第三部 『心の失調編』 第十話 紅を求めて、突き進め! 阿山組本部・慶造の部屋。 ドアがノックされ、静かに開いた。そのドアの隙間から、ひょっこりと顔を出す慶人。 「お父さん…起きてる?」 慶人は、慶造のベッドに近づいた。 しかし、そこには、慶造の姿はない…。 奥の方で物音がする。慶人は、そこへ向かって行った。 「お父さん」 「ん? …慶人、どうした? 学校は?」 服を着替え終わって、タンスの扉を閉めながら慶造が驚いたように振り向いた。 「今日はお休みだもん。……お父さん、風邪…治ったの?」 「もう、すっかり元気だぞぉ、心配掛けたなぁ」 慶造は、そう言って慶人を抱き上げた。慶造の元気な声を聞いた慶人は、笑顔を見せた。 「おっ、また体重増えたのか? そういや、身長も伸びたんだなぁ」 「うん。2センチ伸びた! でも、体重は変わらないよ」 「そうかぁ。そのうち、あっという間に、俺に追いつくんだろうなぁ」 「そんなことないもん」 「もしかして、心配して、来てくれたのか?」 「うん。美穂先生から、熱が下がらないって聞いたから…。 僕のせいで…」 慶人は、暗い表情に変わった。 「慶人が落ちなくて良かったよ。風邪を引くと、長引くだろう?」 「でも、お父さん…みんなの為に働いてるのに…。僕のことで…」 「気にしない! 修司や小島が、代わりに頑張ってくれたから。それに、 すぅっかり治ったからなぁ。…二人に、お礼言ってくれよ」 「うん」 慶造は、慶人を降ろす。 部屋のドアが開き、ちさとが慌てたように入ってきた。 「慶人っ! お父さんは、まだ……」 そう言いかけたちさとは、口を噤んだ。 言うな。 慶造の目が、そう言っていた。 「ねぇ、ママ。お父さん、風邪治ったって! 良かった!!」 慶人は嬉しそうに言いながら、ちさとに駆け寄っていく。 「良かったね。ママも安心だわぁ」 「今度から、気を付けるね」 「池の側では、はしゃがないようにしようね、慶人」 「はい。…お父さん、朝ご飯は?」 「美穂先生に、もう一度診察してもらったら、直ぐに出掛けるから、 一緒に食べられないなぁ。慶人、ごめんな」 「…ううん。お父さん、お休みしていた分、仕事一杯あるんだもんね。 僕、我慢する。ね、ママ」 「そうね」 慶人とちさとは、微笑み合っていた。それは、二人で、何かを隠している感じだったが、慶造は、それに気付かず、部屋の中央にあるソファに腰を掛けた。 「二人で出掛けるのか?」 「えぇ。ちょっと」 「買い物か?」 「そうですね」 「楽しんでこいよ、慶人」 「うん」 ドアがノックされる。 『四代目。山中です』 「入れ」 「失礼致します……ちさとさん、慶人くん……すみません…」 親子水入らずの雰囲気を感じた勝司は、直ぐに、部屋を出ようとするが…。 「四代目、体調は……」 と気にして振り返って、そう言ったが…。 何も言うな。 ちさとに向けた時と同じような目をして、勝司に訴えていた。 「用事を思い出しましたので、後程…」 「あぁ、すまんな」 「失礼しました」 勝司は素早く部屋を出て行った。 「勝司さん、どうされたんでしょう…」 「気を利かせたんだろ」 慶造は、立ち上がり、デスクの引き出しに納めている物を上着のポケットに入れる。 「あっ、そうだ、ちさと」 「はい?」 ちさとが返事をすると同時に、ドアがノックされ…。 「やっほぉん、阿山ぁ、調子はどうやぁ?」 「……ったく……」 項垂れる慶造に、いつものように軽い口調で部屋に入ってきた隆栄が近づき額に手を当てた。 その手を払いのける慶造。 やめろ…。 あっ、すまん…。 「美穂先生が呼んでるのか?」 「あ、あぁ。遅いってな。…おっと、慶人くん、おっはよぉ〜」 「おはようございます! 小島さん、また楽しいお話してくださいね」 「おぅ、任せておけよ。ちさとさん、おはようございます」 隆栄は、深々と頭を下げる。 「おはようございます。いつもありがとうございます」 「いいえぇ、お気になさらずぅ。慶人くんが楽しいなら、なんでもしますよぉ。 だって、阿山の……」 ガツン…。 「ほら、小島、行くぞ」 「…って、阿山ぁ〜」 慶造は、隆栄の首根っこを掴んで、ドアを開けた。 「気を付けて出掛けろよ。慶人、ちさと」 「うん。お父さん」 部屋を出た慶造を呼び止める慶人。 「ん?」 慶造は隆栄から手を離して、振り返る。 「気を付けて、いってらっしゃいませ」 輝く笑顔で慶人が言った。 「行ってきます。慶人も楽しんで来いよ」 「はい!」 慶人の頭を優しく撫でて、慶造は隆栄と医務室へ向かって行く。 「ほら、慶人。出掛ける用意しようね」 「うん。お父さん、驚くかなぁ」 「驚くと思うよぉ」 「勝司兄ちゃんは?」 回廊の向こうに勝司と修司の姿を見つけた。修司は、ちさとの目線を感じたのか、ちらりと振り返り、一礼する。そして、勝司に何かを伝えたのか、勝司は、慌ててちさとの方へと駆け寄ってきた。 「遅いぃ」 「すみません、慶人君」 「出掛けるよぉ」 「はい」 「ねぇ、ねぇ。他のお店にも行こうよ。勝司兄ちゃん、駄目?」 「いいですよ。今日は、たっぷり楽しみましょう。四代目も おっしゃってましたから」 「やったっ!!」 慶人は嬉しさのあまり、弾む足取りで、ちさとの部屋へと向かっていった。 「すみません、勝司さん。今日は、あの人に付いていく予定でしたよね。 …確か、今日は…」 「えぇ。でも、本来の私の立場は、ちさとさんの側に居ることです。 勉強の為に、四代目と時々、行動を共にさせていただいている それだけですから」 「勝司さんって、本当に元気ですね」 「それより…四代目、まだ、熱は下がっておられないはずですが…」 「目で、言いくるめられました。慶人が心配するから…」 「そうですね。でも、今日は…」 「慶人も行きたそうだったでしょう?」 「あの爛々と輝く目で語られると…私も、ちさとさんと同じように 申してると思います」 『ママぁ、早くぅ』 「はいはい。直ぐ行きます。勝司さん、では、宜しくお願いします」 「はっ」 ちさとは、自分の部屋へ向かっていった。 医務室では、美穂が慶造に注射をしていた。 「これで、今日一日くらいは、大丈夫でしょ。ったく、無茶してぇ」 「どうしても、今日じゃないと駄目だろう?」 「隆ちゃんは、延期出来るって言ってたよ」 「先に延ばしてると、更に厄介になりそうだからな。早めにするのが一番」 「でも、ふらつきそうなら、早めに切り上げてね。悪化したら、 慶人君が、更に心配するからぁ」 「すまんな…。慶人、しつこく聞いてきたんだろ?」 「えぇ。もうすぐ治ると言ったんだけど、信じてくれなくてねぇ」 「それだけ、大人の言葉に敏感になってきたんだな。 慶人、背が伸びたみたいだぞ」 「ここで計ったんだって。知ってるわよぉ、それくらい。2センチ伸びてた」 「体重、増えたと思ったんだけどな…」 「………慶造君……」 「ん?」 「それは、風邪の影響で、慶造君の腕力が劣ってるだけ。体重は 変わってないから」 「そっか……」 医務室のドアが開き、修司が入ってきた。 「慶造、そろそろ時間だぞ。…大丈夫なのか?」 「おう、ばっちりだ。心配掛けたな。じゃぁ、美穂ちゃん」 「早めに帰ってくるように」 「解ったよ…ったくぅ」 慶造は、ふくれっ面になりながら、修司と医務室を出て行った。 「今日は、慶人君が驚くことを考えてるんだからぁ」 どうやら、慶人とちさと、そして、勝司の出掛ける目的を知っている様子。鼻歌交じりに、美穂は、仕事の準備に取りかかる。 玄関先では、若い衆が見送りの準備に並んでいた。そこを、慶造と修司が歩いていく。 「小島は?」 隆栄の姿が見あたらない事に気付いた慶造が、歩みを停めて、修司に言った。 「直ぐに来ると言ってたのになぁ………言った矢先に来た…」 「すまん、遅くなった。慶人くんと話してたからさぁ」 「……あまり、悪い事を教えるなよ」 そう言いながら、後部座席に乗り込む慶造。続いて隆栄が乗り、修司は助手席に乗った。 「行ってらっしゃいませ」 若い衆の大きな声と共に、慶造を乗せた車が出発した。 車の中。 「桂守さんの話では、一本道に仕掛けているらしいな。 そして、バックには、天地組が付いているということだ。 噂に聞く殺し屋が、組事務所の近くをうろついていたらしい」 「……って、桂守さん達に、下見させるなとあれ程言ってるだろがっ!」 ドス…。 「俺に言うなっ。桂守さんが、自ら調べると言ってだな…」 「…ったく…」 困ったような表情をして、腕を組みながら、背もたれにドカッともたれかかる慶造。 「猪熊、準備は?」 「整っております」 「兎に角、話しだけは聞く」 「はっ」 車は、順調に進んでいく……。 まさは、車の後部座席に座り、精神を集中させていた。 「兄貴、時間です」 「…あぁ」 ゆっくりと目を開ける、まさ。バックミラーに映る数台の車。それが、徐々に近づいてくる。 「行け」 まさの言葉と同時に、京介はアクセルを踏んだ。 車は、静かに走り出す。 まさの口元が不気味につり上がった……。 「…なんだよ…あれは…」 修司の言葉に、慶造と隆栄が前を見る。 進もうとしている道を塞ぐように一台の車が静かに停まった。 慶造の乗る車は、行く手を阻まれて、停まるしかない。 クラクションを鳴らすが、その車は動く気配を示さない。 「まさかなぁ。…辺りに潜んでる…と・か?」 ガツン!! 「いってぇなぁ〜」 「と・か? って言う前に、どうにかしろって」 「大丈夫だって」 隆栄は、何かを感じ取った。 「猪熊。ちょっと観てくるよ」 「小島?」 修司が返事をする前に、隆栄は車から降り、走り去る。 「…どうする?」 「…そりゃぁ、向かうしかないだろ」 「だな…」 「あの車を避けて、進め」 修司は運転手に声を掛けた。 「はっ」 運転手は、アクセルを踏み、停まった車の横を通り過ぎた。 少し走ると、慶造の車を追いかけるように、その車が付いてくる。 「護衛って、雰囲気じゃぁないよなぁ」 慶造は、ちらりと振り返りながら、言った。 「慶造…どうする?」 「知らん」 冷たく応えた慶造に、修司は、フッと笑ってみせるだけだった。 「このまま、帰宅だな。後で、連絡しておけ。風邪が酷くなったとな」 「はっ」 来た道とは、別の道を通り始めた時だった。付いてくる車がスピードを上げ、慶造の乗る車の前に割り込み、そして、急ブレーキを掛けた。 「うわっ!!! って、あのやろぉ……」 修司が呟いた時だった。目の前に停まった車の後部座席のドアが開いた。二本の足が、地面に降りる。 スゥッと手が出てきた。 その手が、慶造と修司に、『降りろ』と合図した。 「……どうしますか、四代目」 「そりゃぁ、降りるしか、ないでしょぉ」 慶造…。 大丈夫だって。 あの日の二の舞は…ごめんだぞっ! 解ってるって。 短い間に、お互い、目で会話をして、 「はぁ…あ」 ため息を吐きながら、車から降りてきた。 「お前は、戻れ」 慶造が運転手に声を掛けた。 「四代目っ!!」 運転手は、何かを言おうとするが、慶造の醸し出すオーラに気圧され、渋々車をバックして、来た道を引き返していった。 「さてと。…俺達に、何の用だ?」 慶造が言った。 すると、足を地面に降ろした人物が、ゆっくりと車を降りてきた。 隆栄は、道のど真ん中に立っていた。 何かに集中している。 「右に45度」 その声と同時に、後ろに控えている組員が動き、何かを発見した。それをいとも簡単に分解する組員。 「その1メートル東だ。…西には三つ」 隆栄の顔には、小さなモニターが仕込まれた眼鏡が掛けられていた。耳には、小さなイヤホンが入れられている。眼鏡のモニターには、何か赤い物が光っていた。 「左25度、北に四つとその50センチ北に一つだ」 「はっ」 「ったく、どんだけ仕掛けてんだよ…。桂守さんが除去した後に、 また仕掛けたって感じだなぁ」 ブツブツ言いながら、隆栄は、組員達に指示を出していく。 車から降りてきた男が、目深に被った帽子を取った。そして、ゆっくりと慶造を睨み上げた。 「誰だ、あいつは」 慶造が、そう言った時だった。 男は、右袖から、細いナイフを取り出し、右手に持った。 「殺し屋…原田だ…」 修司が呟くように言ったと同時に、影に潜んでいた阿山組組員達が、一斉に姿を現し、慶造を守る体勢に入った。 ナイフを手にした男こそ、慶造の命を狙いに来た、天地組の殺し屋・原田まさだった。 まさの醸し出す不思議なオーラに反応した組員達は、懐に手を入れ、銃を取り出す。そして、銃口をまさに向けた。 「!!!!」 「!!!!」 それと同時に、まさは、素早く動き始めた。 右手のナイフを、下から切り上げる。 真横に切る。 真上から振り下ろす。 その一連の動きは、組員達の目に留まっていた。 しかし、まさの腕の動きを避ける事が出来ない。 まさの腕の動きは、一度きりではなかったのだった。 組員達の目に留まった時には、すでに、自分の体から、血が噴き出していた。 その直後に、力が抜け、手にした武器を地面に落とす。そして、力無く、その場に倒れてしまう。 …な…!!!! 倒れた時に気付く。自分の両腕、そして、両足の腱を切られていた。 素早いまさの動きは、慶造と修司には見えていた。 「お前ら、退けっ!!」 慶造の声は、組員達の耳に届いている。しかし、誰一人として、慶造の言葉に従おうとするものは居なかった。 「修司…」 「奴らの意志だ」 「それでも……!!!」 組員の誰かが、まさに向けて発砲した。 その瞬間、まさの姿が消えた。 組員達は、まさの姿を捜すように、キョロキョロとし始める。 「上だっ!」 慶造の声と同時に、まさが舞い降りてくる。そして、再び組員達を斬りつけていった………。 高級車の後部座席に座る天地は、時計を見ていた。 「今頃、始まってるな…」 「えぇ。…まさ兄貴、反対しておりましたよ」 天川が応える。 「そうだろうな。あいつは、誰よりも、血を嫌がるからなぁ」 「それなのに、あの仕事を辞めないのは…どうしてでしょうか…」 「医学の…勉強だろ」 天地は呟くように言った。 「おい、行け」 天地が運転手の湯川に声を掛ける。 「はっ」 湯川は、サイドブレーキを下ろして、アクセルを踏んだ。 まさ……。 天地は、窓の外を流れる景色を見つめながら、まさの事を考えていた。 ……すまんな……。 天地は、そっと目を瞑る……。 慶造を守ろうとする阿山組組員達が、体から真っ赤な物を吹き出しながら地面に倒れていく。 目にも留まらぬ速さで、次々と組員達を斬りつけていく、まさ。 そのまさを援護するかのように、京介が銃で応戦していた。 まさは、京介に合図する。 後はいい。 京介は、まさの合図と共に、車に乗り込み、その場を去っていった。 まさは、歩みを進めていく。 まさが進んだ道には、阿山組組員達の真っ赤な体が横たわっていた。 それは、まるで、真っ赤な絨毯のように……。 「…奴は、ただものじゃないな…」 慶造が呟いた。 「狙いは、慶造だ。お前、動くなよ」 「あれを見せつけられて、動くなって、修司、お前なぁ」 「何もするなよ、いいな」 ドスの利いた声で修司が言う。慶造は、諦めたような感じで、ため息を付いた。 「少人数にしたんじゃなかったのか?」 「小島が変更した」 「ったく…。で、その小島?」 「こっちに向かってるだろうな。この銃声を耳にして」 「…俺を殺っても、何もないのにな」 「慶造…」 「ん?」 「立場、解ってるのか?」 「あぁ。俺は、阿山組四代目。…その肩書きだけだろが」 「あのな…もぉええ!!!!」 まさが、最後の組員を倒した。 「慶造…来るぞ…」 修司は、慶造を守る手に力を入れ、何かに集中した。 まさは、慶造を見つめていた。そして、手にしたナイフを握り直し、慶造に向かって走り出す。 まさは、慶造から目を離さない。 慶造を守るように立ちはだかる修司には目もくれず、手にしたナイフを突き出していた。 「修司っ!」 「馬鹿野郎。動くな」 「しかし…」 「しかしも、へったくれもないっ!!!」 そう言って、まさの差し出した腕を掴んだ修司。 「これじゃぁ、攻撃出来ないよな」 修司が、静かに言った。しかし、まさは、怯むことなく、修司を睨んでいた。 口元が、不気味につり上がった。 「なにっ!」 修司は、まさの腕を放した。それと同時に修司は腕に強烈な痛みを感じた。 「二本…」 修司に掴まれていなかった腕に仕込んでいるナイフを、目にも留まらぬ速さで手に取り、修司を斬りつけた、まさ。流石の修司も、そのナイフを避ける事が出来なかった。 これ以上、体を張る事は…。 修司は、ちらりと後ろの慶造を見た。 顔が赤い。 慶造、ぶり返したのか…。 「慶造…」 「修司、出血が酷い…」 「例の事件…こいつだな…」 「あぁ」 慶造は、修司の傷口を抑え、出血を止めた。 「……そうじゃなくて…」 慶造の行動に呆れる修司だった。 「!!!」 修司と慶造の間を引き裂くかのように、まさがナイフを突き出した。 慶造は右に、修司は左に飛び退いた。 まさの狙いは……。 慶造の体の前をナイフが横切った。 これ以上、慶造を狙うと、こいつが……。 修司は、慶造の隠された本能を気にしていた。 止む終えず、懐に手を入れる修司。そして、素早く銃を取りだし、まさの後頭部に銃口を向け、引き金を引いた。 キン!! 銃弾は、まさのナイフで弾かれた。 振り向きもせず、まさは、ナイフで銃弾を弾いていた。 計六発。 修司が銃創に弾を込める。そして、再び銃口を向けた。 「!!!!!!!」 目の前に、まさの姿があった。それに気付くのが、少し遅れていれば、修司は、斬りつけられていただろう。 修司は、まさの腹部に拳を見舞い、その拳を顔面に突きつける振りをする。 まさは、その拳を避けた。 それと同時に、修司は、慶造の側に駆け寄る。 「駄目だ。俺には向いてない」 「あのなぁ。的に当たってる。だけどな、あの男がっ、わっ!!」 慶造と修司の間に、まさが、着地し、慶造に斬りつける。 良いタイミングでまさの攻撃を避けた慶造。 修司の蹴りが、まさの体に当たった。 想像以上に、その蹴りが強かったのか、まさの表情は歪んでいた。 修司は、まさが怯んだスキに、慶造を安全な場所に移動させる。 「続きは?」 修司が尋ねた。 「続き?」 「あの男が…の後」 「あぁ。あの男が素早いだけだと言おうと……修司っ!」 「…!!!!」 まさの両腕を抑え込む修司は、まさの腹部に膝蹴りをする。 まさの体が、宙を舞う…。 「うそ…だろ……」 宙を舞った体は、着地と同時に目の前にやって来た。 しまったっ!!!! まさのナイフが、慶造の体に向かっていく………。 (2004.5.5 第三部 第十話 UP) Next story (第三部 第十一話) |