任侠ファンタジー(?)小説「光と笑顔の新たな世界・復活編」

第一章 驚き
第九話 親の思いと重いお土産

美玖と光一の絵が仕上がった。残り三人を描き終えた美玖と光一は、満足そうに出来上がった絵を見つめていた。

「家族…ですか」

二人の絵を眺めるぺんこうが、呟くように言った。

「うん!」

美玖と光一が、笑顔で頷いた。

「それで…、ここには、何が描かれるのかな?」
「えっとね、けんちゃん」


ぺんこうが指を差したところ。そこは、画用紙の端っこ。鉛筆で丸く書かれていた。そこに描かれる人物の名前を耳にしたぺんこうは、理解する。

「そうやなぁ、居(お)らんもんな〜」
「あとでね、おしゃしんみながら、えがくの」

光一が言った。

「どのおしゃしんがいい?」

美玖が、ぺんこうに尋ねると、ぺんこうは、首を傾げた。

「……ん? えいぞう、健の写真、あったっけ?」
「俺は持ってへんで。真子さんが、持ってない?」
「持ってないんちゃうかな。健、カメラマンやし」
「そっか……どないしよ…」
「………今、喫茶店か?」
「いや、飛んでる」
「そっか……」
「おしょうがつ、いっしょにさつえいしたよ?」

美玖が言った。

「そのおしゃしんじゃ、だめ?」

光一が、ぺんこうに尋ねる。

「それでもいいと思うよ。でも、健に言わないと。
 似顔絵にしていいかって。尋ねた?」
「まだ、きいてなかった。おでんわ…」
「メールで聞いてみる? えいぞうに頼んでみぃ」
「うん! えいぞうしゃん、おねがいぃ」

美玖と光一が、同時に言うものだから、えいぞうは、

「いいぞぉ〜〜」

我を忘れたのか、ノリノリで返事をし、美玖と光一に、どんな言葉を伝えたいのかと尋ねながら、健にメールを打ち始めた。

「我を忘れとるな…」

夕食の片付けを終えたむかいんが、リビングに飲み物を持ってきた。

「ありがと。で、なんで、えいぞうまで描かれてるねん」

やはり、ぺんこうは、怒りを見せた。
家族は、父と母と子供の三人なのに…と、思っただけに…。

「二人にとっては、家族なんやろ」
「そうやけど、でも、やっぱりなぁ〜。真子の時もそうやったやんけ」
「……まだ拗ねてるな…」
「当たり前や。むかいんは、断ったやないか」
「あっ、いや、そりゃ〜…なぁ」

言えないなぁ。あの時の、えいぞうの嬉しそうな表情…。
あんな表情見たら、描くと誘われても、断らないと…と思ったもんなぁ。
おやっさんから、えいぞうのこと、耳にした後やったし…。

「ま、なんやかんやと文句は言いたくなるけど、兄さんと同じくらい
 真子とは付き合いが長いもんなぁ…」
「そうやなぁ。組長の為やったら、一番、無茶する奴やし」

えいぞうと美玖、そして、光一が、健とのメールのやり取りをしている様子を見ながら、二人の父親が語り合っていた。そんなリビングとは違い、二階では……。



真子の部屋。
真子は真北に見守られながら眠っていた。一応、痛み止めを飲んだらしい。熟睡していた。そこには、理子も居る。

「真北のおっちゃん、ほんま大丈夫なん?」

理子は、真北の身体も心配していた。

「私は大丈夫ですよ。心配なのは、真子ちゃんですよ…」
「おっちゃん、知ってたとはなぁ」
「橋からの連絡が無かったら、知らなかったけど、
 耳には入ってくるんやろなぁ…」
「こういう場合は、連絡けぇへんのと違ったっけ?」
「……ほんと、理子ちゃんは、どこまで踏み込んでくるつもりですか?」
「忘れたらあかんで。うちも真子を守ったんやから」
「でも、ほんと…。真子ちゃんに怒られない程度にしてくださいね」
「解ってるって。真子が一番気にするんやろ?」
「えぇ」

そう言って、真子の頭を撫でる真北は、

「いつもありがとうございます」

理子に振り返り、優しく微笑みながら、言った。

「どういたしまして」
「あとは、私が居ますから」
「くまはちさんの様子も見とくで」
「真子ちゃんと同じく、痛み止めで、熟睡ちゃうかな。
 オーラを感じない」
「この際、暫く休めばええのにぃ。真子が一番心配するやん」
「理子ちゃんからの方が、説得力あるかもしれへんな…」

理子の強い言葉に納得しながら、真北は呟いた。

「やっぱ、理子ちゃん、強くなったなぁ」
「ふふふ。うち、これでも、母やで〜!」

力強く言う理子に、真北は思わず感服。

「母、強しですね。そりゃ、私は、真子ちゃんに弱いはずや」
「おっちゃんは、昔っから、真子に弱いやん」
「……そうでしたね」

理子の言葉に、真北は笑い出す。それに釣られて、理子も笑っていた。

そんな穏やかな雰囲気とは反対のリビング…かと思われたが、どうやら、健が送ってきた健自身の写真を参考に、美玖と光一が、丸の中に健の似顔絵を描いているため、リビングにも穏やかな雰囲気が漂っていた。

「できた!!!」

写真を参考にしたにも関わらず、かなり上手く描かれているらしい。

「おぉぉ!!」

男三人が、思わず声を挙げた。

「ねぇ、これ、けんちゃんに、みせたいぃ」

光一が言うと、

「みせたいぃ」

美玖も同じように言った。

「参観日には、戻ってくるよ」

えいぞうが優しく答える。

「……えいぞうまで来るつもりか?」

えいぞうの考えが解ったのか、ぺんこうが眉間にしわを寄せながら尋ねた。

「あかんか?」
「あかん」
「俺も楽しみやのに」

拗ねたようにえいぞうが応える。

「真北さんも来るのに、大所帯になる。それに、健が来たら
 それこそ、授業にならん」
「ええやろが」
「あのなぁ〜。忘れたとは言わせへんぞ。真子の参観日に
 高校から近いからと言ってやな、おまえと健二人でやって来て
 健は写真撮りまくって、授業にならんかったって、言われてやな、
 俺、どれだけ大変やったか……」
「しゃあないやん。あの時は、真北さんの思惑に、はまってなぁ…」
「………あのひとはぁぁっっ!!!」

真子が高校生の頃に、真子の担任だったぺんこう。そんな二人が居る高校での授業参観日。静かに見守ることを真北は出来なかったらしい。どうしても記録に収めたい、しかし、それをあからさまにするのは、自分の立場が許されない…という思いもあり、それとなく、えいぞうと健に伝え……、

『あいつの行動を見張るためや』

「……なぁんて言われたら、俺の立場上、行かなあかんやろ。
 それに、家族が簡単に入れる機会やったし…」

ぺんこうの睨みに負けそうになりながら、えいぞうは、口を尖らせながら、当時の行動を説明する。

「ほんまに、思惑にはまったんやな。あのひと、しょっちゅう来てたのにな。
 俺の行動を見張るというか、真子を見たいだけやったけどな」
「そこやろがっ」

えいぞうが声を張り上げた。

「どこや!?」
「なんで、その真北さんの行動を知ってるねん。それって…」
「真子のこと、ずっと目で追ってたもんな〜、先生」

そこへ、理子が割り込んできた。

「!!!!!!!」

真子の側には、もうひとり居た。それも、一番間近で観ていた者が……。
ぺんこうが焦ったのは言うまでも無い。

「で、何の話なん?」
「けんちゃんが、さんかんびにくるはなし」

美玖と光一が同時に応える。

「その話が、なんで、真子と先生と真北のおっちゃんの話に
 なってるん?」
「おおじょたいいんだって〜」
「おおじょたいいん????」
「俺と理子、ぺんこうと真子さん、更には真北さん。
 そこに、えいぞうと健が入ったら、くまはちは絶対やし、
 大所帯やろ」

むかいんの言葉に、理子は納得したように頷き、

「そら、真子が嘆くわ」
「俺も嘆く」

ぺんこうは項垂れる。

「でも、先生も涼も真北のおっちゃんも、仕事やろ?
 くまはちさんは、真子の代わりにビルやろ?」
「休みは取る」
「俺も取るで、理子」
「私も休みますよ〜」

そう言って、真北が入ってきた。

「ちっ…」

ぺんこうは思わず舌打ちをする。

「そりゃ〜、光ちゃんと美玖ちゃんの授業っぷりは
 ちゃぁんと見なきゃね〜」

そう言いながら、真北は、美玖と光一を抱きかかえ……。

「あっ」

誰もが気づき、手を伸ばしたが、既に遅し。もちろん、当の真北自身も、抱きかけた瞬間に思い出す。
しかし、そこは、真北。
美玖と光一に気付かれないような素振りを見せ、優しい笑顔で語りかけていた。

「あれは、癖…やな」

昔っから知ってるぺんこうは、真北の行動に笑いを堪えながら、呟いた。

「おっちゃん、相当やばかってんな…気ぃ付かんかった…」
「それが、あのひとですからね…。しゃぁないか…」
「そろそろ寝る準備しようか、美玖ちゃん、光ちゃん」
「はいっ! おふろぉ。パパ〜」
「りょうパパといっしょにはいるぅ」
「は〜い。一緒に入ります! ぺんこうも入るだろ?」
「そうやな。ほな、レッツゴー!」

美玖と光一、そして、むかいんとぺんこうは、リビングを出て行き、お風呂へと向かって行った。

「おっちゃん、大丈夫なん?」
「なんとか…大丈夫や」

痛みを堪えてるのが分かるほど、真北の表情は歪んでいた。

「部屋まで行きますよ」

えいぞうが真北を支えながら、リビングを出て行く。

「ったく……」

呆れたように溜息をつき、理子はテーブルの上に置きっぱなしになっている子供達の宿題の絵を見つめる。

「……こりゃ、誰もが行きたなるわな…」

理子は、フッと笑みを浮かべた。
風呂場から賑やかな声が聞こえてくる。それを耳にしながら、理子は、離れに向かって行った。



真北の部屋。

「では、帰りますよ」

えいぞうは、真北を寝かしつけ、帰り支度をする。

「で、行くつもりか?」

布団から顔を出して、真北が言った。

「今回もカメラマン必要でしょう? 根回しも可能でしょうし」
「撮影と言っても、健だと無理やろが」

学校側が用意したカメラマンは、授業風景や参観の家族を二、三枚ほど撮影するだけで、次のクラスへと移るのだが、健の場合は、真子を主に、更には、美玖や光一も撮影するのだが、数え切れない程の撮影をしてしまう可能性がある。だからこそ、真北は、『無理』だと口にした。

「そうですけどぉ〜しゃぁないですやん」
「だから、却下や」
「……まさか……」
「それは、明日に話す。今日は帰れ」

真北は、えいぞうを追い出すような言葉を投げかける。その仕草で分かる。

相当、やばい。

先程、美玖と光一を抱きかかえた時の影響が一番だったが、この日に真子の身に起こった出来事、そして、二人の竜次の事も加わっていた。

「ほな、店に来てくださいね〜」
「無理や」
「……明日も、ここ…ですか?」
「橋のとこや。診察な」
「さよですか。かしこまりました。では、お大事に」

真剣な眼差しのまま、えいぞうは、真北の部屋を出て行った。その脚で、真子の部屋へと向かい、ノックする。

「組長、帰りますので。今日はありがとうございました」

ドア越しに、真子に語りかけると、真子が部屋から出てきた。

「組長、起きるのは…」
「大丈夫だよ…痛み止め効いてる。…で?」

『竜次の事、聞いた?』

真子の短い言葉に含まれている意味を知っている。

「えぇ。明日、真北さんと橋総合病院で、診察しまぁす」

えいぞうの言葉にも、深い意味が含まれていた。

『橋総合病院で、真北さんと橋先生、キルたちを交えて対策です』

「分かった。無茶はせんといてな〜」
「いつもありがとうございます。では、これで。組長も寝てください」

えいぞうは、真子に手を添えて、部屋へと入り、真子をベッドに寝かしつけた。

「気を付けてね〜。今日もありがとう〜」
「では、失礼します」

えいぞうは、深々と頭を下げて、真子の部屋を出て行った。
えいぞうの足音が階下へと向かっていくのを耳にしながら、真子は眠りに就いた。

もちろん、真北も、えいぞうが去っていくまでの動きを把握している。

あぁやって、真子ちゃんに伝えてたんやな…。不覚やった…。

そう思いながら、真北は眠ってしまう。
ぺんこうが様子を見に来ても、起きないほど、真北の症状は悪化したらしい。

「ったく…」

呆れながらも、布団からはみ出た真北の腕を、そっと布団の中へとしまいこみ、真北の部屋を静かに出て行った。その足で真子の部屋へとやってくる。
真子は目を覚ましていた。

「どうですか?」
「大丈夫。真北さんよりましかな…」

クスッと笑う真子の頭を、ぺんこうは、そっと撫でる。

「一体、何があったんですか? 痛み止めで動ける程だから
 大丈夫だと思いますが…」

組関連の事で、真子の身に何かがあると、つい、丁寧な言葉になってしまう、ぺんこう。夫婦となって7年近くなるというのに、それだけは、抜けないらしい。

「竜次が二人とは、まさか、あの文献に書かれていたことが
 実際に起こった…と…」
「あの文献? もしかして、ぺんこうも知ってた?」

特殊能力の青い光の影響を受けた者の身に起こる出来事。
傷が消え、命を失うこともなく、息を吹き返す…ということ以外にも、本来『起こりえない出来事』があることは、古い文献を目にしたことがある者は、予想できることでもあるらしい。

「知ってたというより、予想した…が正しいですね。
 恐らく、橋先生、道先生、そして、真北さんは予想していたと
 思いますよ」
「橋先生…言ってた」

寂しげに真子が呟いた。
その呟きに含まれる意味こそ、ぺんこうは痛いほど身に染みている。

その時の思いを一番に行動し、後のこと、そして、それによって起こる出来事までは、予想できる年代ではなかった。
母の言葉『使っては駄目…』。守り続けていたけど、目の前で消える命に、気が付くと使っていた。

「真子」

ぺんこうが、優しく真子を呼ぶ。

「それはもう、心配することは無いと、橋先生も、ニーズも
 そして、リックも言っていたでしょう?」
「…まさちんは、治療してないのに?」
「清水先生がそれも兼ねて治療してるんでしょう?」

ぺんこうは、真子を抱きしめる。
その腕から、ぺんこうが言いたいことが伝わってくる。
真子は、そっと頷いた。

「一人だけでも大変なのに、二人、三人となると…」
「………真子……それは、俺も嫌や」
「…でしょう?」

真子の言葉に、ぺんこうは笑いを堪えきれず、声を挙げて笑い出す。

「あいつの体調も順調だから、影響も薄らいでるはずですよ。
 私自身、もう、あのだるさは消えましたし、それに、薬の影響も
 無くなりましたからね」
「うん…」
「だから、真子」

真剣な眼差しを、真子に向け、ぺんこうは口を開く。

「無理は禁物です。参観日までには、完治させること」
「はい、先生」
「よろしい」

ぺんこうは、真子の頭を優しく撫でた。


流石、教師やな…。


真子とぺんこうの会話は、真北に聞こえてた。ぺんこうが真北の腕を掴んだ時に、目を覚ましてしまった。しかし、ぺんこうから感じるオーラに、寝たふりをしていた。
会話に含まれていた言葉は、真北自身の身にも突き刺さるものがあった。

俺も、参観日までには、完治させな、あかんなぁ。

フッと笑って、真北は再び眠りに就いた。


その日、真北が見た夢は、遠い昔に感じた、亡き父と母との思い出。まだ、弟・芯が、この世に誕生する前の、真北が小学生の頃の思い出だった。



「春樹には、内緒だな」
「いつか、気付きますよ。いいの?」
「だから、雅春君に頼んだんだろう?
 遠くない未来に必要かも知れない。
 それを考えての、闘蛇組の行動なんだからな」
「春樹の身に、及ばなければいいんだけど…」

…闘蛇組? …親父、お袋……それは、もう……俺の手で…。
いいや、真子ちゃんが絡んだことで……。



真北は、ガバッと勢いよく起き上がった。

「いてて……」

傷のことを忘れていた。

そっか……俺……。
てか、夢…?
何故、今になって、闘蛇組の話が……?

大きく息を吐いて立ち上がるが、またしても……。

「いててて……!!!!」
『忘れないでくださいね』

ドアの向こうから聞こえた声に、

「うるさいっ」

思わず怒り任せに応える真北だった。


真北の部屋の前から、笑いを堪えながら、ぺんこうが去っていき、自分の部屋へと入っていった。

ったく…。

真北は時計に目をやり、自分の怪我に気を付けながら、ゆっくりと着替えて、出掛ける準備をし、部屋を出て行った。


まだ夜は明けていない午前五時。そんな中、真北は橋の病院へ向かって出掛けていった。




橋総合病院・橋の事務室。
キルと橋が、大きく息を吐いた。

「で? キル、どうや?」

橋が静かに尋ねる。

「そうですね…。真子様を浚った方は、黒崎に任せるとして、
 本来の竜次の行動が掴めないだけに……」

そう言って、キルは、別のところに目をやり、話を続けた。

「……私が動きますよ」

沈黙が続く。

「……しゃあないか。あぁやしな」
「そうですね…仕方ありません」
「シフト組み直しとく。どれくらいや?」
「どのくらい、頂けますか?」
「そうやな…」

橋は、職員達のスケジュール、検査や手術予定の患者たちを確認し、暫く考え込む。その間、キルは、先程見つめた場所に再び目線を移した。

「………橋院長を怒らせるからですよ……」
「うるせぃ…。俺はええ、慣れとるから。だけどな、えいぞうには…」
「真北を守っても、得せぇへんやろが、ったく」

真北の言葉に、すぐに反応する橋。その言葉は、気を失ったようにベッドに横たわるえいぞうの耳には聞こえていない様子。

「弱ってても、倒れないはずやのになぁ。橋…お前…」
「真北に向けるものに、遠慮はせんわ、あほ。…で、キル」
「はい」
「五日でいけるか?」
「目標として、三日で調べてきます。では、今から」
「待て」

直ぐに行動に移そうとするキルを引き留める真北だが、

「一人で行きます。三日で無理なようでしたら、お願いします。
 なので、真北さん。それまでに、治してくださいね。では!」

一礼して、キルは事務所を出て行った。

「………珍しい……。ドアから出て行った……」
「俺の教育や。……で、えいぞうは、どうや?」

橋は、えいぞうの様子を見に、近づいてきた…と当時に、真北の臑を蹴り上げている。

「いてっ……!!」
「……ったく……きちんと受け身しとってからに…」
「…ばれました?」

そう言って、目を開けるえいぞうだった。

「で、どうする? 動けないんやろ? 真北と一緒に一日居るか?」
「健からの連絡待ち。行き着く先は、キルと同じやろうけどなぁ」
「こっちは、動かんぞ」

真北の立場のことだった。

「今回ばかりは、巻き込めませんからね。組長に関わってくるだろうけど」

えいぞうは体を起こしながら、真北を見つめる。

「これ以上、無茶して欲しくありませんからね。あなたにも」

ちょっぴり他人行儀な言い方に、真北は眉間にしわを寄せた。

「ほとんどが、組絡みでしたけど、今回は、手に負えないでしょう?」

組絡みの出来事なら、警察は躍起になって動こうとするのは目に見えている。だからこそ、真北が阿山組に身を置き、両方の立場、そして思いから、行動していた。しかし、今回は、真子やライが持つ『特殊能力』が主流になり、事件が発生している。
だからこその、えいぞうの言葉だったが、

「あほぬかすな。一般市民に影響しとるやないか。
 そっちで動くに決まっとるやろ」
「相手は記憶を失ってる竜次ですよ? 死亡扱いでしょう?
 この世には存在しないことになっている人間をどうやって…」
「そのようなことは、その世界じゃ当たり前だろがっ」

真北の手が立ち上がった、えいぞうの胸元に伸びてきた。
それを阻止するように、腕を掴んだえいぞうは、真北の腕を掴んでいない手で、真北の胸ぐらを掴み上げた。

「あなたは、最後の砦でしょう!」
「…最後の……砦…だと?」

えいぞうは、自分が口にした言葉に気付き、焦ったように真北から手を離した。

「俺達が、どんな行動に出るか、想像出来るはずです。
 今までは、抑えることが出来た。しかし、竜次やライが
 生き返った今、そちらの力では抑えきれない。
 また、失うかもしれない……。あなたも、それだけは、
 繰り返したくないでしょう?」
「あぁ、そうだな……」

だから、あの日…自分を盾にしてでも、みんなを守った……。

真北は、自分の手を見つめ、そっと目を瞑る。

「その思いは、俺達にも受け継がれているんですよ。
 もう、巻き込みたくない…いいや、巻き込んでは駄目です」
「……すでに、巻き込まれてるんだけどなぁ〜」

真北が崩れたような口調で言う時は決まっている。
本来抑え込んでいる危険な自分が現れる前触れ。
いつもなら、そのオーラを感じると、身を守るように行動するえいぞうだが、このときは違っていた。
えいぞう自身も、本来の自分を隠して常に行動しているが、怪我の影響もあるだろう。真北に引けを取らないオーラを醸し出してしまった。

「それは、あの日のことであって、今回は、巻き込まれてませんよ」
「あぁ。だがな、今回の事は、その延長上だろうが」
「区切りは付いてます」
「付いてたけど、ぶり返しただけや」
「それでも、動かないでください。これ以上、あなたの体に
 傷が増えると、終わらない」
「えいぞう…それは、お前にも言えることや。これ以上、
 無茶はするな。お前は、影響ないだろうが」
「確かに、私は、青い光の影響は御座いません。
 それでも、あの能力に対抗できる動きは身についてますよ」
「それ以上なのは知ってる。でもな、その能力関連で、
 傷が増えると、真子ちゃんが無茶をするだろが」
「だから、真北さんにも」
「……繰り返すんなら、蹴りも出すで」

二人の会話に、橋が割り込んできた。
どうやら、先程、真北に向けた拳の要因は、今話していた内容と同じようなものだったらしい。

言い合いがヒートアップし、終わりが見えない状態に、言葉じゃ無理だと思ったのか、お互いが手を出し、胸ぐらのつかみ合いになり、その激しさから、傷に影響することを予想した橋が、真北に拳を向け、その拳に気付いたえいぞうが、身についた性で、真北を守るように体を動かし、橋の拳を受け止めてしまった……というのが、先程の出来事。

橋の言葉に我に返った二人は、気を鎮めるかのように、大きく息を吐く。

「だから、キルに頼んだんやろが。暫くは動くな。
 情報と、向こうの動きをある程度掴んでからでも
 遅くないやろが。今のうちに体を休めておけ。
 ええな?」

『ええな』の部分を強調して、橋は言った。

「反省してます……」

えいぞうと真北は、声を揃えて応える。

「ほな、キルが戻るまで入院な。手続きは、キルがしとる」
「………はぁあああ???」
「入院な」

念を押すように、橋が言った。

「かしこまりました。お世話になります」

橋の言葉に逆らえない二人だった。




真北とえいぞうが、病室のベッドに寝転んだころ、真子とくまはちは、AYビルで、仕事をしていた。
特に進展は無いが、いつもの通りに、書類に目を通し、意見を述べ、修正箇所を指示し、書類をまとめていく。真子の意見を一言も漏らさず、くまはちは耳に入れ、そして、素早くまとめていく。
時には、意見を述べ、真子と話し合いながら、午前の仕事を終えた。
時刻はお昼に近い。

「お昼は、こちらで?」

くまはちは、真子の体調を気遣いながら声を掛ける。昨日のこともあり、あまり体力は使わない方が良いと判断していた。もちろん、くまはち自身も、怪我は治っていないが、いつもと変わらない振る舞いを見せていた。

「そうやね。むかいんにお願いしてもいいかなぁ」
「では、そのように伝えておきます」
「くまはちも、一緒だからね」
「では、内線で…」

くまはちは、返事をしながら、すでに受話器に手を伸ばしていた。
むかいんに伝えている間、真子は、パソコンの画面を見つめていた。いつもなら、画面の隅に、健の似顔絵のアイコンが点滅するはずなのに、この日は、点滅する雰囲気すら見せなかった。

ったく…気を遣うなって言ったのになぁ、もうぅ。

真子の頬が、プクッと膨らんだ。
そして、真子は、健へメールを送った。



真子がメールを送った健は、目の前に現れた人物を睨み上げた。

「ちょい待ちぃ、見てからや」

そう言って、健はメールの内容を確認する。

「…組長に言ったんか?」

目の前の人物は首を横に振った。

「病院から直です。真子様には、お逢いしておりませんが……。
 バレバレですね…すみません。お世話になります」

相手はキルだった。えいぞうが言ったように、健はキルが向かった所と同じ場所に居た。健の方が一足早かったらしい。
キルは、真子からのメールの内容を健に見せてもらい、そう応えていた。

『キルさんが向かうと思うから、一緒にね!』

「兄貴、真北さんとやり合ったやろ?」

小さなパソコンで何かを探りながら、健はキルに尋ねた。

「橋院長に止められました。三日、入院です」
「ほな、三日も貰えたんや。結構、集まりそうやで」
「……健ちゃんの情報網は、更に細かくなったようですね…」
「キルのお陰もあるで」

そう言って、健はキルに微笑んだ。

「だから、三日も要らんねんけどなぁ」
「仕方ありません。進展は無さそうですが、相手が竜次ですから、
 それ相応の覚悟が必要となりますよ」
「そうやなぁ〜。おっ!! 新情報や!」

健とキルは、新情報を入手し、そして、二人揃って、とある場所へと向かっていった。
健は、真子へ、メールの返信を送る。




「二泊三日のペア旅行か……ったく。お土産、多そうやわ」

そう呟いた真子は、大きく息を吐いて、目を瞑った。

ドアがノックされ、

「お待たせしました。軽めにしときましたよ」
「ありがとぉ、むかい〜ん」

むかいんが、昼食を持ってやって来た。

「今日も早めに帰宅してくださいね」
「かしこまりました。くまはちぃ、食べよう」
「はい」
「では、いただきます!」

真子が一口頬張って、

「おいしぃぃ〜〜」

笑みが浮かぶのを見てから、むかいんは、仕事に戻っていった。



この日は、何事も無く、真子とくまはちは、無事に帰宅する。

三日後、真子が想像していた以上の、重いお土産を受け取るとは、思いもせずに……。


(2019.2.3 第一章 驚き 第九話 UP)



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※この物語は、どちゃん!オリジナルのものです。著作権はどちゃん!にあります。
※物語全てを著者に無断で、何かに掲載及び、使用することは、禁止しています。
※物語は、架空の物語です。物語内の登場人物名、場所、組織等は、実在のものとは全く関係ありません。
※物語内には、過激な表現や残酷な表現、大人の世界の表現があります。
 現実と架空の区別が付かない方、世間一般常識を間違って解釈している方、そして、
 人の痛みがわからない方は、申し訳御座いませんが、お引き取り下さいませ。
※この〜復活編は、任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』の極編の後の物語です。
※任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』を全シリーズを読破しなければ、登場人物、内容などが解りにくい状態です。
※取り敢えず、任侠ファンタジー(?)小説『光と笑顔の新たな世界』を全てお読みになってから、アクセスお願いします。
※別に解らなくても良いよ、と思われるなら、どうぞ、アクセスしてくださいませ。
※尚、物語で主流となっているような組織団体を支持するものではありません。
以上を踏まえて、物語をお楽しみ下さいませ。


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