任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界・復活編」

第一章 驚き
第四話 光の特殊能力

AYビル三十八階爆発事件から、十日が経った。


橋総合病院。
この日も、慌ただしい雰囲気を感じる院内。それも、そのはず。

「今、到着したようです。世界的研究者である、あの
 ブライト・リドル博士が、橋総合病院へ到着しました。
 あの事件から行方不明とされていた、博士がこの病院へ
 やって来た経緯は未だ明かされていませんが、
 どうやら、博士の研究内容が関わっているという
 話も浮上しており…」

カメラの前で、真剣な眼差しを向けて、女性アナウンサーが中継をしていた。
このテレビ局だけでなく、他にも大勢の取材班が、橋総合病院の玄関先に集まっていた。
そこへ、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

「邪魔や、どかんかい。それに、許可範囲は門までや。
 誰がここまで来てええ言うた? 門まで戻らんかいっ!」

橋院長の怒鳴り声が、玄関先に響き渡った。
一瞬、静けさが漂い、そんな中、救急車が到着する。その直ぐ後に、一台の高級車が到着した。

「戻れ言うたの、分からんのかっ!」

取材班たちは、放送中にも関わらず、一斉に門まで向かって駆けだした。
橋院長が、見つめる先に停まっていた高級車から、二人の男が降りてきた。
橋の表情が曇り出す。
車から降りてきた男達。先頭を歩く男は金髪でサングラスを掛けていた。その男の後ろに立つ、もう一人の男もサングラスを掛けており、帽子を被っていた。
門まで駆けて行った取材班が、金髪の男に駆け寄ってきた。

「博士! 一言お願いします!! こちらに来た目的は?」

取材に集まった人々の言葉を遮るかのように、金髪の男が手を挙げる。

「謝罪も兼ねた研究ですよ。これ以上は、
 シークレットです」

そう言って、玄関先で怒りの形相のまま立っている橋に振り向いた。
取材に集まった人々も、振り返る。
今にも、橋が怒鳴りそうな雰囲気を醸し出していた。
その口が開くと同時に…。

「失礼しましたぁあっ!!!!」

一斉に走り去っていった。

「ったく…あいつらは…」

ポリポリと頭を掻いて、大きく息を吐いた。そして、歩いてきた二人の男を迎え入れる。

「ようこそ」
「院長自らですか」
「…まぁな」

静かに応える橋だった。そして、三人は、建物へと入っていった。




一台の車が、橋総合病院の門に向かって走ってくる。

「組長…」
「ん? どした? …あらら…何か遭ったっけ?」

門に向かって一斉に駆けてくる取材陣を観て、真子とくまはちは、首を傾げる。
助手席から、取材陣を見つめる真子は、その中の一人と目が合った。

「あっ!」

目が合った取材の人が、真子に気付いたらしい。しかし、真子が乗った車は、門を通り、来賓専用の駐車場へと向かっていった。

「今の車の助手席に、阿山真子が乗ってましたよ…」
「はぁ? 阿山真子クラスなら、助手席なわけないやろが」
「…それもそっか…」

真子の立場上、助手席に座るわけがないという意味だったが、真子の性格までは、公になっていないらしい。まぁ、運転手によっては、真子は後部座席に座るが、ほとんどは、助手席に座っている。

「それに、もし、阿山真子だったら、今から、大変やろ」
「そうだよね…。あの博士とは、例の能力で……」
「阿山真子は、今は表には姿を現さなくなったし、それに、
 向こうの世界も、今は大人しくなったからなぁ。……!!!
 それでか! 今頃、博士がやって来たのは」

そんな会話をしながら、取材の人々は、門の周りの邪魔になりにくい場所を選んで、博士が出てくるのを待ち続けるかのように、待機していた。



駐車場に車を停め、真子とくまはちが降りてきた。

「何の取材なんだろ。まさか、有名人が入院してるとか?」

真子がちょっぴり興味を示したように、言葉にした。

「それは無いですね」

きっぱりと否定するくまはちに、真子は膨れっ面を見せた。

「有名人なら、ファンも混ざってますよ」

真子の膨らんだ頬がへっこむ。

「それもそっか」
「では、行きますよ」
「はぁい。…大丈夫なのになぁ」

真子とくまはちの検査。
二人とも、ビルでの事件で負傷した所の最終検査として、橋総合病院へやって来た。


いつものように、職員専用の裏口から入り、直接、橋の事務所へと向かっていく。
二人とも、何となく、いつもと違う雰囲気を感じていた。

「何か、いつもと感じが違うんだけど…」
「はい」
「誰か来てるのかな…」

橋の事務所がある五階に到着した。エレベータから降り、ナースステーションへと顔を出す。

「おはようございます」
「!! 真子ちゃん!!!」

真子とくまはちの姿を観て、看護師の一人が驚いたように声を挙げた。

「えっ?! ん??」

看護師は、深刻な表情を見せ、そして、橋へと連絡を入れる。

「院長、真子ちゃんが来ました」
『…そっか。…取り敢えず、そこで待ってもらってくれ
 終わったら、呼ぶから』

いつにない、口調の橋に、看護師も事態を把握する。

「かしこまりました」

受話器を置くと同時に、看護師は真子を招き入れた。

「こちらで待ってください。今、来客が…」
「もしかして、有名人?」

真子が、爛々と輝く眼差しを向けて尋ねるが、看護師は言いにくそうな表情をした。

「シークレットかぁ。ま、いっか。くまはち、庭行こう。
 一時間ほど、散歩してくるね」
「…組長……」

真子の行く手を阻むかのように、くまはちは仁王立ち。

「………椅子、お借りしてよろしいですか?」

くまはちが看護師に尋ねると、どうぞと言わんばかりに、看護師は手を差し出していた。
くまはちは、真子の襟首を掴み、その椅子に座らせた。

「ごめんなさいぃ〜〜」

恐縮そうに、真子は首を縮こめた。
その瞬間、くまはちの眼差しが急変し、真子を守る体勢に入った。

「くまはち?」
「動かないでください」

くまはちが見つめる先。そこには、橋の姿があった。橋に付いてくるかのように、病院で働く医師達と、医師には見えない二人の男の姿があった。

「橋先生の客人というのは、…ライとカイトなのか?」
「…はい。昨日、急に連絡がありまして…」

そっと応えた時、橋たちがナースステーションの前を通り過ぎる。
金髪の男が、看護師達に一礼する。
くまはちは、素早く背を向け、真子の姿を隠すかのように立った。
帽子を被った男が、看護師とは違う男に気付いたのか、凝視する。

「あの男…」

呟くように言って、口元を釣り上げ、橋たちに付いていった。

「門にいた取材陣は、あの二人を追ってきたのか…」

くまはちが呟く。ふと、真子を観る。

「組長…」
「…やっぱり、ライさん……でも、カイトさんは…」

くまはちの影から橋たちの姿を観ていた真子は、帽子の隙間から見えた額に、白い物が巻かれていたことに気付いていた。

「でも、どうして…今なの?」

真子が看護師に尋ねる。

「謝罪と研究という内容だったよ」
「謝罪って…」
「あの事件は、かなり前に終わった事なんだけど、
 その謝罪みたい。研究というのは、ほら、ニーズさんが
 改良を加えて完成させた、あの万能薬のことだと思う」
「…それなら、ニーズさんも一緒じゃないと…居なかったよね」

真子はくまはちを見上げる。

「はい。恐らく、橋先生が、開発者の名前を隠しているんでしょう。
 ニーズは、一応、あの組織では有名ですし、それに、相手が
 ライですからね…」
「うん」
「キルは、どこですか?」

くまはちが思い出したように言った。

「橋院長が、今朝、突然、喜隆先生を追い出しました」
「…橋先生も警戒してるってことか…それで、院内に
 緊張感が漂っていたんですね」

どうやら、院内で感じていた物の正体が判ったらしく、警戒オーラを緩めた。

「くまはちぃ…」

呆れたように、真子が呼ぶと、くまはちは苦笑い。

「今からだと、時間掛かりそうだね」
「はい。少し、眠りますか? お疲れでしょう?
 って、組長! その体勢は……」

真子は、目の前に立つくまはちにもたれ掛かるように眠り始めた。

「ここでいい…」
「真子ちゃん、ベッド用意するよ…って、寝ちゃったか。
 大丈夫ですか、くまはちさん」
「組長がもたれるくらいなら、大丈夫ですよ」
「そうじゃなくて、体調ですよ!!」
「大丈夫です」
「こういう場合、いつもなら真子ちゃんを抱きかかえて
 移動するのに、それをしようとしないなんて、
 無理してる証拠でしょっ! 怪我だって、まだ完治してない…!!!」

流石、長年、この病院に勤めているだけあって、看護師は、くまはちの事を良く知っている。くまはちに対しても、臆することなく、叱りつけていたが、

「しぃぃぃっ…」

くまはちの人差し指が、看護師の唇を塞いでいた。

「それ以上は、シークレットですよ」

二枚目顔で優しく微笑まれながら言われてしまえば、流石の看護師も、何も言えなくなり、頬を赤らめた。

「壁にもたれてますので、大丈夫ですよ」
「それを無理してると言うんですよ、ったく」
「ありがとうございます」
「きついなら、言ってくださいね」
「はい。こちらで失礼します」

くまはちは、真子に目をやり、そして、真子が起きないようにと気を遣いながら、自分の上着を脱ぎ、真子の肩に、そっと掛けた。




その頃、キルは、橋総合病院の近くに立っていた。
朝、何の理由もなく、突然、追い出された後、一旦、自宅として利用させてもらっているマンションに戻った。そのマンションの管理人をしている須藤組組員の竜見から、ライとカイトが橋総合病院を訪れることを耳にした。その途端、追い出された理由を知り、急いで病院へ向かった。
病院への道すがら、橋が追い出した理由を考えていた。
そして、病院の近くで立ち尽くす。

もしかしたら、ライにも能力が戻っているかもしれない。

キルがたどり着いた結果が、それだった。
確かに、ライがトップに居た裏の組織では、ライの能力で、自分の行動を制限されていた。
真子の側に付くようになってからは、その影響は無くなった。その後、ライは、竜次との対決で、この世を去った…はずだった。
しかし、今。
ライは、生き返った。それも、この世に欠片すら残らなかったはずの男・カイトと共に。
さらに、記憶を失っているとの話もあった。
万が一のことを考えて、橋は、裏の組織に居たキルとニーズに、病院から去るようにと、指示したのだろう。
人の気配を感じ、キルは振り返った。

「ニーズ…」
「真子様がお見えになった」

ニーズが静かに言った。

ニーズとは、裏の組織の人間だった男で、薬関連に詳しく、組織の中では、あらゆる薬を開発していた者である。しかし、ある事件がきっかけとなり、その日を境に、橋総合病院の薬剤研究の仕事を任された人物である。
キル同様、橋総合病院で働いていた。
もちろん、真子を大切に思う人物の一人である。

「えっ? 検査は明日のはず」

驚いた様にキルが言った。

「松本さんが、仕事を終えたとかで、
 一日早くなったらしい」
「流石、その道のプロだな。仕事が早い。…で、
 ニーズも追い出されたのか?」
「あぁ。スウィートは、出張だ」
「……二人が来ると耳にしたが…」
「来たかもしれないな」
「それなら、真子様と会うだろがっ」

キルのオーラが、変化する。そして、病院へ向かおうと一歩踏み出した時だった。

「(待て)」

外国語で、呼び止める声がした。
振り返ると、そこには、リックの姿があった。
瓦礫に埋まった時の怪我は、まだ治っていないのか、痛々しい姿をしていた。

「(リック…起きて大丈夫なのか?)」
「(ニュースを観て、寝てられなくてな)」
「(ニュース?)」
「(ライとカイトが、病院に来たというニュースだ。さっき流れてた)」
「(…それで、カメラを持った者達が、門の前に居たのか)」

キルが言った。

「(恐らく、出てくるところを待ち構えてるんだろうな。
  どのような話をしたのか、聞くつもりだろうな)」

呆れたようにリックが言うと、ニーズが大きく息を吐いた。

「(…記憶…戻ってないんだろ? それなのに、何を?)」
「(謝罪と研究と言ってたが、可笑しいと思わないか?)」
「(謝罪って、まさか、あの事件?)」
「(どれの謝罪かは判らないが、橋先生に謝るとしたら、
  あの事件しかないんだよ。真子様との能力対決…)」

リックは首を傾げた。

「(そのことは、俺の研究成果で終わったはずだ。
  何を今更…)」
「(恐らく、ある程度の記憶は戻ったのかもしれない。
  日本に来てからだな。周りが、しつこく尋ねたんだろな。
  それで、思い出した可能性もある)」
「(…完全に記憶が戻れば、また、真子様を狙うのでは?)」
「(それは無い)」

リックは言い切った。

「(でも、今、真子様は、病院だ)」

ニーズの言葉で、リックの表情が一変する。
急に鋭い眼差しになり、何かに集中した。

「(リック?)」

キルが呼びかけても、リックは何の反応もしなかった。




橋総合病院五階のナースステーション内。
くまはちにもたれ掛かったまま寝ている真子は、一時間を過ぎても、まだ寝ていた。

「くまはちさん、大丈夫ですか?」

看護師が側を通りかかる度に、くまはちは声を掛けられていた。それには、流石のくまはちも、苦笑い。

「大丈夫です」

応える言葉も、毎回同じ。
それから三十分過ぎた時だった。
再び、廊下が騒がしくなった。
どうやら、橋達が出てきたらしい。看護師達が、くまはちと真子の姿を見せないようにと廊下に沿うように立ち止まり、金髪の男と帽子の男に一礼する。くまはちは、背を向けたまま、橋達が通り過ぎるのを伺っていた。
一人の目線を感じる。しかし、振り返るのは、気付いていると思われる可能性がある。だからこそ、敢えて、普通を装っていた。橋達が、エレベータに乗ったのが解り、くまはちは、振り返る。看護師達そして、廊下に居た患者達が、日常に戻る瞬間だった。
くまはちは、真子を観る。
真子は静かに眠っていた。

「組長、起きて下さい」

優しく声を掛けたが、真子は起きる素振りを見せなかった。
くまはちは、体を動かし、真子を見上げる感じでしゃがみ込んだ。

「組長」

真子が、ピクッと動いた。

「橋先生が、戻られますよ。起きて下さい」

その声に、真子がゆっくりと目を開けた。そして、姿勢を正した。

「…組長?」

くまはちは、いつもと違う、真子の寝起きに疑問を抱く。

まさか、体調が…。

慌てて、真子の額に手を当てたが、熱が高くなった兆しはない。すると、真子は、スゥッと立ち上がり、ゆっくりとナースステーションを出て行った。

「組長?」

椅子に残された上着をくまはちは手に取り、羽織りながら、真子を追いかける。
エレベータのドアが開き、橋が降りてきた。

「真子ちゃん、診察するで……って、真子ちゃん?」

橋に声を掛けられても応えず、ただひたすら歩いて行く。先にある階段を降りていった。

「組長っ!」
「くまはち、どうした?」
「それが、突然、歩き出して…。私の声にも反応しない感じで…」

その言葉を聞いた橋は、眉間にしわを寄せた。

「取り敢えず、追いかけて、事務室に向かいますので」

くまはちは、真子を追いかけて行った。

「って、くまはち、お前、体調っ…ったく」

橋も、追いかけて行く。



階段を降り、三階にやって来た真子は、迷うことなく、ある部屋の前に立ち止まった。

「組長っ」

真子の腕を掴むくまはち。しかし、真子はそのまま、その部屋に入っていった。
真子に釣られて、くまはちも部屋に入ってしまう。

「!!!」
「やはり、こちらに居ましたか……」

その部屋には、金髪の男・ライと帽子を被った男・カイトが座っていた。
まるで、誰かを探していたかのような口ぶりに、くまはちが身構えた。

「おや? この女性は…?」

ライが尋ねた。

「可笑しいですね。カイトが感じたオーラは、あなたなのに、
 なぜ、この女性が、催眠状態に?」
「なにっ…?」

くまはちは、素早く真子の前に回り、しゃがみ込み、真子を見つめた。
目はうつろで、一点を見つめ、瞬きすらしていない。

「てめぇ、何をした?」

くまはちが振り返る。

「そういうことですか。能力を持っているのは、女性の方。
 そして…あなたは、その能力を受けた経験者。だからですね。
 私の催眠に掛からなかったのは。あの時、あなたの影に居た
 彼女のオーラを感じた…ということですか」
「どういうことだ、ライ…」
「こういうことですよ」

スゥッと立ち上がったライと呼ばれた金髪の男は、何かを呟く。
すると、真子がくまはちに気付くことなく、ゆっくりとライへ歩み寄った。

「見つけましたよ。能力を持つ女性…日本に居るということは、
 本当だったのですね…。逢いたかった…」

そう言いながら、真子に手を伸ばすライ。しかし、その手は真子に触れることはなかった。

「触れるなっ」

くまはちが、真子を抱きかかえていた。
空を掴んだその手をライは、素早く拳に変え、くまはちに差し出した。しかし、その拳がくまはちに触れる前に、強烈な何かに体を吹き飛ばされ、壁にぶつかった。カイトは、勢い余って、床に転げ落ちた。

「(てめぇ…真子様に何をするつもりだ…)」

突然、その場に現れたキルとニーズ。それには、くまはちも驚いた。

「キル…ニーズ…」
「くまはち、離れろ。今のお前では無理だ」

ニーズが言うと、くまはちは、真子を守るように抱え、ライとカイトから距離を取った。
ゆっくりと体を起こすカイトは、窓際に飛ばされたライに目をやった。
ライは、背中を強打したのか、中々立とうとしない。

「(…まさか、ここに三人も居るとは…。いいや、四人ですか?」)

そう言って、ライは立ち上がり、キルとニーズを睨み付けた。

「(そうですか…グリーンとシアンの持ち主まで居るとは…)」

その言葉を耳にした途端、キルの体が緑色に、そして、ニーズの体がシアンカラーに光り出した。

「えっ…?」

くまはちの視野に飛び込む光景。
それは、今まで目にしたことのないものだった。
青と赤の光は観たことがある。しかし、今、目の前で体から光を発する二人の色は知らない。

「どういうことだ、キル、ニーズっ」

日本語で尋ねてしまうほど、くまはちは、動揺していた。

「訳は後で話す。兎に角、今は、この二人だ」

ニーズが応えた途端、戦闘態勢に入り、カイトに目をやった。キルは、ライに目をやり、戦闘態勢に入る。
今にも…と言うときだった。
部屋のドアが勢いよく開き、

「あほんだらっ! ここは病院やっ、何さらすんじゃぁっ!!」

という怒鳴り声と共に、橋が入ってきた。
その声は、窓が響くほどの勢いがある。部屋の光景を目にしたが、驚く事も無く、背後に居る人物に声を掛けた。

「思った通りや。リック。頼む」

その途端、橋の背後が白く光り、その白い光は壁に浸透するかのように広がり、病院の建物を包み込んだ。
その光に吸い込まれた感じで、緑とシアンの光も消えた。

「(リック……お前…)」

ニーズが振り返ると、橋の隣に、リックの姿があった。
それも、怒りの形相で……。

「(……組織をひっかき回すなと言っただろがっ!!
  それも、ライ様に変装して、世間にさらけ出しやがって…。
  覚悟は出来てるんだろうなぁ〜マリーン?)」

地を這うような低い声で、リックが言う。それには、その場に居る誰もが動けなくなるほど、恐ろしく…。
ライを名乗っていた金髪の男は、突然、自分の名前=マリーンと呼ばれ、思わず、後ずさりをする。
しかし、リックの拳が、目にも留まらぬ速さで、差し出された。

「!!!!」

リックの拳は、マリーンの前に現れた、帽子を被った男=カイトの頬に当たった。
拳の勢いで、帽子とサングラスが吹き飛んだ。頬を殴られながらも、男は、マリーンを守るかのように抱きかかえる。

「(ライ様っ!!!)」

マリーンが叫ぶ。そして、体を起こし、自分を抱きかかえる男の顔を覗き込んだ。

「はぁ〜〜〜〜??????」

それは、その場に居る者達の、声だった。

「(私の事は気になさらぬよう、申しました)」

声を掛けられたライと呼ばれた男が顔を上げる。
その男の頭は、包帯に覆われ、そして、両目が無かった。その姿に誰もが言葉を失った。

「(私には、リックを止められません!! 無理です)」

マリーンの声が震えた。

「(ライ…様……?)」

リックの怒りが納まった瞬間だった。

「(あっ、いや……その…)」

沈黙が訪れる。

「(しかし、この状況は…。ニーズもキルも戦闘態勢です)」

マリーンの言葉を耳にしたライは、ニーズとキルに振り向いた。

「(ニーズ、キル。納めてください。事情を話します)」

マリーンが言った。

「そういうことや。お前ら静まれや」

橋が口を挟む。

「……納まりませんね……私は。…橋先生、この状況は
 そのマリーンという男から聞くとして……。キルとニーズの
 本当の姿と、そして、リック……お前のそれも聞かせろや」

今度は、くまはちの怒りが頂点に……。

「…くまはち……」

その時、真子が覚醒した。

「組長っ!」
「くまはち、やめろ。そして……」

真子は、くまはちに下ろすよう指示を出し、自分の足で立つ。そして、目の前の二人の男に目をやった。
突然、ライの方へ駆け出す。

「組長っ!」
「真子様っ!!!」

くまはち、そして、ニーズとキルが呼び止める。しかし、真子はライに駆け寄り、そして、慈しむようにライの頭を包み込んだ。

「ライさん……」

真子がライを呼ぶ。ライは、フッと顔を上げた。そして、自分を包み込む真子の頬に手を当て、

「……ま……こ……」
「ライ様…声がっ!!」



マリーンが、事情を話し始めた。

「あの日以来、私は、毎日墓参りをしてました。
 それは、リック様もご存じですよね」
「あぁ。何度か逢ったもんな」
「はい。1ヶ月前のことです…」

マリーンが淡々と話す内容。それは…。






マリーンは、いつものように墓参りに来ていた。
いつものように、墓の掃除をし、手を合わせる。

「(ライ様。今日もみんなは元気に過ごしましたよ)」

その日の出来事を伝えるマリーン。
その時だった。
微かに音が聞こえてくる。

「(ん??)」

耳を澄ませると、その音は、目の前の…ライの墓の下。

「(……えっと……これって…)」

突然、墓の中から、ドンドンと叩く音が聞こえてきた。

「(ひぃぃっ!!)」

驚き腰が抜けたマリーンだが、そこから聞こえてくる声で、思わず墓石を動かし、土を掘り始める。
何かに突き当たった。そこにあるのは、棺。棺の上が、微かに動いている。
急いで土を取り除き、棺の蓋を開けた。

「(ぎゃぁ!!!!!!)」

悲鳴を上げるマリーン。
棺から現れた人の形をした何かに驚いた。
目の前に立つ人の形。しかし、見慣れている人間というものではない。
足はある。体もある。しかし、左手はあるものの、右手は肘から先は、骨しかない。
首もある。頭もある。口も鼻も耳もあるが、目の部分は凹んでいた。
目玉というものが無いのが分かった。
そして、額から上、髪の毛のある部分は、骨が見えているだけ。
マリーンは、目の前の人の形を観たまま、動けなくなった。

頭の中に、何かが聞こえてきた。

『(お前が、マリーン…か?)』
「(は、はい。マリーンです…)」
『(いつも俺に話しかけていた…同じ時間に…)』
「(…ライ様…?)」
『(今は、夜なのか…?)』
「(えっ……と、その…!!! 来て下さい!)」

人の気配を感じ、マリーンは、躊躇いもなく、墓の棺に立つ男を引っ張り上げ、手を引いて、その場を去って行った。外に停めていた車に乗り、二人はその場を去って行く。


マリーンが住む家に、墓から出てきた男が椅子に座っていた。

『(ここは…)』
「(私の家です。頭と手は包帯で隠しておきます。目はサングラスを…)」
『(お前が言うように、俺は…)』

車の中で、墓から出てきた男に、男の姿を話していた。
右腕は骨が露わになっている。そして、目玉がないことで、何も見えていないこと、頭は骨が露わになっていること。


ライが言うには、ふと目覚めた。しかし、辺りは真っ暗で、体を動かすことは出来なかった。再び眠りに就き、誰かの声で目を醒ます。自分が誰なのか、暗がりに居ることも分からない。ただ、毎日決まった感覚で聞こえてくる声に、耳を傾けていた。
ある日、聞こえてくる声の主がマリーンという名前だということを知る。その時、体が動く感覚があった。手を伸ばすが、そこが狭い場所だと気が付いた。
閉じ込められていることが分かるが、どうすることもできない日々が続いた。
マリーンが毎日のように墓石に向かって話していたことで、色々と思い出すことがあった。
自分が、ライということも理解した。そして、何が起こり、ここに居るのかも、理解する。徐々に記憶も蘇ってきた。


『(頭か……確か、あいつによって吹き飛ばされたはずだ。
  なのに俺は…)』
「(リックが言うには、脳の一部が残っていたそうで、その…
  日本の医者が、人工骨を埋め込んだと聞いてます)」
『(日本の医者…?)』
「(本当だったんですね…ライ様は不死身だと…)」
『(今回は、時間が掛かったようだな。…リックは、
  無理だと諦めたのかもしれんな)』
「(その……ライ様…)」
『(ん? なんだ?)』
「(声を発することは無理ですか? 先程から頭の中に
  聞こえてくるので…)」

マリーンに言われて初めて、自分が声を発していないことに気付く。

『(無理のようだな。恐らく、脳の一部が再生しきれていないのだろう)』
「(そうですか…)」
『(記憶もまだ、完全じゃないんだろうな。思い出せない所もある)』
「(私は、どうすればよろしいですか?)」
『(暫く世話を頼んでいいか?)』
「(完全復活まで、お世話致します!!)」
『(マリーン)』
「(はいっ!)」
『(よろしくな)』

感極まったのか、マリーンは、深々と頭を下げていた。
マリーンの仕草はライには見えていないが、マリーンが頭を下げたのは、分かっていた。






その場に居た誰もが、マリーンの話に聞き入っていた。

「まさか、ライ様の声が戻るとは…」

マリーンは驚いていた。

「ほな、今までのやり取りは、聞こえてきたライの声を
 そのままマリーンが言葉にしていたというわけか」

ほんの少し前まで、話し合っていたことを思い出した橋が言う。

「はい」
「見えてないのに、どうやって歩いてきた?」
「それは、私が心で伝えてました。段差があることや階段であることを」
「心で語り合えるということは…」
「心を読む能力は戻っているということか…はぁ〜〜」

大きく息を吐いて、橋は首を横に振る。

「で、さっき話していたことは、どうなんや?」
「それは……」

マリーンは、ちらりとライを観た。少し、息が荒くなっていた。

「(ライ様?)」

橋がライに近づき、脈を取り、診察を始めた。

「これ以上は無理だな。マリーン、どうするんや。
 この後、予定あったんちゃうんか?」
「はい。あと二軒、訪問予定です」
「(仕方ないな)」

そう言ったのは、リックだった。言うやいなや、リックはライが身につけていたサングラスと帽子を手に取る。

「リック?」
「残り二軒、私が代わりますよ」
「(無理するな。お前は…)」

ライが静かに言った。

「(ついて回るだけでしたら、大丈夫ですよ)」

そう言って、リックは、マリーンに指示を出す。

「(しかし、ライ様を、ここには…)」
「(真子様が居る。大丈夫だ)」

そして、マリーンを促して、リックは部屋を出て行った。
直ぐに、車に乗って病院を出て行ったのか、門の所に居た報道陣たちが、追いかけて行った。



「……ライ…」

話を聞いていた間、真子は、くまはちの腕の中に居た。
ライの頭を優しく抱きしめた真子だったが、その真子をライが押しのけた。
それには理由があった。

「(真子、すまない……思わず…)」

真子の腕の中で感じた、真子の想いが、ライの心に突き刺さったらしい。

「(橋、休めるとこないか?)」
「(用意する。待っとけ)」

橋は部屋を出て行った。
沈黙が続く中、くまはちのオーラだけは怒りのままだった。

「…で、キルとニーズ。お前らの能力は、どういうことや?
 もしかして、元々備わっていたのか?」
「(猪熊…二人を責めるな。…それは俺が抑え込んでただけや)」

ライが話し続ける。

「(…なぜ、ここに来た?)」
「(日本に来て、感じただけだ。この辺りからな。
  それで、マリーンに調べさせたら、この病院で
  新薬の話が出て、その資料からだ。まだ、記憶は
  戻ってなかったんでな。それが、日本に来て、
  色々な奴らから話を聞いていくうちに、記憶が戻ってきた。
  しかし、真子の事は、触れられるまで、思い出せなかった)」

少し寂しげに、ライが言った。

「(組長が催眠状態になったのは…)」
「(能力を持つ人間を見つける為の手段だ。俺にしかできない。
  …いいや、昔、日本に居たような……)」
「(ライ…お前は、一体、何年生きている? 命を落としては
  再生していたのか?)」

くまはちの質問に、ライは、フッと笑みを浮かべるだけだった。
橋が車椅子を持って戻ってきた。

「(ライ、座れ)」

ライを車椅子に座らせ、そして部屋を出て行く。

「真子ちゃんとくまはちもや」
「はい。組長、行きますよ」

くまはちに促され、真子は部屋を出て行った。もちろん、キルとニーズも付いていく。
ライは、橋にそっと、何かを告げた。
橋の表情が曇る。



病室に用意されたベッドに、ライは寝転んだ。

「(何もせず、静かに眠らせてくれ)」

そう言って、ライは眠りに就いた。
橋が布団を被せ、そして、真子に振り返った。

「真子ちゃん、それは危険や。だからライが突き放したんやで」

突然、橋が言った。

「無理なの?」
「それは、分からん。命を吹き返すのは分かるが、体の一部が
 戻るとは限らん。それに、ライも言ったぞ。体の一部が戻れば、
 能力を失うと。…竜次に使ったことで、ライは失ったらしい」
「まさか、竜次……」
「カイトの力で、首から下の体の左半身は吹き飛びました。
 その時に口にした内容で、ライは、青い光の能力を失った」

その時、その場に居たニーズが言った。

「日本に、能力を持った人間が居る……それが、組長…」

くまはちの言葉に、ニーズが頷く。

「…橋先生…」

真子が静かに橋を呼ぶ。

「ん?」
「…ご存じだったんですね、全て…。ライの再生能力、
 キルの緑の光と、ニーズのシアンの光…そして…」

真子は、橋を見た。

「リックの白い光……。もしかして、このことを予測してた?」

真子の真剣な眼差しに、橋は意を決したのか、口を開く。

「それは、キルから聞いた。突然、緑色に体が光ったからな。
 驚いたで。青、赤、オレンジ、そして、紫。この四色だけやと
 思ってたら、緑色とシアン、そして、白が存在してたとはな。
 ライは、長年研究と称して世界を飛び回ってたのは、
 能力を持つ者を集めて、医学の研究をする為だったのは、確かだ。
 しかし、それがいつしか、世界を牛耳る組織のボスになっていた。
 そのことは、ニーズが教えてくれたよ」

橋が語る内容には、関西弁がない。それほど、深刻な内容なのだろう。

「……それよりも。ライが言ったように、真子ちゃん」

真子を呼ぶ声は、少し怒っている。

「隠し事はするなと言ってたよな」
「……橋先生も隠してた…」

真子の言葉に、橋はそれ以上、何も言えなくなった。

「戻って欲しくなかった。……真北さんに心配を掛けたくない。
 どうしたら、無くなるの? 橋先生……」

真子は両手を差し出した。すると、右手は青色に、左手は赤色に光り出す。そっと目を瞑り、ゆっくりと目を開けると、右目は青に、左目は赤に光っていた。

「真子様……」

能力を発する真子の姿を、キルとニーズは初めて見た。
それは、目を奪われる程、心をさらわれる程の美しさ。今までに見たことがない、輝きだった。
真子の光が、すぅっと消えた。

「(リックの光を浴びても、発せられるとは…)」

キルが言った。

「白い光は、浄化するようなものだ。真子ちゃんが催眠状態に
 陥った時は、恐らく、病院内の誰もが操られた状態だったんだろう。
 職員達、患者達の動きが、妙だったからな。真子ちゃんの状態を
 不思議に思った時、リックが駆けつけた。だから、頼んだんだ。
 同じように光を発していたキルとニーズは、浄化されたように
 納まったが、真子ちゃんの場合は、催眠状態を解除されただけだろうな」

能力に関する話を続ける橋たち。しかし、くまはちだけは、その話に疑問を抱いているのか、眉間にしわを寄せたままだった。

「真子ちゃんとくまはちの診察するけど、その間、大丈夫か?」

キルとニーズの心配をする。
ライを一人で置いておけない。

「リックさんが戻るまで、ここでいい…」
「そうやな。ほな、わしも、ここに居る」
「…橋先生、仕事は?」
「仕事どころやあらへん」

ライから連絡があり、病院に招いた時点で、気を張り詰めていた橋。今、目の前にあるライの姿を見て、仕事に手が付かない程の衝撃を受けていた。
ニーズから、光のこと、能力のことを詳しく耳にした時から、このことは予測していた。いいや、ニーズの言葉は信じていなかった。だが、今まで能力の文献をほとんど目を通したこともあり、ライの再生能力のことは、薄々感じていた。
古い文献の中にある、『ブライト・リドル』という名前、その名前を持つ男が起こした事件の数々。それが同一人物の可能性があるという推測。
だからこそ、真っ赤に染まる肉の塊で運ばれてきた時、人の形として整え、それぞれの身内に身柄を渡していた。


それから、暫くして、リックとマリーンが変装を解いた姿で戻ってきた。

「(ライ様は?)」
「(眠ってる)」
「(そうですか…やはり、ご無理なさっておられたんですね)」

マリーンが、ライの側に腰を下ろし、安堵の表情を見せた。

「(声が戻って良かった。……深く眠るほど、再生能力が
  出るそうです。ライ様にも、光の能力は戻ってます。しかし
  ご自身の体の再生能力を促す力は無いそうです)」

マリーンは、真子に振り返る。

「(真子さんでしたよね。…青い光の能力をお持ちの…。
  ライ様が、そっと仰ってました。日本に、青い光と赤い光の
  能力を持つ女性が居ると……)」
「(私は……違うよ)」
「(で、でも…ライ様の能力に反応してました)」
「(ライさんは、私の事を忘れていた。目が見えていないから
  私だと気付くことは出来なかった)」
「(あの時……この女性だ…と、ライ様は語られた)」

マリーンが真子を見て発した、あの言葉を思い出す。

「(もしかして、能力の持ち主を探しに来たのが目的?)」

真子が尋ねると、マリーンは頷いた。

「(ライ様を、元に戻して欲しい)」

その言葉は力強かった。

「(竜次が狙う前に……元の姿に!!!)」

突然の言葉に、誰もが驚いた。



(2015.7.23 第一章 驚き 第四話 UP)



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