〜任侠ファンタジー(?)小説〜
光と笑顔の新たな世界・『極』編



昔と今、繋がる想い(1)

人が行き交う街。人々の笑顔が輝いている街から、少し外れた場所で、今、まさに………。


くまはちが、何かを背後に守りながら、路地裏に身を潜めていた。くまはちの服をギュッと握る手。その手は、くまはちを呼ぶ感じで服を引っ張っていた。くまはちは、ちらりと振り返る。

「怪我…大丈夫?」

そっと声を掛けたのは、真子だった。くまはちは、そっと頷くだけで、再び辺りを警戒し始める。

「…!!!!!」

くまはちは、真上を観た。
何か黒い物が三つ、上から降ってきた。

くそっ!

くまはちは、真子を抱きかかえ、路地から飛び出した。
上から降ってきた物は、地面に着地した瞬間、二人を追いかけるように路地から飛び出してくる。
真子の背中をビルの壁に押しつけ、真子の体を隠すように前に立ちはだかる、くまはち。右手を懐に入れ、護身用の銃を取りだし、三つの黒い塊に銃口を向けた。
黒服を着た金髪の男達…。
未だに真子を狙い続けるライが居た組織の残党。
真子とライが繰り広げた、光と光の対決の後、ライがこの世を去ったと組織に伝わり、そのライが何かを残した可能性がある…そう噂が広がり、真子の命が狙われ始めた。

……特殊能力を持つ者同士の子供……

ライが真子を手に入れる為に、日本に向かった事、そして、そのライが、真子を手に入れたという『誤報』が、ライの組織の者に伝わった。真子とライの特殊能力同士の対決を知っているのは、日本の極道だけ。ライの組織の者には、
『真子を奪われた事に対する、阿山組組員の怒りに触れ、
 ライの命が奪われた。それ程、恐ろしい力を持つ組員』
と伝わってしまう。

ライに忠誠心を持っていた者、持っていない者、そして、ライによって、自らの力を抑えられていた者…。それそれが、単独行動に出て、あらゆる方法で日本に向かう。その中でも、リーダー的存在の者が居た。その者達が、ばらけた組織の者をまとめ始める。
四つに分裂した組織は、真子を守る派と狙う派の二つに分かれたが、ライの意志を継いだリックの活躍、そして、生きていたライ、そのライを利用し、ライの組織を引っかき回していた黒崎竜次の三人が、真子を狙う者達を一掃したはずだった。
それでも、世界に散らばった組織の残党をまとめることが出来ず、真子を狙ってくる者は減る事が無かった。
そして、今………。


三人の黒服の男は、素早く戦闘態勢に入る。
少し動けば、くまはちの銃が火を噴くかもしれない。
緊迫した雰囲気が辺りに漂い始める……。
幸いにも、この場所は人通りが少ない。だけど、そんな場所を好んで歩く者も、世の中には居る……。
足音に、男達は振り返る。
その隙をくまはちは見逃さない。
くまはちは、引き金を引いた。
一瞬のうちに、黒服の男達は、腹部を撃たれ、倒れる。
くまはちは、真子を抱きかかえて、その場を去っていった。
二人を追いかける足音も、同時に聞こえた。
足音の主が、先程まで緊迫していた場所を通っていく。
そこには、何も無かった……。



「くまはち、応援は?」
「呼んでます。その場所まで、あと少しなんですが…」
「こっちに来てもらった方が…」
「ここも人に気付かれると、真北さんに支障が出ますから」
「あと少しって、どれくらいよ!!」
「一キロです」

くまはちは、真子を抱きかかえたまま、走っている。

「くまはちっ!」
「何も言わないでください。…傷に響きますから…」
「そんなにひどいんだったら、私も」
「駄目です。先日の傷が治ったばかりで、まだ、体力も戻ってませんよ!」
「そう言うくまはちも、その時の怪我が治ったばかりやんかっ!」
「私は大丈夫です」
「それでも…」
「組長を守る。これは私の仕事ですよ。何もおっしゃらないで下さい」

力強くいう、いつもの台詞。
真子は、それを聞く度に、心が痛かった。
阿山家の人間を守るのが、猪熊家の誇り。それは代々言われてきた事。
その昔、阿山家に助けられた猪熊家の者の恩義。
それなのに、いつまでも守られているのは、猪熊家の方だった。
阿山家に対する猪熊家の心義が消えぬ限り、それは続く…。
阿山家の人間の心の奥底に備わる何かが、そうさせている。
だから、こうして、守られる真子は……。

「くまはち、下ろせ!」
「組長?」

くまはちは、それでも足を止めない。

「私も走るから」
「駄目です」
「くまはち!」
「走ると言って、あいつらを阻止するつもりでしょう? 解りますよ」
「これ以上、くまはちに負担を掛けられないから…」
「…組長………」

真子は今にも泣き出しそうな顔をしている。
そんな表情をする真子には、昔っから弱いくまはち。しかし、今回ばかりは、真子の言う事を聞かずに走っている。
真子を抱く腕に力を入れた。

「くまはち、…痛い」
「もう少しです。我慢してください。そうでもしないと組長……!!!」

くまはちの目の前に、黒い塊が一つ、落ちてきた。その塊は、地面に着地した途端、くまはちと真子を飛び越えて行く。

「キル?」

くまはちは、背後に感じる人が倒れる気配に歩みを停め、振り返った。
二人を追いかけてきた男達の最後の一人を倒したキルの姿が、そこにあった。
くまはちは、真子を地面にそっと降ろした。
キルは振り返る。

「真子様、お怪我ありませんか?」

真子は、そっと頷いた。
ホッと一安心。
それも束の間だった………。

「くまはちっ!」
「組長!」
「……真子様っ!!!!!!」

真子、くまはち、キルの三人が同時に叫ぶ。
その声を重なるように、銃声が六発、辺りに響き渡った。
地面に倒れる二人。そこへ駆けつける足音がたくさん響く。

「……く……、…組…長……」

くまはちは、自分の上に、まるで守られるかのように乗りかかる真子を見つめる。真子は、くまはちを見つめ、微笑む。その微笑みが急に消えた。
くまはちは、真子の体に手を回し、起きあがる。
その手に感じる生ぬるいもの…。ヌルッとする、それが何か、くまはちは直ぐに解る。
その場所は、ライとの対決で負った傷…暖炉の柵が真子の体を突き抜けた時に折れた肋骨を支える為に、真子の体に埋め込まれた固定板があるところ。
真子は、またしても、その場所を使って、大切な者を守っていた。
くまはちの手が、真子の傷口を抑える。足音に、顔を上げたくまはち。

「…真北さん……」

銃に弾を込めながら近づいてきた真北は、辺りを警戒している。

「範囲を広めた。ここは問題ない」

真北の言葉の意味を理解した、くまはち。真子の体を真北に託した途端、醸し出すオーラが一変する。
そして、姿を消した。
呻き声、人が殴られるような鈍い音、そして、人が倒れる音、何かにぶつかる音、ガラスの割れる音、鉄が地面に落ちる音……。

「あぁ〜あ、こりゃ、相当きてるな…」

真北が呟く。その腕に居る真子の傷を診たキルが、落ち着いた声で真北に伝えた。

「例の場所で、銃弾が留まってますが、取り除きますか?」
「手当てを頼むよ」
「はっ」

少し離れた場所に停めてある車の後部座席に真子を寝転ばせ、キルが手当てを始めた。その間、車の外で、真北は辺りの様子を伺っていた。原が駆け寄ってくる。

「真北さん、許可取れました………って……あの…」
「許可降りた後」

……降りたのは、今ですよ…。二分早いです…。

真子の危機を察したのか、真北は、許可申請をした途端、行動に出た様子。
真北が就く特殊任務で処理出来る範囲は決まっていた。その場所なら、命を奪う事以外は、何でもOK。しかし、今回は、その範囲外で、真子は組織の残党に狙われた。
AYビルの仕事を終えて、帰る途中。まずは、車を狙われた。防弾仕様の車だが、組織の残党が持つ銃器類の性能が、更にアップしていたのか、それに耐えられず、真子を守るくまはちの体に当たった。
爆発寸前の車から、真子と飛び出したくまはち。そこへ狙いを定める残党達。人数は、二人が車から出た途端に増えていった。
くまはち一人なら、残党達は、あっという間に倒せるが、以前AYビルの地下駐車場で見せた、くまはちの本能で、真子が恐れたことから、くまはちは、真子の前では、絶対に本能を見せなかった。
真子を守る事に専念する…。
襲撃を受けている事を知った真北が連絡を入れる。場所を聞いた真北は、あと一キロの所なら、思う存分出来るとくまはちに伝え、現場に急ぐ。
しかし、くまはちは到着していなかった。
そこへくまはちからの連絡。
待機場所まで向かう事が出来ない。
くまはちの言葉で、くまはちの傷の重さに気付いた真北は、キルを呼ぶ。連絡を受けたキルが到着すると同時に範囲を広げる申請をし、そこへ近づいてくるくまはちのオーラに気付く。そのオーラを追いかけてくる異様なまでの無数のオーラ。それに反応したキルが、真北の許可無く、行動に出た……。
その結果が……。


原の指示の下、刑事達が現場へ向かって動きだす。その波を逆らうように歩いてくるのは、くまはちだった。
車にもたれ掛かる真北に一礼する。

「真子ちゃんの傷は浅い。お前を心配してたぞ」
「いつも…申し訳ありません…」
「傷は?」
「平気です」
「それなら、橋んとこまで、大丈夫か?」
「はい」

くまはちは、運転席に座る。真北は後部座席に乗り込み、そこで眠っている真子の頭を膝に乗せ、真子の頭をそっと撫でる。助手席にキルが座りシートベルトを掛けた途端、くまはちはアクセルを踏んだ。
車は、現場を離れていく。

真子が目を覚ました。
真北の膝枕に気付いた真子は、場所を把握する。

「真子ちゃん、痛むか?」
「くまはちは?」
「運転してますよ」

真子が顔を上げると、座席の向こうに、前髪が立った人物が居た。

「くまはち…怪我は?」
「組長…何度も申してますが、私を守るのは、もう止めて下さい」

切なさが伝わる言葉。
くまはちから、何度も聞いている言葉だが、真子は、どうしても出来ない。

「だって……」
「組長の気持ち…解っております。だけど、私も同じなんですよ?
 これ以上、組長が傷つくと………」

ルームミラーで、後部座席を見るくまはちは、真子が眠っている事に気が付いた。

「……一番、機嫌が悪くなる男が居るからなぁ〜」

くまはちの言葉に付け加えるように言った真北。

「真子ちゃんの行動は、誰も停められない…それを解っていても
 絶対に怒るもんなぁ〜。…それも、くまはちに」
「えぇ。……昔よりも、厄介になりましたね…」
「すまんな、くまはち」

真北が謝る。

「真北さんは、悪くありませんよ」

ちょっぴりふれくされた言い方に、真北は笑い出す。

「ほんま、ええ加減にせぇよ…って言いたげだな」
「その通りですよ」
「本音か?」
「それを承知で、組長をかっさらったんじゃないんですか?」
「さぁ、それは、どうだか…」
「ったく…」
「……それよりも、あいつの言葉……怒りの形相……考えるとなぁ〜。
 なぁ、くまはち」
「はい」
「俺は、帰って良いか?」
「駄目です」
「帰る…」
「キル、真北さんを頼んだで」
「橋先生からも言われましたからね。定期検査…二ヶ月抜けてるって」
「うるさいっ」

真北の一喝が聞こえた頃、車は橋総合病院の駐車場へと入っていった。




真子愛用の病室。
真子が眠るベッドの側には、ぺんこうが座っていた。
慈しむように、真子の頭を撫でている。

やっと退院したのに…。真子……真子…。

ぺんこうは、真子の手を取り、優しく包み込む。そして、祈るような感じで、自分の額に当てていた。
フッと真子が目を覚ます。そして、側に居る人物に気づき、声を掛けた。

「…し……芯…」
「真子!!」

良かった……!!!

ぺんこうの呼び方で、自分の事をどのように聞いたのかを把握する。

「芯…。そんなに酷くないんだけど…。ただ、衝撃で気を…」
「解ってます、解ってます…。それでも、もしもの事を考えたら…。
 ごめん、真子…本当に、ごめんな…。俺が……」
「芯は、何をするつもり?」
「…何もしないけど……だけど…」
「………また、泣くぅ〜」

真子は、ぺんこうの頬に伝わる涙をそっと拭った。

「芯」
「はい?」

返事をする声は震えている。

「…くまはち……」
「怪我がひどい癖に、更に無茶な行動をしたから、今は眠ってます」
「何もしてないよね…」
「……………兄さんに阻止されました………」

ふてくされたように小さな声で、ぺんこうは言った。

「もぉ〜っ」

真子はふくれっ面になる。

「美玖は?」
「兄さん」
「真北さん、家に帰ったの?」
「原さんに帰るように、きつぅぅぅく言われてましたから」
「そっか……。そろそろ引退しないと駄目だよね…」
「まだまだ、動くつもりですよ、あれは」
「ほんと、未だに冷たいね…真北さんには」
「それでいいんですよ」
「私は気になるもん…」
「もう……真子や慶造さん……そして、ちさとさんが気にするような
 状態じゃありませんよ。後は、私と兄さんの問題です。…それと…
 私の心の問題…。……思った以上に根が深くて……自分でも
 困っているところですね」
「仕方ないか…」

真子は、天井を見つめる。

「もし……もしね、真北さんが、あの任務に就く決心をしなかったら…」
「刑事になると決めた時から、その任務の事は考えていたでしょうね。
 そうでなかったら、あのように、躍起になる事…なかったでしょうから」

躍起になる事…。それは、幼いぺんこうの体に打ち込まれた薬、そして、黒崎竜次が闇で捌いていたサイボーグと呼ばれる薬のこと…。それら全ては、真北が誰にも気付かれないようにと、闇に葬っていた。

「…ごめんなさい……」

真子が静かに謝った。

「えっ?」
「その話…真北さんや芯には、嫌な内容……」
「いいえ、それはございませんよ」
「でも……」
「真子」

ぺんこうは力強く、真子を呼んだ。

「ん? どうしたの?」
「もう、寝なさい。日付が変わる頃ですよ」
「……私…どれくらい寝てた?」
「ここに運ばれる前から、今までずっと」
「そっか……」
「だから、眠たくない…そんなこと言わないように」

口調は、『教師』に変わる。

「やだ」

甘えたように、真子が言った。

「真子ぉ」
「側で……眠ってくれる?」
「えぇ」

真子の言葉に応えるように、ぺんこうは真子の隣に潜り込む。そして、真子をギュッと抱きしめた。

もう、これ以上…怪我をしないように……。

祈るような感じで、真子の額に自分の額をぴったりとくっつける、ぺんこう。

「どうしたの?」

ぺんこうの行動に、真子が尋ねる。

「ん? 何も…」
「お休み、芯」
「お休み…真子」

ぺんこうは、そっと唇を寄せ、そして、枕元の灯りを消した。
二人は、何かに引き込まれるように、眠りに就いた。




『大事を取った方が良い』
という、橋の言葉も空しく、真子は次の日に退院した。
背中の傷は、まだ治っていない。だけど、気になることがある。
愛娘・美玖の事。

真子は、ぺんこう運転の車の助手席に座っていた。

「確か…二週間後だったよね…。美玖の幼稚園での参観日」
「はい。私も行きます」
「休み取れたんだ」
「無理矢理…翔と航に仕事を押しつけてやりました」
「うわぁ〜不良教師…」
「たまには良いんです」
「たま…ならね」
「真子ぉ〜」
「あれ、今日は…」

何か思い出したように、真子が言った。

「兄さん、休暇」
「えっ? まさか…原さんに?」
「………警視長直々……」
「あらら…そんな所まで……」
「まぁ…同期の方ですからね…新米刑事の頃から、何かと気に掛けて下さる、
 優しい方ですよ」
「ふ〜ん。…芯は、逢った事あるん?」
「まだ、警部の頃に、何度かありますよ」
「その警視長さんも、任務に関わる人?」
「関わっていたというか…任務の方も兼ねてるというか…難しいですね」

ポリポリと頭を掻きながら運転しているぺんこうは、真北が所属している特殊任務の詳細を、真子に解りやすく説明する為に言葉を選んでいた。

「いいよ、説明しなくて」
「ほへ?!」
「知りたくもないから、警察関係は」

冷たい言い方……。

と思いながらも、

「そうですね」

と応えているぺんこうは、ウインカーを左に上げる。自宅に通じる道を走っていた時だった。

「芯、仕事は?」

真子が思い出したように言った。

「遅刻です」
「…ごめん〜」
「大丈夫ですよ、いつもの事ですからぁ」
「意地悪っ」

真子はプイッと横を向く。
そんな仕草を微笑ましく感じているぺんこうだった。
車は自宅の駐車場へ停まった。

「午後から?」

車から降りながら、真子が尋ねる。

「えぇ。夜遅くなりますから、むかいんには、伝えててくださいね」
「はぁい」
「それと、兄さんが自宅に居ますから」

と言いながら、玄関の扉を開けたぺんこう。目の前に差し出される鞄に目が点………。

「いってらっしゃぁい」
「兄さん……あんたなぁ」

まるで、ぺんこうを追い出したいかのような雰囲気で、玄関先に立っていた真北。ぺんこうの荷物を用意して、素早く差し出していた。

「荷物は…」
「お前の行動は全て把握してる。今日の仕事内容もなぁ」
「ほんま…ええ加減にせな、怒るで……」

ぺんこうは、怒りを抑えながらそう言って、真北が差し出す鞄をふんだくり、肩に掛けた。

「じゃぁ行ってきます。真子、家から一歩も出ない事」
「美玖の迎え…」
「理子ちゃんです」

強く言って、ぺんこうは、駐車場へと向かっていった。

「芯、行ってらっしゃい!」

真子は笑顔で見送った。ぺんこうは車に乗り、見送る真子に笑顔で応えて出勤する。ぺんこうの車をいつまでも見送る真子を促すように呼ぶ真北。

「入りますよ」
「はぁい」

真子は家に入っていった。



真子の部屋。
部屋着に着替えた真子は、デスクに着き、パソコンのスイッチを入れた。
健が知らせる、裏の組織の情報に目を通す。

更に酷くなってるよな……。

背もたれにもたれかかった時だった。

「いたっ!!!」

昨日の傷は背中。すっかり忘れていた真子は、何も考えずにもたれかかったものだから……。
真子の小さな声に反応した真北が、部屋へ飛び込んでくる。

「真子ちゃん!」
「あっ、ごめん……もたれかかっちゃった……」

真北は、真子の背中を診る。傷口は開いていない。

「大丈夫ですよ。忘れないように」
「すみません」

真北は、真子が見ていた情報のページに気が付いた。

「健の奴……。相変わらず素早いな…」
「知ってる情報?」
「まだ、連絡ないですよ」
「それなら、一緒に見る?」
「いいえ。今日は休みですから。健とえいぞうに任せますよ」
「そうするなら、もう引退したらぁ?」
「真子ちゃんが、五代目を辞めたら考えますよ」
「私のせい?」
「いいえ。真子ちゃんの為です」
「私の為…か。…それなら、私は、真北さんの為に、五代目を続ける!」
「ま、真子ちゃん?!」
「だって、真北さんの思い……まだ、実現できてないから…」

ちょっぴり寂しそうな声で、真子が言った。そんな真子を、真北はギュッと抱きしめてしまう。

「ごめん…真子ちゃん。…もっと…頑張るから…」
「真北さん……。…無茶……しないでね」
「解ってますよ」

真北の声は震えていた。

…二人…似てるよなぁ〜。

真子は、ぺんこうと真北の行動と口調、そして、雰囲気を肌で感じるもの。それらが、全く同じだという事にも気付いていた。一体、何が、二人の心を動かし、そして、同じような行動に出るのか。
真子には、未だに理解出来ない真北とぺんこうの絆。
それを思うと、いつも考える事…。それは……。

「ねぇ、真北さん」
「なんでしょう?」
「真北さんも、美玖の参観日に休み取ったの?」
「当たり前でしょう! その為に、ここ数日…………あっ……」

あらぬ方向を見る真北。
真子がジトォォっとした目を向けていた。

「そう言う事だったんだ…。私の先日の怪我から、ずっと、ずっと
 帰ってこなかったのは……」
「夜には帰ってますよ」
「美玖の寝顔を見に?」
「三日に一度は、母と子が一緒に寝ている所を見つめに」
「………お父様が、怒ってたのって…もしかして…」
「…慶造が怒ってた?」
「うん。…お母さんと寝てると必ずと言っても良いほど、お父様の声が
 聞こえていた。それも真北さんを怒るような口調の声…」
「あぁ、あれですか……」

思い出す、昔の事。
真子が六歳になる前まで続いていた、二人の寝顔を見る事…心の糧、明日への活力…それを得るための行動。それには、流石の慶造も毎回怒っていた。

「怒りながらも、慶造だって、見ていたんですよ、二人の寝顔」
「……真北さん」
「ん?」
「芯が幼い頃にも、同じような事…してた?」
「一緒に寝てたから、そのような行動はしなかったですよ」
「ちゃんと夜、寝てた?」
「一時間おきに目が覚めてたかな…」
「それって、一時間おきに見てたのと同じやん…」
「あははは…そうですね……」

誤魔化すように笑う真北だった。
その日一日、真子と真北は、理子が二人の子供を連れて帰るまで、のんびりと過ごしていた。

「ママぁ〜ただいまぁ」

キッチンで夕食の用意をしている真子の後ろ姿に気付いた美玖は、嬉しそうに駆け寄ってきた。

「お帰り、美玖。楽しかった?」
「うん! きょうね、きょうね、こうちゃんと……」

美玖は、幼稚園での事を、嬉しそうに真子に話し始めた。美玖が語る事を、真子は、優しく受け答えしながら夕食の用意をしていった。
怪我しているとは思えない表情、そして、動き。流石の真北も、それには恐れ入っていた。真子の事を聞いている理子でさえ、心配の表情を見せている。理子の側に居た息子の光一が、真子の所へと駆け寄っていく。

「まこママぁ」
「光ちゃん、お帰り」
「ねぇ、まこママ。こうちゃんもはなしていい?」
「うん、光ちゃんの話も聞きたいなぁ」
「はなす! あのね、あのね、きょうね、みくちゃんとね……」

光一まで話に混じると、キッチンは、すごく賑やかになっていた。

母…か…。

真北は、その場をそっと去っていった。

「真北さん?」

後は宜しく! という感じで手を挙げて、真北は二階の部屋へと向かっていった。

ったくぅ〜。

真北の心境が解ったのか、理子は呆れたような優しい表情を浮かべる。そして、

「真子、手伝うで!」
「いいよぉ、今日は私で大丈夫」
「二人の話聞きながらだと、遅くなるって」
「平気だって」
「ふ〜ん。二人の話…めっさ長いと思うけどぉ」
「そんなに…?」
「三日分あると思うけど……」
「それでもいいよぉ〜」

理子も加わり、更に賑やかになったキッチンだった。


キッチンからの声は、真北の部屋まで聞こえていた。
デスクに座り、階下の賑やかさを耳にしながら、目の前にある写真立てを見つめる真北。
そこには、ちさとと幼い真子が笑っている姿が映っていた。

ちさとさん……本当に、あなたに似てきましたね…。

遠い昔を思い出しながら、真北は大きく息を吐いた。
煙草に火を付けたい衝動を抑えながら……。



(2004.10.31 『極』編・昔と今、繋がる想い(1) 改訂版2014.12.23 UP)






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