、静かに話し始めた。

「お伝えするんですか?」
「あぁ。組長には内緒だからなぁ」

くまはちは、ぺんこうに返信をした。

「そういや、お盆も仕事だと、仰ってましたね」
「俺のせいやな」

溜息交じりに言う くまはちだった。
ふと、画面を見ると、ぺんこうからの返信が来ていた。

 兄さんを引き留めてくれよ。
 真子の機嫌は?
 美玖と光一君は、楽しんでるか?
 理子ちゃんに迷惑掛けてへんかったかなぁ。
 本部に着いたら、手合わせよろしく!
 熟睡しとる隣の二人、殴ってええか?
 あかん! 蹴りの方がええわ。
 あぁ〜寝顔見るだけでも、腹立つわっ。

留まることを知らないかのように送られてくるショートメッセージ。最後には添付ファイルが送られてきた。添付ファイルを開ける くまはちは、思わず笑い出す。

「二人と一緒とは珍しいな」
「まさか、ご一緒とは、私も知らなかったですよ!!
 ぺんこうさん、お怒りじゃありませんか! こりゃ、
 道場での手加減必要ありませんね」

くまはちの携帯画面を覗き込みながら、たかしも笑い出す。

「ぺんこうに安堵感覚えるとは、二人大丈夫か?」
「……心配ですね……」
「寝顔、初めて見るかもしれへん」

くまはちは、直ぐに、添付された写真を保存した。

「撮影されても起きないとはなぁ…」

笑いが止まらない くまはちだった。

「私にもください」

たかしに言われ、くまはちは、転送する。受け取った写真を確認し、嬉しそうに見つめながら、たかしは呟いた。

「似てないと思ったけど、寝顔、そっくりですね。
 やはり、兄弟やわ」
「ほんまやな」

和かな表情で、くまはちも呟いた。


新幹線は、東京に近づいていた。



「忘れ物ないか〜!」
「ないぃ〜!」
「ほな、降りるで〜!」
「はいっ!」

理子の言葉に、元気よく応える光一と美玖。

「ほんま、元気やわ…」

理子の元気さに、真子は、とうとうついて行けずに、遂に根を上げた。

「元気だけが、うちのとりえやもん」
「その元気を、いつももらってます。ありがと」
「うちと光一は、緑川さんの車かな? 真子と美玖ちゃんには、
 北野さんが来られるん?」
「二人増えたから、山中さんかもしれへん。
 真北さん、連絡したん?」
「到着時刻しか連絡してませんから、山中かもしれませんね」

 って、ぺんこうの事は言わないんですか…。

真北の口ぶりを耳にして、くまはちは、言いたい言葉をグッと堪えた。
新幹線が、駅のホームへ滑り込む。停車し、ドアが開くと、乗客達が途切れないようにと降りていく。真子達は、一番最後に降りていった。
ホームに降りた途端、真子は、何かを感じ取る。

あれ?? 芯……???

真子は、自分の後ろに居る真北に振り向いた。真北は、ちょっぴり不機嫌なオーラを出していた。

「真北さん、まだ怒ってるん?」
「そうですよ」
「ったく…」

真子が膨れっ面になった時だった。

「真子さぁ〜〜ん!!」

健の叫び声が聞こえてきた。健は、真子に手を振り、いつものように、おしりをフリフリ…。

「健〜!」

真子も、嬉しそうに手を振り返した途端、健のおしりに、ぺんこうと栄三の蹴りが同時に入っていた。

「あいつらはぁぁああぁ〜〜〜っ!!!」

真北のこめかみが、ピクピクと動き、ツカツカと健に向かって歩いて行き……。

ガッツゥゥゥ〜〜〜〜ン!!!





改札近くで待っていた山中、緑川、そして、岸の三人は、大きく溜息を吐いた。

「ったく、ここまで感じる程の拳って、あの人は怒りを
 発散してないな」

山中が、呆れたように言った。

「任務の方は謹慎中ですし、栄三さんが動きを抑えてましたし、
 自宅では、ぺんこう先生の怒りもありましたから、無理でしょうね」

何もかも知っている岸が、そっと応える。

「例の二人は、走っていくんか?」
「乗ってもらいますよ。伝えることもありますので」
「新たな情報か?」
「そんなところです」
「……ピリピリしてるなぁ。…ったく、子供達の前で…
 しょうがねぇなぁ。ほっとくか」

改札を出てきた真子達に気付き、一礼する山中達。

「ただいま〜」

真子が言うと、山中の表情が綻んだ。

「お疲れ様でした」
「山中さん、緑川さん、お世話になります」
「おせわになります」

理子を真似て、子供達も挨拶をする。

「理子さんと光一くんは、このまま向井家へ直行ですか?」
「そのつもりです。…もしかして…」
「どちらになるか判断できなかったので、お聞きしてからと
 思っておりました」
「ありがとうございます」
「では、行きますよ」

山中は、真子達の荷物を手に取り、真子達を誘導するかのように、歩いて行く。

「あ、あの…」

真子と理子、そして、美玖と光一しか見てないかのような山中の素振りに気付き、理子は声を掛けるが、

「放っておいてかまいませんよ。あんな、ピリピリと
 一触即発な男達を迎えにきてませんので」
「なるほど…」

もちろん、真子も、ホームでのやり取りを怒っていた。更には、来る予定じゃなかった、ぺんこうの姿にも、何故か怒っている。栄三と健については、予想はしていたのか、怒ってはいなかった。

「岸さん、あずまさんとたかしさんも一緒にお願いしますね」

栄三と健の方を見ていた岸の側を通り過ぎるとき、真子は、それとなく声を掛けていた。

「お二人には怒っておられないんですね…」

岸の言葉に、真子はニッコリ微笑んだ。

「真子さん、三人は…」
「真北さんが、何とかするので、気にしないでくださいね」
「かしこまりました。お気を付けて」
「岸さんも、気を付けてね」
「ありがとうございます」

真子は、山中を追いかけるように歩いて行く。
岸は、栄三と健に一礼し、

「お三方は、どうされますか?」

真北とぺんこう、そして、くまはちに声を掛けた。

「任務の車を使うから、ええわ。それより、東守と西守の二人を、
 乗せたってや」

真北が言った。

「真子さんから言われましたので…」
「それならええわ。……芯は、山中の車やな。
 俺とくまはちは、緑川くんの車になったな」

少し先を歩く真子達を見つめていた真北が、振り返って足を止めた緑川の仕草に気づき、くまはちとぺんこうに伝えた。

「理子ちゃんには、世話になりっぱなしや。お礼しとこぉっと。
 栄三、健、ほなな〜」
「お気を付けて〜」

栄三は、小走りになった真北達を見送り、

「理子ちゃんからの説教ありそうやな」

そっと呟いた。

「二人一緒ということは、まさか…なのか?」

真子達の姿が見えなくなった途端、栄三の雰囲気が変わり、その世界で生きる者の表情になった。

「はい。休暇は無理になりました」
「組長が本部に戻ることが知れたのか…。誰も知らんはずやのに、
 どこから、漏れるんや…。…地山一家…調べたら出そうやな。
 いいや……暫くは、泳がせておく方が、情報を得やすいかな」
「そうですね。取り敢えず、怪しそうな人物は、チェックしております」
「目星は付く。…さてとっ」

栄三は急に切り替え、いつも見せるいい加減な雰囲気を醸し出した。

「親子プラス二人になったけど、明日の予定はどうなんや?」
「笑心寺には、明後日の予定なので、明日は、本部で
 ゆっくりされると思います。理子ちゃんも向井家で
 お過ごしになるでしょうね」

何故か、真子や理子のスケジュールまで口にする岸に、栄三達は驚いていた。

「岸……何も、そこまで…」
「先程、山中さんからお聞きしただけですっ!!」

ちょっぴり膨れっ面になる岸だった。



栄三が心配したように、真北とくまはちは、緑川運転の車の中で、理子に説教されていた。

「ほんま、何かあると、直ぐに拳と蹴りって、
 だから、真子に怒られるんやで!」
「反省します」
「帰ったら、ちゃんと、真子に謝るんやで」
「はい」
「……ママ、こわい……」
「怒ってます」

光一の一言に、力強く応える理子だった。

「反省してます…」

シュンと肩を落としてる、真北だった。


一方、山中の車の中では……。

「真子さんも、許してあげてください。真北の行動も
 健の真子さんへ対する思いも、昔っからじゃありませんか」
「あの場所だと目立つって、何度も言ってるのに、
 健のやつは、毎度毎度…」

いつまでも、膨れっ面の真子の代わりに、ぺんこうが言った。

「山本も、抑えるべきだろう? それも、美玖ちゃんの前で…」
「そこは反省してます」
「パパ、けんちゃんに、あやまってね」
「はい…すみませんでした」
「素直やね」

真子が、やっと口を開く。

「…真子も怒ってるんだろ?」
「怒ってました」

過去形だった。

「ごめんって、真子…。でも、仕方ないやろぉ。
 兄さんも、くまはちも、何も伝えてくれへんから
 真子に負担掛けてると思ってたし…」

そう言いながら、隣に座る真子の頭を、ぺんこうは、自分の腕の中に、優しく包み込んだ。

「真子が無茶しそうだったから、少しでも
 手伝いたい気持ちが勝って、兄さんにも
 くまはちにも、八つ当たりしてただけや…」
「芯には、仕事があるやんか」
「両方こなせますよ」
「だからって、珈琲豆と一緒に、もらわなくてもええやんかぁ」
「なんで、知ってるんですか…」
「健から、聞いたもん」
「拳だけじゃ足らんわ…」
「…これ以上やったら、ほんまに怒るで…」
「すみませんでした…」

 えらい素直やなぁ〜ぺんこうは。
 こりゃ、一波乱ありそうや…。

後部座席で相手に気遣いまくっている二人をルームミラー越しに見つめながら、山中は、考え込んでいた。

「ねぇ、やまなかしゃん」

なぜか、助手席に座っている美玖が、山中に声を掛けた。

「はい」
「しんごう、あおだよ」
「ありがとうございます」

山中は、アクセルを踏んだ。

「ふたり、らぶらぶやね」
「そうですね。それは、昔っからですよ。あっ、もしかして、
 美玖ちゃん、気を利かせたんですか?」

山中の言葉に、美玖は、コクッと頷いた。

「栄三からですか?」
「うん。ホームでいわれたの。そのほうが、おちつくって」
「ったく、栄三は、いつもいつもぉ〜」

幼子に対して、大人な世界のお話に近いことを、栄三が教えてしまうのは、真子が幼かった頃からでもあり、それが、今でも続いていることに、山中は、頭を抱えてしまった。

「ねぇねぇ、やまなかしゃん」
「はい」
「あっ、やまなかさん」

美玖は、言い直す。

「おうちのみんなは、ごじっかにかえってるの?」
「そうですね、実家のある者は、帰ってますよ」
「やまなかさんの、ごじっかは?」
「真子さんのお父さんの頃に、阿山家に来ましたので、
 実家は、真子さんの家と一緒ですよ」
「やまなかさんは、みくのしんせきのおじさんだね!」
「ん???? おじさん…??」
「あぁ〜それは、真平さんとこで、親族の話になって、
 説明してたら、複雑に解釈してしまって…なおせなくなった…」

山中と美玖の話を聞いていた真子が、話に加わった。

「どんな説明したんですか…」

美玖の言葉から、なんとなく想像できたのか、ぺんこうは呆れながらも、真子に言う。

「だって、ママのおうちといっしょだから、
 えっと……ママのパパの、おにいさんだから、
 しんせきのおじさん!」

やはり、どことなく勘違いしている。

「あっ、その、私は、真子さんのお父上より歳は下なので、
 お兄さんには、なりません。大変お世話になった方ですので、
 大切な方には、間違い無いのですが…。そうですね、
 私の父と母が亡くなった後、行くところが無いので、
 真子さんの実家に訪ねたところ、実家に住むように、
 奨められたので、そのままお世話になったんですよ」
「山中さん…それだと……」
「あっ………すみませんでした……」

山中が説明すればするほど、美玖は、頭が混乱したのか、眉間にしわを寄せていた。

「美玖。山中さんは、ママの親戚じゃないけど、
 ママにとって、凄く大切な人だよ。それに…
 ママの実家を大切に守ってくれてるの」
「ママ、いっぱい、じっかがあるんだね! おおさかでしょ、
 まささんところでしょ、そして、いまからかえるところ!」
「そう言われると…そうだね」

 組長…。私の事を…それほどまで、大切に
 思ってくださっていたとは…。

真子の思いを改めて知った山中は、感極まって、目が潤んでいた。

「やまなかさん」
「はい」
「ありがと!」

美玖は、運転席の山中を見上げ、微笑んでいた。

「これからも、守っていきますよ。美玖ちゃんも帰る場所ですからね」

山中が、美玖に微笑んでいた。

 ありゃ? 子供苦手って兄さんから聞いてたんだけどなぁ。

山中の変化に、ぺんこうは、驚いていた。

「……向こうは、納まったのかなぁ」

突然、山中が気にし始める、緑川運転の車の方。

「理子の説教に、反省しまくってると思うよ」
「理子さん、益々強くなってませんか? 先程の駅での事は、
 私でも、驚きましたよ…」
「母になってから、怖い物知らずやわ」
「そのような印象、無かったんですけどね」
「…山中さん、理子ちゃんは、私に対しても怒りますよ。
 高校生の頃から…」
「それは、山本と真北のやり取りをみてたからじゃないのか?」
「そっちは、楽しんでた方。でもまぁ、第三者という感じかな。
 違う目線から見てくれてたから、ほんと、感謝してる」
「うわ〜、今頃、理子、くしゃみしてんちゃうか〜」
「私たちが言ったことは、内緒ですよ。益々怒られそうですから」

いつになく、山中が、明るい声で話していることに、真子達は、後から気付くのだった。


真子達が噂をしている理子は、もちろんのこと…。


「ハックションっ!!!」

くしゃみをしていた。

「真子が噂してるなぁ〜これは〜」
「ママ、だいじょうぶ?」
「大丈夫。ほな、緑川さん。明日は午前九時にお願いします」
「本当に、料亭でよろしいのでしょうか?」
「笹崎さんと女将さんにもご挨拶しとかんと」
「ありがとうございます!! おやっさん、喜びます」
「その後、あの廊下通って行ってええん? 真北のおっちゃん」
「かまいませんよ」

真北は短く応えた。

「では、午前九時にお迎えにまいります。今日はこれにて、
 失礼します」
「気を付けてね〜」

理子と光一は、向井家の近くで車から降り、そして、去っていく車を見送った。

「さてと。おじいちゃんとおばあちゃんに逢いに行くで〜!」
「みすずおばあちゃん、そこにいるよ」
「えっ!? あっ!!!」
「いらっしゃい、理子ちゃん、光一くん」

美凉が、二人に声を掛けてきた。

「もぉ、お義母さん、お帰り〜やんか〜」
「そうだった。お帰り〜! 待ってたよ〜!」

美凉は、光一を抱きかかえた。

「ただいま! みすずおばあちゃん」

ほんわか、明るい雰囲気が、そこに漂っていた。


理子達のほんわか明るい雰囲気とは正反対に、目一杯、険悪なオーラが漂っているのは…。


理子達を見送った後、阿山組本部への帰路に着いた緑川運転の車。
理子達が降りた後、真北の怒りのオーラが、突然、発せられた。

「…で、理子ちゃんに怒られたからと、理子ちゃんの意見を
 主張して、なんで、芯を山中の車に乗せたんや?」

どうやら、真北の怒りは、ぺんこうが、山中の車に、真子と一緒に乗ったことに対してのものだったらしい。

「親子水入らずで…ということでしたので、だから……その…
 私に怒らないでくださいっ!! 山中さんも賛成だったんですからっ!」
「そりゃ〜、ホームでの健に見舞った拳について怒ったのは、
 真子ちゃんだけでなく、山中もだろうけど、だからって、
 引き離すこと無いやろが」
「お二人の喧嘩腰から、くまはちさんが停めるまで想定したら
 それこそ、私が運転できませんし、…人数的に振り分けるとしたら、
 そうしかありませんでしたよっ!」
「それなら、俺も、山中の車やろが! くまはちは、走って行くやろ」
「そのつもりでしたが…」

くまはちが、そっと応えた。

「それは、組長が許さないでしょう? 天地山からご一緒なんですから」
「あぁ〜もぉええっ! 俺も道場行くっ。くまはち、先に相手せぇ」
「お断りします」

くまはち、即答……。




阿山組組本部。…というより、真子の実家。
真子と美玖が、池のある庭でくつろいでいる頃、道場では、真北と くまはち、そして、ぺんこうが、暴れていた……。

ぺんこうが怒りを静めようと、くまはちを誘い、挑んだ矢先、真北も加わり、くまはちに攻撃する。
くまはちは、ぺんこうの蹴りと真北の拳をいとも簡単に避けたり、受け止めたり。
しまいには、くまはちが、二人の目にも留まらぬ速さで、拳と蹴りを見舞っていく。

「ちょっ! くまはち、待てぃ!! やりすぎやっ!」
「軽い方です」

真北の言葉を耳にしても、くまはちの勢いは止まらない。
しかし、相手は、ぺんこうと真北。くまはちが差し出す拳や蹴りを簡単に避ける。
ぺんこうと真北は、くまはちの攻撃を避けながら、顔を見合わせ、目で合図する。

バシシシシッ〜〜〜〜!!!!

道場に響き渡る程の音がする。

ぺんこうの蹴りを右手で、真北の拳を左手で受け止めた くまはち。
その時の音だった。

「いってぇぇっ!!!!」

三人は同時に声を張り上げ、ぺんこうは臑をさすりながらしゃがみ込み、真北は拳を抱きかかえ、くまはちは両手を振りながら、痛がっていた。



一暴れした くまはちとぺんこうは、道場を掃除し始める。

「それで?」

真北は、壁にもたれながら座り込み、二人の動きを見ながら、ぺんこうと話していた。

「恐らく、今頃、私の意見を参考に地下の人達と
 話し合いしてるでしょうね」
「ったく、要らんことすんな。俺、益々暇やんけ」
「ったく…は、私の方ですよ。兄さん、いつになったら
 大人しくするんですかっ」
「静かにしとった奴らが動いてるんやから、
 大人しくできるわけないやろが」
「まさか、勢い余って、任務の方にも手を出してたとは、
 驚いたで、くまはち。要らん気ぃつかうなっ! 余計に
 苛立つだけや」

兄弟水入らずの時間を与えたい…という、くまはちの気遣いでもあったのだが、その気遣いは ぺんこうに気付かれていた。
それもそのはず。

夫婦喧嘩中だった……。



真子は、天地山に行くという栄三とのやり取りまで、ずっと組の仕事をしていた。夜には家に帰ってきて美玖と一緒に寝ていたものの、平日ということもあり、ぺんこうとは、時間が合わず、挨拶程度で、日によっては、顔を合わせることもなかった。

それだけ、真子が生きる世界では、厄介な状態になっている。
ぺんこうは、気がかりだった。
だが、自分は、一般市民。
真子達の世界に踏み込むわけにはいかないし、踏み込んではいけない。気が気でない日々の中、真北が謹慎を受けたことを知る。

それほど、事態は悪化している。

ぺんこうは、心配の度が過ぎて、ふてくされて帰ってきた真北に、怒りをぶつけてしまう。少し遅れて帰ってきた くまはちに八つ当たりし、くまはちと一緒に帰ってきた真子が停めることになる。
そして、なぜか、真子と喧嘩腰になり、夫婦喧嘩に発展。
真子の怒りが頂点に達し、ぺんこうに拳と蹴りを見舞い、そのまま、家を出て、ビルに泊まり込む。

これは、時々行われる真子と ぺんこうの、夫婦喧嘩と同じだったが、今回ばかりは、真子の頑固が上回ってしまう。

くまはちが、家に帰ることを促しても、真北が連絡を入れても、むかいんがそれとなく美玖の事を話しても、真子は頑として、帰宅…いいや、ぺんこうに逢おうとしなかった。
真北が帰宅する度、ぺんこうの怒りの矛先が来る。
その様子をむかいんから聞いても、真子は帰宅しない。

そんな中でも、真子達の世界の状況は、日に日に悪化していく。
悪化する要因の一つが、真子=阿山組五代目が、AYビルから一歩も出ない…という情報だったことに気付いた栄三が、ビルへと足を運び、真子に伝え、帰宅を促したものの、栄三の口調に常に不満を持っている くまはちの怒りが頂点に達してしまい、栄三と くまはちが、やり合ってしまった。

このままでは、悪化の方向へと向かってしまう事に気付いた真子は、ふと閃いた『雲隠れ』を提案した……。



「で、真子ちゃんとは仲直りしたんか?」
「気を遣っていただいたお陰で、仲直りしましたよ」
「なのに、怒りは…」
「……あなたとくまはちへの怒りなんですけどねぇ」
「まだ、あかんか?」

ぺんこうの怒りは、道場での手合わせだけでは納まっていないらしい。

「あとは、親子水入らずの時間と、理子ちゃんと光一くんとの
 明日の時間で納めますよ」
「そうしとけ」
「くまはちは、実家に戻るんだろ?」

ぺんこうが尋ねる。

「あぁ。真北さんは、任務の方ですか?」

掃除を終えた くまはちは、掃除道具をしまいながら真北に尋ねた。

「謹慎は今日までやし、範囲広げとく」
「その必要は無いと思いますが…」
「謹慎の間に見えたものもあるからな」

そう言いながら立ち上がり、口を尖らせ、ポケットに手を突っ込みながら、道場を出て行った。その足で、池の庭に居る真子と美玖のところまで行ったのか、真子達の声が聞こえてきた。

「……栄三からの情報にあったけど、剛一さん、
 何を探ってるんや?」
「親父と兄貴だけでの動きや。俺には回ってこない」
「そうか…。厄介な事に巻き込まれてへんよな」
「大丈夫や」

力強く応えたものの、くまはちは、気がかりでもあった。
あの日以来、剛一の姿を見ていなかった。



くまはちとぺんこうは道場を後にし、池の庭までやってくる。

「パパ! こいがふえてるよ!」
「………栄三のやつ、また買ってきたんか……」
「いや、親父と小島のおじさんやな」
「これ以上、増やしてどうするねん…てか、
 池、大きくなってへんか?」

ぺんこうが項垂れた。
よく見ると、池は二回りほど大きくなっている。そこには、たくさんの鯉が、優雅に泳いでいた。




小島家の地下。
本来なら、地下は閉鎖し、その昔、そこで働いていた者達は、表へ出ているはずなのだが、今でも極秘に調べる時が多いため、閉鎖することなく、利用していた。

この二ヶ月ほど、地下から出ていない和輝(かずき。小島家の地下で働く一人)が、一仕事終えたのか、背伸びをした。

「和輝さん、外の空気でも吸ってきてくださいね」

パソコン画面を見ながら資料を打ち込んでいる栄三が、和輝の動きに気付き、声を掛けた。

「お言葉に甘えて、行ってきまぁす」

和輝は地下室を出て行った。

「栄三、後は俺がやるで、寝ろ」

栄三と同じように、パソコン画面を見つめている隆栄が声を掛ける。
流石、父親。息子が睡眠不足であることに気が付いていた。

「俺もやる方が早いやろ?」
「まぁ、そうやけど、新しい情報もらったし、
 二人を飛ばしてること、五代目に知られたら
 怒られるん、健やで」
「なんで、俺なんや」

健は、パソコンで情報収集中。

「五代目は、栄三には、怒らへんやん」
「俺にも怒らへんもん」

健はリターンキーを押し、

「よっしゃ〜終わった〜」

そう言って両手を掲げた。そして、パソコンとは別の画面に目をやった。その画面には、赤い点滅が映し出されている。

「……親父、誰が広げたん?」

健が隆栄に突然尋ねた。

「何を?」

何を広げたのか見当も付かない隆栄は、健に振り返る。
健の表情を見て、何のことかをすぐに悟った。

「猪熊や。そうじゃないと、ばれそうやし」
「広げた方が、ばれそうやん」
「俺も、そう思った。まぁ、鯉も増えたし、大きくなったから
 あのままの大きさやと、窮屈そうや〜言うて、猪熊がな、
 これを機に、広げたんや」
「そんな時間、あったんや…」
「元々広げる計画立ててたし、そのついでもあったかな」
「美玖ちゃん、はしゃいでる」
「こりゃ、美玖ちゃんにも、プレゼントせなあかんなぁ、栄三」

ちらりと栄三に目をやる隆栄。
二人の会話は聞こえているにもかかわらず、話に加わろうとしない栄三が珍しかったのか、隆栄は立ち上がり、栄三の後ろから、画面を覗き込んだ。

「……栄三、細かすぎ」
「しゃぁないやん。暴れ好き教師のご教示なんやし、
 俺の予想以上に、ええ内容やってんもん。
 参考になってる…」

栄三が打ち込み終了した資料に目を通す隆栄は、

「オールマイティやな、ぺんこう先生は……ん??
 あっ! 真北家の血筋は、当たり前か」

そこに書き込まれていた内容を見て、感心するばかりだった。

「……で、健。あかん、言うたよな」

栄三が低い声で言った。

「気になるやん」
「それでも、あかん。日常生活は禁止やろ?」

健に手を差し出す栄三は、パソコン画面から健へ目線を移した。
その眼差しは、鋭い。
健は、膨れっ面になりながら、耳からイヤフォンを外し、電源を切り、デスクの上に置いた。

「どんだけ持ってんねん。八回目やで」
「……栄三。やっぱり睡眠とってこい」
「移動の間に寝たから大丈夫や」
「健にすり取られてるの、気付いてへんのか?」
「!!!!!!」

栄三は、シャツの胸ポケットに手を当てた。
そこに入れたはずの物が、無い。

「まじか……」

天を仰ぐ栄三だった。



真子が天地山に行っていた頃から、何度か同じ状態があったのか、健が真子の様子を伝えるその度に取り上げていた。七回目に取り上げたのは、東京駅から帰宅途中の車の中。健から取り上げたイヤフォンをポケットに入れ、そして、実家に帰宅後、直ぐに地下の部屋へ降りた栄三たち。そこで、報告し合い、パソコンへ情報を打ち込む。
その間、何度か、健が栄三の側に来ていた。
いつもなら、余裕を見せながら仕事をする栄三だが、健が側に来ても、パソコン画面から目を離さない状態だった為、健は、栄三の胸ポケットにある物を、スゥッとかすめとっていた。

なのに、栄三は気付かず、集中したまま…。

隆栄に指摘され、自分の体調に気付く栄三は、

「親父ぃ、あと頼んでええかぁ」

急にやる気が殺げた口調で言った。

「あぁ、健とやっとく」

隆栄の言葉を耳にした途端、栄三は立ち上がり、健のデスクの上からイヤフォンを取り上げ、地下室を出て行った。

「そう言いながら、兄貴、聞くんやろな〜」
「…俺も怒るぞ」
「…反省します…」

父親の威厳に負ける健だった。

栄三は自分の部屋に入った途端、ベッドに倒れ込むように寝転んだ後、健が言った通り、手に持っているイヤフォンのスイッチを入れ、耳に装着する。
そこに聞こえてきた声に、栄三は安らぎを感じ、目を瞑った。

 美玖ちゃんにも、鯉、プレゼントしよぉっと。

フッと笑みを浮かべて、眠りに就いた。
暫くして、和輝が栄三の部屋へやって来て、ベッドの上に綺麗に折りたたんでいるタオルケットを、栄三の体に、そっと掛け、

「栄三ちゃんこそ、しっかり休んでくださいね」

優しく声を掛け、静かに部屋を出て行った。
和輝は、そのまま地下室へ降り、デスクに着いた。

「熟睡ですね」
「明日まで寝かしておくか…。ほな、健も休め」
「俺は夕べ寝たから、大丈夫やで」
「ったく、ここ好きなの、変わらんなぁ〜」

健は幼い頃から、この地下室が好きだったのもあり、実家で一番安らげる場所でもある。

「懐かしいですね〜。霧原が居たら、また見たいですよ」

和輝が、懐かしむ。

「霧原居っても、したぁない」
「俺の楽しみでもあったんやけどなぁ」

ちょっぴり悪戯っ子な雰囲気で隆栄が言ったものの、

「それでも、せぇへん」

健は頑なに断っていた。ちらっと見えた健の横顔は、膨れっ面。しかし、膨れっ面になっているが、隆栄の言葉が嬉しかったのか、健の表情には、ちょっぴり照れが見え隠れしていた。

「なんと!! 真北さんの手料理や〜」

突然、健が発した言葉に、隆栄は、あることに気付く。

「……いくつ持ってるんや……。健、全部出せ」

隆栄に言われ、健は、耳に装着していたイヤフォンを外し電源を切る。そして、ポケットに入れているもの、シャツの裾に入れているもの、襟に入れている物など、体のあらゆるところから、小型のイヤフォンをデスクの上に置いていく。
その数、十一個。
隆栄と和輝が項垂れたのは、いうまでもない………。


健が言ったように、真子達のこの日の夕食は、真北の手料理だった。



(2020.8.14 第一章 驚き 第十四話 UP)



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